トップへ   もくじへ
6

5 『虎口からの脱出』へ 7 『白い殺意』へ

六道ヶ辻
ウンター・デン・リンデンの薔薇
栗本 薫
角川文庫

『ウンター・デン・リンデンの薔薇』 表紙


           
さて。
6回目にして、こういうのが出てきてしまいました。ひょっとしたら今回は、「とてもついていけない…」 と拒絶反応を示される方がいるやもしれませぬ。
 
           
  江戸川乱歩、萩原朔太郎、谷崎潤一郎、京極夏彦や久世光彦等等…にうっとり陶酔してしまうお耽美嗜好な部分、旧かなづかい&文語体&大正から昭和初期にかけての時代風俗大好き!な部分、私の中のそういう部分にこの本はすぱこーん!と命中してしまった。
           
寝る前にちょっとだけ読も…と夜中に読み始め、気が付いたら朝の5時でした。
前回ご紹介の 『虎口からの脱出』 が 「思わず電車乗り過ごし」 ランキング1位だとしたら、
今回のは
「読み終わるまで寝られるか!」 ランキング1位でしょう。
(おんなじやっちゅーねん・・)
 
           
  この六道ヶ辻りくどうがつじシリーズというのは、大導寺一族に起こった数奇な事件を描く大河小説だそうで。今のところ世に出ているのは確か5冊くらいだと思うのですが、なにせ100冊完結予定の某シリーズだって順調に続いている栗本さん、その"量産体質"で続きをどんどん出して欲しい。。。
           
その大導寺一族についてご説明いたしますと。  
           
  そもそもの先祖は大導寺というお寺のご門跡、つまり天皇家の血筋をひく尼宮だったのが、時の権力者である藤原氏の何某大臣に見初められて還俗。間に生まれた子どもが大導寺家の祖先になった、という、平安時代から一千年以上連綿と続いているたいそうなお家柄。
           
また、宮中で音楽を献納する役割を与えられた伶人・楽人の家柄でもあり、そのことを伝えるために、歴代の男子のうち1人には『音』の文字を、女子のうち1人にはなんらかの楽器を示す文字をあたえる慣習があるとか。  
           
  しかし実は、大導寺一族には平安時代の因縁で恐ろしい呪いがかけられており、男の子は成人することが出来ないほど体が弱く生まれつくことになっているので、その呪詛の目を逃れるために、「静音」「乙音」などと『音』のつく女性のような名前にする、というのが本当の理由らしかったりするのです。
           
しかも、大導寺家当主はいずれも、歌舞音曲のたしなみを身につけるなど殊の外その伶人としての地位を重んじていたのに、どのような仔細があってのことか、このしきたりは江戸時代中期にパッタリと途絶えます。以降ほとんど家訓のようにして、当主と家族たちが歌舞音曲をたしなむことはむしろ忌避されているのです。  
           
  それから、大導寺家の長い長い歴史の中には、その存在がまったくなかったことのように封印されている人物が何人かいるそうで。
一、大導寺家中興の祖と称された、明治の元勲の一人・大導寺稍渓伯爵の双子の兄弟。
一、四代ほど前の大導寺家当主大導寺宗近氏の戸籍上の長男・大導寺雪彦少年。
一、切支丹であったという大導寺鞠亜。
一、謎めいた一行の描写のみを残して家系図からも筆によって抹殺されている大導寺瑠珈。
……などなど。
           
そして、この本の主人公・大導寺笙子もまた、大導寺家の歴史の中に封印されています。
彼女は、26代当主となり大導寺財閥に戦前、戦後のさいごの繁栄をもたらした、とされている大導寺竜介の妹なのですが、家系図が伝えるのは、竜介の弟・乙音まで。彼らふたりの間に『笙子』という、いかにも伶人の家系にふさわしい名前をもった姉妹が存在していたことを伝えている資料は何もありません。
 
           
  その謎は、大導寺家恒例の文書虫干しの折に、はるか何十年かの時をへて笙子ともうひとりの少女との交換日記が発見されたことにより、そこにしるされていたセピア色の恐怖の中で、おのずと明らかになっていったのでした……。
というのがこの本の幕開きです。
           
うーむしかし、前置きだけでこんなに時間がかかるとは。ここまでで、まだ冒頭の4ページぶんくらいしか要約できてないんですよ。この入り組み方ったら。血縁その他のややこしさといい、気になる謎だらけの意味深な設定といい、横溝ちっくな雰囲気も漂いまくってます。私がこの1冊だけで抜けられなくなるのも無理はない。本章にも入ってないのに、他の 六道ヶ辻 が読みたくてうずうずしてしまいました。  
           
  前置きにばかり字数をとってる場合じゃなかった。そろそろ、この 『ウンター・デン・リンデンの薔薇』 本筋に入りましょうか、、、。
ほとんど、いわゆる「エス」、つまり、むかぁし女子校なんかで流行ったという、女の子同士の恋愛のお話です。話には聞いたことがあるけれど、ほえぇー、こうゆう世界なのかー・・・・と、呆然としつつも夢中で最後まで読んでしまった。
           
舞台は、華族の子女や富豪の娘、有名人や多額の寄付をできるような家柄の令嬢ばかりを集めて優雅な教育をほどこす、という青渓女学院。時代も時代なのですが、ちょっとびっくりの世界ですよ。だっていきなり、  
(今朝は……あのかたはもうお出でになっているのかしら……)
なんつーモノローグから始まるんですからね。
           
  心の中でつぶやいているのは大導寺笙子です。《あのかた》というのは、笙子がひそかに惹かれており、そして他の女生徒たちの憧れの的でもある長身の美少女。
 きりっとつりあがった鋭い、山猫めいた目と太くきりりとした眉、浅黒い肌と大き目の、見るからに意志的な唇―ちょっと外国人めいた、激しい気性とエキセントリックさを全身からほとばしらせているようなタイプの美女なのだ。
           
この、"青渓の偶像"に笙子はひたすら片想いをしていたのですが、ふとしたきっかけで2人は親しくなります。  
           
   ふりあおいだとたんに、笙子は気絶しそうになった。憧れの君―向後こうご摩由璃まゆりがそこに立って、たくましい腕をのばしてしっかりとその空き箱を受け止めてくれていたのだ。
「危ないよ。気をつけなけれや駄目じゃないか」
 摩由璃は男のような口をきいた。もともと、かなり口のききかたがラフだといって先生たちには頻繁に注意をうけているらしいが、彼女のほうはいっこうに気にとめているようすもないのだ。
           
うーん、これって、廊下で出会い頭に衝突する、とか、転びそうになったところを偶然抱きとめられる、とかいうたぐいの、少女漫画におけるボーイ・ミーツ・ガールの王道ですね。それまで話したこともなかった憧れの存在が急に身近に!どうしましょう、ドキドキ。。。  
           
  摩由璃のほうも、笙子のことが気になっていなかったわけでもないらしく、
「いつも紫の着物を着ているからそういう風に見えるのかな。名前、覚えてなかったけれど、顔はよぅく覚えていてよ。いつも紫色の着物を着て小さい、菫の花みたいな娘(こ)がいるなァって前々から思っていたから」
……という具合。ほんと、男の子みたいな摩由璃さま。
           
めちゃめちゃ余談ですが、この摩由璃を見ていると、奇跡の高城さん《氷室冴子「クララ白書」「アグネス白書」》とか、麗美さま《久美沙織「丘の家のミッキー」》とかが、どうしても思い浮かんでしまう私。(注・どっちも女子校の憧れのスターです、昔流行ったコバルト文庫の…)  
           
  閑話休題。
これを機に言葉をかわすようになった2人は、たがいに「お姉さま」「笙子」と呼び合って、交換日記のやりとりを始めます。……ちょっとそろそろ、気持ち悪くなってきました?
私も一瞬、「え?」と引かないでもなかったのですが、もうここまできたらアナタ、栗本世界にどっぷり浸って楽しむしかないざんす。
           
ハイそして、ここでライバル登場。この摩由璃を強烈に慕うお金持ちの我儘娘、というのも、やっぱりちゃんとおりまして。その描写がまたすごいんだ。  
           
   それに尾崎鏡子は非常に強烈な顔をしている。とても整っているというわけでもなかったが、目も口も鼻もすべて大ぶりなつくりで、いかにも威圧的だ。清楚な野菊でもなければ白百合でもないが、絢爛な蘭の花を思わせる。いずれ中年になって顎に肉でもついてきたら実に堂々たるマダァムになるのだろう、とたちまち想像させるような顔。
           
・・・えらい言われようですよね。この物語において、醜さやふてぶてしさ、潔くないカッコ悪さみたいなものを、尾崎鏡子とその取巻きが一手に引き受けてます。そういう、現実的で美しくないものをこれでもかと呈示することによって摩由璃と笙子のあやうい美しさ、夢のように儚い印象、といったものが、よりくっきりと浮き出るのは確かですが。  
           
  ともかく、こやつは完全に片想いで、摩由璃にはむしろ疎んじられているにもかかわらず、2人が急速に仲良くなっていくのがどうしても許せないんですね。そしてこういう場合、恨みの矛先が「憧れの君をたぶらかした不届き者」の笙子へと向くのは当然のなりゆき。
岩村皐月、一乗寺房子というお取巻き連とともに、幽霊が出るという噂で誰も近寄らない放課後の裁縫室に笙子を連れ込んで、ねちねちといたぶり、脅し、弄ぶのです。
           
 「お願い、お願いです。ここはやめて、お裁縫室はやめて……もう帰して下さい、お願いですから……ああ、お願い!」
 笙子が抵抗し、怯え、叫べば叫ぶほど、ハーピィたちの嗜虐をあおりたて、その陰惨な満足と快感をつのらせてゆくとしか思えない。だが、笙子にはそんなことはわからない。
 
           
   鏡子は嘲笑った。
「さあ、早いところすましてしまいましょう。房子さん、この生意気なやつをおさえつけていて頂戴」
「このリボンはとってしまった方がよろしいのよね」
 クックッと笑いながら房子が云った。笙子はなかば気を失ったようになってぐったりと畳の上に倒れていて、ほとんど抵抗もしなかった。
           
 「さあ、早くやっておしまいなさい。皐月さん」
 鏡子が女王様然と命じた。皐月は残虐な異様なまでの満足感に目をぎらつかせ、唇をだらしなくニヤニヤとほころばせながら、太い手をのばして笙子のリボンをほどかれてそのビニールの上にふわりとひろがっている髪の毛をひっつかんだ。
 「やわらかくってそうして茶色がかって、まるでフランス人形みたいな髪の毛だこと」
 皐月は憎らしそうにつぶやいた。
 
           
  うーん、栗本さん、楽しんでるなあ・・・。女子校陰険パワー炸裂です。このお嬢様言葉と、実際やってることのえげつなさとのコントラストが強烈、たまりませんな。
結局、あらがうすべを知らなかった可哀相な笙子の髪はジャキジャキに切り取られ、丸坊主に近い惨めな姿になってしまいます。最後には「本当のことは誰にも言うな」と釘をさされ、意識を失いかけたまま置き去りに。
           
倒れているところを発見された笙子は、教師たちや家族の激しい詰問にも、誰にやられたのか皆目わからない、と言って押し通します。また尾崎一派は全員がお金持ちの令嬢であり、多額の寄付により学院に対して力を持っているので、誰もが真相にうすうす気づきながらも表立って彼女らを糾弾できません。怒るのは摩由璃のみ。  
           
   摩由璃がつぶやいた。その美しい目のなかには暗い怒りの炎がちらついていた。
「あいつら。あの儘にはしておかないわ」
「摩由璃さま……?」
「私の大事な貴女のことをこんな風に傷つけて―許せない。御安心なさい。私絶対にあのやつらを許しておかなくてよ」
           
「教えてあげる。―それに、貴女はもう私の物なのだから、愈々貴女に酷いことをした連中はお仕置きだわ。……止めても無駄よ。私もう決めてしまったのだから」
「摩由璃……さま……」
「おねえさま、でしょう?」
「お姉……さま……」
「良い娘ね。笙子―マ・プティット」
 摩由璃の唇がまた笙子の唇をふさいだ。
 
           
  ・・・・・・ちょっと、これ以上は、とても・・・。ぞぞぞ。ぞくぞく?
このあとも2人の仲が深まるごとに、こんなどころではない、目眩めくあやし〜い場面が満載、徐々にエスカレートしていくのですが、それは直接読んでいただく方がいいのではないかと。
とにかく、か弱い笙子への庇護欲に燃える摩由璃は、復讐を誓って妖しく笑うのであった…。
           
夏休みに入ってからの摩由璃の態度は一変します。夏期林間学校で滞在する軽井沢でも、「笙子は私のものだ」と公然と見せつけるかのように片時もそばを離れず、愛妻の面倒をみるように何くれとなく世話をやき、尾崎一派の魔手から笙子を守ろうとする姿勢を隠しません。  
           
   摩由璃のはっきりと意味をはらんだきつい燃えるようなまなざしが正面から岩村皐月をにらみすえた。皐月が蒼白になった。
「きっとこのひとがあまりに可愛らしくて女らしいから、どこかの醜女が妬んだんだわネ。―だから私がこのひとを守っていて上げるのよ。東京に帰るまで、無事に守って上げると約束したものでネ」
           
摩由璃さま、キッツーイ・・・。し、しこめって。。  
           
  やがて、第一の惨劇が起こります。
軽井沢寮の裏の森で縊死している岩村皐月が発見されたのです。遺書は残されていなかったのですが、足元に履物を揃え自分の腰紐で首を吊っていた状況や、笙子の「髪切り」事件への良心の呵責もあったろう、ということからすんなり自殺とみなされます。
           
しかし、尾崎一派のひとりである吾妻竜子は、摩由璃の不審な行動を目撃したこともあり、皐月の自殺に疑いを抱きはじめます。  
「それに、考えてもごらんなさい。あの岩村さんが、そんな、後悔した位であんな首吊り自殺などということをするような玉 ―言葉は悪いですけれどもね― だと思って?……
岩村さんは自殺なんかしたわけじゃありやしない。岩村さんは、殺されたんだと私思っているんだわ」
           
  たしかに摩由璃はあやしい。皐月の死体が発見された時、笙子だけが見ていた摩由璃の表情は、禍々しくも凄絶な美しさをはらんでいたのです。
           
(摩由璃……さま……?)
 摩由璃の唇が、ゆがんでいる。
 その唇の両端が、あやしく、アルカイックな三日月形の仏像の笑み―それも魔教めいた悪魔的な仏像の笑みを連想させるような笑いにつりあがっていく。その切れ長の、つりあがった目が妖しい喜悦のようなものを浮かべて輝いていた。ほとんど淫らな恍惚とした期待が彼女をぞっとするほどなまめかしく見せていた。
 
           
  うーむ、乱歩的・・・・。
黄金仮面はキューッと三日月形につりあがった口からタラリと血をしたたらせて笑うのです。
こわいよー。
           
さらに、ただでさえ皐月の自殺騒動で不安定になっていた生徒たちの一部が、新学期の教室で“コックリ様”ごっこに夢中になります。最初のうちはいくつで結婚するか、などという他愛もない質問だったのですが、最後に皐月が成仏したかどうかを尋ねて「ココニイル」とのお告げをうけ、そりゃあもう学院中大パニックに。  
           
  「岩村さんよぉ―岩村さんがあそこにいるのよぉぉ……」
「岩村さんがこっちを見てるぅぅ……」
 ……手のつけられぬ騒ぎになった校舎のなかで、少女たちがあちらにもこちらにもすわりこんで泣き叫んでいた。それはさながら、それこそまさになにものかの呪いかと思わせるような騒ぎであった。
           
ひょええ。阿鼻叫喚の世界。コックリさんってこの頃にも流行っていたのかー・・。
しかしまあともかく、関心の移りやすい年代の少女達のこと、恒例の学園祭である「青渓祭」の準備に追われるうちにいつしか騒動のことも忘れ、落ち着いてゆきます。
 
           
  そして学院のスターである摩由璃が出演を引き受けたのは『ハムレット』。摩由璃にこの役を演じさせたいがために演目を選んだ、という噂が立つのも無理はないでしょう。その凛々しい王子様ぶりに、誰もが息をのみます。
           
 だがそのざわめきも完全にしんとしずまりかえる一瞬がついにきた―デンマークの王子ハムレットが登場したのである。……とびきり長いすらりとした脚を白いタイツにつつんだ《彼》が舞台にあらわれた瞬間に、まるでとどめることのできぬさざ波のような感嘆の声があたりを圧して講堂じゅうにひろがっていった―青白い照明に照し出された向後摩由璃は、まさしくそこだけが異次元であった。  
           
  観客が陶然と見蕩れるうちにも芝居は進み、クライマックス場面で思いがけないことが。
小道具の仕込み刀が本身にすりかえられており、切りつけられた摩由璃の白い腕から鮮血がしたたり落ちたのです。
           
 人々が総立ちになって何か叫びだそうとした刹那であった。
「さあ、来るがよい、レアティーズ!まだ勝負はついておらぬ。お前のおわせた傷はうすでだぞ!」
 朗々とひびきわたる摩由璃の声が、はっと人々をわれにかえらせた。摩由璃はその白い手―傷ついた白い手をゆっくりと唇に持っていった。その手をどけたとき、その唇には、まるでひときわ鮮やかな口紅をぬったかのように彼女自身の血が塗られていた。
 
           
  摩由璃がうまくかわしたおかげでかすり傷で済み、その後も落ち着いて演技を続けたため、舞台の上で本当は何が起こったのか、気づく者はいませんでした。割れんばかりの拍手と大喝采に包まれつつ幕が下ろされます。しかし、摩由璃はその犯人に心当たりがあるらしい。
           
熱狂する少女達が後夜祭のファイアストームを囲む頃、摩由璃と笙子は、学院の象徴である時計台でその人物と対決するのです。
そして・・・。
 
           
  やはり今回も喋りすぎてしまったようですが、このあたりはさすがにボカしておきませう。といっても、殆ど結末近し、なんですが。。。
疑いを捨てず真相を暴こうとした竜子の向後家訪問をきっかけに、悲劇的なラストシーンへ。
           
『舞姫』の可憐なエリスの上に笙子の面影をかさね、ふたりだけでウンター・デン・リンデンの石畳をふんで歩きたい、と言った摩由璃。最後に明かされた真実は、なかば予想しながらもやはり衝撃的なものであり。
ふたりにとっては幸福で、そして、悲しくも美しい終幕を迎えるのでした。
 
           
  ふああ、堪能。。耽美的でディープな世界に溺れてしまった。朝5時に読み終えて、なかなかすぐ寝られるもんじゃなかったですよ。
           
しかし。
大導寺笙子がいちおう主人公なのにもかかわらず、私がふれたのは向後摩由璃についてばかりでしたね。なんだかなあ。笙子、全然魅力的なキャラじゃなかったし。
 
           
  何かっちゃ「あ……」と倒れそうになり、人の言葉にビクビクと過剰反応し、「ごめんなさい、私、お荷物で……」とすがるように見上げる、いう調子。鬱陶しいったらありゃしない。いくら庇護欲をそそられると言っても、どうも摩由璃がここまで好きになりそうな気がしないんですが。
           
少々悪に走ろうと、少々常識からはずれていようと、摩由璃ぐらいキッパリと自分をもって、潔く強く鮮やかに生きることができたらなあ、と思ってしまった。どっちかというと私は笙子に近い方でしょうから、近親憎悪あるいは同族嫌悪、似ていることからくる苛立ちだったのかも。  
           
  それにしても、いろんな意味で読み応えのある本でした。知らなかった世界を垣間見ることができたし。あと、栗本さんの文章はセンテンスが長い!大抵のページは活字で埋め尽くされて真っ黒…。意味がとりづらい時も偶にありますが、またそれも味。活字中毒者としましては字が多いとやっぱり機嫌が良くなるので、改行が少ないとトクしたような気分、るん。
           
ふっ・・・せっかくの余韻、ぶちこわしなシメ方でごめんなさい。  
           
( 2000/11/25 )
 

菩提樹下

明日の朝には僕達は僕達のウンター・デン・リンデンの街角に到いて居るだろう。

5 『虎口からの脱出』へ 7 『白い殺意』へ


トップへ   もくじへ
6