双子のパラドックス

双子のパラドックスとは、地球からロケットで出発した双子の兄と、地球に残った弟はどちらが年をとるか?
という話です。ロケットが止まっていて地球が動いていると考えても一緒だから、変じゃないか、と言うわけです。

でも、これは変じゃないんです。何故なら地球ではずっと同じ慣性系にいますが、ロケットは慣性系ではなく、地球という慣性系から別の慣性系に移動するからです。

これを説明するための思考実験を考えてみましょう。

地球からロケットに向けて、一日一回だけ電波を送信するとします。
計算を簡単にする為、旅行先は片道2光年で、速度は
   
v = (3/2)c

でロケットが動くものとしましょう。
時間の遅れは2倍、長さは1/2に短縮されます。

地球から見て片道所要時間は2.31年ですよね。宇宙飛行士から見て1.16年です。
従って、帰ってきたときには兄の宇宙飛行士は2.31歳、弟よりも若くなっています。
これが矛盾しないことを証明します。

これには、先ずは光のドップラー効果を知る必要があります。ここに書いておきます。

ドップラー効果の式から、1/3.73になるので、往路は365*1.16=423日つまり423/3.73=113回放送を受信します。
帰路は423*3.73=1578回受信します。

往路は423日で113回回しか受信しないのに帰りには423日で1578回受信するわけですから、どうやったって宇宙飛行士の方が若くないと困るわけです。

下図-1に示すように、明らかにロケットが受信する回数は往路と帰路で異なります。
双子の絵 図-1

帰り道にはずっと進んでいく相手の時計が見える・・或いは「感じる」と言うべきか・・となります。
だから、1578+113=1691で、地球の電波をちゃんと往復で4.62年分受信しているんですが、ロケットの中ではその半分しか時間が経過しないのです。
帰り道には相手の時計がすごいスピードで進んでいくように「見える/感じる」のです。

これは、「そう見える/感じる」のであって、「そうなる」のではありません。慣性系に居るときの、つまりロケットエンジンを停止して一定速度で巡航している間だけでみれば、当然お互いの時計が遅れるのですから、光速度で「見える」時間がそのまま通用する訳じゃありません。

どういうことかというと、もしもロケットに‘超人ロック’が乗り込んでいて、得意のESPを使って、時間ゼロで相手(地球)の情報を受け取ったらどうなるか?

もし超人ロックが嫌いなら、バビルU世でもOK・・・いや、だめだ。バビルU世は地球にいなきゃまずいな。やっぱしバベルの塔がなきゃ。
よし。ここは双子の兄が超人ロックで弟がバビルU世としましょう。

ロケットエンジンを停止して、方向転換もなく、一定速度で巡航している間だけでみれば、ESPを使って時間経過ゼロで相手の時計を見る事が出来るのなら、確かに時計はお互いに遅れて見えることになります。

しかしこの例では、方向転換の時間設定がゼロになっているので、その瞬間に相手の時計がいきなり3.46年間進む事になるのです。きっと、3.46年分の情報を一瞬で受け取った超人ロックは、気が狂ってしまうでしょう。そうなると宇宙の平和は乱れるに違いありません。

勿論、実際には勿論時間ゼロでの方向転換は不可能だし、時間ゼロでの情報の授受も不可能です。
それ自体が相対性理論に違反するからです。決して超人ロックが宇宙の平和を守るためではありません。

だから、実際に可能な情報の授受を考えると、光速度であり、瞬間的な時間の変化ではなく、旅の間ずっと続くわけです。

また、既にお判りのことと思いますが、この場合、全体を通してみるならローレンツ変換で説明した「お互いの時計が遅れる」はありません
あの式を慣性系にいるバビルU世が使うのは正しいのですが、ロケットに乗った超人ロックが使うのは間違っているからです。

どういうことかと言うと、時間ゼロでの加速/方向転換/減速、という変則的(物理的にはあり得ない)設定であっても、その部分を含めて考慮するなら、ローレンツ変換式をそのまま当てはめるわけにはいかないのです。

だから、地球に帰ってきた超人ロックの方が2.31歳若くなっていることに、何の矛盾もないのです。


さらに、双子のパラドックス :超人ロックとバビルU世

上の説明では納得できない人のために、一瞬で3.46年の時が過ぎることを、もう少し具体的に考えましょう。

いま、地球と目的地の中間地点で、ロケットから電波を発射するものとします。
相対性原理の仮定から、ロケットが止まっていて、地球が遠ざかり目的地が近づいてくるものとも考えられますから、当然、近づいてくる目的地の方が先に電波を受信します。

従って、目的地の時計は地球の時計よりも先に動き出します。

目的地と地球の時計の時刻差は

で求められます。
lo は2光年ですから、計算すると3.46光年になります。

つまり、ロケットから見ると目的地の時計は3.46年先に動き出します。
地球の時計が動き出す瞬間、ロケットは出発するわけですからロケットの時計の1/2の早さで進む目的地の時計はこの時、3.46/2=1.73年先を示しています。
だから、超人ロックがESPで観測すれば目的地は1.73年だけ時計が進んでいるのです。

ロケットは目的地に行くのに、相対論的距離の短縮のおかげで1光年の距離を旅しますから、1.16年かかります。
でも、目的地の時計で計れば、その時計はロケットの時計の1/2の速さで進むので、0.58年なのです。

目的地の時計が地球よりも1.73年先に進んでいるので、到着時刻は1.73+0.58=2.31年で、時計あわせまでちゃんと考慮すれば、地球の観測者(バビルU世のESP)に一致するのです。

これは、帰り道にも当然同じ事が起きるわけで、今度は地球の時計に合わせる事になるのです。
今度は超人ロック(宇宙飛行士)から (ESPで) 見た地球の時計が1.73+1.73=3.46年進むわけです。
宇宙飛行士から見た地球時間が瞬間的に変化することで遅れが改変されるのです。
ここが一瞬にして、と言うことです。

当然、ゆっくりUターンすれば、少しずつ急激に(?なんちゅう表現だ)地球時間が変化します。
どっちにしても、ESPを使えば急激なのはマチガイありません。
私の見るところ、これが様々なパラドックスやら誤解やらを生む原因なのです。

お互いに相手の時計が遅れる、なんて言うと、変なパラドックスを考えては悦に入ってる連中が出てくるのは、ここのところの勘違いをするからです。

既に説明したように、慣性系に入ったときだけを取り出して考えるなら、つまり、ロケットエンジンを止めて超人ロックが乗ったロケットが慣性飛行をしている間だけを考えれば、お互いの時計は確かに遅れます。でも、その時だけを抜き出して直接的に計測する方法はお互いにありません

そもそもが、ローレンツ変換の時間遅れは、超人ロックが居ない限り(即ちESPを駆使して時間経過ゼロで相手の時計を見ない限りは)、実際に相手の時計を見て測られるものではない、と言うことです。

最初の例のように、実際にラジオなんかで考えれば、つまり現実に測定可能な方法で考えれば、そんなに異常な話じゃないのです。
そうすれば超人ロックも正気を保てるので、宇宙の平和も守られるでしょう!


そのうえさらに、双子のパラドックス    :ESPを持たない凡人が、互いの時計の遅れを理解するには・・・

双子のパラドックスにはいろんな解法があります。ここでは、最初にドップラー効果による解法を示しています。
ところで、光のドップラー効果の証明には、当たり前ですけど、ローレンツ変換による固有時間の式が使われています。

つまり、双子のパラドックスを考える時に、誰もが最初に不思議に思うであろう事、即ち
「ロケットが慣性系になっている時だけを考えるなら、お互いの時計が遅れる」
をドップラー効果の式もまた含んでいます。

つまるところ、この式が意味しているのは、慣性系を光速度によって観測したらどうなるのか?という問題です。

固有時間の問題は、既に述べたように基本的にはESPでも無い限り 「直接的には」 観測できる訳じゃありません。
光より速い伝達は出来ないので、ドップラー効果は光の伝達時間の制限があるために、絶対的な時間変化を測定できないからです。
例えば、近づいて来る慣性系に関して言えば、お互いに遅れるどころか お互いに速まるように観測されます。

けれど、慣性系である相手の相対速度が解っているなら、計算により算出が可能です。
ドップラー効果で問題になるのは、慣性系の移動に伴って、その分だけ光の到達時間が変化する事です。
その為に、縦の効果だけ考えても、光の速度に加えて、vT/c だけ時間が変わってしまうから、それを考慮に入れる必要がある、という事です。

横方向だけであれば、到達時間による時差(注:時差は遅れではありません)を別にすれば、固有時間だけの問題になりますが、基準系の観測者と慣性系の丁度直角になる一瞬なので、一般には観測が難しくなります。

そこで、ドップラー効果の方が先に解っていると考えたらどうでしょうか。
これは、縦方向に関しては比較的検出が簡単です。OFDM変調という先端技術を用いれば、割と簡単に超高周波での正確な周波数ずれが測定できるので、先に実験結果として縦のドップラー効果(4)式が成立すると考えてみましょう。

お互いの距離の変化による到達時間差を考慮に入れて計算すれば、当然ながら(1)式の固有時間が得られる筈です。
つまり、お互いの時計が遅れる事を直接見る事は出来なくても、見た結果から計算によって確認する事は可能である、という事です。

このサイトでは、相対論の最初に固有時間の導出を行いました。そしてそれを元にローレンツ短縮やドップラー効果等の相対論的な効果についてお話しました。

この事からもお気づきの事と思いますが、特殊相対論で論じられる現象の全てはつながっていて、あれは認めるけれどこれは認めない、みたいなわがままは言えないのです。一つ認めるなら全て認める必要が生じます。

ドップラー効果に関しては、比較的簡単に実測可能であり、ディジタルラジオの所で述べたように、衛星では実用的な問題を含んでいます。
光のドップラー効果を認めない人ってのはあんまり居ないのですが、固有時間による遅れは理解できない方も稀ではないようです。

もうお解りでしょうけど、これは実は根本的には同じ事を言ってるのです。周波数のずれとして観測されるか、時間のずれとして観測されるか、という違いだけなのです。周波数というのは、ある波に対して、その周期Tを考える時に、f=1/T であることは高校の物理でも習います。つまり、時間のディメンジョン(次元)の逆です。
従って、(4)式で表される周波数のずれを認めるなら、慣性系の時間が変わったと考えるのは当然の事なのです。

とはいえ、仮に固有時間を認めない場合にも、周波数自体はずれます。但しその値が異なります。
それは光速度が一定であるから、遠ざかる事により到達時間が変わるためです。

注:光の媒質が存在しないことを認め、光速度一定を認めた上で、尚かつ固有時間の変化は認めないと言う頑固な人が、もし仮に居らっしゃれば、という話です。これは、物理学的には「リッツの原理」を仮に正しいとする場合です。(尚、二重星の観測結果から、リッツの原理は否定されています。)

もしも貴方が、媒質が存在することを信じ、光速度が変化すると信じ、ニュートン力学の範疇でしか考えない人なら、この先は読まなくても結構です。ガリレイ不変になる可能性があるのは波長λです。この場合は全く異なった式になりますから、問題になりません。
高校生レベルの実験でも解るくらいのズレが生じてしまいますから、話になりません。

固有時間を認めない場合、単純に ν=ν0/(1+v/c) になるはず(遠ざかることによるずれ)ですが、ジャンボジェット機でも時速1000km/hぐらいなので、(4)式との違いは小さく、かなり特殊な装置を使わないと、計測が容易で無いのは確かです。
(4)式と、ジャンボが遠ざかる事だけによる差は、元の周波数が1.5GHzの時に1.39kHzか1.3899kHzかといった違いです。

ロケットであれば実際に測定するのはもっと容易です。H-3とかの現在のロケットでもです。
天文学的なスケールなら、クェーサー3C-9みたいに周波数が1/3にもなると、計算される速度差は光速度の80%か2倍か、というほどの違いです。もしも光より速く遠ざかる物の発する光が見えるなら、の話ですが。

尚、実際にロケットを飛ばして実験するとしたなら、上述の特殊相対論効果の遅れの他に、重力の変化分(ロケットにはかからない1Gの力)による時計の進みがありますから、その差し引きになります。これは一般相対性理論の効果によります。
静止衛星によるディジタルTV放送がもうすぐ日本で始まりますが、この一般相対論の効果で、衛星が出す周波数よりも受信周波数は高くなる筈です。

この説明でドップラー効果の(4)式の意味するところが、少しでも感じ取っていただけたなら、HP作者としてはこれ以上の喜びはありません。
御精読を感謝します。

Back to Doppler shift

Back to relativity

Home