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警視庁草紙 (上・下)
山田風太郎
河出文庫

『警視庁草紙(上)』 表紙


 
時は明治6年、川路かわじ大警視率いるできたてホヤホヤの警視庁をおちょくる元南町奉行と同心、その仲間達がくりひろげるお話。これね、NHKの金曜時代劇「からくり事件帖」として、おとといまで放映されてました。最終回直後にこれをアップすることになるのが少々残念。  
           
  前々回も明治初期が舞台の本をとりあげていますが、最近の私的流行マイブームは明治時代なのだ。倒幕後いろんなことが一気に変わろうとするエネルギーと混沌に満ちており、結構むちゃくちゃなこともまかりとおっていたご時世らしい。いろいろとおもしろい事件も起きてます。何より一番むちゃくちゃするのが警察、と言えなくもなかったりして。
 
いつも人を食ったような言動で飄々としている隅の御隠居(最後の南町奉行・駒井相模守)と、文明開化が大嫌いで正義感にあふれる千羽兵四郎(元八丁堀同心で今は芸者のヒモ)が、そういう警察の理不尽にでくわすたびにいっちょ邪魔したろ、と大活躍。  
 
  普段はぐうたらしている兵四郎を「おまえさんはいつか何か大きなことをやる人だ」と見守る柳橋芸者の小蝶に、元岡っ引 の冷酒かん八(怒ると冷や酒をあおりながら客に剃刀をあてる髪結いの亭主)、老スリ・むささびの吉五郎など、脇をかためる面々も個性派揃いです。
 
敵役の警視庁側はといえば、大警視・川路利良に警部・加治木直武、そしていつも六尺棒を手離さない棒術の達人、巡査・油戸杖五郎などなど。ほかには、夏目漱石だの樋口一葉だの幸田露伴だの森鴎外だの、のちに有名になる文豪なんかもいっぱい出てきます。  
           
  しかーし浜陣のお気に入りは、誰がなんと言おうと千羽兵四郎さま。『明治牡丹燈籠』での登場シーンからして、くくく、渋いのよ。
 
「それァな」
 という、けだるそうな男の声がした。
「おれのあてずっぽうだがな、他殺でもあり、自殺でもあるようだな」
 かん八は立っていって、半分あいた障子のあいだから縁側をのぞいて、
「あ、これァ千羽の旦那。――」
 と、うれしそうな大声をあげた。
 
 
   秋の夕日のあたる縁側に、二十六、七の男が寝そべって、頬杖をついていた。顔の前に膳があり、酒がある。彼は横着に寝そべって、庭の菊と赤とんぼを眺めながら、黙々と手酌でやっていたらしい。横になっているので、障子に影もうつらず、今まで見えなかったのだ。
 
「旦那がここに来ていなさろうとは思いがけなかった。どうなすったんでござんす?」
「昼寝をさしてもらいに来たのさ」
 と、その男はいった。自堕落だが、苦みと翳(かげ)のある実にいい顔で、にやっとして、
「お蝶が夜ろくろく寝させてくれないんでね」
 
           
  ひゅう。この色男ったら。
いつも世の中をななめに見ているというか、変に落ち着いてて真面目なんだか不真面目なんだか。緊迫した場面でも妙に豪胆で、いったいその余裕はどこからくるのか。。
 
さてこの、兵四郎が寝そべってた縁側のあるおうち、じつは、、、  
 
   浅黒い、おだやかな長い顔をして、まるで町人か芸人の隠居のように見える。――この家のこの座敷に、小説家の岡本綺堂が訪れて、このあるじからいろいろと昔話を聞いたのは、さらにこれから二十ばかりたってからのことだが、もうこのころからこの人には、綺堂の受けた渋い印象がそなわっていた。ひょっとしたら二十年前にも、同じ老成した印象があったかも知れない。すなわち「半七捕物帳」の半七であった。この明治六年、五十一歳である。
 
きゃあ、半七捕物帳!大好き!冷酒かん八は、その半七親分が岡っ引時代の最後の手先だったのです。知り合いの噺家が巻き込まれた難事件を解決してもらうため、かつての上司を訪ねたというわけ。  
           
  「ま、聞いておくんなさい、こういうことだ」
 かん八は早口でしゃべり出した。
 三日前の夜、柳島で起った怪事件についてである。円朝の隣家の若い浪人の変死、その部屋に内部から貼ってあった血紙の封印、深夜来たかも知れない牡丹を描いた人力俥の女、など。―
 
調べに来た警察に疑われてこっぴどくしぼられた円朝、隙を見て逃げ出したはいいものの、このままでは無実の罪の疑いが晴れずどこへも顔を出せないと弱っているらしい。
そこへ偶然、同じ事件にかかわる二人の女が直接半七に助けを求めてやって来て、いあわせた兵四郎が「心得た、安心しろ」と勝手にひきうけてしまった。
 
 
  「旦那、ひどく鷹揚におひき受けなすったが……」
 二人の女がかん八とともに立ち去ったあと、半七は呆れたように兵四郎を見た。
「わたしゃ、俥(くるま)の一件がそうだとすると、これで円朝も助けることが出来なくなっちまったんで、絶体絶命、動きようがねえって気持でございますが……いってえ、どんな智慧があるんで?」
 
「何もないよ」
 平然としていう。
「じゃ、どうなさるんでございます?」
「左様さな、駒井相模守さまにご相談にゆこうと思う。あのかたは、元幕臣でいま新政府に仕えておる連中ともお親しい。そっちを通じて、上から何とか手を打っていただくよりほかはねえだろう」
 
           
  その事件には政治的・思想的な事情もからんでくるため、下手するとこっちに御用と来やしないか、この年でお縄頂戴なんてことになったら目も当てられない、と心配する半七に、兵四郎が言うことには。
 
「といって、新政府の頭かぶ連中はやっぱり虫が好かねえよ。われわれはしょせん、滅んだ江戸の人間だ。死人同様にたいくつしていたが、やっと浮世に面白いたねを見つけた。墓場の居眠りから這い出して、ひとつポリスどもをからかって、遊んでやろう」  
 
  御隠居の案ですべてを怪談噺にしたてあげ、司法省の大会議室で行われた立食パーティー席上で円朝本人がそれを披露して、警視庁の面々を煙にまくことにまんまと成功。
 
「……小官の見た俥の女は、あれは幽霊でありましたろうか?あれは亡霊のしわざでありましたろうか?警部どの。……」
 油戸杖五郎はいった。
「そんなはずはなか。そんなはずはなかが、しかし、あの血糊の紙は……どうしてもわからん。おいにはわからん。それがわからんけりゃ、円朝はつかまえられん!」
 と、加治木警部は白日夢を見るような顔でつぶやいた。外はすでに薄暮である。
 
           
   夕暮の日比谷の通りの向うで、そのとき脳天から出るような唄声が聞えた。
 「いやだ、おっかさん
  巡査の女房
  出来たその子は、雨ざらし」
 円朝の俥の消えたあと、まんまるいからだをしたチョン髷の男が、唄いながら踊っていた。
 
 加治木警部はわれに返り、えた。
「けしからん!官吏侮辱罪じゃ、油戸巡査、あやつを逮捕せえ!」
 歯がみして、六尺棒かかえて走り出す油戸巡査のゆくてに、その男は鞠のころがるように駈けて、駈けて、薄闇の中へ溶けていった。
 
 
  とまあ、こんな具合に警察をおちょくりつつ、短編をつないでお話は進行してゆきます。あちこちにコネや情報源がある隅の御隠居の指示のもと、剣の腕を駆使してすばしっこく立ち回る兵四郎たち。いいようにあしらわれている警官が滑稽で、ちょっと可哀相?
 
でもね、その親玉の川路大警視は端倪すべからざる怪人物。その無表情の下に何を隠しているのやら、不気味なお人なんです。警視庁おちょくり作戦で、実際行動に出るのは兵四郎やかん八だし、それを取り締まろうと奮闘するのは油戸杖五郎なんかの下っ端ですが、これは実は、隅の御隠居と川路大警視との対決だったりするんですね。  
           
  隅の御隠居について兵四郎がいだく印象。
 
 去年、その話をきいて千羽兵四郎は挨拶にやって来た。五、六年ぶりの再会であったが、最初は恐ろしく老いぼれられたと思い、静岡での御苦労を思って暗然としたほどであった。が、その相も変らぬ和気の中に、これまた相も変らぬ――一種ふしぎな力を感じたのである。  
 
  その力を、兵四郎にはうまく説明出来ない。洒落しゃらくなような、生ぐさいような、とぼけているような、意地悪いような――そう、これも二、三度逢って話を聞いたこともある勝海舟先生と一脈も二脈もかよう雰囲気だ。
 
相模守は隅老斎(ぐうろうさい)と名乗っていた。世のすみに老いた人、という意味であろう。しかし兵四郎は、あとでこれは愚弄斎(ぐろうさい)と変えたほうがいいと考えて笑った。そう名づけたいような肌合いがたしかにこの老人にはあったのだ。  
           
  その御隠居が川路大警視を評して。
 
「それが川路利良という参謀であったとあとで知った。川路はそうはいったが、その日、たしかに江戸町奉行所はここで滅んだ。――」
 そのまさに滅んだ址に坐って荒涼たる四辺を眺めやる隅の御隠居の眼には、さすがに名状しがたい哀愁の光がある。
「やがてその川路が、羅卒(らそつ)六千の総長となったことを知った。――」
 
 
  「あれは、こわい男じゃぞ。江戸に何十人何百人の町奉行がおったが知らぬが、まずあれほどのやつは一人もおらなんだであろうな」
「どこがこわいのです」
「あの男は、いつもものごとを二重、三重に考えておる。――」
「……?」
 
「われわれは、眼先のことにすぐ激し、または情に溺れ、それからあとはどうするか、ということは考えんじゃろう。瓦解のときの騒ぎを思い出せばわかる。――ところが川路は、いつも、そのあと、そのうらを考えておる。だから、平生、怒りもせず、泣きもせず――」
 兵四郎は、御隠居のいっていることもよくわからなかったが、それ以上に、なぜこの老人が川路のことをそれだけよく知っているかがわからなかった。
 
           
  御隠居の言葉、この時点では読み手にもまだぴんときませんが、読み進むうちに「むむ、これはちょっとただならない人だぞ」と。何の気なしに見過ごしていた川路大警視の科白や行動が後からじわじわ効いてきて、最後にはあっと言わされるのです。
 
「いのちも要らぬ、名も要らぬ、地位も金も要らぬという人間ほど始末に困るものはない、とは西郷先生のお教えじゃが、それこそ警視庁に職を奉ずる者の魂とするところ。――」
 大警視はあごをあげた。
「天皇お庭方じゃ。ゆけ」
 
 
  物語の冒頭で、薩摩へ帰る西郷隆盛を 「正之進も薩摩へおつれたもっし。先生あっての川路でごわす。……」 と涙を浮かべつつ見送ったその川路大警視が、物語の最後にやったことは。世の中にはコワイ人もいたもんだ。。
 
個性的な人物はたくさん出てきますが、欠かせないのが兵四郎と一緒に暮らす恋人、お蝶。兵四郎に心底惚れて、この人は何でもできると信じきってるとこがなんともかわいい。
零落した家の事情で遊女にならざるを得なかった友達が「隠し売女狩り」で牢に入れられてしまった、おまえさん、助けておくんなさい、と涙ながらに難題をつきつけたりもしますが。
 
           
   お蝶は、小蝶と名乗って、柳橋の芸者に出ていた。
 お蝶もまた御家人の娘であった。その友だちの転落を蔑むどころではない。まったく紙一重のちがいだ、と兵四郎も思う。
 もっとも、紙一重とはいうが、お蝶の場合にかぎって、なみの女とは天地のちがいはある。
 
 お蝶はいまだかつて置屋に身を置いたことがない。ある事情から知り合った柳橋のさる老芸者に、芸者としての手ほどきを受けたあとは、自前で、この兵四郎との愛の巣からかよっている。――今夜も、ほんの先刻出かけたばかりだ。
 まだ若いのに、そういう特例が許されたのも、この小蝶の何とも形容を絶するほどの美しさのゆえであった。
 
 
  小蝶は不敵にも政府の大官や役人の座敷に出るのを拒否し、どうしてもと請われた場合にはひと言も口をきかなくても許されるらしい。黙って坐っているだけでもこぼれ落ちる、小蝶のまぶしいほどの嬌艶さがそのわがままを通させるのです。
 
そのお蝶の頼みとあらば助けてやりたいのはやまやまだが、伝馬町の牢を破らせるなんていくらなんでも無理だ、と言う兵四郎に、  
           
  「おまえさん!」
 お蝶はさけんだ。
「あたし、おまえさんが好きだけじゃない。御一新以来ただごろごろしていても、ひとさまは何ていおうと、あたしゃおまえさんを買ってたんだ。何かやるひとだ、何かを待ってるひとだと、あたしも待ってたんだ」
 
 まったく、一言もない。兵四郎は実はお蝶のヒモ同然として暮して来た男なのである。もっとも当人に劣等感などまるっきりなく大威張りで、お蝶も恩着せがましいことなど露ほどももらしたことはなかったが、いまはじめてこうやりつけられると頭をかかえないわけにはゆかない。――  
 
  「そこへ去年の秋ごろから、やっとやる仕事をみつけた、ポリスをからかってやることだといい出して、あたしが待ってたのはそんなことじゃないけれど、まあ何もしないで茸みたいに生えてるだけよりゃまだましだとよろこんでいたのに――いま、そのときが来たっていうのに、そりゃ無理だ、そりゃ困るって何さ」
 
何さって言われても、やっぱりそりゃ無理だ、そりゃ困る、と往生していた兵四郎ですが、かん八や御隠居の力を借りてとんでもない作戦を決行し、なんとか女たちを牢から出すことに成功するのです。恋女房の力、おそるべし。  
           
  終盤ちかくで、御隠居と兵四郎がかかわるある企みのために東海道を馬車で移動する必要があり、お蝶と兵四郎はいわばこぶ付きハネムーンといった旅をすることになるのですが、そのときのお蝶のよろこびようがまたかわいい。
 
 彼女はただ「和宮(かずのみや)さまのお申しつけで、京に将軍さまの御木像を受け取りにゆくのだ」と聞かされているだけであった。
 それは大変な御用だわ、と、びっくり仰天はしたけれど、お蝶の胸をワクワクさせているのはそんなことではない。兵四郎といっしょに旅をする、そのことだ。
 
 
   その旅に、かん八はともかく、どこか人をからかうような眼をしている熊坂長庵という海坊主みたいな変な男がくっついていることが少し気にかかるけれど、それさえ兵四郎とならんでゆられているという歓喜と幸福の前には何でもない。
 
 御隠居さまは、蜜月旅行とか新婚旅行とかおっしゃったそうな。
 お蝶はそのつもりであった。彼女は夢みるような瞳をし、そのためにその姿はむしろ美しい幻じみた印象を与えた。
 しかし、いくら何でも隅の御隠居さまも、まさかそこまで考えて勧めたことでなかったろう。―この蜜月旅行こそ、お蝶にとって永遠に忘れられない最初にして最後の幻のような同伴の旅となろうとは。
 
           
  そうなの。終わりから数えてみっつめのこの『皇女の駅馬車』で、既に哀しい結末が待っている気配が。もうこのあたりから、お蝶が幸せそうにしていればしているほど、なんともせつない気分になってしまった。
 
 なにしろ兵四郎と生れてはじめての旅だ。彼女は最初から浮かれている。警視庁の巡査が追っかけて来ることも知らず、自分たちが何を運んでいるのかも知らず――たとえ知っていたとしても、お蝶の心に鳥の影ほどの翳(かげ)も落さなかったろう。彼女の心も身体も、ただ兵四郎だけに満ちてゆれていた。  
 
  幸せなお蝶。神のみぞ知る、甘美なる二人の最後の愛の旅。
 
持ち前の正義感と「官軍」への反感からいままでに色んな事件にかかわりあい、正体を隠して警視庁の邪魔をしたりからかったりを繰り返してきた兵四郎たちですが、敵さんがそうそういつまでも騙されてくれるわけもなく。目をつけられその包囲網がだんだんとせばまってき、とうとう罠に落ちる兵四郎。  
           
  絶体絶命かと思われたそのとき、お蝶の予想外の行動でいったんは救われるのですが。
 
「そりゃな、いまの政府も気にくわねえが、おれにとっては薩摩も怨敵だ。その二つが、とうとう共喰いをはじめやがった。――それこそ、お待ちかね、と、御隠居は笑うだろう。しかしね、高みの見物ってやつは、どうも虚しいねえ。そりゃ、生きてねえ、ということじゃあねえかなあ。共喰いをやるあいつらこそ、この世に生きてる連中のような気がするんだよ」  
 
  「まったくお笑いぐささ。下郎一匹、虫ケラ一匹にもあたらねえ。そりゃ、とっくに承知の上だよ。ただ、おれの気持だけなのさ。いま、高みの見物はからっぽだといったが、考えて見りゃ、徳川のかたきうちだといったって、そいつも虚しいことにゃちげえねえ。ただ、どうせ無駄なら、へ、へ、徳川の侍の意地にかけて薩摩退治にいのちをかけるんだ。そう……御隠居さまにいってくれ」
 
死甲斐を見つけ出したことは、おれの生甲斐を見つけ出したってことさ、と兵四郎は笑い、警視庁の抜刀隊に志願するのです。逃げる時に巡査を二人も斬ったからにはただでは済まないかもしれないが、どうせ殺すなら芋退治の方で死なせてくれと頼んでみる、と。  
           
  お蝶はあえぐだけであった。彼女は、兵四郎の言葉の理窟よりも、その顔にあふれている哀愁に心打たれて、声が出なくなったのであった。
 そういえば、このひとには、前からこんな哀しいところがあった。……いつも、つまらない顔をして、おっちょこちょいなことをしたり、いったりするけれど、どこか虚しいってところがあった。それがとうとう、噴き出しちまったんだ。
 
ラッパの音とともに出征兵士の行進が始まり、銀座煉瓦街にかけつけた御隠居やお蝶たちは、髷を落とし髪をザンギリにした巡査姿の兵四郎をみつけます。紺の制服で白い帯に大刀をぶちこんで、まっすぐに前をみつめ、歩調をあわせて歩いていました。  
 
   御隠居さまが悵然(ちょうぜん)とつぶやいた。
「川路め……わしについに勝ったことを宣言するために、兵四郎を助けたな。……」
「けれど、兵四郎さんは死にます、死ににゆきます!」
 お蝶は胸を抱いて身をもんだ。
 
薩南へ!薩南へ!靴音はとどろき、紺色の奔流はながれる。
川路大警視や加治木警部、油戸巡査、そして兵四郎を含めた男達の姿は、銀座煉瓦街を遠ざかってゆく――。
 
           
  おしまい。はあ〜……。
おもしろおかしい話だと思って読み始めたら、とんでもない、また泣いてしまった。
兵四郎はそれで本望かもしれないけど、、、まわりにしてみたらつらいよなあ。とくにお蝶が。
 
乾いたおかしみとともにほろ苦い憂愁がそこはかとなく漂い、さらに幾許かの残酷さも加わって。山田風太郎独特のとぼけた語り口調だからこそ、余計せつないんですよ。読後に残るのはなんともいえない気分。やるせないっていうのはこういうことなのか。。。  
 
  ドラマのエンディングでは、「なんでもいいから生き甲斐がほしいんだ、御隠居にはあわせる顔がないからお前からよろしく言っといてくれ!お前も新しい男をみつけろよ!」などと、勝手なことをお蝶に言い残して抜刀隊に志願する兵四郎。やはりNHK、「死甲斐」をみつけたんだ、とは言わせるわけにいかなかったのでしょうが、そりゃあ違うぞ、別人じゃないか。
 
徳川の敵を討つという侍の意地があるからこそ、今迄の行動とはあべこべな結論に至ったんだということはちゃんと伝えて欲しかったなぁ・・。あれでは、単なるおっちょこちょいで終わってしまう。だいたい、兵四郎の頭が初っ端からザンギリだったしなぁ、それじゃあ意味が無いじゃないの。などとぶつぶつ言いながらも録画したビデオは残しとこう、と思っている私。  
 
 
( 2001/11/25 )
 

田辺誠一扮する兵四郎さま。黒羽二重の着流しが渋い!

雪のあしたや、風の夜は、
つつ袖寒く、ポリス泣く、
ほんにやる瀬がないわいな。……

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