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超三極管接続 FX
7044単管 CSPP
















コンピュータ管 7044 による単管PPアンプを作ってみました。
CSPP (Cross Shunt Push Pull) の変形回路を採用しています。三万円強で出来る格安アンプです。


1. 出力段

CSPP 変形ですから、その基本的な考え方について説明します。

CSPP は、それ自体が従来のDEPPが持つ欠点(・・と言い切れるかどうかは確認されていないけれど^^;;)であるところの、出力マッチングトランスの一次電磁結合に起因する問題点を含有しません。
本質的に CSPP はシングル動作の結合なのです。詳細はここを読んで下さい。

但し、ドライブのバラツキはそのままPPバランスの崩れになります。これはDEPPが一次電磁結合によってバランスを回復するのとは違い、PPバランス (ACバランス) は出力管のバランスとドライブ電圧に完全に依存することになります。
この欠点を埋めるための方式として、ドライブの差動化が有効であることは論を待たないでしょう。
 

1-1 ドライブ


CSPP方式のドライブには、下に示す様に幾つか考えられます。簡単に、シングル動作で考えます。基本的には CSPP はシングル動作の組み合わせなので、複雑に見える回路はむしろ単純な動作をしています。

Fig.1の様に、マトモにドライブすれば、普通のカソード接地動作ですが、しかしちゃんと動作させる為には、バイアス電位をフローティングする必要があります。これはノイズに対して弱くなりそうです。
では、自己バイアスにすればどうかというと、これは出力段でゲインを持たない、フォロアとしての動作になります。
するとドライブ電源電圧は、少なくとも出力段電源の2倍を要します。結局パワー管でドライブする事になり、何だか馬鹿みたいです。

Fig.2の方式なら、出力段はμで決まる利得を持ちます。従って入力電圧は小さくて済み、電源は簡単に出来ます。
雑音も、多分問題にならないと思います。
良い方法だと思いますが、欠点は、自己バイアスにせざるを得ず、大容量のカソードCが負荷にモロに直列になるので、その為に低域特性の悪化は避けられず、音質的な影響が懸念されます。でも、簡単に試すならこれです。

Fig.3の方式は、ドライブ電流にも出力に参加して貰おうという、セコイ考えですが、バイアスはドライブ側の電流だけで決まり、出力段の利得は確保されるので、上述の欠点が克服され、もし終段が五極管なら出力も上昇します。

一見するとSRPP風(と言うより、これはμフォロア的ですが)にも見えますが、本方式とは大分ニュアンスが違うと思います。これは、むしろブートストラップに近いでしょう。ドライブ側の球のVp変化が出力側のVpを変化させない為に、出力側のロードラインが通常と同じになるからです。

SRPPでは出力電圧が正の方向に上昇する時、上側の真空管から下側の真空管に流れる電流は減ります。だからロードラインの傾きが逆になります。つまり俗に言う真空管抵抗みたいな動作です。しかし Fig.3 では下側に流れる電流は上側の球と無関係で、+Bから負荷を通して供給されています。従ってブートストラップの変形です。

ドライブ段だけでも音は出るわけで、普通の五極管DEPPそのものがドライブになるのです。だから、差動化してやればドライブ段は差動DEPPそのものです。

はじめは、耐圧の高い半導体でも使って、簡単にこれで行こうかと思っていたんですが、内部抵抗は結局終段の球に依存します。

それに、ドライブ電圧の与え方という点でみれば、つい最近 K氏が MJ に発表したアンプの考え方に近いので、これは非常に面白くない(^^;;)。
ドライブ電圧の与え方としては別に珍しい方式でもないし、上条氏のOTLアンプのドライブなんかも本質的には似たようなモンですが、K氏は例によって例の如く、MJ誌で自画自賛してるし。(バッシング必至か? ^◇^;;)

考えるほどに、このままでは試す価値がない気がして来て、巧く帰還をかける方法が無いかと考えて見ました。
 

1-2 超三極管接続 FX


V4で帰還すれば超低インピーダンスも期待出来ますが、バイアスを安定させるのが難しそうです。

そこで、Fig.3の方式を三極管による電圧性にする事を考えてみました。
もしもドライブが完全な電圧性なら、終段はカソフォロと同じ事で、100%帰還です。しかし三極管にはrpがあり、グリッドドライブのために抵抗が入ります。その分だけ出力段は利得を持ちます。

ドライブを差動化することで、ドライブ側のプレートに帰還された電圧とrpの関係から変化した電流が反転側のカソードを介して帰還されます。この為に出力は差動増幅出力をブーストした形になり、バランスは差動形式に近くなります。

ここが超三結仲間(^^;;)の動作で、三極管の差動ドライブでバランス回復するわけですね。
まぁ元々 CSPP はトランスのセンターから見たバランスは良いのですが。

しかも‘半カソフォロ’帰還(?)による大きなダンピングファクターが期待できます。内部抵抗はカソフォロには及びませんが、数百Ωにはなります。(ドライブ管のrpで変わります。)


 
 
 
 
 
 
 

電流モデルでの等価回路を示します。
rp2 がドライブ側の内部抵抗で、もしアンバランスがあればこれを介して反転側の電流を変え、反転側 R_bias の電圧が変化し、バランスを回復します。

DEPPの差動形式出力段にした所で、依然として一次電磁結合の影響は残っているのですが、CSPPではほぼ無関係になります。(それが良いか悪いかは別問題です。)

最終的には、単純にSRPP風出力がCSPPになった様に見えます。
「なんだ、そんなもんか」と思われるやもしれませんが、簡単な回路でアドヴァンテージを持たせる事が出来るのならば、それに越したことはないと思います。
 
 
 
 

名付けて超三極管接続 FX。F は Floating の F、次期主力戦闘機の FX。(なんだそりゃ?)
昔のバイクの名前。(速そうでしょ?^^;) 要するに、かっこいいから付けた名前で、大して意味はないです。
見た目そのままで、 DCSRPP (Differential Cross Shunt Regulated Push Pull) って名前も考えたんですが、長すぎるし、第一、かっこ悪い。(^◇^;)

超三結V1等とは少し意味が違うかも知れませんが、こんな考え方もありと言うところでしょう。
 CSPP+SRPP+三極管差動PP≒超三結FX?

ドライブにHi-μ管を使えば、単段増幅可能ですが、ロードラインを引いてみると、どうにも巧くない。
しかたない、2段増幅だ・・・となると私の好きな球を使うことになり、実績と信頼性から6463です。
出力管と同じ7044でもいけますが、2A3-PPで期待にそぐわぬ音質と素晴らしい特性を示してくれた6463にしました。

実動作点でのrpには7044とそれほど差がないし、そのわりに直線性に優れ、ヒーター電力が小さくなります。
当然、実質的なμが低めになる(rp=μ/gm)のですが、どうせゲインはあまり気味です。
 


2. 設計

出力段のロードラインを示します。AB1級です。
7044のプレート特性は手に入らなかったので、下の図は ほぼ同特性の5687で代用しています。
計算上の最大出力は、4.4W 程度です。
 

この5687の特性は不思議です。発表値のrpは、130V、Vg=-2V で1560Ωですから、茶色の点線になります。しかし、図から見ると、どう見てもこれより大きく、1.7kΩ程度です。
(銘球45に近い!なんて宗教ネタを喧伝する気はありません。悪しからず(^^;;)。)

最大プレート損失は5687よりも7044の方が大きく、両ユニット動作時で片側4Wです。最大プレート損失の曲線は4Wで引いてあります。
7044の方がμが僅かに大きく、最大電流も大きいので、0V付近では多分ピンクの点線の様な感じになると思われます。

案じても始まらないので、この図にロードラインを引きます。ロードラインは、通常のDEPPとは違い、丸々出力トランスのインピーダンスで、1/4にはなりません。出力電圧は、フロートされた電源電圧から出力管のVpを引いたものになります。

これに出力トランス5kΩの直線を引いたのが水色のラインです。しかし、これにドライブ段による電圧が加算されます。+20Vとして、想定されるのは濃い青色のラインになります。

動作点は、10mA/300V の点とします。
この時、実際の動作は黄土色のラインと濃い青色のラインの中間的な‘曲線’になります。

AB級は、通常のDEPPでも本来は必ずこういう曲線上を動きます。A級動作範囲では強固に結合したPP巻線をドライブするわけで、つまりパラシングルと同じ事ですから、ドライブするインピーダンスが倍になったのと等価だからです。
普通は、こんな事は考えなくても問題になりませんから気にする必要はありません。
しかし今回はドライブ段の電流が出力トランスに加算される、という特殊な条件なので、敢えて書いています。じっくり考えないと、最適負荷が何処か解らなくなるので。


ドライブ側プレートから見た出力トランス一次側のピーク電圧は、この電圧の半分です。何故なら、トランスセンタータップが固定されていて、出力はセンターからみてヤジロベイのように振れるからです。
(解り難いようなら、Fig.3をもう一度 見て下さい。ドライブ段の片側プレートから見て、出力電圧の半分がドライブ段でのプレート電圧であることが解ると思います。)

普通のDEPPなら 20kΩのトランスを用いる事になりますから、明らかに諸特性はCSPP有利です。
超三結との関係から言えば五極管の方が面白いのですが、合う球が、なかなかありません。かと言って、低インピーダンス大出力のトランスは高価ですし、電源トランスもすごい物になって、おいそれとは試す気になれません。
万一上手く行ったとき(^^;)に考える事とします。

尚、この回路は5687での代用は出来ません。プレート損失の違いと、ヒーター/カソード耐圧が7044に限って特に高い(±200V)からです。尚、単管CSPPなので、ヒーターはセンターをドライブ側の+Bに接続します。
また、私が実際に使用した電源トランスでは、ドライブ段に7044を使うことも出来ません。ヒーター巻線の容量不足になります。


ドライブ段のロードラインは下の図のようになります。

この電圧変化からドライブのカソード抵抗の電圧を引いたものが、最終的な出力電圧です。
 
 

実線が 5kΩ負荷の場合で、点線が無負荷の場合です。つまり、この点線を x軸に写像した時の傾きで、内部抵抗が定まります。実際には、さらにバイアス抵抗(終段の入力電圧を決定する)の影響もあるわけで、ドライブ段の負荷という点だけで見るならその影響も考慮すべきですが、話を分かり易くするために無視しています。

6463の負荷はトランスが5kΩでバイアス抵抗が2.2kΩぐらいだから負荷は3.45kΩ・・とは行きません。
先に説明したように、CSPP終段が利得を持つ事により実際の負荷の値よりも6463のプレート振幅が大きくなるので、ロードラインは寝てきます。

これは、SRPPやμフォロアの真空管抵抗による利得とは意味が違い、CSPP段の真空管の電流はあくまで負荷にしか流れませんから、負荷によって終段利得が変化しますが、この時、上図のようにドライブ段のプレート特性図のラインに沿って出力電圧が変化します。その分だけCSPPの線形性は改善され、内部抵抗が下がったかのように動作します。

ドライブ段のrpでCSPP側の内部抵抗が変化するので、考え方によっては、これもまた超三結的動作と言えるでしょう。

等価回路を見れば解りますが、もしドライブ段が完全な電圧性なら、CSPP段のグリッド電位(≒出力トランス両端電位)は、アースから見てほぼ確定します。つまり終段が利得を持ちません。上の図と一つ前の図の関係を良く理解しないと、この回路の動作は理解しがたいので、良く見ておいて下さいね。

基本的には、ドライブ段の特性を拡大したものになります。つまり差動DEPPの特性に近い訳ですが、差動出力との違いは先ず出力で有利な点と、ロードラインがずっと寝てくるために直線性とDFで有利になる事、電源の変動に対して不利になる事です。(後者は差動云々以上にA級とAB級の違いがありますが。)

ドライブ段はもっと電圧を下げて電流を増やした方がベターですが、電源トランスの制約からこうなっています。
この方式では差動側のrpとバイアス抵抗が小さいほどDFが上がるので、電流が多い方が良くなるはずです。


3.製作

    3-1 増幅部回路

実際に試作した回路を下に示します。私としては珍しく半導体が少ない。(^◇^;)

初段は 6DJ8です。単に慣れてるし、好きだから。初段に使えるコンピュータ管があれば、All computer tube のオーディオアンプも面白いんだけど。(^^;)
利得とrpのバランスから、ある程度高いμを持った低rp管が必要であるのも理由です。
既に触れたように、ドライブ段の振幅は通常のカソード接地よりも大きくなりますから、ミラー容量の影響が顕著に出てきます。従って初段には、ある程度低い内部抵抗が求められる事になります。

可能なループ負帰還は、理論上は(位相補償無しで)12dBくらいですが、出力トランスは素性の知れない安物(^^;;)なので、NFBは半分くらいの6dBみておく事にします。

初段差動増幅は、負電位を与えたCRDによる定電流でCMRRとDレンジを確保します。この為に、ヒータートランスにはセンタータップ付きのものを使用しています。初段の電圧を 6DJ8 の定格ぎりぎりにしてあるのは、CRDバイアス電圧の関係からです。それでも4.5mAのCRDとしては最大入力での電圧がぎりぎりです。

2段目も定電流で縛っています。電流値から、こちらはトランジスタです。ここにCRDをパラで使うのは感心しません。最近は大電流CRDもありますが、どうも特性は今ひとつの様です。

しかし、この回路では未だ電流安定度が悪く、はっきり言って失敗です。私がタコでした。(^◇^;)
もっと明確に電流を確定すべきでした。良い例(゚_。?)を下に示しておきます。


 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

TL431はシャントレギュレータICです。NFBでR11の両端の電位が確定します。
低圧ツェナよりも安定でローノイズ、低消費電力。70円くらいで売ってます。
 
 
 

明らかに本方式は多極管の方が向いています。何故なら終段利得が大きくなる分だけ帰還管のロードラインは寝てきますから、歪は有利になる筈です。バイアス電圧が浅くなれば、バイアス抵抗で消費されていたドライブ側の電力も出力に加算されるので、元々多極管で有利な出力でもさらに有為性が増します。

事のついでに書きますと、そもそも差動DEPP出力において、三極管と多極管では根本的に動作に違いがあります。多極管の場合には、極端な話 シングル用のトランスを二個使ってもPP用トランスでも流れる出力電流は同じです。

しかし三極管の場合には、両者は意味が違ってきます。PP用トランスの場合には、一次側が強固に電磁結合しており、お互いに負荷になります。従って、一方のプレート電圧の変化は他方を変化させるので、三極管では球の内部抵抗を通して反転側の電流変化が共通カソードから帰還され、一種の負帰還動作になるからです。
もしもシングル用トランス二個ならこの帰還作用はありませんから、PPバランスの崩れがあっても、それはそのまま出力電流になります。例えば極端な話、差動双方のrpが大きく異なればバランスは崩れます。

つまり三極管の差動DEPPは、それ自体がある種の超三結動作とも言えるのでは無いでしょうか。五極管ではこうは行きませんから、差動での正確なPP電力合成という観点で見るなら明らかに三極管に分があります。

しかし、本方式では帰還管に低いrpの三極管を用いるなら、出力段は五極管でも同じ事で、言い換えると五極管による三極管差動増幅DEPPエミュレーションが成り立つ訳ですから、多極出力管が優位です。

では、何故五極管にしなかったのか?理由は簡単、7044を四本も持ってたから。(^^;;)
使いどころを探していたので、こういう選択になりました。

但し、今回使用したトランス類では適当な多極出力管が見当たらないのも事実です。もし、もっと大規模なシステムにするなら、迷わず多極管を採用すべきでしょう。
 
 

    3-2 電源回路

電源回路は、ちょっと大袈裟なことになりますが、これはCSPPでは仕方ありません。多巻線のトランスを特注すれば、お金の方が大袈裟なことになります。(^_^;)

注意点としてヒータートランスからの整流出力のリップルフィルタがあります。
初段カソード側にCRD(定電流ダイオード)があるから大丈夫、とは行きません。この電圧での4.5mA の CRDでのリップル抑圧はせいぜい 30dB が良いところでしょう。

仮にこのトランスで 100μF 程度で整流しっぱなしなら、10mA 近く取れば 0.2V ぐらいのリップルが残ります。その 1/30 がカソード入力になり、それが約20倍されて初段プレートに現れます。すると差動のゲイン差が 5% ぐらいとしても、出力には 2mV 程度のハムが出ることになります。これは絶対に許容出来ないレベルです。

初段カソードに負電源を用意する場合、十分なリップル抑圧に注意すべきである、と言うことですね。
2SA1284はhFE>500のものを選別していますが、ベース抵抗を大きくしようとしたからです。
ベース抵抗が2kΩなら無選別で、何でもいけます。この場合には Tr は低周波用PNPなら何でもOKです。

470μHの SW 電源用のインダクタを共通 B電源 310V に入れてあるのは、トランスの二次巻線の電流容量が少々不足で、力率を改善する必要に迫られての苦肉の策です。
こんな小さなインダクタンスでも、実測すると意外に導通角は拡大されて、力率の改善が認められます。これはイケてる手段です。今度から多用するかも!

この結果からすると、数mH程度で相当な力率の改善が見込めますから、雑音でも有利だし。(皮相電力−実効電力は一次側で雑音電流になる。)勿論、非連続動作モードですから定電圧性は期待できません。

尚、インダクタがGND側に入っていますが、これは勿論正側でも構いません。単に基板上でのスペースの問題からこうしただけです。

注意点は、小さくてもインダクタですからスイッチON/OFFでの磁化の解放電圧がある事。だから整流ダイオードの耐圧は 600V 以上欲しい所です。私はジャンク屋で 2000V の FRD を 5個 100円で入手しました。

その他の整流は 400V の FRD を同じジャンク屋で 10本 100円のをまとめて買ってきました。ちょっと耐圧が低めなのですが、トランスの容量が小さいしコンデンサ入力整流ですから、電源OFF時のサージが小さいので問題ないでしょう。



   3-3 その他

本当は、トランス全部にヒューズを入れるべきですが、場所がないので堪忍してくれっ、です。(^^;;;)
先に出力管が立ち上がるとマズイので、電源スイッチなしで前段のヒーターだけ立ち上げて、スイッチで後ろが立ち上がるようにしています。

ヒューズも入れていないので、ヒューズとスイッチの付いたテーブルタップを使います。
もし万一追試される場合(そんな方は居ないと思いますが ^^;;)にはヒューズと共に下記に示すような遅延回路の挿入が望まれます。
私は耐圧の高いトランジスタの手持ちが無かったので、入れていないだけです。

この動作が解らない人でこのアンプの動作が解る人は居ないでしょうが、一応簡単に書くと、最初1000μFにチャージが溜まるまでは、Q1 が OFF ですから Q2〜Q5 が ON しています。時定数回路での遅延の後、Q1 が ON して Q2〜Q5 が OFF します。6463が立ち上がるまで、Q2〜Q5 に電流が流れて出力管をカットオフ方向に振ります。SDは放電用ですから、Q1のVbeよりも小さいことが必要です。もし心配なら、1000uFとQ1のベース間に抵抗を入れても良いです。
遅延時間の計算方法はここ。Q1 に高い hFE が要ります。

シャシーは電源とアンプ部を分けて、その間を木製の枠で囲って上下に重箱のように重ねています。
電源トランスが多いので、上下に立体配置せざるを得ないのと、各トランスの電磁的な干渉への配慮です。
勿論、下側シャシーもアースします。

木製枠とアルミシャシーは「糊付け」です。
不安かも知れませんが、大丈夫。ちゃんと糊には「困ったらこれを使え」って書いてあったから。(^^;;)
(水分と反応するセメダイン・スーパーXを使いましたが、エポキシでも良いと思います。)

ヒータートランスは低めに出ているので、ヒーターからの低圧の整流はショットキーの方が良いです。


4 雑感など

ダンピングファクターは約 8 (2V/500Hz、7.5Ω)。低いループ帰還(実質4.3dB)のわりに高いDFが、本方式の意味を物語ります。

最大出力はノンクリップで約3.5W。クリッピングはわりとソフトです。
計算値より低いのは、出力段の電源電圧が 20V程 低めに出ているせいで、電源トランスの性能と我が家の電源事情によります。16Ω端子に8Ω負荷を繋げば(つまり2.5kΩトランスで使えば)、僅かに出力が上がりますが、諸特性は犠牲になります。

電圧利得は16dBで、最大出力からすると少し高いですね。
残留雑音は0.28mV(10-200kHzフラット)で、実用上の問題はありませんが、今ひとつ。
もう少しNFBを多めにして利得を減らして、歪みとDF、ノイズを向上させる手もあり、でしょう。

歪み(THD+N)を測ってみたら...帰還量も少ないので、ムニャムニャ。(^^;)
何をどうすれば良くなるのかは知っています。時間的な余裕が出来たらやります。
どうしても見たい、と言う方はこっそり(^^;;)とここを覗いて下さい。

音は、変な回路に似合わず、素直で普通です(^^;;)。やや荒さもありますが、帰還量を少し増やせば良いでしょう。
パースペクティブの表現に特色を感じるところがあります。電源トランスを独立にすると、半導体のSEPPでもそうでしたが、前後感を出しやすいみたい(?)です。イマイチ不思議ですが。(^^;;)

ただ、小パワーでこのサイズのアンプ(シャシ:16cm×25cm)にしては豪快な音が出ます。私の超三6BM8(こっちの方が箱はデカイ)なんかとは比較にならない低音です。出力以上の低音のパワー感はSEでは得難いところで、PPの旨味でしょう。
さすがに超三結 MX 2A3PP の超低rp(2A3のプレートで見て12Ωぐらい)と比べると、少し緩い気もしますが、良く言えば奔放(^^;;)。

春日の出力トランスOPT6335は、\3980と低価格なのに思いの外、優秀でした。
透磁率(μ)の高い冷延方向性珪素鋼板(俗に言うオリエントコア)を使っているわりにはインダクタンスが小さめですが、当然の帰結として巻線抵抗が少なく、高域が良く伸びていて、CSPP でドライブするのには向いています。
でも普通の DEPP なら、どうでしょうね。

尚、6463は実際の電圧が高めになっています。使用した春日の電源トランスがレギュレーションが良くて、しかも巻足しがしてあるようで、高めの電圧が出たためです。出力段は東栄のトランスで、逆に電圧が低めになりました。
ヒータートランスも東栄ですが、やはり低めに出ています。ACで6Vに達しません。

東栄は余裕ある動作で、特に無信号時は10mA程度の軽い負荷、逆に春日は重い負荷なんですがね。
巷の評判通り、低価格クラスなら春日トランスが良い?

やや、電源の雑音に弱いようです。電源の極性でノイズレヴェルが変わります。フィルターを入れた方が良いかもしれません。もしかするとフロート電源の弱みでしょうか。

時間的な制約から、やっつけで作ってしまった所があります。あちこち妥協もしています。
本来なら上に書いた改良は全て実験すべき事柄ですが、そのヒマが無いので終わりにしてしまいました。

値段も安いし回路も一見すると簡単ですが、ビギナーには勧められません。製作はやや難しい方に属すると思います。
容易に発振する高gm管である為に配置や配線に気を使う事、バイアスの安定度の問題、出力管と電源周りの配線がかなり厄介である事等がその理由です。神経質になる必要もありませんが、ビギナー向きでは無い、と言うことです。

CSPPはアースから見て大変な高電圧になります。+側では600Vを越えますから、製作には慎重さが要ります。何度も書いていますが、製作の最大のコツは「焦らないこと」です。

かかった部品代は\32374 でした。球は全て@1000円以下の白箱です。CSPPだけにHi-C/P?(^^;;)
 

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2001/7/28 Last update
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