蘆屋家の崩壊 |
私の彷徨える脳髄(?)、漸く此方に戻ってまいりました。しばらく使い物になってなかったし…(イヤ戻ってきたって"使い物"たりえるかどうかは別問題か?)。浜陣のkissesメル友さんも、「氣志團を知ってからは本が読めない体になってしまった」と仰ってます。 そうそう・・・気がつけば歌ってるか踊ってるか妄想に耽ってるか(!)やもんなー・・んー・・・。 |
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いかん。またもココロが彼方へ、ピリオドの向こうへ飛んで行こうとする。しっかりせねば。 さてっ、久方ぶりに本の話。長いこと抱えてたんですがね、やっと文字にできそうです。 |
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津原泰水さん、初めて読みました。「なぜか本屋で強烈に呼ばれた」パターンでした。 タイトルと表紙に、浜陣の耽美好き・怪しいもん好きアンテナがぴくっと。オビの文句ときたら 『伯爵と猿渡コンビが遭遇する地獄世界。鬼才が彩る妖しの幻想怪奇短編集。』 なんですもの。ああっ抗えないっ。 |
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「はくしゃく」?ほんで「さるわたり」って?しかも「妖しの」「幻想」「怪奇」な「地獄世界」・・・・ どうもへんだ。変わってる。面白そうな匂いがするよ。よくわからんなりに、手に取った時には既に期待ではちきれんばかり。うふふ、読んでみたら大正解。 何気に地味に密かにさりげにオーラを放ってたこの『蘆屋家の崩壊』ってば、自分だけがみつけちゃったもんね的満足感をくすぐる絶妙な本でした。ここに取り上げる本は大概そうなんですが、今回も「あったり〜!ぱふぱふどんど〜ん」。(テンション高すぎ・・・) |
あのう、単にお耽美だとか妖しいだとかいうのと、ちょっと違ったんですよ。なんかずれてる。なんかおとぼけ。なのにコワイ。いやだからコワイのかな。「怖がらせてやろう」とか「どうだ妖しいだろうホレホレ」とかいう押しつけがましさはいっさい無いのに、いつのまにやらアヤシイマボロシの中に「とぷんっ…」と浸かっていることに気がついてトリハダが。てかんじ。 | |||||
主人公は「二十代のあいだに数数の不運に見舞われたとはいえ三十路を越えて未だ定職に就けずにいるようなぐうたら」だと自らを評する猿渡。いっぽう、凸凹コンビの片割れは、「生業は怪奇小説を書くことであってその筋では有名らしいからもしも名前を記したらご存知の方があるかもしれない」という伯爵。 | |||||
なんとなく頼りなく流されるままに生きており気がつくと「妖しの」事件の渦中にいる猿渡に、職業柄なのかその「妖し」系の知識がやたらと豊富、何か起きると猿渡を彼岸から引っ張り戻すような役目の「黒ずくめ」な伯爵。 なんだかこのふたり、浜陣が好きなあの京極作品に登場するあのコンビに似てるかも。 |
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因みに、あの作品において私が一番感情移入できるのは鬱で優柔不断ですぐ彼岸スイッチ入っちゃう関さんで、大好きなのはきっぱりすっぱりさっぱり物事の本質を掴んじゃってかつあまりにも面白過ぎる榎木津探偵(彼の登場する場面はいつもニヤニヤしてる)。 関さんの相方(?)京極堂氏は、、う〜ん、何考えてるかよくわからないからなぁ。でも、常に冷静で冷酷なふりをしながらちらっと感情が垣間見えてしまう瞬間もごくごく偶にあって、そういうスナオじゃない素直さにはちょっと心が動いたりする、ことも。 話が脱線しました、失礼失礼。 |
さてこっちの凸凹コンビ、豆腐好きという共通点でなにかと行動を共にしては、いつも一緒にややこしいことに巻き込まれてます。事件と知りつつすすんで関わる場合もありますがね。 | |||||
反曲隧道 |
なんと、猿渡が伯爵を轢き殺しかけたというのがこの2人の出会い。運命の出会い? たった6ページとは思えない濃ゆさです。結末、映像がありあり浮かんでコワイんだよーぅ。ぎゃあああ〜。……ドキドキ。ハァハァ。一瞬、現実なのか幻覚なのかわからなくなって混乱しちゃいましたよ。こんなんで続きどうなんの?って心配したりして。 中古車に乗るのがちょっぴり怖くなってしまうかも? |
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安倍晴明に蘆屋道満、白狐・葛の葉、八百比丘尼等々、陰陽師ファンにはなじみの深い名前がぞろぞろ出てきます。赤い月、儒艮(じゅごん)、土器の蠱物、妖しのものだらけ。文字通り「蘆屋家」が「崩壊」する場面など、スラップスティックっぽくてキライじゃなかったりする。 |
蘆屋家の崩壊 |
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猫背の女 |
学生時代の猿渡がふとしたことで知り合った「佐藤美智子」。自意識過剰で思い込みが激しく、一方的な彼氏扱いに怖くなった猿渡、逃げちゃいます。逃げおおせた筈だったのに。。。猫背女の気配に気づいた“歯ブラシ”事件、うああああああ。きしょいっ。ぞわぞわ。 佐藤美智子だか加納律子だか加藤美潮だか、名前も曖昧なら顔も曖昧、記憶にあるのは東北訛りの声と長いソバージュそして極端な猫背だけ。その曖昧さが怖さを増幅するのだ。しかもそんな『復讐』って・・・こわっ!!総白髪に聖痕、猿渡さんも災難なこって・・・。 |
高足蟹、図鑑では見たことあるけどそんなデカイんかー(最大で差し渡し3メートル!両足拡げたらトミーさんよかデッカイってことに…)、きっとこの「大阪の水族館」って海遊館のことやろな、見に行ってみよかな、、等と本筋にあまり関係ないとこでばっかり反応してました。 火星人ちっくな高足蟹群のシーンやら、「身長が2メートルあっても足りそうにない」(ぶっ ! )高窓から覗き込む「赤い巨人」(わはは!やっぱりトミーさんが絡んできちゃう!!)やら、どことなくSF風な雰囲気。しかし、最後まで読んで意味が判らなかったのって、私だけ・・・? |
カルキノス |
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超鼠記 |
迷い込んできた少女ありさの正体に薄々気づきながら、打つ手がなく止めることもできないのは、読み手も猿渡も一緒で。哀しくそして悍ましい結末。その後をあんまり考えたくないなぁ。でも私が注目していたのは、少々常軌を逸し気味の鼠駆除業者「東京都環境美化協会」。丁寧な言葉遣いで熊鼠の害を延々訴える枕崎氏はどうやら溝鼠贔屓ということらしい。彼の、2ページ以上にわたるレクチャーはなかなか興味深かったですよ。 | ||||
悲鳴の女王 |
ケルベロス |
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埋葬虫 |
猿渡が偶然再会した友人、彼が一緒にマダガスカルから帰国した会社の後輩がもう長くないという。それはなぜかといいますと。「虫だ。虫を食うのが好きなやつでね」。ぎええええ〜。虫関係はどーうしても苦手なので生理的に受け付けないんですけど、、、、食虫習慣等にも触れられてて、読むの、つらいよう、きしょいよう。後輩氏の病に伏してる状態とか最期とかについては、か、書けない・・うぐぐ。しかもまだどんでん返しが。うああ、堪忍してぇっ。 |
泣いたりびびったりさぶいぼ立てたり、1冊でかなり激しく動揺させてくれたこの本ですが。『水牛群』では、幻覚かはたまた夢か、混濁した幻想世界を猿渡と一緒に彷徨い、最後にはちゃんと癒されました。夢にありがちな展開の支離滅裂さにもリアリティがあって、感情移入ばっちり。苦しいのになぜだか心地よくもあり、、、。 頭蓋の中に誰もが持ってるモンブランのブルー・ブラック・インクみたいな「脳内恐怖物質」、という冒頭の譬えがなんともリアル。その小壜の蓋を無くしてしまった猿渡の苦悶がありあり伝わってきて、可哀相で見てられないよ。伯爵がいてくれて、本当に、本当によかった。 |
水牛群 |
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・・・というわけで全8編、駆け足でご紹介。しかし私の書き方では、とてもじゃないが『幻想怪奇短編集』って感じではないかもしれませぬな。ごめんなしゃい。 | |||||
津原さん、一文が長いんです。私はそこも好き(活字の量が多ければ多いほど得したような気になる)。長くかつ読点も少ない文章なのに全然読みづらくないのが素晴らしい。 一人称が「おれ」、淡々と延々とつづく文体の低温さ加減、底の方に常に狂気を隠し持っているようなこの雰囲気は、ちっとだけ筒井さん(筒井康隆)風かも。 |
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登場するクルマ(悲しいかな、短編が終わるごとにおシャカになってたりするのですが…)も私のツボに命中。「反曲隧道」シトロエン、「蘆屋家の崩壊」フィアットのパンダ、「カルキノス」「ケルベロス」真黄色のビートル・・・浜陣、昔懐かしで「鉄っぽい」、愛らし系の外車が大好きなのです。ああ、憧れのアウトビアンキ・アバルト。。。は出てきませんけどね。 |
それと、豆腐、やたら美味しそう。涎が。猿渡さんたら、豆腐食いながら旨すぎて涙こぼしちゃうんですからね。伯爵もハンカチで目頭拭っていたりするし。「旅はいい」だって。泣くほど旨い豆腐、、、是非とも食べてみたいと思いませんか? 食べ物がいかに美味しそうに描かれているか、というのは、私にとってかなりポイント高いのだ。池波正太郎、田辺聖子に加えて津原泰水、「私の中の美味しそう作家」ベスト3、決定!(なんやそれ) |
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やっぱり食べ物の話でシメるのか。。。でもでも、いつもよりかなり短くないですか? すごい!やったらできるんやん!“短く簡潔に”という言葉に憧れつつも毎回どうしても短く簡潔に終わらせることができず苦しんでいるので、これはかなり嬉しい…。 よしっ、冷や奴と冷酒で祝杯だ! |
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( 2002/5/26 ) |
胸の底に一度しまって一度忘れて、それがいつか自分の物語として甦ってきたとき、自分の言葉で描きなおすんです。