読後感想
The Choice
「Goal」でTOC(制約性理論)を提唱したゴールドラット博士の2008年発刊の書籍。博士は2011年に亡くなっているので晩年に書かれたものである。
この書籍で博士が言いたかったことは、おおきく2つ。
@どんな複雑に見える状況も、実は極めてシンプルである。
A人は元より善良である。
この2つの前提に従えば、必ず以下のことが実現できるとしている。
・対立はすべて取り除くことができる
・どんな状況でも、著しく改善することができる。限界は自ら作ってしまうもの。
・どんな人でも充実した人生を達成することができる。
・常にWin、Winのソリューションがある。
第1章:2つの選択肢
◆充実した人生を送るための重要な決定とは?
→常に時間をかけて、家族や友人、仕事、自分の関心を本当に深く理解しようと決めた。
◆本当に深く理解するとは?
→状況を支配する、原因と結果の関係を理解するために、長い時間を費やすことを意味する。
◆原因と結果、その因果関係を理解するには?
→科学者の様に明晰に考えることが重要。そして、訓練、訓練、また訓練。とりまく環境すべてが、学習する絶好の機会。
◆科学者の思考とは?
→どうやって装置が動くか?それらの箱の中身がどんな仕組みになっているか?が判っている。何がどうしたら動くのか? その原因と結果の関係=因果関係を理解している。だから、その装置(プロトタイプ)がうまくが動かなくても、どの部分の因果関係が有効で、どこが有効でないかさえ判れば、結果にがっかりしても、理解が深まったことには満足するはず。
◆新しい試み(=プロトタイプ)がうまくいかなかった時にとりうる選択肢は2つある。
→1つは、結果に対して不平をぶつぶつ言うこと。2つ目は、何をどう修正するればよいのか、その結果から新たな知識を獲得すること。
◆科学者のアプローチ
→謙虚でありながら自信を持て!何でも判っていると思ってはいけない、自分には判らないことがたくさんある。という気持ち。うまくいかなくても、必ず何か良い解決策があると信じること。科学者が研究を根気強く続けられる(スタミナ)のは、この思想があるから。
◆しかし、スタミナは、最初の出だしも肝心である。
→何か新しいことを始める時こそ、スタミナが重要である。幸運は、準備と機会が巡り合った時に、訪れる。不運は、現実と準備不足が巡り合った時に、訪れる。
◆準備ができていなければ、機会をとらえることはできない。準備ができていなければ、どんな選択の自由があるというのか。
◆物事を深く考える(=頭脳をフルに使う)ことを邪魔をする障害とは?
@物事は複雑に見えれば見えるほど、実はシンプルである。例:ドライバーとくぎのたとえ。
大きくて複雑な企業でも、その活動を支配する原因と結果の関係は驚くほどシンプル物事の因果関係は、常識以外の何物でもない。
第3章:なぜ当たり前のことができないのか
◆なぜ、父はこんなにすごいソリューションを提示できたのか?
◆人は障害を克服する方法を見つけた時(何らかのブレイクスルーを考えついた時)に有意義な機会に巡り合える。
◆しかし、問題を解決するために、複雑なソリューションを求めがち。実は解決策は、みんなが直観的に感じていた、案外単純で常識的なこと。
◆それには、心理的障壁からではなく、外部的障害から考えることが重要。
◆数ある問題の中から、コアな問題を抽出すること。ひとたびそれが、それがどんなに重要なことかが判ると、他の問題は取るに足らないことのように思える。 しかし、そのことに気付く人は今までいなかっただけのこと。
◆しかし、どうしたらそれができる? 皆が抱える慢性的な問題を解く、明晰さを妨げる障害とは何か?
◆1つめ・・・現実に対する正しい認識ができないこと。現実に対する歪曲された認識である。
(事例)みんなは「予測の精度が悪いこと」が問題であると認識する。そうすると、「予測精度をよくするためにはどうする?」という原因分析をする。しかし、「予測精度なんていい加減なもの」「予測精度をあげるのはそもそも無理」という視点にいかない!!
◆2つめ・・・絶対無理だと決めつけるくせがあること。
予測なんてするな! と言われても、それは絶対無理だと考えてしまう。いろいろな制約や、ルールがあって、難しい。そういう思い込みがある。
◆3つめ・・・人は問題を相手のせいにしたがること。
第4章:ものごとはそもそもシンプルである
◆ニュートンは、自然は極めてシンプルで、自らと調和している。と言った。
◆現実は確かに複雑に見える。しかし、ニュートンが3つの法則を見つけて、変わった。ニュートンは発明したのではない、発見した。=もともとあったシンプルさを明らかにしただけである。ニュートン「なぜ?」「どうして?」と真剣に考えて「答えになっていない答えに満足しなかった」
◆「答えになっていない答え」
2000年以上もの間、人は誰かの説明を当然のことだと受け入れて、疑問さえ抱かなかった。こどもの様に、単純に「なぜ?」「どうして?」をやってこなかった。
◆しかし、「なぜ?」の分析と「自然は極めてシンプル」。普通、なぜ?を求める時に、複数の答え(原因)が出てくる。部分に分解系の手法は皆そう。しかも、なぜ?を繰り返すと、疑問はますます増えていく。つまり、普通に「なぜ?」「どうして?」を繰りかえすと、ますます物事は複雑に見えてしまう。
◆ニュートンは、まったく反対のことを言っている。
ものごとは「収束」していく。深く掘り下げれば、掘り下げるほど、「共通の原因」が現れてくる。充分に掘り下げると、根底にはすべてに共通した少数の原因(根本原因)が現れてくるもの。それが、システム全体を支配しているのだ。
◆これは、自然科学だけでなく。現実(社会科学、人間心理学)上でも成り立つ。たとえば、人は評価される方法に従って、行動する。つまり、評価される方法を明確にすれば、それに向かって行動してくれる。
◆普通の「複雑さ」の定義。きゅうりの例・・・ある人は、きゅうりは「長い」、ある人はきゅうりは「緑色」という。しかし、異なる視点で見て比較しても議論にならない。普通・・・あるシステムを説明するのに、より多くのデータが必要であればあるほど、そのシステムは複雑である。
=あるものを説明するのに、5行で終わるならシンプルだけど、100ページかかるなら複雑。
◆しかし、「複雑さ」にはもう1つの定義がある。システムに与えられている「自由度」が高ければ高いほど、システムはより複雑である。というもの。
例:4つの孤立した円 と 4つの関係線が引かれた円。
◆自由度とは?
システムを変えたい時に、最低何か所に手を加える必要があるか?もし1か所で済むなら、自由度は1。しかし、4か所も手を加える必要があるなら、自由度は4。自由度が高いほど、複雑である。と言える。
◆実はこれは現状の認識の違い。同じシステムでも、現状の認識が違っていると、「自由度=4」にも見えるし「自由度=1」にも見える。つまり、外見上複雑に見えても、組織全体の原因と結果の関係を構築でき、原因を1つに絞り込むことができれば、自由度=1となる。極めてシンプルな組織である、と言える。
◆さらに言い換えると、人や組織の問題は、現状分析をする人の手腕により、複雑にもなるし、シンプルにもなりうる。ニュートンの様に、自ら調和している(シンプルな)現実を、明らかにできるかどうかがカギである。これは「哲学」ではない。
第5章:矛盾と対立
◆やみくもに問題を深く掘り下げ、ただ単純にものごとを細かく打ち砕いて、その膨大な因果関係を露呈するだけでは、その複雑さに圧倒されるだけで終わってしまう。
◆自然は自ら調和していると考えるべき。 =1つは矛盾がない
◆では、矛盾がある状態とは?どこか根本的な前提条件が違うことが多い。
例:建物の高さを2人が測ったら、違っていた。実は、測定方法、測定基準が違うのだった。科学者は、必ず前提がどこかで間違っていると考えて、それを探そうとする。
◆現実世界には、「矛盾」はない。しかし「対立」だらけである。対立の例=飛行機の翼は、強い方が良い × 軽くなければ飛ばない。この対立を適切な妥協点で落ち着く。うまくいかなければ膠着してしまう。
◆多くは、どちらかが納得いかない「妥協」に落ち着く。そうするとそのよろしくない「妥協」が原因で、いつかは好ましくない現象が引き起こされる。好ましくない現象(問題)は、どれも何らかの「対立」が原因で起こっていると言える。
◆「対立」に直面し妥協点が見いだせない場合、「矛盾」に直面した時と同じようにすればよい。つまり、どこか根本的な「前提」が違うのだと。その「違っている前提」を見つけられれば「対立」の原因を取り除ける。
◆学問の世界では、「最適化」という言葉を使って「最高の妥協点」を探し出す方法を一生懸命考えている。 しかし、それはあまり賢い方法ではない、時間の無駄である。
◆「現実のあらゆる面は、すべてごく少数の要素によって支配されていて、どんな対立も解消できる」この考えを受け入れらえるかどうか? それができれば、明晰な思考ができるようになる。
第6章:信念を行動に
◆もともとうまくいっている組織。それを全部細かいところまで分析しようとすればできる。しかし、そんなことで時間を使いたくない。目的は、その組織のパフォーマンスを飛躍的に伸ばすこと。だから全体を分析する必要などない。分析すべきは、うまくいっていない部分だけ。好ましくない現象だけに集中すればよいのだ。
◆物事がうまくいっていない原因は「1つ」。根本的な原因は1つだけしなかい。それは、好ましくない現象だから、その根本原因は、受け入れることのできない「妥協」を持てない「対立」があると考える。すなわち、好ましくない現象は、満足のいかない妥協の結果として起こると考える。
=慢性的な問題をカモフラージュ(棚上げ)しない。
◆小さな問題をいくら解決しても、根本的な対立はそのまま。みんながあきらめている「慢性的」な問題を積極的に探すこと。=すなわちそれを活用すること。
◆事例
準備:まず、好ましくない状況(=問題)を確認する。
@根本的な対立構造をあぶりだす
「品切れを防ぐには、たくさん注文すること」である。「売れ残りを防ぐには、少なめに注文すること」である。この相反する状況で苦しんでいるのだ。
A次にこの対立構造の元になる前提条件を見つける。「正確な数量を注文する唯一の方法は、前もって将来の需要を予測すること」である。
Bこの前提(=事実/思い込み)を覆す。「1つ1つの商品の将来の需要など知る由もない」
Cそもそも正確な需要予測はできないのだ、という前提に立って、仕事のやり方をどう変えるかを考えた。
第7章:調和
◆3つめの障害
ニュートン「自然は想像以上にシンプルで、自ら調和している」 この「調和」を「矛盾がない」と言い換えただけでは正確でない。
◆人は問題を相手のせいにしたがること。 人を責めてみても何の解決にもならない。相手の悪いことを分析してみてもそこからはソリューションは見つからない。 そこにソリューションがあると考えることこそ障害である。間違った方向に進むのがおち。その相手が居なくなったとしても本当の問題は残ったままである。
◆人との調和の取れた関係を保てなければ、明晰な思考をすることができない。機会を生かすことができない。自分ひとりでできることは知れている。相手が本当に悪い場合もある。結局のところ相手を慎重に選ばないといけない。
◆「調和」とは?「心地よい矛盾のない状態を形成する質、同意、または強調」、「意見、行動における適合性」「意見の合意」
◆調和が取れている関係など、めったにあるものではない。調和は、いかなる関係にも存在する。しかし、我我はそれをわざわざ探したり、築いたりしないだけ。
