実用レベル開発品

 物作りは楽しいものです。特に、自分で「こんなものが欲しい」と思ってもどこにも存在せず、苦労して作り上げたものが思い描いた通りに完成したときは最高です。まあ、これは物作りだけではなくすべての創造的行為に共通したものでしょう。偉そうなこと言ってますが、特に気に入っていて普段使っている物を見せびらかしたくなりました。「この程度のものたいした事は無い!」とおっしゃる方もあると思いますが、軽い気持ちで見てください。


1.遠隔操作型受信機 (2000年製作)


 ICOMのIC−PCR1000を遠隔操作して手元のFMラジオで聞く受信システムです。リモコンの送信機で周波数、モード、フイルター、ATT、NB、AF−GAIN、SQUELCH、IF−SHIFTをコントロールします。どんな高級な受信機でもアンテナあっての高性能ですので、受信機本体がいくら小さくてもあちらこちら置き場所を変えるわけにはいきません。受信機本体はアンテナに接続できる場所(普通、操作する人間には環境の良くない所が多いのではないでしょうか?)に置いて、自分はリモコンとFMラジオを持って家の中をうろうろできます。

 リモコン送信機と受信機間の通信は2400bps
リモコン受信機とIC−PCR1000間の通信は9600/38400bps


リモコン送信機


 リモコンの送信機と内部です。ロータリーエンコーダはFANUCの何かの産業機械に使われていたと思われるコントローラの新品ジャンク、CPUボードは秋月電子通商のH8ボード、肝心の無線通信回路は昔の無線式プリンターバッファーに使われていたジャンク基板です。どこを作ったんだと言われそうですが、最近はジャンクの組み合わせにより、最小のコストで目的を達成する技術?が身についてきました。電源はこれもノートパソコンで使い古しのニッケル水素電池をばらして5セル(6V1400mAh)組み込み、DC−DCコンバータで安定化した5Vを得ています。充電にはソニーの昔のビデオカメラで使われていた充電器を流用しています。リフレッシュと充電を自動で行うので便利です。バッテリーを使う機器では過放電を防ぐカットオフ回路が不可欠ですが、これにはバッテリーの電圧が4.5V(0.9V/セル)まで下がるとカットオフする回路が付いています。

リモコン受信機


 受信システムの外観です。一番下のアルミケースがリモコン受信機、黒いケースがIC−PCR1000、上に乗っているのはFM送信機です。リモコン受信機の液晶表示器は送信されたコードが表示されています。FM送信機は作るより適当なのを買ってきたほうがケース加工などを考えると安くつきます。しかし、周波数が大きく可変できるLC発振の物は周波数の変動も大きいので止めたほうがいいでしょう。セラロックに変調をかけて逓倍するタイプが周波数安定度が良くて安心です。


 リモコン受信機の内部です。H8ボードとプリンターバッファーのジャンク基板から成っています。FM送信機の電源もここから供給しています。

 使ってみるととっても快適で、ベットで寝っころがりながら操作できます。久しぶりに31mbの短波放送をはしごしましたが、フェーディングを伴って聞こえる海外放送はなんとも懐かしい気持ちにしてくれます。このページだけ見るととてもスマートに感じますが、実際に作っていく過程では数多くの失敗と難関突破がありました。半年に及ぶ苦闘の記録は
こちらをごらんください。


2.音声拡大装置 (50BM8シングルアンプ 1998年製作)


 ’98年の夏、ジャンク屋の店頭で木箱を見つけました。蓋を開けると頑丈そうなターミナルと真中に切り換えスイッチが付いていました。昭和30年代の電話関係物のようです。以前より真空管を使ったアンプを作りたかったのですが、一般的な弁当箱シャーシの上に並べるタイプはデザイン的に不満でした。この箱を見たときアンプを組み込んだイメージが湧いてきました。欲しかったのはこれだ!直ぐに買って帰り、分解すると中身は頑丈なロータリースイッチのみです。外側は傷だらけだったので塗装は全て剥がし、銘板を固定してあったねじ穴を埋め、再塗装しました。(これが一番大変でした)。中身を捨てても小さな箱なので複合管2本組み込むのが精一杯と思われます。後日東京に出張の際、秋葉原でRCAブランドの50BM8(メキシコ製)が1本500円で売っていたので球はこれにしました。

 左は蓋をしたところ。どこから見ても真空管アンプには見えません。蓋を開けて電源をつなぐと立派なアンプです。写真ではうまく写りませんでしたが蓋の裏には回路図を貼ってあります。

 中はごちゃごちゃしています。本当はトランスが乗っているアルミ板と表面のプレートはスタッドで繋がっていて一体で引き出せるはずなのですが、木箱が変形したらしく抜けなくなってしまいました。(確か昨年の夏まではそのまま引き出せたのですが) 仕方がないので写真を撮るため表面のプレートを外しました。50BM8のヒータはAC直結ではなく、ヒータートランスを使ってACラインから分離しています。+Bとヒータートランスはジャンク屋で500円で買ったもの、出力トランスは秋葉原で買った新品です。


 使っているスピーカはフォステクスのFE103?を安売りしていたバスレフエンクロージャに入れたもの、FMチューナはジャンク屋で3000円で買ってきたP社製、CDプレーヤはS社製の安物といったプアーシステムですがとても気に入っています。CDプレーヤの上に乗っているのは真空管アンプの動作時間積算計です。

 以前は粗大ゴミ置き場で拾ってきたトランジスタアンプを使っていました。かなり古いアンプだったのですが音は結構良くて気に入っていましたが、寄る年波には勝てず故障してしまいました。修理も考えたのですがあまりにあちこちがたがたで危険なので、S社製の安物AVアンプを購入しました。しかしこれが聞くに耐えない音で、殆ど使ってませんでしたが、今回このアンプを作ったのを機に処分しました。このアンプは当初NFBをかける予定でしたが、名古屋では高耐圧で小容量のコンデンサが入手できなくてやむを得ずNFB無しで使い始めたところ、とても心地良い音だったのでそのまま使うことにしました。何が良いかと言うと、解像度が高いというのか、後ろで鳴っている小さな音もきちんと分離して聞こえるのです。それに比べてS社製AVアンプは全てが混ざってしまって何が鳴っているのか分かりませんでした。テレビコマーシャルの音でもそれまでは気がつかなかった音が入っているのが、これで聞いて初めて分かったこともあります。歪が多い分スルーレートが高いためなのか?各音が相互変調を起こし難いのか?原因は分かりませんが何しろ心地良い音です。非常に気に入りましたのでスペアチューブを4本も買いました。生涯現役のアンプになりそうです。


3.スペクトロスコープ (1997年製作)


 この頃秋月電子からスペアナキットなるものが売り出されました。以前からスペアナもどきは作っていたのですが、キットとして売り出されるなると、人に自慢するにはもっと上等なものを作らなければなりません。(秋月電子には負けないのだ!)
 比較的狭い範囲の電波状態を表示するバンドスコープ的なものなら市販の受信機にもあります。(たとえばスタンダードのAX−700、私も持ってます) 比較的広い範囲をスキャンできて、液晶表示がついて、内臓バッテリーで動く。あちこち持って歩けて、どこにどんな電波が出ているか一目で分かる。これはどこにもありません。例のごとくこれも基本的にジャンクの組み合わせです。CATVチューナのフロントエンドジャンクとパチンコ液晶を組み合わせで作りました。回路は3.58MHzのクリスタル発振から水平同期信号、垂直同期信号を作り液晶(TFTLCD)を動かします。垂直同期信号からCATVチューナ第1局発VCOのスイープ電圧を、45MHzの第2中間周波増幅回路のAGC電圧で、液晶の水平方向データを作ります。
この部分の回路図はこちら12V1400mAのニッカド電池を内臓し、満充電状態で約2時間動作します。


 スキャン周波数範囲は20から420MHz、この表示は室内での受信ですが、FMラジオ、TV、ポケベル?、その他の電波が確認できます。使う液晶は本来カラーでカラーフイルターはデルタ配置になっているので単色表示ではちょっと見難いです。盗聴器捜し?には威力を発揮しそうです。しかし今日では携帯電話の有無が分かるように上は1.5GHzぐらいまで欲しいところです。衛星放送チューナのフロントエンドを使えば2GHzまでのが作れそうです。たまに変なノイズがあるとか電波状態が気になるときに取り出して見ています。



4.トラッキングレギュレータ (1997年製作)


 この頃、アドバンテストのスペアナR4131Dを購入しました。このスペアナはトラッキングジェネレータが外付けタイプである最後の製品です。最近はアドバンテスト、HP、アンリツなどいずれのメーカのスペアナもトラッキングジェネレータは内臓タイプになっています。そのため、1stLocal、2ndLocalなどの出力はまったく無くなってしまいました。内部信号の出力は無くても測定器としては問題ありませんが、おもちゃとして遊ぶには面白くありません。このスペアナはトラッキングジェネレータを作りたくて購入したようなものです。R4131Dは外見は最新のスペアナと変わりませんが設計はかなり古いようで、制御回路には汎用のロジックICが多用されています。

 トラッキングジェネレータはスペアナのスキャンに同調した周波数の信号を発生させるものです。スペアナとトラッキングジェネレータがあればフィルターなどの周波数特性を簡単に測ることができます。シグナルジェネレータとディテクタの組み合わせでも測定はできますが、リアルタイムに特性が見れるのとは雲泥の差があります。スペアナはFFTタイプを除けば基本的に広帯域スーパーヘテロダイン受信器です。(以前はFFTは低周波用のスペアナとして区別されましたが、最近は高周波用スペアナでも狭帯域スキャンにFFTの処理が使われているものもあるようです。)従って、スペアナの入力周波数と同じ周波数の信号を作るには、各局発信号を順に混合していけば合成できます。R4131Dの場合3rd,4thLocalは固定で1stLocalと2ndLocalでスキャンしますので、2ndIFにあたる226.42MHzの信号と順に混合すればトラッキングジェネレータとなります。(R4131Dのブロック図はこちら。)メーカー製のトラッキングジェネレータでは出力レベルの調整ができますが、必要に応じてアンプとATTを外部につければ良いので内臓しませんでした。

 トラッキングジェネレータを作るにあたって注意すべきことはIF信号の回り込みです。(IFフィードスルーと言うそうです。)トラッキングジェネレータ内部の4GHzや226.42MHzの信号はスペアナの1st,2ndIFに一致します。従って、この信号が1st,2ndLocalの出力端子を通じてスペアナのIFに進入すれば、測定可能な最低信号レベルが上昇して、測定ダイナミックレンジが低下します。(この辺は今は無きハムジャーナルNo.81に詳しく書いてあります。)これには1st,2ndLocalの入力にアイソレータを入れて防止するのが一般的なようです。バラックテストの結果ではなぜか1stLocalより2ndLocalのIFフィードスルーの影響が大きかったので、アイソレータのCU13M(TDK製のジャンク。以前、秋月電子の店頭で1個300円で大量に売られていた物。)を2個入れてあります。信号レベル合わせのためにミニサーキットのERA−5を使ったアンプと−6dBのATTも入れてありますので、この部分のアイソレーションは40dBぐらいは取れているものと思います。1stLocalの方はこれもTDK製のジャンクのCU122A1個のみです。アイソレーションは15dB程度でしょうか?
 トラッキングジェネレータの性能を決定するもう一つの部品は出力信号を作るミキサーです。何も補正しなければこのミキサーの特性が出力信号の周波数特性を決定します。ここは奮発してR&Kの新品DBMを購入しました。なんと45000円もするスーパーパーツです。マイクロ波関係の部品の高価さはオーディオ関係の部品と双璧です。(需要が少ないためでしょうがそれにしても恐ろしく高い。) もう一つのミキサーはミニサーキット製の新品DBMが手持ちであったので使いましたが、こちらはほぼ固定周波数なので自作も可能でしょう。
 その他の部品は殆ど全てがジャンクの寄せ集めです。113.21MHzの発信器はNDK製のXtal発振器ですが、元は113.713MHzのものを無理やり周波数を下げようして失敗しました。今はクリスタル付きLC発振器??として動作しており周波数変動がとても大きく、スペアナのスイープレンジを狭めると絶えずトラッキング調整しなければなりません。クリスタルを特注して当初の予定通りトラッキング調整不要にしたいのですが、このままでも使えるのとクリスタルの注文が面倒くさいので放置してあります。(クリスタル発振器の内部は56.86MHzの3次オーバートーン発振を2逓倍しています。3次オーバートーン発振は基本波に比べて周波数を下げ難いことが分かりました。なぜか知りたい方は
こちら。)4GHzのBPFは最初自作の予定でしたが、4.08GHzのジャンクが手に入りましたのでこれを調整して使用しました。この際、調整に手を焼きYIGを使ったスイーパーを急遽作りました。これが及第点レベル開発品のYIG,YTFコントローラの原型になりました。


 完成したトラッキングジェネレータの内部です。ケースはタカチのOSシリーズですが、既成品ではちょうど良い大きさの物が無いため、スペアナの幅に合うように切断して使いました。(この加工が一番手間が掛かりました。)モービルハムの2000年2,3月号(最終号)にこれと同様のトラッキングジェネレータ自作記事が掲載されていましたが、世の中同じようなことをやってる人はいるものです。バラックテストの風景などはそっくりです。ただケースは既製品そのままなので、スペアナ本体より若干はみ出しているところを見逃していません。(つまんない所が気になります。)

 専用トラッキングジェネレータTR4153Aの特性は周波数範囲100KHzから2GHz、出力レベル平坦度±1dB以下、出力レベル可変範囲0から−59dBmです。こちらは周波数範囲DC?から2.8GHz、出力レベルは−10dBm固定で平坦度は高価なDBMのおかげでTR4153A並です。(ちょっと甘いかな?)但し、出力平坦度については、R4131Dにはノーマライズ機能がありますので極端なレベル変動が無ければ補正が可能なため、それほど神経質になる必要は無いようです。(いずれにしても精密な測定にはケーブルの損失補正が必要になります。)
 トラッキングジェネレータがあると色々な特性が視覚的に捕らえられるので非常に分かりやすいです。そのほか方向性結合器があるとリターンロスも測れて特性測定の幅が広がります。測定例は
こちら


5.電源周波数変換器 (2000年製作)


 計画倒れ開発品のところで掲載したマツダ電気時計を動かすために作ったAC-ACインバータのリターンマッチです。今度は実用性を最優先に考えて小型、軽量、高信頼性の自信作です!
 


 大きさは160×100×38mm、重さは400g。マツダ電気時計の台として置いています。前回の失敗作と比較して体積は1/10、重量は1/11、発熱は殆どありません。小型軽量化が成功した原因は回路にまったくトランスを使っていない点にあります。(
回路図はこちら) これなら24時間連続運転しても何の不安も有りません。 はじめはロジック電源用に小型のトランスを乗せるつもりでしたが、ケースが小型で入らなくなったため、やむなくコンデンサによる分圧回路を用いました。しかし、これが思った以上に性能が良く、今後も色々使えそうです。(実験結果はこっち見てください


6.白色LED照明 (2001年製作)



 白色発光LEDを偶然沢山入手出来ましたので小型の照明を作りました。この白色LEDは基本は青色発光で、そのLEDチップの上に青色光を吸収して橙色に光る蛍光体を置き補色関係に有る2色の光の混色で白色に光ります。基本は青色発光LEDなので駆動には3.6Vの電圧が必要です。AC100Vを直接整流して得られた約130Vの直流電圧から33個直列にしたLEDに電流を供給します。電流は定電流ダイオードE−562を3本並列にして約15mAに制限しています。この回路を3回路設けて99個のLEDを点灯して照明にしました。LEDはとても明るく直視出来ない程です。透明のペンケースに入れてスケルトン調に仕上げてみました。消費電力は6Wで白熱灯のように熱くならず、小型軽量でベットで寝る前に本を読むときの照明に最適です。白色発光LEDはまだとても高価ですからこんな贅沢な使い方はなかなか出来ませんが、廉価になればこんな照明が普及していくのでしょう。