無線操縦技術の歴史


 昔ラジコンを趣味としていた頃がありました。(もう25年ぐらい前になりますか。2001年現在。) その頃には現在とほぼ同じデジタルプロポーショナルシステムは完成していましたが(現在のAM方式)、古いラジコン技術を読む機会があり昔のラジコン無線機進化の知識を得ました。そこで残された記憶と手元の資料をフルに発揮して、ちょっと昔話をしようと思います。


 ラジコンと云う言葉が定着するのは1960年代の初め(1961年7月)ラジコン技術が創刊された頃でしょうか?手元に電波科学の1960年4月号、模型の無線操縦特集がありますが、ラジコンと云う言葉は増田屋のラジコンバスにしか出てきません。その頃には真空管式ながらリード式のマルチチャンネルシステムが存在しました。



科学の日本 昭和9年6月号 無電操縦兵器の驚異と云う記事があります。


 シングル順序式(左図)とマルチリード式(右図)の考え方がすでに示されています。

 無線操縦は戦前の軍用の開発から始まります。(1934年の科学の日本には1960年の電波科学の無線操縦の原理は全て記載されています。)
 模型の無線機の初期は送信機はA1でキャリアを断続を送信(CWですね。)、受信機は超再生で順序式のエスケープメント(現在のサーボモーターに相当。)を動かします。A1ではノイズに弱いので変調が掛かってA3(トーン式)になります。いずれにしても信号の断続でコントロールするので、例えば1回目の信号で右舵、2回目で左舵、3回目で直進、次の信号では右舵と順番に舵を切るようになっています。とても操縦出来そうに無いように思えますが、練習すればこれでも飛行機を飛ばせました。この方式は1つの舵しか操作できませんのでシングルと呼ばれました。基本的には送信機にはプッシュスイッチが1個付いているだけで、押すとキャリアに変調が掛かる(トーン信号が出る。)といった物でした。


(’70年4月ラジコン技術臨時増刊 初級ラジコン機製作集より)

 この方式も次第に進化します。私の知っている通常のシングルは、送信機のプッシュスイッチを押し続けると右舵、ちょんと短く押してから押し続けると左舵、離すと中立に戻ります。エンジンコントロールは短くちょん、ちょん、ちょんと3回プッシュスイッチを押すたびにハイ、スロー、中スローを順番に繰り返す方式でした。(エンジンコントロールは1回押すだけのタイプも有りました。)、またプッシュスイッチではやはり操作し難いので、レバーでこの信号を機械的または電気的に作る物もあり、KOコントロールBOXのように2つ以上の舵を操作するシステムも存在しましたが、1970年代初めに絶滅しました。
 
シングル方式はかなりしぶとく生き残りました。古いラジコン技術で調べたところでは、1975年に日之出電工より発売されたプラモデルをラジコン化するプラコンが最後の製品と思われます。中学生の頃、模型屋の店頭で見た記憶があります。(2001年8月14日)


 シングル方式はシステム上どうしても複数の操作することは困難でした。飛行機などを操縦するにはどうしても複数の舵を操作したくなります。そこでマルチ操作方式が開発されました。電波を変調するトーンを複数用意し、受信機にトーンデコーダを設けて複数のトーン信号を分離して各サーボを制御します。
 このトーンデコーダに機械式のリードリレーを用いたのがリード式です。リードリレーは電磁石の上に長さの異なる振動板が沢山付いていて(オルゴールの振動板みたいな物です。)、各振動板は特定の周波数に共振するのでその周波数のトーン信号を電磁石に入れるとそれに共振した振動板が大きく振動します。振動板大きく振動すると接点に接触するので接点から信号の断続を取り出せます。(軍用で世界初の無線操縦はこのタイプで、音叉を電磁石で振動させて変調周波数を分離しました。)
 後はこの信号でサーボモーターを動かします。リード式ではこの変調トーン数(リードリレーの振動板数)をチャンネル数としていました。飛行機ならばエンジン、エレベータ、ラダー、エルロンに各2チャンネル。エレベータトリム調整用に2チャンネルで、10チャンネルが最高級品でした。(最大12チャンネルまで存在しました。エレベータキックアップとかに使ったようです。)
 このリード式になって各舵を独立して操作できるようにはなったのですが、各舵は中立と最大舵しかありませんので、こまめにスイッチを操作して微妙な姿勢制御をします。この辺はシングル方式と同じですが、操作する舵が多い分難しく操縦出来るようになるのは大変でした。初心者が飛行機で離陸して飛行場を一周出来るようになるまで、何機も墜落させるのが当たり前だったらしいです。(子供の頃、模型屋のおやじに聞きました。)
 リード式は複数の操作ができますが、全てが同時に操作出来るわけではありません。変調周波数の範囲は電波の占有帯域で制約されますし、周波数の近い複数の変調波を分離するのも限界があります。そこで、飛行機では縦と横方向の2方向の操縦が同時に出来ればかなりの操作が出来ますので、縦方向のエンジンコントロール、エレベータ、エレべータトリムと、横方向のエルロン、ラダーを分けて、この2種類の各1操作のみは同時に操作できるようにしました。英語をそのままにシマルテイニアスと呼ばれていたようです。これならば、エルロンで傾けて、エレベータを引くといった旋回時に必要な同時操作が出来ます。送信機の変調回路も2系統で済みますので、コスト的にも現実的です。
 リード式はシングルより早く1960年代末には絶滅して、プロポーショナルシステムにその座を譲りました。
 トーンデコーダーにリードリレーを用いずフィルターで分離する方式もありました。初期のマルチチャンネルやドイツのグルンディッヒ バリオトーン、国産ではアルコンが3CHで出していました。しかしリードリレーのように分離が良くないので電波の占有帯域は広くなります。(リードリレーは機械的共振子ですからQが高い。) しかし、常時変調を掛けている訳ではないので、隣接バンドとの混信は問題なかったようです。



 どうしても比例制御(プロポーショナルシステム)が欲しいと思うのが当たり前で、試行錯誤が繰り返されました。1960年代初め頃(50年代末?)、スペースコントロールと称されるアナログ方式が開発され、スペースコントロール社はオービットに吸収されオービットから改良型が発売されました。日本でMKから発売されたオービットアナログプロポはこれです。
 アナログ方式の基本は変調周波数を送信機側で制御し、受信機のディスクリミネータでその制御量を直流電圧に戻します。サーボにこの直流電圧によって動作にフィードバックを掛ければ、送信機の操作量に比例したサーボ動作が得られます。変調周波数の数だけチャンネルが取れそうですが、リード式同様使用できる電波帯域には法律上の制約がありますので、この方法では2チャンネル程度しか操作出来ません。(ここでのチャンネル数は現在のデジタルプロポと同じ、操作する機能数です。)
 そこで飛行機に必要な4チャンネル操作を得るために、非常に手の込んだ回路になっています。(オービットのアナログ方式プロポーショナルシステムの回路は
こちら。)

 
最近までアナログ方式と一つにまとめていましたが、複数の方式が存在したことが分かりました、アナログ方式の定義を入力電圧で制御するサーボを持つとすると、送、受信機の回路方式には大きく分けて2種類あります。

 第一の方式はアナログの中のアナログと言うべき物で、送信機側では変調周波数をチャンネル分用意して、それを混合してキャリアを変調送信します。受信機側にはチャンネル数分ディスクリミネータがあって、変調トーンの分離しサーボ制御電圧を作ります。DEE BEE CL5のがこのタイプで、エレベーター、エルロン、ラダー、エレベーターの4チャンネルが完全に独立に比例制御できます。 最初見た物が、アマチュアバンドの53MHzを使う物だったので、電波の占有帯域が広いんだと思っていましたが、27MHzの物もあり変調周波数も同じでしたので、当時のバンドルールの帯域内に納まっているようです??。(私の所にあるものはすごいスプリアスを出していますが、隣接バンドで操縦不可能になるほど干渉するかは分かりません。FCCが見過ごしたのか?壊れているのか?)

 第二の方式はギャロッピングゴーストの改良版で、シチズンシップのギャロッピングゴーストの送信機を入手したので、「こんな方式のアナログプロポも考えられるな」と思って自作したんですが、驚いたことにそのシチズンシップから製品化されていました。違いは変調有無の切り換え周波数がGGより高いだけです。(GG用はLOWで5〜10Hz、HIで10〜20Hz、アナログプロポは20〜60Hz、変調周波数もアナログの方が高い筈です。)
 GG方式ですので、送信機は変調有無のDutyと周波数を制御します。受信機では変調有無を検出します。そのまま積分するとDuty50%(マーク、スペース長が同じ)をニュートラルとして、変調有無のDutyに合った電圧が得られます。周波数の方は検出信号のエッジでモノマルチを動かすと、モノマルチは一定のパルス幅を出力しますので、周波数変化がDuty変化となります。そのまま積分すると変調有無切り換え周波数に比例した電圧が得られます。これにより2チャンネル分の制御ができます。この2チャンネルをエレベーター、ラダー(エルロン)に当てるわけですが、もう1チャンネルエンジンコントロールが必要になります。GGでエンジンコントロールはフルマーク、フルスペース(変調無しと常時変調)でトリマブル動作させていますが、シチズンシップのアナログプロポも同じで、変調の有無を検出してエンジンコントロールサーボをトリマブル動作させています。従って、エンジンコントロールに入るとエレベータ、ラダーサーボが振り切れてしまいますので、エンジンコントロール中は強制的にサーボ制御電圧をニュートラルに固定します。しかし、現在のマイコンで常時パルスが正常の範囲内にあるかチェックするようにはいきませんので、検出は間に合わずエンジンコントロールする度にエレベーター、ラダーが一度振りきれます。ちゃんと独立して操作できるのは2チャンネルのみで、エンジンコントロール時には一瞬サーボが振りきれ、その他の舵は操作出来ないとんでもない製品ですか、ちゃんと売られていました。

 オービット(スペースコントロール)はこの2方式の中間的な方式です。最初はDEE BEE のCL5のようにフルデュープレックスで4チャンネルを狙っていたと思いますが、LCによるパッシブなディスクミネータでは2チャンネル分しか確保できず、やむおえずGG方式を組み合わせたと思われます。アナログ方式でチャンネル間クロストークを取り除くは至難の技で、スペースコントロールの修理には手を焼きました。CL5は’62〜’64年の製品と思いますが、オービットとはディスクリミネータの回路が全く異なっていて、4チャンネルを分離していますが、送信機、受信機共にコンデンサが沢山付けられるようになっており、1台毎に大変な調整を行ったようです。修理してみたのですが、調整にうんざりしてしまって完全にはチャンネル間クロストークを取り去れませんでした。(例えば、エレベータを動かすとエンジンコントロールサーボが揺らぐとか。)

 日本のOS AP−4、KO、マイコンからもアナログ4チャンネルが作られていますが、詳細は分かりません。本当に市場に出たのはAP−4ぐらいで、それも僅かだったのではと思います。
 もし回路方式をご存知の方、お持ちの方で譲って戴ける方は(無論、有料で!物によっては相当高価でも買います。)メールください。(2002年11月6日)



 デジタル方式はチャンネルの数だけのパルスの列が送信機から送信されます。このパルスのパルス幅は各スティックに付いているポテンショメータで変化します。受信機にはデコーダが入っていて各パルスをサーボモーターに振り分けます。サーボモーターはある規定のパルス幅の時中立になり、それよりパルス幅が狭くなるとパルス幅の減少分だけ右に回ります。パルス幅が広くなるとパルス幅の増加分左に回ります。これにより送信機のスティックの倒す角度に比例して舵の切る角度を制御出来ます。こうして現在の比例制御(プロポーショナルシステム)が完成しました。ラジコンの無線機をプロポと呼ぶ俗称は、このプロポーショナルシステムから始まりました。その後は、FMやPCM方式が出来て現在に至ります。

 このデジタル方式は現在まで続いている画期的なシステムなんですが、誰が、どこのメーカーが開発したのか?なぜ特許がないのか全く分かりません。ずっと調べているんですが、さっぱりです。’62〜’65年のアメリカは大混乱で無線機メーカーも無数にあって、雨後の竹の子ようにデジタルプロポが製品として出てきます。それなのに、アナログやリード式の新型も発売されたりむちゃくちゃです。BONNERなんかそれまでサーボしか作っていなかったのに、少なくとも’64年にはフェールセーフ付き8チャンネルデジタルプロポを売っています。無論その後も有名なリード式のサーボも売っています。

 個人的には最初誰かが、サーボの開発から始めたと思っています。デジタルシステムの従来システムとの決定的差はサーボにあります。手元にコントロールエアとシチズンシップの1チャンネルアナログプロポがありますが、変調周波数の変化をモノマルチと積分器でアナログ電圧に変換して、サーボをコントロールしています。ここまで来ればサーボホーンに付いているポテンショメータでモノマルチのパルス幅が変わるようにし、入力パルスとのパルス幅を比較して、モーターをパルス制御すれば良いと思いつく筈です。アナログサーボは電圧比較でモータ制御電圧を作っていますので、目標値に近づくと制御電圧が減ってモータの動きが悪くなります。そのため、初期のアナログサーボはオービットもDEE BEEも高価なミクロマックスのそれも出来るだけ最小起動電圧の小さいモーターを使っています。パルス駆動ならばモーターには高い電圧が加えられますので、制御の精度も各段に良くなります。
 パルス幅で制御するサーボが思い付けば、後は送信機でチャンネル数分のパルスを作ってその幅を制御出来るようにして、受信機に送信機から来たパルスをサーボに分配するデコーダを乗せればデジタルプロポが完成します。開発メーカーの候補としてF&Mがありますが、(ただラジコン技術の広告に書いてあっただけの情報ですが!) その送、受信機の回路は上記の考え方で教科書的回路の組み合わせで作ってあります。
 どなたかデジタルプロポを開発したメーカーや開発までの状況をご存知の方居られましたら教えて下さい。日本では無理かな?(2002年11月6日)



 あと忘れてならないのはパルスプロポーショナルシステムです。これはシングル方式から発展したと言えるでしょう。シングル方式で信号を送ると右舵、送らないとき左舵となるようにしておいて、高速で信号を断続します。信号の有る期間と無い期間が同じであれば、左右の舵を切っている時間が同じなため、直進します。信号のある期間を増やすと右舵となる時間が長くなるので、右に回ります。信号の無い期間を増やすと左舵となる時間が増えるので左に回ります。従って、信号期間を制御してやれば舵を見た目比例制御できます。ギャロッピングゴーストと呼ばれていました。
 比例制御へのトライとしてはアナログプロポーショナル方式よりずっと以前から行われていました。シングルの送、受信機があれば作れるので、モーターを使ったパルサーで’50年代から作られていました。現在のシステムの3チャンネル相当まであったのは確認しています。
 日本の製品ではスカイクイーンぐらいしかありません。日本でラジコンが盛んになった時にはアメリカではリード式からアナログ、デジタルプロポに移行が始まってましたから、GGは殆ど注目されなかったようです。(僅かに輸入はされていたらしいですが?)
 1970から80年代にはアメリカ ACE RCのダブルコイルアクチュエータを用いて電池を含めて80グラムのシステムがあって、小型のラジコン飛行機を作るのに欲しかったことを覚えています。(今ではなんてことありませんが!)ラジコン技術に自作する記事があって作った事がありますが、あまり軽量に作れなかったので動作を見ただけで終わりました。


 無線機メーカーもずいぶん減りました。今はエンジンしか作っていないOSは1960年代からずっと無線機を作っていました。アルコン、チミトロン、マイコン、三共、ヒノデ、マイクロ、デジコン、Logitec、三和は’70年代から、JRなんて最近の会社です。老舗はKO、双葉電子のみになりました。
(デジコンはモデルガンを作っているとのうわさがあります?Logitecは東京電子と云う名前だった筈ですが、無線機のキットを販売してました。商標は同じですがパソコン周辺機器を作っているLogitecと関係があるのかは不明です。)

以上、昔話でした。