展示室17   清 元 「か さ ね」






(かさね)藤間富公衛師   (与右衛門)藤間喜州


この作品は、一言でいえば「怪談」です。写真をご覧になればお解り
の通り、美しい娘の顔半分が醜く変わっています。これは彼女の父親
の怨霊が乗り移った為で、その父親を殺した犯人こそ、彼女が恋い慕
う男なのです。この男は昔、彼女の母親と密通して夫を殺したばかり
か、知らぬとは言えその娘まで弄んで、妊娠したと知るや彼女まで殺
そうとするのですから、実に悪い奴なのですが、これが歌舞伎舞踊と
して上演される時は、とても魅力的な「色悪」という役柄になるので
すから、不思議です。前にご紹介した「小猿七之助」と共に、「悪の
美学」について考えてみたくなる作品です。          






そんな因果関係など露知らず、哀れな犠牲者となる娘の名前が「かさ
ね」で、「累」と書きます。「かさねとは、八重撫子の名なるべし」
という有名な俳句もある通り、一見可憐な撫子の花が、引き抜こうと
するとズルズルと長い根が付いて来るように、「因果応報」を象徴す
るような名前です。信じていた男に裏切られ、醜く変身した上に殺さ
れると知った時、彼女の魂は悪鬼と化して、逆に男に襲いかかるの
です。幕切れでは、かさねの怨念に翻弄される与右衛門の姿を、タッ
プリと描き出します。「実に恐ろしきは、女の執念」という訳です。
とはいえ、やっぱり悪いのは男ですネ!(笑)僕は子供の頃、この作
品が恐くて仕方がありませんでした。いざ自分が演じてみると、難し
いけどなかなか面白いので、また演じてみたいとは思うのですが、こ
の時の富公衛師のかさねがあまりにも恐ろしくて(?)素晴らしかっ
たので、次は自分がかさねをやってみたいなと思っています。  







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