1999年9月吉日


 まず無線で通信する手段を考えなければなりません。方式としては、

1.赤外光
2.電波

の2種類が考えられます。前者の代表はIrDAですが、これは見通しできるくらいしか届きませんので今回の目的は達成できません。必然的に電波による無線です。
 次に無線回路をどうするかですが、

1.新規に作る。
2.ユニットを買う。
3.その他。

 最初はゼロから作ろうと思いました。UHF帯のFSKってところか、それとも最新の2.4GHzでSSでもやろうかと考えていました。しかし、受信機側のリモコン受信機(ややこしい)はともかく、リモコン送信機はあまり大きくなっては実用価値が無くなるのでなるべく小さく作りたいのです。そうなると高密度の部品実装とチップ部品が必要になりますが、1台かぎりの自作では限界があります。そこで市販の無線ユニットを使うことを考えました。トランジスタ技術の広告やインターネットで調べましたが、高い、大きい、性能いまいちのいずれかでお話になりません。やっぱ何とかして作るしかないなと思い始めましたが、ふと「そういえばジャンク箱に無線式のプリンタバッファーに使われていた基板が部品取り用にしまってあったな」と思い出しました。


 ヘリカルフィルターやTCXOなど使えそうな部品がいっぱい付いた基板です。まずプリンタ側とパソコン側の一組を選び出し、取り外した部品を他の基板がら移植し元の形に戻しました。

 
ジャンクを利用するコツは根気良く調べることです。回路図があれば最高ですが、回路図付きのジャンクなんてまずありません。回路図を書き出すのは、片面基板の場合や両面基板でも破壊しても良い場合は比較的簡単ですが、今回のようなチップ部品を多用した両面基板でそのまま流用する場合は非常に困難です。仕方がないので動作、回路構成を推定することにします。見たところ449MHzと429MHzのデュープレクサが付いていますので、この周波数で双方向に通信できると想像されます。

 使ってあるICは、はんだ面にフラットパッケージのRCL10485、MB1504、部品面にNJM2904が4個、三端子レギュレータの78N05、調べたところNJM2904は単電源オペアンプ、MB1504はPLLと分かりましたがRCL10485はまったく分かりません。まわりにクリスタルフイルターやセラミックディスクリミネータがありますからFSKの受信ICでしょう。

 回路構成はある程度推定できましたので、次は電源をつないで動作させながら調べることにします。基板より出ている配線は13本、ねじ部などの広いアースパターンに繋がっているのがGND、78N05の入力に繋がっているのが電源でしょう。78N05の入力側からは他に繋がるパターンは見つけられないので、この基板は5V単一で動作するはずです。安定化電源の電圧を10Vにセットして、基板に供給しました。
 
スイッチON!ぜんぜん電流流れません。なぜ?テスター取り出して78N05の出力を測るとちゃんと5V出ています。しかしICのどの端子も0V、電圧来ていません。5Vの基板パターンをテスターで追いますとトランジスタらしいチップ部品のところで止まっています。トランジスタからの基板パターンを追うと外に出て行く配線に繋がります。ははーん分かりました、外部から電源供給をコントロールできるようです。恐る恐る1kΩでGNDに繋いでみると、ぽんと電流が流れました。まず第1段階突破です。
 電流値も適当なのでこのまま調べても壊れることは無いでしょう。配線13本の内、3本は電源、GND、電源供給制御、3本はMB1504に繋がっているのでPLLのコントロールでしょうから、残り7本の機能が分かりません。次にこの配線が入力か出力か調べます。基板パターンを目で追って分かれば簡単ですが良く分からないので、テスターで電圧を測りながら、33kΩでGNDと5Vに繋いでみて電圧の変化を見ます。変化すれば入力、変化しなければ出力と想像されます。これは入力インピーダンスが33kΩより十分高く、出力インピーダンスが十分低い場合のみ正しいわけで、ハイインピーダンスの出力やプルアップ、プルダウンされた入力もありますので、抵抗値を変えながら慎重に調べます。
 ここまでくればもう少しです。PLLを動かしましょう。周波数の設定値が分かりませんが、どうせ何かの規格がある筈です。トランジスタ技術で捜してみるとありました。RCR STD−17A 電波形式はF1D。

チャンネル番号 周波数(MHz) 周波数(MHz)
429.8125 449.7125
429.8250 449.7250
429.8375 449.7375
429.8500 449.7500
429.8625 449.7625
429.8750 449.7750
429.8875 449.7875
429.9000 449.8000
429.9125 449.8125
10 429.9250 449.8250

 めんどくさいので端数の無い8チャンネルに設定することにします。PLLIC MB1504は廃品種で手元に資料がありませんが、端子配置は新型のMB15E04と同じでしょう。秘蔵のPC9801RXを取り出し、久しぶりにN88BASICでPLLのデータ書き込みソフトを作ります。10年以上前のコンピュータですが自作のパラレルI/Oポートが48bit分もあり、今回のようにわけの分からないデジタル入力のチェックにはいまだに使っています。基準分周、比較分周の値を設定してスペアナで周波数を見ながらGo!
 
周波数はぴくりとも動きません。PLLはロックしていません。MB1504の資料が無かったのでMB15E04と同じと考えて設定値を決めていたのですが、どうやら違うようです。うーん困りました。資料を捜すといってもあてがありません。少ない資料をもう一度見直すと、MB15E04は動作周波数が2GHzとMB1504より高速です。と云うことは、メインカウンターの速度はそう変わらない筈だからプリスケーラの分周比が変わっているのでは?MB15E04は128/129と64/65の切り換えなので、それより低い周波数しか扱わないMB1504のプリスケーラは1段少なくて64/65と32/33の切り換えではないか?と考えました。設定値を書き直し、MB1504へ送りこみます。
 やりました!設定した周波数でVCOは発振しています。PLLがロックしました。
 疲れました、おやすみなさい。

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