ダンピングファクターとは何か?
〜その物理的な意義〜






ダンピングファクターと言うのは、アンプの内部抵抗で負荷抵抗を除した値という事になっています。
なっているんだけど、必ずしもそれを測定しているとは言い難い面があります。
このページでは、ダンピングファクターが本当は何を定義しているのかを明確にしてみたいと思います。

これを測定する方法には、ON/OFF法と電流注入法がありますが、ON/OFF法は一般に管球アンプの測定に用いられる方法ですから、これを基準にお話ししましょう。

測定方法は簡単で、負荷開放の状態での出力電圧を測定し、負荷終端での出力電圧を測定します。

アンプの内部抵抗分をR0、負荷をRL、開放状態での電圧をV0、終端状態での電圧をVLとすると、負荷に流れる電流Iに対して、

    I・RL = VL, I・R0 + VL = V0 が成立するから

    DF=RL/R0 = VL/(V0-VL) ・・・(1)

となるので、開放状態の電圧と終端状態での電圧から計算で求める事が出来る・・・と錯覚します。

錯覚しますと書いたのは、これが錯覚以外の何物でもなく、真空管アンプの測定法としては、正しく内部抵抗を測定しているとは言えない場合があるからです。
但し、実質的な意味において、これが負荷との関係を表すパラメータとしては十分ですから、ダンピングファクターの計測方法そのものを否定している訳ではありません。

(1)式は、アンプの利得が一定であるならば、これで正しいといえます。
半導体アンプの場合には、通常は出力がエミッタフォロアであり、負荷の有無にかかわらず、利得はほぼ一定です。ですから、(1)式は導出時点から有為な意味を持ちます。

しかし、真空管アンプの出力形態はプレート出力です。当然、負荷によって利得が変化します。
極端な話、ビーム管接続の無帰還アンプで、プレート特性が理想的な電流源とすれば負荷が接続されなければ利得は無限大になってしまいます。
勿論、理想電流源も理想電圧源も存在しないので、実際にそんな事にはならないのですが。

本来は下図のように内部インピーダンスR0である利得Aの増幅器にβのNFBを施せば、出力インピーダンスは R0/(1+Aβ)になります。

これは、理論的にも当たり前の話で、大抵の制御工学の本にこの解説は出ていますので、証明は割愛させていただきます。

ところが、例えば負荷を10kΩとする時、見かけ上は内部抵抗100kΩの無帰還真空管アンプに-2の帰還(6dBの電圧負帰還)をかけるとダンピングファクターは 1.0 以上になり内部インピーダンスが10倍以上も改善されたかのように見えます。

勿論、これは見かけの話で、厳密な意味で言うならば、ダンピングファクターは(1)式から求まるR0/RLでは無いからに過ぎません。
負帰還理論が解れば、これはすぐに気が付く矛盾点でしょう。

そもそも、(1)式を求めるのに用いた式は、電流が一定の条件でのR0とRLの比ですが、ここからして前提が崩れている訳ですから、この測定法で求めたものが内部抵抗では無いのは明らかです。

そう、これは利得の変化を示しているのです。上に述べた例での論理的な意味での間違いは「-2の負帰還をかける」とした部分です。

負荷開放状態での利得は負荷のある時よりもずっと大きくなります。だから、負荷のある状態で「-2の負帰還をかけ」た時に、負荷をはずして終端開放すると、帰還が-10とかになっているのです。
だから、NFBで内部抵抗分が1/10ぐらいになったように見えますが、これは測定の方法で騙されているだけなのです。

詰まるところは、終端した時の電圧から得られるインピーダンスは駆動点インピーダンスであって、アンプの純粋な内部インピーダンスでは無いのです。

計算すると、球の内部抵抗をR0、負荷をRLとすれば、負荷があるときのオープンゲインAは
A=gm・R0・RL/(R0+RL)

であるのに対し、負荷が無いときには
A=gm・R0

ですから、帰還量は負荷がないときには(1+RL/R0)/RLだけ増えることになるので、ダンピングファクターとして見るなら、負荷状態の出力インピーダンスをR1、無負荷の値をR2とすると、R0 = 1/(Aβ+1) 故

R1=R0/(1+βgm・R0・RL/(R0+RL))
R2=R0/(1+βgm・R0)
∴ R2/R1=(1+βgm・R0・RL)/(R0+RL)(1+βgm・R0)

であり、言い替えればR0が大きいほど、NFBの影響は大きいように見えるわけです。

簡単に言えば、真空管アンプでは、負荷終端状態と開放状態で利得が違う訳ですから、内部インピーダンスが負荷の大小で変わったか振る舞うのであって、ダンピングファクターが必ずしも内部インピーダンスを示してはいないのです。

ましてや-2の帰還をかけた時に内部インピーダンスが1/10になる等もっての外で、この現象を正しく言葉にすれば、「元の内部インピーダンスが高いほど、負荷の有無による負帰還量の違いが大きくなる。この為に、見かけ上、負帰還によって内部インピーダンスが大きく変化したかの如く観測される」です。

勿論、カソフォロ出力ならこの限りではありませんし、私の、超三結MXアンプでもこれはあてはまりません。
ループ帰還を掛ける前のオープンゲインが、ほぼ確定しているからです。

誤解の無き様にもう一度言いますと、ダンピングファクターというパラメータが無意味であるとか、その測定法が間違っているとか言ってるのではありません。
これが真空管アンプの真の内部インピーダンスを表すパラメータとは言えませんよ、と言っているだけです。
 

じゃあ実際問題として、本当に負帰還量が一定である時と、負帰還量が変化するこの見かけの内部インピーダンスとの差は何なのか?との問いに対しては、(残念ながら測定手段を持たないのですが)私の次の仮説があります。

スピーカーのインピーダンスはアンプから見ればダイナミックに変化します(逆起電力によりそのように観測される)から、負帰還のダイナミックな変化が起こります。これがある種の歪みを発生させるという仮説です。→ココ

実は、良く言われる多極管と三極管の音の違いなんてのはこの程度の話なんじゃ無いかと勘ぐっています。^^;;

自分がなにを測定したいのか、本当に明確にしなければ、測定によって問題解決の糸口を掴む事などできません。
測定方法を丸暗記した所で、或いは計算方法を憶えていた所で、その意味が解っていなければ、無意味です。

知識というのは、単なるデータに過ぎません。

鵜呑みにして知識を得る事−つまり知っている事−と、その理論を自分で理解する事とは、全く別の次元の話です。
(勿論、ホントに全てを理解する必要もありません。例えば半導体の基本的な動作を本当に理解するには、量子力学抜きでは不可能です。でも、理解できなくても、動作を知っていれば優れたアンプの設計は出来ますよ。)

基本に立ち返る事、自分で考える事こそが、オーディオをトンデモの魔の手から救う唯一の手段である、と私は思います。

「理論があって、はじめて“何が観測できるのか”が決まるのです。」
             −アルバート・アインシュタイン−
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