超三極管接続のプシュプル回路
〜ここが勘どころ〜










 DC直結の超三結V1ないしV2で、そのままDEPP(Double Ended Push-Pull)アンプとする事は、不可能とは言いませんが、かなり難しいです。

終段が差動出力(当然A級動作)であれば可能ですが、この場合にも高いgmの球で直結にしようとすれば、ドリフト対策を良く考えなくてはならないでしょう。

理由は明らかで、電源から見て、プレートの直流抵抗分が低すぎるのです。
直結である超三結V1、V2ではただでさえ電源変動に対して敏感に反応します。言ってみれば、シャントレギュレーターと同じ動作ですから、ある一定の出力電圧をプレートから出そうとします。
この為に、上條氏はV2シングルでは定電流源を電源回路に入れて動作させてらっしゃいます。

DEPPでは、この傾向が強くなります。コモンモードに対してもプレート帰還のかかる通常のV1又はV2回路で、そのままDEPPを実現すれば、極めて低いプレートインピーダンスの球が2つ動作しているような感じです。

だから初段がドリフトすれば終段ではちょっと恐ろしい事になります。
ですから、もし初段が半導体なら、熱結合やマッチングも重要です。

 
 

超三結V1-PPをダイレクトにやった場合を図に示します。

この図の場合はカソードバイアスですが、例えば終段の五極管のgmが10mSである、としましょう。

これは、終段の電流変化だけでいえば、100Ωの内部抵抗の球と同じ様な物ですが、低内部抵抗管と違うのは、グリッドのバイアス電位が、プレート電圧と帰還管の電流やμに依存している事です。
プレート電圧から見たグリッド電圧で、プレート電位を制御している点に注意して下さい。

プレート電圧がPP間で1V違えば、PP間の電流は10mAも違ってしまいます。
gm1とgm2が違えばその分だけ電流変化が生じます。

さらに、電源電圧の変動に対して、帰還三極管が全く同じ動作をするとは限りません。
双三極管でも2つのユニット間には、必ず特性に差がありますから、電源電圧変動というコモンモード成分に対して、異なった帰還がかかる事になり、それは動作点を狂わせます。

エアコンがONになった途端にPPバランスが狂ってしまうアンプに実用性があるとは言えないでしょう。
これがカソードバイアスであれば未だ何とかなります。おそらくは、取り敢えず音ぐらい出ると思います。

但し、どうにかしてDCバランスの崩れを防ぐ手だては必要でしょう。もしかしたら、初段に深い電流性帰還をかければ、何とか動作するかもしれません。

しかしDEPPでは、カソードバイアスは固定バイアスに比してかなりの出力減になります。
音質的にも、カソードバイアスの方が良いという話はあまり聞きません。理論的にも当然ですけどね。

では、直結で固定バイアスならどうなるでしょうか?
超三結V1を用いた回路としては、上に示すような感じで実現できそうな気がしてきます。

しかし、この回路を安定に動作させることは非常に困難です。不可能に近いと思います。

そもそも、直結で固定バイアスの超三結V1は、電源インピーダンスを極端に高くとるか、特にgmの低い五極管にでもしなければ実用性がありません。シングルでもPPでもこれは同じです。

ちょっとでも電源電圧が上がれば、大量の電流を流してVpを保とうとするからです。

しかも、終段から見て、グリッド・リークのインピーダンスが特に大きいので、グリッドからの直流の漏れに対して弱くなります。
終段グリッドには帰還管のRkがつながっているのですが、しかし帰還管のVgk自体は定電流で縛られています。
従って、グリッド・リーク電流(プレートからグリッドに流れる)が増えると帰還管のIpが減ることになります。

帰還管のVgkが同じでIpが減れば、当然帰還管のVpkは小さくなりますから、終段のVgは上昇します。それは終段のプレート電流をさらに増やし、さらに大きなグリッド電流を流すことになります。
これは、真空管の熱暴走の典型的なパターンです。

帰還真空管のインピーダンスが低いことは、ここでは役に立ちません。バイアスの安定度から見るなら、この帰還管の動作は数百キロΩの抵抗と等価ですから、結局の所、固定バアイスに高抵抗でグリッドリークを作るのと等価になってしまいます。
勿論、帰還管を大電流、低μ動作にしてやれば良いわけですが、それでは超三結の旨味が半分無くなります。

V2ならばさらに悲惨で、球が破壊にいたる迄電流が流れる可能性すらあります。と言うよりも、それ以前にバイアスを安定させること自体が困難だと思います。

2000年12月現在では、固定バイアスの超三結PPで実用性の有る方法としては、上條氏の示したEL34-超三結Vと、私の超三結MX以外には、未だ見かけない様です。

上條氏は超三結VでCR結合としてこの問題をクリヤしました。
私の超三結MXでは、タスキ掛けの深い帰還のかかった差動アンプの高いCMRRと、軽いDCサーボでクリヤしました。
そして、どちらも終段グリッドから見た直流抵抗値が高くならないようにしています。

どちらも差動アンプが間に入っていて、コモンモードには基本的には反応しないのですが、それでも帰還管の特性がPPで同じではありませんから、その特性の差の分だけノーマルモードでドリフトになるわけです。
それを、CR結合とかDCサーボとかで抑えているのです。

これらの回路は、コモンモードに反応する超三結DEPPは実用性が無い事と、グリッド直流抵抗の大きな固定バイアスは不可能である事から、こうなっている点を認識しておいて下さい。

これらの認識無しに超三結DEPPに挑戦すれば、大怪我の可能性があります。
 
 

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2001/8/8 Last update
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