光のドップラー効果





実は、これを書くとすごい誤解を生みそうだし、何より疑似科学者に絶好の獲物を用意しそうな気がして(^^;)、あんまり気が進まなかったのですが、「書かなければ話がワカランよ」、と諭されたのでやっぱり書くことにします。

ドップラー効果というと、フツーの人が先ず思い浮かべるであろうのが、パトカーとか救急車などが遠ざかるときに音が低くなる、あれでしょうね。音のドップラー効果です。
しかし、音と光のドップラー効果は根本的に違うところがあります。それは媒質の有無です。

音は、勿論空気の振動(波動)ですから、媒質に対する動きでもってその性質が決まります。
媒質に対して100km/hで走っているパトカーの音を聴いている あなたと、止まっているパトカーから100km/h逃げている 車の中のあなたが聞く音は、明らかに相対的に同じではありません。
(この例では免許証も相対的に違います。後者ならあなたは免許を失います。^^;)

光の場合はどちらでも同じ事です。媒質がない以上は、発光源が近づこうが 観測者が近づこうが、両者は相対的です。


1.音のドップラー効果

先ず、音の場合を式で表します。
V を音速、Vs を音源の移動速度、Vo を観測者の移動速度とする時、観測者の観測する周波数 fo と元の周波数 fs との関係は、次式(a)で表されます。

このままだと、計算するには都合が良いけど、どこをどう見ても、物理的な意味はさっぱり分からない。
ところが、(a)式を(b)の様に変形すると、意味が見えて来ます。

λ = v/fですから、この式が意味しているのは、波長λが不変である、という事です。

言ってみれば、(b)式は波長不変とした時の音源から観測者への座標変換(ガリレイ変換による)そのものです。だからこの式はガリレイ不変…というより、波長を一定とすればガリレイ不変である事を仮定して、音のドップラー効果を証明できる、って事です。

ところが、光はこうはいかない。明らかにV-VoもV-Vsも一定値です。
つまり、不変なのは波長ではなく光速度cです。当然ですが、(b)式がローレンツ不変にならないのは言うまでもありません。

変な人が変な考えを起こさないように言っておきますが、勿論、光のドップラー効果は実験によって確認された事項です。それも、大変正確に、です。

(音のドップラー効果の最初の実験は1845年、光のそれはおよそ百年後。何故百年も待ったのかと言えば、技術的に出来なかったから。事ほど左様に、技術と科学は車の両輪。科学の進歩は新たな技術を生み、それによって進んだ技術はまた新たな科学を生み出す。どちらがズッコケても、世界は進歩していかないのです。)
 


2.光のドップラー効果

光の周波数がどうなるかをそのまま考えるのは、直感的に分かりづらいので、下の図のように、一定間隔 Toのパルス(光の点滅)で考えてみましょう。
 

こうやっても、点滅周波数 1/To がドップラー効果でシフトする量は光の周波数ν0 のシフト量と同じです。フーリエ変換で証明出来ます。
そこで、ここではToを光の振動数の周期に一致するものとの仮定をします。
式で書くと ν0 =1/To  です。
(尚、理由は良く知りませんが、電気や音響では周波数を f で表し、物理では光をνで表すことが多いので本HPでもこれに従います。)
 
 

2−1.横方向
横方向のドップラー効果は、特殊相対論の最初に導いたローレンツ変換による固有時間の式(1)から、直接導くことが出来ます。


上の図のように、観測点 A の人に対して、光源Bが垂直に移動している場合を考えてみましょう。
このToは、勿論、移動する光源の固有時間です。明らかに、A と B の相対速度差は v ですね。

従って、観測者 A からみた固有時間を T とすると、(1)式から

最初に述べたように、ν0 =1/To とすれば、観測者が受ける周波数はν=1/T であり、
・・・(3)
となります。つまり周波数は低くなります。横方向は音の場合(媒質がある場合)には現れない現象で、特殊相対論の証拠の一つです。
(勿論、実験で確認されています。)

2−2.縦方向
今度は、下の図に示すように観測者に対して光源が水平に移動する場合を考えます。

この場合も、相対的な時間関係は同じです。つまり、観測者の固有時間で見れば

は依然として成り立ちます。しかし、光源が速度 v で観測者から遠ざかっているとすると、時間 T だけ過ぎたときには距離 vTだけ光源は遠くにいます。その分だけ光が届くのに時間が掛かるわけです。

その遠ざかった距離にかかる時間を ΔT とすると、明らかにこれは ΔT=vT/c ですわね。
だから、T’=vT/c+T が観測者が見た光の明滅周期です。この式に上の固有時間の式を代入すると


最後の変形は、先ほどと同様にν0 =1/To 、観測者が受ける周波数ν=1/T としています。
式(4)は仮想的に v を正にとっています。だから、光源が近づく場合であれば、v=−v とすれば同じ事が言えるわけです。
つまり、近づく場合の式は(4)のルートの中の符号が反対になるだけの事。
別にvが正でも負でもいいやっ、と思えば(物理学的にはその方が普通ですね)式(4)は常に成り立っています。

いまだに、19世紀的エーテル引きずり説だの何だのを唱える、某大学教授やら自称科学者だのが居るようですが、媒質がある限りは(4)式が完全に相対的に成立することはあり得ません。絶対に。何故なら、媒質に対して光源が移動するのと観測者が移動するのでは違いがあるからです。音のドップラー効果を考えればこれは明らかです。

そしてこの式は、科学者が頭で考える事柄や実験室での精密測定の問題ではなく、既に実用の域です。
ディジタルラジオの所でその説明をしていますが、基本的な意味では携帯電話でも同じです。ただ実際には携帯電話等では問題になるだけの周波数ずれにならないだけ、と言うよりそれが問題にならないように回線設計が為される・・・というべきでしょうか。

当然、これの影響を確かめるための測定器(チャンネルシミュレータと言います)もあります。
ディジタルラジオやディジタルテレビは、日本でも直ぐそこまで来ています。UHFで放送するとして、150km/hも出せば、OFDM変調では十分問題になるだけのずれが生じます。

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