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赤外線男 (その2)
海野 十三

『 怪奇探偵小説傑作選5
海野十三集
 
-三人の双生児- 』
日下三蔵 編 / ちくま文庫
より

『怪奇探偵小説傑作選5 海野十三集 -三人の双生児-』 表紙(白黒)


 
前回、書ききれず溢れてしまったので、引き続き『赤外線男』について。えー、先に断っておきますが、ネタバレ全開なので、ご承知の上お読みいただきますようお願い申し上げます。  
           
  ある日突然、こんなことを発表した深山理学士。
「赤外線男というものが棲んでいる!」
 途方もない「赤外線男」の存在を云い出したのは、外
(ほか) ならぬ深山理学士だった。それは苦心の赤外線テレヴィジョン装置が組上がってから二日ほど後のことだった。
学界、吃驚仰天。帝都の諸新聞紙もこの発表をデカデカと報道。
 
「予は予(かね) て学界に予告して置いた赤外線テレヴィジョン装置の組立てを、此の程完成した。これは普通のテレヴィジョンと殆ど同じものだが、変っている点は、赤外線だけに感ずるテレヴィジョンで、可視光線は装置の入口の黒い吸収硝子(ガラス) で除いて、装置の中には入れない。だから徹頭徹尾、赤外線しか映らないテレヴィジョンである。  
 
  「予はこの装置の完成するや、永い間の欲望を何よりも早く達したいものと思い、装置を使って、研究所の運動場の方向(ほうめん) を覗くことにした。折から夕刻だった。肉眼では人の顔も仄暗くハッキリ見別けのつかぬような状態であったが、この赤外線テレヴィジョンに映るものは、殆ど白昼と変らない明るさであった。…(略)…勿論画面の調子から云って、吾人(ごじん) が既に充分に知っている赤外線写真と同じで、たとえば樹々の青い葉などは雪のように真白にうつって見えた。なんという驚くべき器械の魅力であるか。
 
「しかしこれは真の驚きではなかった。後になって予を発狂に近いまでに驚倒せしめるものがあろうとは、今日の今日まで考えたことがなかった。それは実に、吾人(ごじん) がいまだ肉眼で見たことのなかった不思議な生物が、この器械によって発見されたことである。…(略)…それほどアリアリと眺められる人の姿でありながら、一度元の肉眼にかえると、薩張(さっぱ)り見えない。赤外線でないと一向に姿の見えない男―というところから、予はこの生物に『赤外線男』なる名称をつけたいと思う。  
 
  やった!ついに赤外線男が登場!!赤外線を出す男じゃなくて、赤外線じゃないと見えない男、なのでした。ああでもやっぱり、いかにもインチキ臭いんですけど・・。
 
この「赤外線男」は流行語となり、彼奴がいつ自分の身近に現れるかと、帝都の市民は戦々恟々の日々。そのうちにも、あちこちで「赤外線男」の仕業と思われる事件が発生。  
 
  やれ郊外の住宅で、カップに入った飲みかけの紅茶が知らぬ間に飲み干されていただの、やれダンスホールで、ダンサーが眼に見えない人物にギュッと身体を抱きすくめられただの、そういう類の報告が山のように警察へ。しかしこの程度なら、迷惑ではあるけれど大して恐ろしくはないし、もしかすると赤外線男への疑心暗鬼から生れた事件であって、深山理学士の見た赤外線男というのも錯覚なのではないか、と噂する人も少なくありませんでした。
 
 だがしかし「赤外線男」否定説が大きな顔をしていられるのも、永い時間ではなかった。ここに突如として赤外線男の魔手は伸び、帝都全市民の面(おもて) は紙のように色を喪(うしな) って、「赤外線男」恐怖症に罹らなければならなくなった。―それは赤外線男発見者の深山理学士の研究室が不可解な襲撃をうけたことだった。  
 
  研究室の扉を破った賊に赤外線テレヴィジョン装置は滅茶滅茶に壊され、かの装置に関する記録などが一枚残らず引き裂かれている、という惨状。おまけに事務室の隠し金庫から現金千二百円が盗まれてしまった。当夜も研究室に泊り込んでいた筈の深山理学士はというと、猿轡をはめられ後ろ手に縛られ、室内にあった背の高い変圧器のてっぺんに抛り上げられていたそうな。
 
……私は吃驚して跳ね起きました。すると、あの赤外線テレヴィジョン装置がグラグラと独り手に揺れ始めました。オヤと思う間もなく、装置の蓋が呀(あ)ッという間もなく宙に舞い上り、ガタンと床の上に落ちました。…(略)…つづいてガチャンガチャンと大きなレンズが壊れて、頑丈なケースが、薪でも割るようにメリメリと引裂かれる。私は肝を潰しましたが、ひょっとすると、これはこの装置で見たことのある赤外線男ではないかしらと考えると、ゾーッとしました。見る可(べ) からざるものを視(み) た私への復讐なのではないかしらと思いました。……  
 
  などの深山理学士の詳細な証言に加え、巨大な足跡が発見されます。寸法から背丈を計算すると五尺七寸はありそうで、しかも踵の摩滅具合からすると血気盛んな青年であるらしい、と。体は眼に見えないくせに足跡は残るのか、と捜査課長に突っ込まれた検事は、
 
「しかし君」と検事も中々負けてはいなかった。「深山君の報告によると、赤外線男はこの運動場を人間のような恰好して歩いていたというぞ。してみれば、赤外線男とて、地球の重力をうけて歩いているので、空中を飛行しているわけではない。だから身体は見えなくても、大地に接するところには、赤外線男の足跡が残らにゃならんと思うよ」
「足跡が見えるなら、靴も見えたっていいでしょう。すくなくとも、靴の裏は見えたっていいわけです。そこには我々の眼に見える泥がついているのですからネ」
 
 
  しかし、専門知識もない自分達が議論していても前へ進まない、という点で意見が一致した捜査課長と検事は、助っ人を呼ぶことに。その名も帆村荘六(名探偵S・Hの名前をもじったらしい…解説で教わるまで私は全然気づかなかった)、近頃売り出し中の素人探偵で科学の方面にも明るいというふれこみ。彼は、海野十三作品では定番キャラの名探偵なのです。
 
苦心の作が壊され意気消沈していた深山理学士&助手白丘ダリアでしたが、その筋(警察のこと?)からの希望もあり、ダリアまで泊り込み昼夜兼行で新しい装置を組立てたそうな。
装置完成のその夕刻、帆村荘六を交えた係官の一行が研究室を訪れます。出迎えたのは頭に繃帯を巻き大きな黒眼鏡をかけた若い女、つまり変わり果てた姿の白丘ダリアでした。昨夜、ここで寝ている時に棚の上の硫酸の壜が破裂して頭を切ったのだ、と。
 
 
  「何しろ疲れていたもので、直(す) ぐ起きようと思っても起き上れないのです。先生は直ぐ駈けつけて下さいましたけれど、あたくしが、愚図愚図しているうちに、頭髪(かみ) についていた硫酸らしいものが眼の中へ流れこんだのです。直ぐ洗ったんですが、大変痛んで、左の眼は殆ど見えなくなり、右の眼も大変弱っています」
 ダリアは黒眼鏡を外して見たが、左眼はまるで茹でたように白くなり、そうでないところは真っ赤に充血していた。右の目はやや充血している位でまず無事な方であった。
イターイ。コワーイ。キャー。何落ち着いて説明してんのダリアちゃん。
 
「全く危いところでしたよ。連日の努力で、もう身体も頭脳(あたま) も疲れ切っているのです。神経ばかり、高ぶりましてネ」と理学士も側へよって来て述懐した。彼の眼の色も、そういえば尋常でないように見えた。
「もすこしで、どうかなるところでしたわ。そうだったら、今日は実験を御覧に入れられませんでしたでしょう」
 ダリアは独り言のように云った。
 一同は此の室
(へや) に何だか唯ならぬ妖気が漂っているような気がした。
 
うら若き女性の左眼が硫酸で灼かれたというのに、危ない所だった、とか、もう少しでどうにかなるところだった、とか、まるで事態を重く見てない2人がすんごい怖い・・・。
 
  ともかく気を取り直し、一同の目の前で、赤外線テレヴィジョン装置を動かしてみることになります。黒いカーテンで室内を真っ暗にして、交代でスクリーンを覗きながら映像に熱中していると、突然カーテンがまくられ全員目潰し状態。ダリアが、何者かが自分の身体に触った、と言い出した。赤外線男の出現か!と色めき立つ一同。が、ダリアは「大丈夫、帆村さんのお臀でしたわ、ホホホ」と朗らかにとりなしたため、また映写会に戻ります。
 
 カーテンはパタリと下りた。元の暗闇が帰って来たけれど、皆の網膜には白光が深く浸みこんでいて、闇黒がぼんやり薄明るく感じた。スクリーンの前では雁金検事が、しきりに眼をしばたたいていた。
 ウームというような低い呻り声が聞えたと思った。ドタリ……と、大きな林檎の箱を仆
(たお) したような音が、それに続いて起った。
 素破
(すわ) 、異変だ!
 
 
  部屋を明るくしてみると、なんと床の上に捜査課長が倒れています。土気色の顔で両眼を剥き出し、口を大きく開いて
「赤外線男!」
「ああ、あいつの仕業だ」
 いまにも自分の身体に、赤外線男の猿臂
(えんび) がムズと触れはしないかと思うと、恐ろしい戦慄が電気のように全身を走った。眼に見えない敵!そいつをどう防げばいいのだ。どうして其の魔手から遁(のが) れればいいのだ。
 
冷静な帆村探偵が捜査課長を抱き起こすと、頸の真後ろ、延髄のところに一本の銀鍼ぎんばりが突き刺さっていることがわかります。室内の人物をすべて調べてみても怪しい点は発見されず、さすがの帆村探偵もお手上げ。全国の新聞が賑わい、何処も彼処も赤外線男の噂でもちきり、警察の面目は丸潰れ。  
 
   然らば、誰が課長を殺したか?
 ああ、赤外線男!貴様はやっぱり存在するのか。貴様でなければ、あの殺人は出来ないことにはなるが、貴様は一体何者だッ。
うーん、苦悩する名探偵・・・カッコイイ・・・。
 
世間では、例の轢死婦人の事件も赤外線男の仕業ではないかという噂も立ちはじめます。  
死骸を奪ったのが赤外線男だとすると、それは何のためだ。外国の小説には、火星人が地球の人間を捕虜にし、その皮を剥いで自分がスッポリ被り、人間らしく仮装して吾れ等の社会に紛れこんでくるのがある(映画『MEN IN BLACK』にもそんなのがありましたっけ)。しかしあの婦人の顔面(かお) は滅茶滅茶だった筈だ。婦人に化けたとしても、あの顔をどうするのだ。顔をかくしている婦人なんて印度(インド) や土耳古(トルコ) なら知らぬこと、この日の本にありはしない。婦人の死骸の行方が判らない限りこの問題は解決がつかない。
やはりそこへ立ち戻ってくるしかないのですね。
 
  しかし、そうこうしているうちに第二の殺人が起きてしまいます。被害者はなんと、警視庁のお偉いさん。本庁の一室に赤外線テレヴィジョン装置をセットし、帆村探偵らを招いて実験する予定だった(しかしまあ懲りないねえ…)んですが、事前に映像を見たがった総監閣下が銀鍼の餌食に。装置取付の為に同室していた深山理学士と白丘ダリアを徹底的に洗いますが、何も出てこない。これまた、赤外線男の仕業だとしか結論できない状況。
 
続いて第三の殺人。男女2人が刺し殺されます。女は岡見桃枝という女給、そして男は―。  
 
  「深山理学士なんだッ。これで何もかも判らなくなってしまった」
 課長
(殺された課長の後任)は余程口惜しいものと見えて、帆村の前も構わず、子供のような泪をポロポロ滾した。
「そうですか」帆村も泪を誘われそうになった。「じゃ貴方も深山理学士は大丈夫といいながら、一面では大いに疑っていたんですネ」
「そりゃそうだ。今となって云っても仕方が無いが、ひょっとすると、赤外線男というものは、深山理学士の創作じゃないかと思っていた」
 
赤外線男を「見た」のは理学士ただ1人なので筋は通るのですが、当人が殺されたために、ますます事態が混迷してしまいました。大体、怪しい奴ほど真犯人じゃあないのよね。。
ともかく現場を見てみたい、と桃枝の家を目指す帆村探偵。途中でたまたま
(をいをい…)、女の死体がみつかった、と騒ぎになっている場面に行き当たります。
 
 
  「……開けてみると、押入の中にそれがありましてネ、もう肉も皮も崩れちゃって、まッ大変なんですって。着物を一枚着ているところから、女の、それも若いひとだってぇことが判ったって云いますよ」
「ナニ、若い女の屍体?」帆村はドキンと胸を打たれた。そうだ、今日は探しに行こうと思っていたあの女の屍体かも知れない。日数が経っているところから云っても、これは見逃せないぞ、と心の中で叫んだ。
 
名探偵っていうのは、丁度良いところに行き合わせる運命なのだ。その女の屍体がみつかったのは、潮十吉という、背丈が五尺七寸程もある青年の部屋。。ははーん。  
 
  「潮君」
「呀ッ」

 青年は帆村の手をヒラリと払って、とッとと逃げ出した。帆村はもう死にもの狂いで、このコンパスの長い韋駄天を追駈けた。そして横丁を曲ったところで追付いて、遂に組打ちが始まった。そのとき青年の懐中から、コロコロと平べったい丸缶のようなものが転げ出て、溝の方へ動いていった。
「ああ―それは……」
 
もうおわかりですね。これは、16ミリのフィルムなのでした。潮十吉(なーんか「海野十三」と似てるなあ…)は、墓場から婦人の死骸を掘り出して逃げたことは白状しますが、婦人の身元や自分との関係は明かそうとせず。そこで、そのフィルムの試写会を行うことになり、重態の黒河内子爵の代理として白丘ダリアが警視庁に呼ばれました。  
 
  試写会までまだ時間があるというので、帆村探偵は「面白いものがあるよ」とダリアを警察の射的場に誘います。矢場のように細長い部屋の奥の壁に、青や赤や黄色の円が描いてあり、そこを狙って拳銃を撃つ、というもの。しかし、ダリアは眼が悪いことを理由に拳銃を手に取ろうとしません。次に2人は食堂へ。
 
……そこでオレンジ・エードを注文して、麦藁(むぎわら) の管でチュウチュウ吸った。
「警視庁なんてところ、随分開けてんのネ」ダリアは、帆村をすっかり友達扱いにしていた。
「それはそうですよ。貴女みたいな方をお招きすることもありますのでネ」
「だけど、このオレンジ・エード、なんだか石鹸くさいのネ。あたし、よすッ」
 半分ばかり吸ったところで、ダリアは吸管を置いた。
 
 
  さて愈々、試写会が始まります。映してみればそれはある男女の密会現場なのでした。
 恐らく場面は、真夜中であったろう。真暗な室の中に、この場のことは演ぜられたのに違いない。それにも係らず、この室にどこからか赤外線を当て、それを赤外線の活動写真に撮影したのだった。そして人物は子爵夫人黒河内京子と青年潮十吉!
 さてこの呪うべき撮影者は、一体誰であるか。
 
それは、深山理学士。黒河内子爵夫人に恋をし、潮との不倫を嗅ぎつけた深山はひそかに赤外線映画を撮影、可憐なる子爵夫人を幾度となく脅迫していたというのです。一度は夫人がフィルムの一端を奪い焼いてしまったのですが、飽くまで夫人に固執する深山が「云うことをきかないならあの映画を公開する」と脅し、絶望した夫人は電車に飛び込んでしまった  
 
  「……夫人は身許のわかることを恐れて、いつもあのような服装を持って居られました。あれは最も平凡な、世間にザラにある持ちものを集められたのです。いわば月並の衣類なり所持品です。それがうまく功を奏して隅田氏の妹と間違えられたのです。顔面の諸(もろ) に砕けたのは、神も夫人の心根を哀み給いてのことでしょう。僕は復讐を誓いました。そして深山の室に闖入して、あのフィルムを奪回したのです。……」
 
義理とはいえ自分の伯母の死の理由が判明した、そんな大事な場面なのに、ダリアは突如として強烈な尿意におそわれるのです・・・。  
その激しさは、いまだ経験したことが無い位だった。彼女は慌てて試写室を出ると、薄暗い廊下に飛び出した。見ると、直ぐ間近に、赤い灯火が点っていて、それに「便所」という文字が読めた。
 彼女は、飛び立つ想いで、そこの扉を押した。扉があくと、そこには清潔な便器が並んでいる洋風厠だった。ダリアはその一つに飛びこんで、パタリと戸を寄せると、気持のよい程、充分に用を足した。
 
  ところが外へ出た途端、ダリアは帆村探偵以下14、5人の警官に囲まれて。
「……吾々の眼はもう誤魔化されんぞ。白丘ダリアが嫌いだったら、『赤外線男』として汝を捕縛する。それッ」
ちゅうことで、赤外線男というのはじつは赤外線女だった、というオチでした。
 
いろんな事情が絡まって一見複雑に見えたこの事件。小悪人深山理学士と、先天的異常者だった白丘ダリアが出会ってしまったのが、恐ろしい不幸の始まりでした。
最初は世間をあっと言わせ有名になりたくて作った『赤外線男』なのですが、それを利用したちょっとした悪事
(潮十吉のフィルム奪回におっかぶせて狂言強盗事件を演じ、金庫のお金を着服するとか)がだんだんに発展し、仲間割れもあったり(ダリアが硫酸をかぶったのは深山の計略が失敗したもの)で、事態は徐々に手に負えないものとなり。
 
 
  深山にとって計算外だったのが、片方失明したせいでダリアの残った右眼が異常に発達し、普通は見えないはずの赤外線に反応するようになったこと。もともと右眼が赤に敏感だったというのは、このための伏線だったんです。暗闇の中でも物がはっきり見える―片眼を失って得たこの能力に狂喜した彼女はとうとう、殺人淫楽者に墜ちてしまった。そして深山も彼女の毒牙にかかります。
 
ダリアの一眼失明を機に殺人事件が連続発生していることに気づいた帆村探偵、なんとか化けの皮を剥ごうと策を弄します。が、赤外線による標的を仕込んでおいた射的場では彼女が危険を察知し、失敗。しかしこのことで探偵はいよいよ確信を深めます。ついには、オレンジ・エードに一服盛った上、赤外線を照射した「便所」表記を利用し、ダリアを捕らえたというわけです。そこがトイレだということは、『赤外線男』でなければわからない筈ですからね。  
 
  ともかく。よくもまあ、こんな話を思いついたものですな。当時最新の科学的知識に裏付けられた荒唐無稽、とでも言えばよいのかしらん。妙なところで科学的に正確なことが詳しく書いてあるため、どこまで信じてよいものやら、判断がつかないままどんどんのめり込んでしまいました。読み終えて呆然。よくできてるのか、ご都合主義で押し捲られたのか…。
やーでも面白かった!海野十三、さすが「日本SFの父」である。
 
この本に載っている他の作品も、赤外線男に負けず劣らずスゴイです。特に、『振動魔』や『生きている腸(はらわた) 』の飛ばし具合ったら、もうたまらん。。アンタ一体、人間の体を何や思てんねーん!って感じです。そして『俘囚(ふしゅう) 』は京極夏彦『魍魎の匣』の世界。
空想過多な科学者の頭ん中にはこういう世界があるのかー……と呆気にとられた私でした。
 
 
  戦後、じゅうざさま御本人が自身の探偵小説について「小説の衣を着た通俗科学技術である」と述べられているそうな。科学的な物の考え方が日本人には必要だと痛感し、科学技術を普及させようと『空想科学探偵小説』を一生懸命書かれたそうです。
でも、通俗っちゅうところが・・・まあ・・・自覚してらしたのね。それを目指したというべきか。
 
参考までに、この本に同時収録されている作品のタイトルをここに。
『電気風呂の怪死事件』『階段』『恐しき通夜』『振動魔』『爬虫館事件』『点眼器殺人事件』『俘囚』『人間灰』『顔』『蝿』『不思議なる空間断層』『盲光線事件』『生きている腸
(はらわた)』『三人の双生児』
以上。
 
 
  タイトルのつけ方、やっぱり秀逸です。素敵すぎる・・・ハートをぎゅうと掴まれてしまった。
海野十三の通俗科学ワールドにどっぷり浸かりたくなってきた、というそこのあなた、見事に私のおともだちです。仲良くしませう。
 
( 2001/7/29 )
 

懐中時計と眼鏡(白黒)

彼は書斎のソファに身を埋めると細巻のハバナに火を点けて、ウットリと紫の煙をはいた。

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