相対性理論と実用性

 

特殊相対性理論が擬似科学者達の餌食となっているのは前述した通りです。
しかしまた、必ずしも特殊相対性理論が絶対的に正しい、とも言い切れません。

それを確認する証拠は多数ありますし、否定する証拠も未だ見付かっていませんが、例えばニュートン力学もまたそうであったのです。
殆どのケースにおいて、ニュートン力学は十分に検証されており、19世紀の科学者達は、これで殆ど世の中の全ての現象を科学的に検証しうると思い込んでいたのです。

しかしながら、特殊相対性理論の発表に伴い、光と比較した相対速度が無視できない領域では、ニュートン力学が崩壊する事を知ったのです。

これと同様に、相対性理論もまた、ある特殊な条件下では崩壊する事もありえます。
v/c→0 の極限として特殊相対論がニュートン力学を含むように、極限として特殊相対論を含んだ形での新たな理論が生まれる事も十分にありえるでしょう。

但し、この事と、擬似科学者がしばしば唱える、特殊相対論誤り説は、全く別の次元の話です。
これは声を大にして言います。はっきり両者は区別して下さい。

例えば、擬似科学者が相対論の反証として指摘する論文に、ディッケ/ブランスの論文があります。
これは、一般相対論に対抗して出された物ですが、その極限として特殊相対論を含んでいます。一般相対論が特殊相対論を含むのと同様に。

ですから、これが正しくて特殊相対論が誤りである可能性は無いのです。
さらに言うなら、極端な話、仮にアインシュタインの原論文の誤りを見つけたとしても、特殊相対論自体は揺るがないでしょうね。

その仮定である光速度一定の実験は勿論のこと、特殊相対論も実験的検証も理論的な検証、発展もいろいろな人によってなされてきているのですから。
事実、現在の相対論の記述はアインシュタインの示したそれとは表現が異なります。

この事を物理学者は良く知っているから、今頃 「特殊相対論の誤りを見つけた」 と言って騒ぎ立てる人達の本なんか、まともに相手にはしないのです。

擬似科学者連中には残念でしょうが、特殊相対性理論が根本的に覆される可能性は、検証された証拠から言っても、限りなくゼロに近いと言えるでしょう。

もう一つ、相対論の反証として疑似科学本に出てくるものにアスペの実験論文があります。これは上の例とは少し意味が違いますが、やはり相対論の反証とはなり得ません。
(そもそも、この論文はEPR論文といわれるアインシュタインの量子論に対する考えに基づいています。詳しくはありませんがここに少しだけ。)

相対性理論を既に実用の域としているものには下記の例があげられます。

1.
既にカーナビは多くの車に搭載されていますが、これがどんな原理で動作しているのかご存知でしょうか?
GPS人工衛星から来る電波をキャッチしている・・・だけでは十分ではありません。

位置を明確に知るためには、いわゆる三角測量に拠る必要があります。そして、その為には少なくとも三つ以上の衛星からの電波を受信する必要があります。

ここで注意すべきは人工衛星は移動しており、車と衛星の距離は受信した電波と送られてきた時間とから計算するしかない、という点です。
GPS衛星の時計は原子時計なので狂いませんが、カーナビ自体の時計は水晶発振子なので、がんばっても50〜100ppmぐらいです。その補正が必要であるため、もう一つ別の衛星電波を受信する必要があります。つまり都合四つが必要です。

つまり、人工衛星は時計を積んでいる必要があり、各衛星の時計は同期していなければなりません。
その同期された時計でナビ自体の時計を修正するのです。

当然ながら、高々度かつ高速度で移動する衛星の時計は相対論的な補正を必要とします。
そして、事実そうしてあるのです。

また、言うまでもありませんがGPS衛星とナビの速度差が相当ありますし、地球は自転しています。だからこれは光速度一定でなければ話になりません。(GPS衛星は移動衛星で、地球上には24機あります。公転周期0.5恒日。)

第一、先ほど述べたように移動しているものからの距離の測量に電波を使うため、光速度(電波も同じ)が一定でなければ、距離なんか測れるわけがありません。

つまり、今更マイケルソン/モーリーの実験を持ち出す必要など無く、間違いなく光速度(電磁波)は一定なのです。

異なる慣性系、異なる時空での相対論的な時間の変化は、もはや科学者の考える理論だけの話ではなく、実践的な技術として応用されている一例です。

(実を言えば、人工衛星は地球から受け取る重力も小さいので、一般相対論も使われています。だから、人工衛星の時計は一般相対論の進み分と特殊相対論の遅れ分とで、差し引きされてトータルでは進みます。)

実は私の以前いた会社ではカーナビを作っており、隣に座ってたマニアックなおじさんがやってました。

2.
シンクロトロン
これは、我々の実生活との係わりが深い訳ではありませんが、実用されている物であるには違いありません。
シンクロトロンは陽子などを加速するための装置です。

これは、陽子を76GeV(ギガ・エレクトロン・ボルト:ギガは109)とかにまで加速しますから、当然ながらニュートン力学では合わなくなります。
いや、「合わなくなる」なんてモンじゃありません。質量は80倍ぐらいになります。
これは当然、相対論で計算するしかありません。

これが間違いなく動作するのは、特殊相対論での計算結果が、実際の結果と矛盾しないと言う事です。それも、極めて正確に、です。
実際の加速器への磁場はマイクロ波(超高周波)を用い、その周波数を加速する粒子の速度に同期(シンクロ)して変化させますから、これが間違いなくシンクロすると言うことは、その周波数の半波長以下の精度で正しい、ということです。

(因みに、この加速器の高周波発振にはマグネトロンという真空管が使われています。そのパルサー電源にはクライストロンという真空管を使います。やった、ここで趣味がつながった!^^;)

シンクロトロンは円形ですから、これは内部で高速移動する粒子に対して向心力が働いています。
だからこれは加速度運動であり、特殊相対論では記述できないなどと書いた擬似科学本があります。

これは明らかな誤解、というか、加速度運動である事は正しいのですが、特殊相対論でそれが記述できないというのは誤っています。

特殊相対論が極限としてニュートン力学を含むのは前述のとおりですから、特殊相対論が加速度運動を記述できないというなら、ニュートン力学だってできない事になってしまいます。そんなアホな事は無いでしょう?

3.
現代の物理学では、「場の量子論」というものが発展してきています。(元はと言えば、かの有名なディラックです。)
これは、量子論と特殊相対論が合体してきてできた物です。

無論、実験事実をも含めてうまく説明できる事から主流となった訳で、そうおいそれとは否定できるものではありません。

ところで、QED:量子電磁気学を肯定して特殊相対論を否定する例を見たことがあります。
ところが、そのQEDは、そもそも相対論的な量子力学であり、これも場の量子論の流れです。
いったい、何を考えているんでしょうねぇ?(^^;/

相対論的量子論を肯定して、相対論を否定するのはギャグとしか思えません(w

さらに、知っておいて欲しいのは、現在隆盛を極める半導体工学が拠って立つ理論は量子論であるという事です。
まだ実用化までいってませんが、近年では「量子ディバイス」と呼ばれる超超 LSI のアイデアもあります。
特殊相対論を認めずには LSI も作りづらくなってきている、今日この頃。

4.
もはや明らかだと思いますが、一部の科学者が数式をいじっている話じゃなくて、既に世界中の技術者が相対論(特に特殊相対論ですが)を絶対的な基準にしています。
そして、特に電波系(「電波ゆんゆん」じゃねぇゾ、工学の電波 (^^;;/)では、それ無しでは巧く行かない所まで来ています。

実は私も最近知ったのですが、その一番決定的な例を最後にあげます。これは電波系ばかりじゃなく、機械系も関係します。

子供の頃読んだ本には、パリに「メートル原器」があって、これが長さの基準だ、と書いてありました。
今の基準は、『1[m] は、光が真空中で1/299792458[s] の間に進む距離である(1983年)』と定義されています。
(理科年表/国立天文台編 による。)

つまり、相対論の前提である「光速度一定の原理」は、今やあらゆる長さの基準です。

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2001/12nd/Mar.
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