展示室27   小 唄 「嘘 と 誠」







の作品も前出の大和楽「あやめ」同様、余程外見に恵まれていて、
女性と見紛う程のスタイルの持ち主で無い限り、男性舞踊家にはチト
辛い演目でしょう。僕もこの時は、骨太さを殺すのに大変な思いをし
ました。大体、小唄や端唄を本衣裳で踊る機会は滅多にないので、僕
にとっては貴重な経験だったと言えるでしょう。何故、たった数分の
曲をこんなに本格的な扮装で踊ったかと言うと、実はこの時地方を務
めて下さったのが、故・市丸師だったからなんです。故・藤間寿冨久
師(初代藤間金彌師)のお嬢様が、市丸師の江戸小歌の一番弟子・市
千師でいらっしゃるので(CDにも、沢山吹き込んでおられます)、
寿冨久師の一周忌の追悼公演の折に、市丸師が長崎に来て下さったの
です。そこで急遽、市丸師の唄で踊らせて頂く事になり、自分の演目
の他にモウ1つ、この作品を覚えなければならなくなりました。勿論
振りも新しく創る事になったのですが、富公衛師(二代目金彌師)が
アッという間に創ってしまわれたばかりか、僕も3回ほど習っただけ
で覚えてしまいました。何故あんなにスラスラと出来上がってしまっ
たのか、今でも不思議でなりません。本来なら、江戸の芸者の扮装を
すべきなのでしょうけど、富公衛師のお考えで、京風の芸妓の扮装で
演じる事になりました。こういう扮装で踊る演目は少ないので、僕と
しては理屈抜きで大歓迎でしたが、いざ踊るとなると身体の線が気に
なって、息を殺して踊ったものです。中央の小ゼリから上がって花道
を引っ込むまで、僅か5〜6分だった筈ですが、僕にとってはとても
記念すべき舞台になりました。市丸師はかなりのご高齢だったのです
が、相も変らぬ美声と美貌は、思わず踊っている事を忘れて、聞き惚
れてしまう位の素晴らしさでした!!             







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