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超三極管接続の考え方と設計指針
〜トランジスタ世代のために〜











上條氏によって開発された「超三極管接続」とは、三極管を電圧帰還素子として用いることにより、電力増幅段が五極管(乃至はトランジスタなどの電流性出力素子)でも、その帰還に用いた三極管の特性を再現させることで三極管の音質を得ると共に、深いPG帰還によって三極管のような低いプレート内部抵抗を得ることを目的とした回路です。
(上條氏のサイトはリンクページをご参照下さい。)

上条氏の開発した回路にはVer1からVer5(VXと言うのもある)までありますが、基本となるVer1について説明します。
Ver1 の基本的な考えかたが理解できれば、他は理解できます。
私の超三結MXだって、見た目の複雑さほど面倒な回路では無いのです。
 

しかしながら、トランジスタしか知らない世代にとっては、この理解は容易なことでは無いでしょう。
理解を困難にしている最大の問題点は、半導体の世代にとってはそもそも電圧性素子である三極管が解りづらい上に、超三結ではその使い方が非常に特殊というか、特徴的であることでしょう。

そこでトランジスタ世代のための超三結解説をやりたいと思います。

これが基本的な回路構成です。等価回路も同時に示しますが、恐らくは、トランジスタに慣れた世代にとっては、この三極管の電圧帰還が「何の事やらさっぱり」だと思います。

出力の五極管(Tetrode)の動作は、ディプレッションモードのFETと同様に考えて間違いありませんので、詳細は割愛します。
要するに、電流性の出力管だと解れば、それでOKです。



@ 考え方

先ずは、傍熱型の「三極管」というものがどのような動作をするものなのかを理解する必要があります。
これは、トランジスタという電流増幅素子に慣れた世代にとって見るなら、「電圧でモノを考える」という厄介を背負い込むことになります。

数式はあまり使わずに、大部分が定性的な説明ですから、嫌がらずに読んで下さいね。

カソードの中にはヒーターが入っていて、これが明るく輝いています。このヒーターによって、カソードが熱せられます。名前の通り、ヒーターはカソードをヒートする道具です。

ヒーターによって熱せられたカソードからは、「熱電子」と呼ばれる電子が飛び出してきます。
物理学的に言えば、これは熱と光のエネルギーによって自由電子が運動エネルギーを得る、と簡単に考えて下さい。
(厳密に物理作用を理解するには、Maxwell 方程式と量子力学の勉強が必要です。やりたい人はどうぞ。)

だから、カソードから飛び出す電子の量を増やす為には、言い換えると電流を多く流すためには、ヒーターに大電力を食わせる必要が出て来る訳です。

で、電子はマイナスの電荷を持つのですから、その熱電子を引き付けるためには、プラスの電位があればそこに向かって熱電子が飛びついて来る訳で、これがプレートの役目です。

つまり、簡単に言えばプレートからカソードに電流が流れるのです。
この電流をコントロールするのがグリッドです。グリッドにはカソードから見て負の電位を与えます。
高い正の電位を持つプレートに飛びつこうとする熱電子を、負の電位で邪魔する事でコントロールするのです。

だから、基本的にはグリッド〜カソード間の電圧を変える事で、プレート〜カソードに流れる電流が制御できる訳ですが、当然ながらプレートの電位が高ければ、そこに向かって電子を引き付ける力は強くなります。

結論として、プレート〜カソード間電圧(Vpk)、グリッド〜カソード間電圧(Vgk)のどちらも電流を変化させます。
ですから、プレート〜カソードの電流(Ip)と電圧の間には比例定数があるのです。これがrpです。
Vgkとプレート〜カソードの電流と電圧の間にも比例関係がありますね。これがgmです。
ここの所を先ず十分に理解して下さい。

今、プレート側に電圧を与えている訳ですが、このプレート側の電圧源に高い抵抗値がある、としましょう。
この時プレートに発生する電圧とVgkとの間にも比例定数があります。これがμです。

言い換えると、内部抵抗rpに電流Ipが流れる事で、その電流Ipに比例した電圧がrpに対して発生する訳です。

別の言い方をするなら、rpが十分に小さければ、VgkでVpkを制御する電圧出力制御素子である、と言うことです。
その比例定数、つまり出力電圧と入力電圧の比例定数がμである、という見方も出来ます。

従って、三極管のカソード接地回路において、もしも定電流源をプレートに接続すれば、出力インピーダンスはrpで増幅率はμです。
これが半導体と三極管の最も大きな特性の違いです。

式に書いてまとめると
rpにIpが流れることで、電圧Vpkが発生するのですから、Ip・rp=Vpk
μはVgkとVpkの比例定数ですから、Vpk=μ・Vgk
gmはIpとVgkの比例定数ですから、Vgk・gm=Ip
だから、増幅率μ=rp・gm です。


ここで、三極管の静特性、Ip-Vpk特性(プレート特性)を見てみましょう。
(このグラフはモデル化したもので、こんなに理想的な三極管は、実際には存在しませんので注意して下さい。)


 
 
 
 

図の斜めの線が沢山あるのは、Vgkによる違いを表しています。横軸がVpk、縦軸がプレート電流Ipです。
図からも理解できると思いますが、基本的にはVgkでVpkが制御されているのですが、どれ一つが変化しても他のパラメータに影響を与えます。その関係を一義的に表したのがこの図です。

VpkとIpの関係を示す比例定数がrpですから、これはこの斜め線の傾きを示していると言えます。
先ほどの三定数の式で言うならば、μ=rp・gmですから、rp=μ/gmですよね。
つまり、この図は既に説明した三つの比例定数を図式的に表現しただけです。

これに対して、負荷直線(Load line)というものを与えます。これは、一般的には負荷抵抗の意味で理解されている事と思いますが、必ずしも、いつもそうであるとは言えません。

超三結では、カソード側が電流性(インピーダンスが∞)ですから、電流値はカソード側で一義的に決定されます。だから負荷抵抗値で変化する訳では無いのです。
 

電流源であると云うことと、信号源インピーダンスが無限大であることは等価です。

定電流とは、電圧に依らず一定の電流を流す事です。
どんなに高電圧でもどんなに低電圧でも、一定の電流を流す事ですから、言い替えれば抵抗と分圧回路を作ったときに負荷抵抗が高かれ低かれ、負荷抵抗の値だけで抵抗両端の電圧値が決まる事になります。

これは内部インピーダンスが極端に高いことに他なりません。もし内部インピーダンスが低ければ、その内部抵抗との間で分圧が生じるから、かかっている電圧によって違いが生じ、抵抗の値だけでは分圧値が決まらないことになりますから。
従って、電圧値に依らずに一定の電流が流れる回路は、内部インピーダンスが無限大と見なせるのです。

電流性の信号源というのは、この定電流源が信号で制御されている(=信号に従って電流が変化している)状態です。グリッドに信号を入れたカソード接地の五極管のプレートがこれに相当します。


ここで、超三極管接続の帰還管のロードラインとその動作について考えて見る事としましょう。
帰還管というのは、最初の図1で示した、出力管のプレート〜グリッド間につないだ三極管で、これが出力管に負帰還を掛けているので、こう呼んでいます。何がどう負帰還なのかはおいおい説明します。

先に示した三極管に於いて、今仮にVpk=100Vの時に電流が2mA流れて、その時のVgkが-4Vだった、としましょう。
これが赤丸の点です。基本的にはグリッドに電流は流れませんから、Ip=Ikです。
従って、図1の等価回路のIk=I_source は このグラフで言えばIpです。

間違いなく、電流が0mAの時にはどんな抵抗値でもVgk=0Vです。だから原点を通ります。
Vgk=Ip・Rk ですから、この時のRkは2kΩです。

仮にプレートの電位がそのままで、電流値が2.5mAに増えれば、電流値に比例したVgkが発生します。
Vgk=2k×2.5mAですから、-5Vです。これが青丸の点です。
 

図から、Ipが2.5mAで、Vgkが-5Vの時にはVpkは120Vでないと困る事になりますが、帰還管のプレート電位が決まっていれば、これは帰還管のカソードの電位が変わるしかありません。帰還管のカソード電位(対アース電位)は定電流源と五極管のグリッドがつながっていますから、電位は不定です。その電位の変化で帰還管のVpkは120Vになろうとする訳です。

結果として、終段五極管のグリッド入力電位が変化します。終段の電流値は、基本的にVgkだけで決まります。
結局、終段の五極管で見てVp=120Vの電圧が発生するように、終段の五極管の電流を変えようととする訳です。

ここでもう一度図1を見て下さい。
即ち、超三極管接続ではその帰還電圧に見合った電流が終段に流れようとするのです。何故なら、終段の五極管はグリッド電位が決まっておらず、フローティングになっていますね。入力が電圧ではなく電流になっているからです。
だから、帰還電圧が決まった時に初めてグリッド電位が決定するのです。

これを、「100%の電圧帰還」と言います。
何故100%なのかというと、等価回路の方を見て貰うと解ると思いますが、入力側がインピーダンス無限大で、帰還側がある一定のインピーダンス−三極管のrp−だからです。言ってみれば、利得の大きなOPアンプだってこうなります。

結局、この赤丸の点と青丸の点を結んで出来る直線の上で動作する事になります。これが帰還管のロードラインです。

ここで、帰還三極管のプレート電流Ip=入力電流I_SOURCEであることに注意して下さい。
既にお気づきの事と思いますが、このロードラインは入力電流と、出力電圧の関係を示しています。
つまり、入力電流の変化に対して、アンプ全体の出力電圧はこのロードラインの上を移動する事になるのです。

負荷によらずにある「出力電圧」を発生すると言っても、まさか負帰還で超伝導が出来る訳ではありませんから、当然、ある内部抵抗を持ちます。
内部抵抗はその出力管の特性で決まります。既に説明したように、100%電圧帰還である、と言う事は出力管のgmで決まる帰還率に内部抵抗が依存する事を示しています。
負荷抵抗値をRLとしたとき、出力に発生する電圧はgm・RLですから、RL/(gm・RL)=1/gmが内部抵抗です。

gmが高いほど、終段のオープンゲインは増えますね。
増幅率はμで一定ですから、gmが高ければその分NFB量は増える事になり、当然出力インピーダンスは減るわけです。

これらから、図1に示した回路全体を一つの増幅器として見た時の特性が判ります。

先に説明したように、内部抵抗とはVpkとIpの比例定数です。だから、図式的には1/gmの傾きを持つ直線で近似できます。
その時の増幅率は上に示した帰還管のロードラインに乗っていなければなりません。従って、概略μで決定する事になります。
これに、実際の負荷抵抗RLのロードラインを引いたのが下図です。

斜めの線は、Vgkではなく、入力電流(I_source=Ik)を変えた時の関係になっている点に注意して下さい。
これが超三極管接続での静特性です。

勿論、RLの決定は、元の五極管の静特性の肩の特性と、流せる電流値、最大プレート損失から決めたバイアス電流値等を勘案して決定しますから、このプロセス自体は通常の接続方法と何ら変わる事はありません。

この決定の仕方は、電流性出力素子なら何でも同じようなものです。
負帰還は魔法ではありませんから、当然といえば当然ですが、元の五極管の特性が変化した訳ではないのです。負帰還によって、こういう特性になるように、グリッド電圧が制御されているだけです。
終段のプレート〜グリッド間の電圧が三極管のμで決定するから、終段のグリッド電圧は上図になるように勝手にきまると言うことです。

後は、この入力電流I_sourceを得る手続きですが、半導体の解る人ならこれは簡単でしょう。
例えばエミッタ接地のエミッタ抵抗を最大入力電圧と必要な出力電流に見合った値にすれば、コレクタには入力電圧に比例した電流が流れる事になりますよね。簡単には、これでOKです。



A 設計指針

設計するためには、まず電源トランスで決まる電源電圧がありますね。
実際問題として、都合の良いトランスを売ってるとは限らないわけでして、近いトランスで間にあわせるしか無いと思うんです。

だから、使用する五極管なりビーム管なりの特性にあった電源トランスを決めます。
ここで、電源のDC電圧、つまりプレート電圧がまず決まると思います。

次に出力の五極管の最大損失から、プレート特性にロードラインを引いて、動作点を決めてやれば、カソードの電位が決まります。すると必然的に出力管のカソード抵抗値が決まります。
また、そのバイアス電流値に於けるグリッド電位も決まりますね。

そこで、プレート〜グリッド間の電位差が決まりました。これを元に帰還管の動作点を決めます。この電圧になるような直線を通り、かつ直線性の良さそうな、つまりμがなるべく一定なるような傾きを探すのです。
こうすれば、帰還管の動作電流とRkが決まります。

これを元にして、初段を決めます。初段のバイアス電流は上の動作点で決まりますから、後は入力電圧〜電流変換利得です。

仮に初段にトランジスタを使うものとします。決まっていないのはエミッタ抵抗Reだけですね。
簡単に考えれば、トランスのインピーダンスをRT、スピーカーを8Ωとするとき、√(RT/8)が巻線比ですから、トランスで失われる電圧利得は 1/√(8/RT)です。(トランスで電力は失われませんから、電流が増えます。)

だから、(帰還管のμ)×(Rk/Re)/{√(8/RT)} が最終的な電圧利得になります。だから、例えば入力1Vrmsで最大出力とするなら、この電圧利得が最大出力電圧になる様にすれば良いわけです。
(実際にはトランスの損失もありますから、この式の0.9倍とかになるでしょう。)

決め手は、(私の考えとしては)終段のプレート電圧の方から決めていく、次に帰還管の動作を決定する、と言うこと。
初段から決めることは出来ないのではないか、と思っています。

私の設計した例(6BM8シングル)では、この設計法とは少し違っています。帰還管のロードラインが原点を通っていません。
これは、2A3-PPでも同じです。一寸ずらして線形性を求める、というテクニックです。
さほど難しい回路ではありませんから、じっくり考えれば理解できるものと思います。

誰かに解るのであれば、誰でも解る!先ずはそう信じてみて下さい(^^;/。
自分で考える前に「解らないものである」と信じてしまう人の、なんと多いことか!

「ここが解らんぞ!」と言う方、メールを下さい。

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※実際の多極出力管の多くは、プレート損失よりもSG損失が問題になる事が多いので、良く規格を読んでから設計して下さい。
 

Last update 2001/2/10