展示室23   常磐津 「妹背山道行」






[橘姫]藤間金美喜 [求女]藤間喜州


の作品は、丸本歌舞伎「妹背山婦女庭訓」四段目の道行を、常磐津
に改めて舞踊化したものです。前後の粗筋を知らない方には、この場
の状況が掴み難いのですが、あまり理屈にこだわらずに、美男1人を
美女2人が取り合う、恋争いの踊りと割り切って、楽しんで観て頂け
ればと思います。この何とも羨ましい(?)男は、烏帽子折り求女と
いって、藤原鎌足の嫡男・淡海が身をやつした姿です。そして争って
いる2人は、蘇我入鹿の妹・橘姫と、杉酒屋の娘・お三輪です。この
お芝居は、「大化の改新」を扱ったもので、蘇我入鹿は国崩しの大悪
人という設定です。橘姫は、兄の命を狙う仇敵と知りながら、夜毎求
女のもとに通っています。一方のお三輪は、求女の正体など知る由も
なく、只々惚れ抜いているのです。現代の倫理観から言うと、一番け
しからんのは求女で、2人の女性を適当に手玉に取りながら、心は入
鹿討伐の計略で一杯なのですから、お客様に好意的に受け入れて頂け
るように演じるのは、本当に骨が折れます。おまけに動きも少なく、
2人の女性の間でじっと思い入ればかりしているのですから、手にお
えません。                         





藤間梅由喜     藤間喜州     藤間金美喜


際にはこのお芝居の時代には、身分の差というものは現代人の想像
を遥に越えていて、高貴な身分の男性が何人の女性にかしずかれよう
と、ごく当り前だった訳ですから、二股掛けたのがバレてオロオロし
ている現代の若者とは、全然心持ちが違うのですが・・・。2人の女
性が争うのも尤もだと、お客様が納得して下さるだけの存在感がなけ
ればならないので、只じっと座っていればいいというものでもありま
せんし・・・、こういう役は、これから益々演じ難くなっていくので
しょう。この時は、先輩方御2人にお付き合いで出演したのですが、
辛抱役の難しさを勉強する事が出来ました。
お浚い会ではカットされ
がちな踊り地の部分も、丁寧に踊らせて頂けたので、決して座りっぱ
なしという訳ではありませんでした。(笑)それにしても、赤・黒・
緑という衣裳の強烈なコントラストは、見事と言う外ありません。そ
れぞれの役柄・身分・現在の心境などを、実に的確に色彩で表現した
歌舞伎の美意識は、世界の何処に出しても引けを取らない、素晴らし
いものだと思います。                    





[求女]藤間喜州      [お三輪]藤間梅由喜




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