超三極管接続MX 2A3 Push-Pull
製作編







6 実装

製作については、細かいことを書いたことがなかったのですが、今回は少し詳しく書きますので、どうしても文章が多くなってしまいますが、つき合ってやって下さいまし。
今回は実装でも苦しみました。全体のサイズから、回路を小型の基板に纏めたからです。

必ずしも単純とは言えない回路を、小型定型サイズの一枚の基板にステレオで入れようというのですから、かなり無理をして入れています。おまけにDCサーボの後付けと来た日には、涙モノでした。

定電圧は別基板です。作った後で思ったのですが、2.5倍ぐらいのサイズの基板を使って、定電圧も一緒にして基板実装型のMT管ソケットを使って乗っけた方が、合理的でシンプルな配線が出来たかな、と思います。
しかも、これなら実装も楽だし、後で修正も容易、付属的な回路への配線長も短くなります。

差動アンプのTrと、エミフォロのTrはhFE選別してバランスをとり、接着剤でくっつけてから、銅箔テープを巻いて強固に熱結合しています。サーボアンプのTrもhFE選別をして熱結合します。
hFE測定の出来るDMM(秋葉原で\2000ぐらい)は、買っておくと便利です。高い物じゃなし、同じ値段のオーディオ用コンデンサなんか買うよりも、ずっと建設的でしょう。

差動アンプの方は、hFEが300以上あるものの中から選択しています。エミフォロの2SB716、2SA872Aは、通常hFEが400以上ありますから、問題ありません。
負側定電圧電源の2SB649Aは、hFEが200以上あるものを選択使用しています。

1/2Wの抵抗器は進工業のプレート型です。この抵抗は形状が小さく、これ以外の1/2W型では基板が小さ過ぎて実装困難です。
性能的にも温度特性にすぐれ、精度が高く、高抵抗でも高周波でのインピーダンスの低下が小さいという特徴があります。価格も、金皮の抵抗としては妥当です。ただし生産中止品ですが。

カップリングとパスコンは、マークレビンソンで使われたので有名(?)なEROの角型250V耐圧を使いました。
これは形状も小さいし、昔プロ機器を設計した時に、サンプルで沢山もらったので、百個ぐらい持ってるから。(^^;/

ブロックコンデンサはエルナーのセラファイン(もらいもの)、他のアルミ電解は一般品とブラックゲートが入り乱れてます。
実は、ブラックゲートも、その昔にサンプルでもらったものが沢山あったりするんですな(^^;)。
残念ながら高耐圧品は持って無いので、そこは一般品というわけです。

結局 自分で買ったのは抵抗とトランジスタ、電圧増幅管と機構部品。
値のはるものは全部タダです。(トンデモ無いやつ ^^;;)
 

もらい物でもなければ、RCA-2A3アンプなんか作るわけがないっしょ(^^;/
だって、RCAのペアチューブなんざ3万円ですよ〜。ステレオなら6万円!!
それに、幻の名品LUXの出力トランス:2万円×2ぐらいかな
タンゴの電源トランスとチョーク:1万5千円ぐらいだから・・・(・_・) メ ガテンニナッタ

直熱管に拘るなら、ロシア球が良いと思います。シングルプレートの2A3までありますし。
電源トランスはノグチなんか安くて高性能です。尤も、もはやタンゴは手に入りませんが。
こういう組み合わせで出来たアンプの音が20万円もかけたアンプと、どれほど違うというのでしょうか。
はなはだ疑問に感じてしまいます。


尚、定電圧一次側の100μF/500V の電解コンは、海外製によく見られるような外皮(ケース)がマイナスに接続してあるタイプは使えません。(あれって、よく考えると不思議。マイナス電源は作れない^^;)

VR1,3の半固定抵抗はバーンズの多回転です。調整が容易で、巻線型なので温度特性に優れます。しかも安いので私の愛用品。
定電圧電源は村田のサーメットトリマを使いました。帰還回路での高抵抗ですから、巻線型は使えません。VR2もサーメット。

部品配置について一言。
図Aの例に示すような簡単な回路の場合ですら、たいていの人はこの回路図通りに部品を並べるようです。

入社一年めの新入社員なんかも、たいていこの回路図通りに配置します。
でも、これは間違いです。低周波とかビデオ回路とかだったらそれでも動いてしまいますけど、高周波回路(その場合、ZLはインダクタ)でそんな事やったら笑い者です。VHFとかなら、ちゃんと動かないでしょう。

正しくは、図Bに示すように配置します。この種の回路に限らず、トランジスタの次に抵抗を置く人が多いのですが、トランジスタの次に配置すべきはパスコンです。
特等席はパスコンの為にとっておかなければいけません。(高周波ならマッチングのLC配置もありますが。)
そのぐらいパスコンは重要です。そしてパスコンの効きはグランドの良否と部品配置で決まります。

強力なグランドと明確な電流ループは、無条件で音も特性も良くなります。理論的にも、単純且つ当たり前。

アンプに限らず、グランド・インピーダンスを低く保つ事とパスコンの配置は良いものを作る鍵です。これはディジタル論理回路でも言える事です。
こんな所を無視して、どこそこのコンデンサーが音が良いなんて言っても、何をか言わんやです。

そこで最初の小さな基板の話に戻ります。上述の事から連想できるかと思いますが、実は小さく作る事は性能を上げる事でもあるのです。
マイホームなら土地は広い方が良いし、できればさらに建ぺい率を上げたい所ですけど、基板の場合は小さく作って、かつグランドを広く取った方が具合が良いのです。
つまり、日本的なウサギ小屋の、庭付き(Grounds)一戸建てが理想か?(^^;/

また、マニアには「細い線は音が悪い」と宣うて、信号ラインを不必要に太い線で接ぐ人がいるようです。
これは、全く感心しません。
グランドは太い方がいいです。しかし、ほとんど電圧性で電力の小さな信号ラインを太くしても、信号減衰には影響が無いばかりか、不要なストレー容量を増やし、回路をノイジーにします。
さらに配線がやりにくくなるから長くなりがちだし、その為に静電破壊にも弱くなり、百害あって一利無し。信号ラインで太くすべきは、電流の流れる部分のみと考えて下さい。

勿論、フィラメント/ヒーターのラインは、太い線を十分に撚って使います。電源トランス一次側も同じです。

配線材は、8月末に三栄無線が店舗閉鎖に伴ってたたき売りをしていたときに、LC-OFCを買い込んで使おうとしたのですが、被服が堅すぎて上手く行かなかった(-△-)。
しょうがないから普通の線を使い、LC-OFCは電源周りなど一部に用いました。

もったいない?いや、どうせこんなモノは気分の代物、私は目隠しで言い当てる自信はありません。

 
ここで、実装に関連する与太話を少しばかり。
「アースと基板」という本があります。最近、後輩が持っているのをちょっと読んでみたのですが、新入社員クラスのエンジニアに向けて書かれた本で、ごく一般の方には読み下すのが困難でしょうが、プロの回路技術者にすれば当たり前すぎる、という一見すれば中途半端な内容です(上述の部品配置とか)。

でも意外とこんな一見半端なところが、自作マニア(オーディオに限らず電子回路工作一般の)には本当に必要な本じゃないかな、と思います。
案外、ベテランでも見過ごしがちな所があるやもしれませんよ。あやしげな「トラ」の記事なんかよりは余程参考になるでしょう。ご参考まで。
但し、この著者は高周波回路の経験はあまり無いと見えて、ホントの高周波回路は書いてありませんから、プロの高周波屋さんとかの参考にはなりません。


シャーシは図面を引いて、板金屋さんに作ってもらいました。意外に安いです。但し、MJやラ技に出てくるようないい加減な図では、多分作ってくれません。あれでは全ての寸法を出せませんからね。オーディオ専科みたいな専門店ならあれで作ってくれるんでしょうけど。

機構図面は書いたことが無いと出来ない。でも書かないと図面が出来ない。あぁ矛盾!やってみるしかないって事です。
こういう時だけは、大学で図学の単位を取って(‘優’だったゼ。エヘン^^;)いて良かったと思います。

尚、初段6DJ8のシールドはアースしています。

7 調整

本機ぐらいの回路をいきなり全部作って、‘気合い’で電源スイッチを入れる人は居ないでしょう。
勿論、基板は2回ぐらい配線の確認をしますが、それでも間違えるのが人間です(実は私だけだったりして^^;;)。

先ず、定電圧電源だけの動作確認をします。出力段用のAC230Vの端子にダイオードをつないでやりました。いきなりAC330Vにつなぐのは、かなり怖い。やっぱりという感じで、配線間違いを見つけました。

次にアンプ基板を付けます。先ず、真空管は挿さずに、電源電圧を調整します。この状態ではコレクタ電位は-135Vに貼り付いています。(6463の電流が流れないので、カスコードトランジスタがoffします。)
各部の電位を測定して、間違いないことを確認します。
ここで初めてAC330Vにつないで、6463を挿して動作確認しました。
初段管を挿して、DC電位を確認します。

DCサーボ回路、NFBも未だ配線してません。

帰還管6463のカソード電位、グリッド電位が正常であることを確認出来たら、VR2でコレクタ−コレクタ間電圧(PPの正相と逆相ドライブ)が概ね等しくなるようにします。
次に、VR1で調整して正確に同じにします。多少ドリフトが出るのはしょうがありません。

実は、ここでどうもバイアスが安定しないので、いろんな事をさんざん試したあげく、DCサーボを加えました。
DCサーボ回路を接続して、もう一度VR1で調整しました。今度はドリフトしません。定電流回路の電流が温度で僅かに変わるので、両方の電位が0.2Vくらい変わりますが、問題にはなりません。

次にプレート電流の測定用に1.5kΩの抵抗をプレートにつないでから、2A3を挿してスイッチON!(実はここが恐怖の一瞬!何回やっても怖い。これって私だけかな?)

ここで2A3グリッド電位を測ると・・・高い!フィラメントから青い光を見てしまいました。1.5kΩの抵抗は煙と共に200Ωになりました。^^;;;流れる冷や汗。
慌ててスイッチを切ったので球は大丈夫でした。ヤバイ、慣れが悪い方向に行ってるかも知れない、と反省モードに入ります。

お茶を入れて、十分に気を落ち着かせて、何が悪いのか考えます。可能性としてはあれしかない!
帰還管の接続には特に注意していたにも関わらず、Lchだけ逆に接続して、正帰還になっていたのです。

ちゃんとつなぎ直して、グリッド電圧を確認。プレート-プレート間電圧は揃っています。実測プレート電流は16.8mA。
1.5kの抵抗を外せば、これで38mAぐらいの筈。これでプレートの1.5kΩは用済みですから、外します。

僅かにグリッドのDC電位が変わります。もう一度VR1で調整。帰還真空管から少しDC帰還がかかるせいでしょう。

次にハムバランスをとりますが、普通と一寸違います。一方のプレートにオシロをつないで、プレートのAC電位が最小になるようにしました。何故なら、差動帰還によってうち消される筈だから。
事実、やってみると綺麗にうち消されました。さらに電源性のリップルハムもうち消されるので、直熱管のAC点火にも関わらず、出力端で50Hz〜100Hzの成分は測定出来ません。(エヘン。自慢モード^^;)
尚、調整後の状態で2A3のPP間でのグリッド電位差は0.1V以下でした。

ここで初めて入力を入れてみると、な、なんと!!出力が・・ちゃんと出てくる!(当たり前だ!^^;;)。
でも、この最初に信号が出てくる所って、何回やっても嬉しいねぇ。

最後に、帰還の位相を確認して、入力と同じ位相の方をNFBに接続します。
以前、私のオシロは単現象だった為、出力トランス付きアンプでは発振しない方にするぐらいしか手がなかったのですが、最近オシロを2現象にして不安を感じなくて済むようになりました。実際、やっぱ2現象はええわ。

スタガ比は余裕があるのですが、Lchだけ800kHz付近で発振しました。やっぱりって感じです。
実際問題、計算値とぴったり合った ためしがない。ストレー容量とか、トランスの位相回転とか原因は選り取りみどり。
こんなモンだ、でNFBに位相補正を加えました。これで何をしても安定になりました。

特性をとって終わりです。特性を取ってから、初めて裏蓋を閉めます。
特性をとらない方もいるようですが、問題がある時にどうやって解決するんでしょうね?
「耳が測定器」と言う方に聞いてみたいところです(^^;;/

ゲインは、オープンはやや大きくクローズは概ね計算値通り。クロ−ズで22dB。グラフから求めた値よりも、6DJ8の利得はほんの少しですが高く出ているようです。本当はもう少し低い方が使いやすいんですがね。

ダンピングファクターは計算値より少し悪い。ON/OFF法で15+α(7.5Ω)。(真空管アンプとしては高い数字ですが。)
7.5Ωという半端な数字は、私のスピーカーの実状に合わせただけ。8Ωなら16+αになります。

これらは出力トランスの損失が見積もり以上に大きいという事。OY-15ってなんで名品なんだろう?
タンゴとかの高級トランスの方が性能は上だと思う。もっとも、タンゴトランスも幻の名品になりつつあるけど。
NF巻線を出力にパラってやればDFは上がるでしょうが、数値的には十分なのでこのままでOKとします。

ノイズは何とか及第点。フラット(フィルタ無し10-200k)で0.23mV。今まで私が作った中では一番悪い。
でも、良く考えると、直熱管のAC点火で、ループ帰還6dBとしては優秀と言えるでしょう。初段もAC点火だし。
これは超三結MXの差動帰還が上手く動作している証左と言えると思います。

ノイズ成分としては、ハムは聞こえません。スピーカーに耳をぴったりつけると、ほんの僅かにヒューというノイズが聞こえる程度。50cm離れれば聞こえません。実用上問題ないから、OKとします。

ノンクリップ最大出力は約12W(7.5Ω)。まぁこんなもんでしょう。

高調波歪みは、初段の歪みが見えている感じで、0.2Wぐらいから出力に比例して上昇していきます。周波数による有意な差は出ません。

電源ONで、少しですがポップノイズが出ます。帰還真空管が動作しはじめた瞬間に起こるもので、原理的にしょうがない所です。
+Bを制御することは回路的に出来ないので、保護回路を入れるのなら、トランジスタスイッチを使ったバイアス制御でしょう。
回路だけ作ってみたんですが、取り付ける場所がない^^;;/。大して気にならないので、そのままにしています。
 

8 試聴

特徴的なのは、トランジェントの良さ。特に中低域。これは超三結に共通する感じがありますが、今回の方がずっと鋭い。
ある意味、強調感みたいなものもある気がしますが、独特の魅力ですね。

自作半導体アンプと比較すると、何だか全体に音が大きく聞こえます。
悪く言えば少しうるささがある気もします。良く言えば元気がいい。
今まで、「おぉ」と感じたときには、大抵は静かになって音量が小さく感じたので、違和感があります。

情報量とか分離とか、オーディオ的な聴き方では、やっぱり半導体ですな。これはしょうがない。
かなり昔に作ったのに、未だあの半導体アンプを越えるものが出来ない、進歩の無い私。
「退化するパワーアンプ」とか言ったりして(笑)。(ジャンクみたいな安物ばかり作ってるからかもしれない。それらは部品に戻りました^^;)

音場の出方がはっきり違います。左右〜奥へと広がる半導体に対して、今回は前へ出る感じ。隈取りのはっきりした音像です。
この辺が半導体と真空管の趣味の差か?
良く言えば焦点深度が深い、ソリッドな定位感。悪く言えばパースペクティブの表現が今ひとつ。

超三結6BM8シングルとは比較にならない。当たり前か(笑)。値段が違いすぎるわね。
本機の方が、遥かにワイドレンジで迫力があって、低歪み。

でも、半導体アンプと比較すると、僅かですが帯域が狭い気がします。
特に低域は、悪く言うと少しピッチが上がって聞こえます。良く言えば引き締まって軽い低音。叩きつけるような低音が得意のようです。

で、問題の出力段を差動化したときとの違いは・・・私は差動出力なんてやったこと無いから、解らない(爆笑)。

まぁ総じて、使える域にはありますが、何しろ高級な球と部品なので、良くて当たり前(^^;)。
私は値段を自慢するような趣味は無いので(^^;;)、そういう意味ではつまらんと言えばつまらん。

そもそも、そのまま普通に使っても十分な性能が得られる球と部品です。
無帰還での設計でも、上手く作れば最大出力でも歪みは1%を割り込むでしょうし、ダンピングファクターも必要量は確保できるでしょう。音質的にも定評のあるところです。
直熱三極管の超三結モドキになんの意味があるのかと問われれば、厳しいところでして、本来はビーム管で十分なわけです。

この文章を書きながら、もう一寸つつき回してやろうかと思っていたら、片側(煙が出ていない方)の球のフィラメントのうち、半分だけ切れてしまった。
CRC-2A3はH型プレートですから、フィラメントも二組あるので、その半分。不思議と失敗した方が元気。中古球ですからね。

ほっとけば、生き残ったフィラメントも切れるのは間違い無い(^^;;)。こりゃロシア球でも買うしかないな。
 

以下 2000年11/13記
SOVTEK一枚プレートを買いました。十分にエージングが済むまでは、はっきりした事は言えませんが、今のところ特性に大きな差は無いようですが、少し電流が少ないかな。
見た目が背が高くなって、当初のバランスが崩れてしまいました。最初から解っていれば、ソケットを少しシャーシに落としこんでやれば格好良くなったでしょうに。今更遅いですが。

一見すると、2A3には見えません。構造的にはスプリングでフィラメントがつってあり、縦に4本並んでいます。
丁度、同社の300Bと全く同じ構造、同じスタイルで、ミニ300Bといった趣です。

中の作りは良く、ゲッターがCRC(Hプレート)よりも均一で、管面に綺麗に広がっています。(CRCはスポットがあったり、薄くなったりしてる部分もありましたが、使い込んだ球だからかも知れないので、断定はできません。)

外目の作りはと言えば、ハカマの接着剤が外に出ていたり、マーキングの位置が球毎にバラバラだったりして、コレクターにはウケが悪そうです。Quadペアで買ったのに、アンプに挿すと、Sovtekマークが全部違う方向を向いていて変な感じです。
何より困るのが、球の頭の高さが不均一であること! 横から見たときに、全く締まらない。

好事家への配慮が不足していますな。この辺を改善すれば、一枚プレートという事もあり、ウケルでしょうに。

エージングが済んだら、CRCとの音質の違いなども書こうと思いますが、正直言って第一印象は、悪い(^^;;)。
一聴すると柔らかい繊細な音質で、メーカー製の高級機みたいな感じですが、良く聞くと超低域が分離しきらないで団子になってるし、何よりも、当初感じたダイナミズムとトランジェントが感じられず、ちょっと困ったことになったな〜って感じがしてます。

以下 2000年11/19記

いくら何でもおかしいので、いろいろ測定して調べてみました。
まず、Quadペアで購入したのですが、4本のバイアスが見事にバラバラでした。CRCは見事に揃っていたのに。

グリッド電圧を3Vずらして、やっとDCバランスがとれました。
また、バイアス電流が非常に少なく、CRCの半分ぐらいしかないことが解りました。つまり、感度としては高いわけです。

これは、一つには、フィラメント電圧が低い事があると思います。実測で2.13Vしかありません。トランスのせいですから、どうしようもありません。少しでもロスを減らすように、配線を増やしました。

あまりにも大きな電流のズレなので、エミッションが悪くなってるのかと思いましたが、最大出力はむしろ少し大きくなっていて、約13.5Wです。
もっとも、実はもっと出るのかも知れません。どなたか、2A3のエミッションについてご存じでしたら教えて下さい。

この為に回路の一部変更を行っています。内容は以下の通り。
 

1.R19の抵抗を可変抵抗に置き換えて、左右独立にバイアス電圧調整可能にしました。
2.定電圧の電源電圧を±129Vとしました。これでバイアスが浅くなり、-59V付近になります。
3.DCサーボ回路のR25,R26を2kΩの可変抵抗としました。(でも、あまり効果無し^^;;)
4.スナバを追加しました。これは、入力オープンにした時、ダイオードのスイッチングノイズが観測された為です。
5.入力に33pFを追加。出力トランスの所の電源に0.068μF/630Vを追加。


これだけやっても、調整範囲を少しオーバーしていて、左右で5mAぐらい違いますが、大勢には影響無さそうです。
PP間の誤差は2mAぐらいです。(使用したOY-15の許容値は5mAです)

少し雑音が改善されました。入力ショート、フラット(10-200kHz)で0.18mVです。そのおかげで0.01Wでの高調波歪み(THD+N)は0.05%まで低下しています。
1kHzでのデータをグラフにするとこれです。

また、NFB巻線にパラに入れた位相補償は無くても安定のようです。そのままにしてありますが、ヒアリングと方形波応答の相談で、どうしようか考え中。

また、どうやらSOVTEKは構造的に振動に弱いようです。コイルスプリングでつってあるせいでしょうか?
測定中、なにげに周りを歩いた時に、オシロの波形の乱れで気がつきました。
セッティングは、通常の管球アンプにもまして、振動が伝わらないような注意が必要です。

この状態で聞いてみると、当初のダイナミズムとトランジェントが戻ってきました(ホッ)。
しかし、中域のしなやかで耳当たりの良い質感はそのままなので、SOVTEKの特徴なのでしょう。
肝心の中域のクオリティーはかなりのものです。
最初にSOVTEKで感じた低域の分離の悪さは、どうも振動に依るところが大きかったようです。相当に改善されました。

非常に軽い、弾むような低音、しなやかな中高音で、この音が好きな人は多いかも知れません。調整に手が掛かりますが、何しろ値段が1/4以下ですから、お買い得と言えるでしょう。

但し、一般的にSOVTEKが良いかどうかは解りません。このアンプは、いわば強制的にバランスをとる回路ですから、少々のズレは問題になりませんが、通常のDEPPなら、ACバランスが問題になるかも知れません。

私の好みとしてはCRCかなぁ〜。でも、ろくまんえん だからなぁ・・・と言うわけで、一応これで完成ということにします。
 
 

どちらにせよ、この回路を追試してみようという奇特な方は、まずいらっしゃらないでしょうが、何かのご参考になれば幸いです。
このアンプについてのご意見等、お寄せ下されば幸甚に存じます。
 

#私は真空管アンプを技術面から捉えています。「オーディオは哀愁とエナジー」なんて戯れ言を本気で信じている方は、ここで読んだ内容は全て忘れて下さい(^◇^;;)


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2001/7/28 Last update
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