展示室18   長 唄 「官  女」






藤間弥栄松


れは、壇ノ浦の戦いに敗れた平家の落人の、官女を描いた作品で、
「八島官女」とも言います。都で宮中に仕えていた官女が、生活の為
に魚を売り歩くのですから、何とも皮肉で哀れです。はっきりそれと
は書かれてありませんが、春をひさいでいた事も充分窺がえます。つ
まり、最上級の身分から、いきなり最下層に転落した訳です。しか
し、出だしから明るい曲調で、チラシまではそういう悲惨さを訴える
ような部分がないだけに、逆にどのように役の心を捉えるかが、大き
なテーマだと言えるでしょう。官女としての品格を、最後まで持続し
ながらも、ひなびた感じも出さなければならず、やはり一筋縄ではい
かない作品だと思います。
                  






普通は海女の扮装で出るのですが、僕が教えて頂いたのは最初から最
後まで、完璧に官女の扮装で踊るようになっていて、とても珍しい演
出です。これを振り付けられた藤間勘寿朗師は、海女で出るやり方に
ずっと疑問を持っておられたそうですが、ある時古い役者絵に官女の
扮装のものを見つけられて、「これなら、納得がいく」ということで
新しく振り付けられたそうです。官女の姿のままで魚を売り歩いてこ
そ、成る程哀れさも増すというものです。しかし、最初からずっと緋
の長袴を着けて踊るのは、想像以上に大変なのも事実です。特に花道
では尚更ですし、チラシで薙刀を持っての所作ダテは、もっと大変で
す。チラシでは、衣裳がブッ返って「大物の浦」の知盛みたいな、白
地に血糊の着いた衣装になり、岩組みの上で薙刀を担ぎ、桧扇をかざ
して幕になります。                     







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