トンデモの手口について

 
 


 擬似科学とエントロピーの法則

最近、エントロピーの法則にチョコっと触れたら、なにやら怪しげなメールをもらったので、「熱力学」と「エントロピーの法則」で検索したら、・・・出るわ出るわ、擬似科学やらそれを批判する側やらのオンパレード!!

思わず爆笑してしまいました。というのは、この擬似科学側が笑わしてくれます。「エントロピーの法則」そのものを否定するサイトというのは殆ど無いし、あっても単なる無知に基づく誤解に過ぎないのですが、大部分はエントロピーの法則を持ち出す事で「進化論」を否定しようとしているのです。

要するに、所謂アーメン系、それも科学の衣を纏って聖書を証明しようとする、極めて悪質な擬似科学団体が開いているサイトが実に多い。

悪質と敢えて言います。科学じゃないのに、科学のふりをする事で、良く知らない人を巻き込もう(だまそう)とするのですから、悪質としか言えません。

個人的に何を信じようが、私の知ったこっちゃありません。それが宗教であろうと無かろうと。勝手にやって下さい。

しかし、宗教団体が科学のふりをする事で正当な科学を否定するのであれば、明らかにこれは宗教ではありません。科学に対する挑戦です。擬似科学です。
無論、科学で宗教は否定できません。でも疑似科学は科学で否定できます。

自らの信仰が確かなら、科学的根拠なぞ不要でしょうに。その根拠のために、嘘の上に嘘を塗り固め無くても済みます。
これらの団体の聖書には嘘をついても良いと書いてあるのでしょうか?

日本語だけでもこんなにあるのだから、世界では、とんでもない数であろう・・・と思って英語サイトを調べると、‘The Flat Earth Soceiety' (直訳すれば「平面地球学会」) なんてモノスゴイものまで見つけてしまいました。さすがアメリカは広い。
(もっとも日本だって、「神々の指紋」がベストセラーになるぐらいですから、あんまり他国のことを言えたもんじゃありませんが。)

いや、私のHPでもあちこちで「トンデモ」を書いていながら、こんなに笑わしてくれる分野を知らなかったとは、不覚、不明を恥じ入る次第です。

先ず、本質的にこれらの特徴を調べると

1.論理が自己崩壊している。つまり自分で言ってることに整合性がなく、その場しのぎ。

2.既存の(否定しようとする)理論や法則を理解していないか、知っていながら敢えて曲解している。

3.信頼できる実験や観測でも、都合の悪い内容(証拠)は無視している。

4.先に結論があって、その為の論理を構築する(した気になる)。

5.批判は受けつけない。間違いに気付いても絶対にそれは認めない。

6.相手の論旨をすりかえる事で、何かを証明した気になる。

7.専門家や科学者個人の否定。逆に言えば自らの過大評価。自説に酔いしれている。

うーん、「と」の例題を見ているようだ!実に「擬似科学」の特徴を完全に網羅しているではないか(爆)。

断っておきますが、私は進化論を良く理解していません。だから、内容についてコメントは避けます。
知識ゼロでは無いかもしれないけど、一般常識の範疇を出ないし、厳密な証拠を示す事も出来ないからです。
擬似科学に対して擬似科学的な批判なんかしたくないのです。

私がここで言いたいのは、上記に示した擬似科学の本質です。貴方が、何かこの種の本やらサイトやらを見つけたら、これに適合していないかを考えて欲しいのです。
何故なら、正当な科学のやり方というのは、この例とは全く反対側にあるものです。

即ち、必要なら難解な理論を理解する事もいとわず、従来の説は少なくともこれを理解し、それを唱える人の意見には耳を傾け、論理的または実験的な帰結として結論があり、自説では上手く説明できない事があればその内容を示し、常に批判を受けつける。

これ、即ち科学する心。本来なら学校で最初に教えなければならない事だと思いませんか?
どっかの(元)総理大臣に「便所掃除をさせろ」なんてくだらない事を言わせる前に。

さらに、大体において、数学的な証明は少ないのがトンデモの常ではあります。
(数学的証明を伴うトンデモも、勿論ありますが、そういうのは間違いが簡単に見つかります。某G教授なんかがこの例です。窪×氏に至っては・・笑うしかない ^^;;)

全くそうした証明が書いてないのは、ほとんどの場合、理論的なことは理解していないからです。
理解していないことを、ノウハウ本の類を読んで鵜呑みにして “理解したような気になっている” だけです。


疑似科学論法の例題

幾つか例を挙げましょう。文章は私の創作ですから、こう書いてあるとは限りません。

今一度、誤解の無き様に繰り返しますが、これは進化論否定サイトの批判ではありません。
これから書くことも、擬似科学者の論法の例を私が創作しただけです。疑似科学がどういうやり方かを知って頂きたい、ということです。

最初の例題。

「エントロピーの法則で進化論は否定できないと進化論者は言うが、無機質ならともかく、生物のように複雑なものは、単にエネルギーだけでは不可能である。ましてや進化は証明できない。」

この文章には、ものすごい欺瞞があります。解りますか?

後半の文章、「生物のように・・・云々」 は、実はエントロピーとは何の関係も無いのです。
後半は推測ですが、断言する事でそれが真実であるかのような印象を読む側に与えるでしょう?
そして前半の文章から、あたかもエントロピーの法則が間接的には関係するかのような印象をも与え、科学的論拠があるかのように錯覚させます。
エントロピーの法則が進化を証明する、なんて誰も言ってないのです。「進化を否定できない」だけです。

これは論敵の主張を理解せずに(或いは意図的に曲解して)、論旨のすり替えを行った例です。
こうした手口は、あらゆるジャンルの擬似科学本で目にするものです。
誰も言ってないことを否定しておいて何か証明したように見せるやり方は、なかなか巧妙でしょう?
 

別の例。

「科学者はアインシュタインを信じているので、これらの相対論を否定する証拠には目をつむってしまう。」
或いは、「生物学者はダーウィンを信じているので、これらの進化論を否定する証拠には目をつむってしまう。」
名前の所を書き換えれば、何でも出来ます。

これはありがちな嘘ですね。自分の理論が認められないが故の腹いせでしょう。
中には、対象となる全ての科学者を、露骨に‘馬鹿、阿呆’呼ばわりしている例すらあります。
物理学系の掲示板なんかでも見ることもあります。要するに、自分の主張が通らないと駄々をこねる子供と同じです。

相手を個人的に否定することで自分が優位に立とうとする例です。しかも、こういう言い方をすると、支持する人が多いようです。

私にもその気持ちは分からないでもありません。雲の上の人物を自分の目線にしたい、って事でしょう。
けどね、相手を貶めるよりは、自分がその人物の目線まで上がっていく・・・少なくとも努力する・・・方が遥かにエキサイティングだと思うんですけどね。きっと人間的にも尊敬されますよ。

そもそも、アインシュタインの間違いだっていくつもありました。もしも「アインシュタインを信じている」というのが真実なら、なぜアインシュタインの間違いが指摘されうるのか?

当のアインシュタインにしても、19世紀には絶対的に正しいと思われていた、ニュートンを否定したんですよ。
なんで20世紀初頭の科学者が、当時、未だ市井のアマチュア研究家であったアインシュタインを「信じる」理由がありますか?

詳しくは特殊相対論のページを読んで欲しいのですが、これ以外にも特殊相対論に懐疑的な疑似科学論法は沢山あります。
はっきり言って、どれもこれも実にシンプルというか、ちゃんと相対論を理解していれば、こんなアホな事、誰が書くんじゃい!って感じです。

何でこんなに沢山あるのかと云えば、特殊相対論は数学的には簡単だからです。しかし、意外にその真意というか物理的なイメージを持つことが難しいが故に、自分なりの解釈でアホなことを考え出すのです。

特殊相対論の証拠は多すぎます。馬鹿みたいに沢山あります。合いすぎるぐらい実験結果に適合してます。
どうせやるなら、これらの圧倒的な証拠群全てを、よりシンプルに説明できるだけの論拠が必要です。

進化論にしても然りなんだと思いますよ。要するに、肯定する証拠は山ほどあって、それを否定できるだけの有力な証拠は一つもないって事なのでしょう。
でなければ、なんでキリスト教が未だ絶対的な権威を持っていた時代に、あんな事言えますか?
 

注:時々、科学とは何かを理解していない人もいるようなので、書いておきますが、反論不可能なものは科学ではありません。(宗教は反論不可能です。「聖書にこう書いてある、以上。」ってわけ。^^;;)
明確な証拠でもって反論できるかどうかは重要な点です。仮に、光速度が一定でないことを実験で示すことが出来たなら、相対論は崩壊します。
もしも、進化の過程と完全に無縁な生物(虫人間とか^^;)を見つければ、進化論は否定できます。


と言うわけで、別の疑似相対論の例題。

「特殊相対論の誤りを指摘するには、私のような門外漢が考えなければならなかったのである」

こういうのも良く出てきます。上のような書き方をすれば、なんかかっこよく聞こえます。

でも上の例を、別の言い方をすれば、
「物理学に関する論文発表はおろか、専門教育を受けたことすら無い。物理学に関しては、ずぶの素人であるから、私には相対論など全く理解できない。そこで自分の理解できる理論を考えた」
と言う意味なのです。だから、上述の相対論の証拠群に適合していないなんて事は、気にもしていないのです。

加うるに、こういう事を書く人というのは、実は物理学なんか全く知らないのですから、特殊相対論は勿論のこと、電磁気学はおろか、ニュートン力学だって理解してるかどうか、かなりあやしいものです。


トンデモに騙されない為には

悲しいかな、私のようにマトモに正面切って、特殊相対論とかフーリエ変換とか説明しても、読んで下さる人は、そう多くないようです。

ある疑似科学(と言うより超能力系)サイトのカウンターを見たら、70万とかになってました。本人曰く「メールは沢山来るので、あまり返事は書けない」との事。私とはエライ違いです。

どうしてなんでしょうか?瞬間移動やら空中浮揚が本当に出来ると思ってるんでしょうか?
常識的に、そんなことが出来るワケがないと分からないんでしょうか?
それとも、ちゃんと常識があって、「ガハハ、こんな事書いてやがるぜ!」って笑ってるだけなんでしょうか?

同じ事が全ての疑似科学に当てはまります。要するに、先ず常識です。

定説が定説になったのは、それなりに十分な理由が「必ず」あります。
相対論が定説になったのは、アインシュタイン信仰のせいでも無ければ、科学者が馬鹿なせいでもありません。
当たり前じゃないですか、そんなことは。
たくさんの科学者の地道な努力で実験的に立証されて来たからこそ、定説になったのです。

「一般相対論は実験不可能ではないか」 といった論調で否定する疑似科学本の例もありますが、何も実験室での実験だけが証拠ではありません。
ある科学的推測を行い、予言値(推測値)と測定値が一致すればそれも証拠足り得ます。水星の近日点移動がその証拠の一つです。
実験的ではなくても実証的です。自然科学は実証学問です。

知識だけではだめです。常識が先です。私は「工学博士」(科学的な知識は十分ある筈)の書いたトンデモ本を3冊持っています。
先の進化論否定に関係した本を「元××大学 工学部講師」が書いたのも目にしました。(まだ読んでませんけど)

そして、科学する心。知ろう、学ぼうとする努力。
「NASA は UFO を隠している」 だの 「金星には基地がある」 だの言う前に、何故、金星には生物が住めないと定説でなされたのか知りたいと思う事が先です。

そして、いつか現代の科学者の最先端知識を理解してやろうと思えば、トンデモよりずっとスリリングだ、とは思いませんか?

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