展示室10   清 元 「保  名」






この作品は、歌舞伎の義太夫狂言「蘆屋道満大内鑑」の主人公、安部
保名が、許婚者・榊の前の死に直面し、悲しみの余り狂乱してさ迷い
歩く姿を描いています。「展示室2」でご紹介した「椀久」と同じく
恋に心乱れた若い男を描いていますが、コチラは恋人が死んでいる事
と、保名が「陰陽師」という武士とも公家ともつかない役職であるこ
とで、少し役の作り方が違ってきます。この作品は殆んど上演されな
くなっていたものを、六代目・尾上菊五郎丈が新演出で復活されたも
ので、舞台のホリゾントを黄色く染めて一面の菜の花を表現し、衣裳
も中間色にして、差し金の蝶も出さず、全体に近代的な雰囲気にリメ
イクされた為に、その後大流行になりました。昔は、奴が何人も絡ん
での所作ダテがある派手な演出もあったそうで、今日的な目で見ると
昔の古風な振りの方が返って新鮮に感じられたりするのですから、美
意識というものは時代によってドンドン変わっているようですネ。僕
が演じた時は、差し金の蝶こそ使いませんでしたが、黒地の着付けに
して、幕切れも小袖を被って沈み込むのではなく、立身で扇子をかざ
す古風な幕切れにしました。一番苦労したのは長袴で、立った時は2
本の足が1本に見えるようにとのことで、颯爽と捌く訳にも行かず、
女形の裾捌きの要領で歩かなければならないので、想像していた以上
に本当に大変でした。おまけに、片足を前に伸ばしたままのギバまで
あり、それを何も苦労していないような、心ここにあらずという顔を
して、演じなければならないのですから、やはり一筋縄では行かない
難曲といえるでしょう。                   







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