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ネットワークの設計と、箱の製作






まぁ、箱の製作は余分と言うか、要するに ただの腕自慢なんですけどね(^^;)


バッフル回折とネットワーク


バッフル面積は有限ですから(^^;)、音は回折します。基本的には波長がバッフルより長くなれば回折します。
広いほど低い周波数まで伸びて良いかというとそんな事はありません。
幅 3m の堂々たる(?)箱にでも入れれば十分でしょうけど、これは実際問題として実現困難です。

現実的な範囲で収めようとすれば、結局はフィルタ補正が必要になるので、逆に広いバッフルは補正が難しくなります。
最近の市販スピーカは、昔のように大口径で横幅の大きなものが減っていますが、これはちゃんと理由があるのです。

今回設計したスピーカのバッフルと口径、ドライバ配置では、概略は下図1 のような特性になります。

バッフルエッジにはかなりラウンドを付けているので、3kHz以上のリップルはかなり抑えられますが、1kHz付近のピークはどうしようもありません。(誤解の無いように言っておきますが、仮に完全に球形の箱でも、回折による階段状の高域上昇効果はあります。リップルがなくなるだけです。)

baffle_step_correct
Fig.1

更にミッドバスドライバは、悪いことに丁度この辺りから上でピークを持っていますから、この帯域のピークは抑えておく必要があると思います。ミッドバスの ドライバ単体での特性 と上のバッフル特性と合わせると、1kHz で 4dB ぐらい上昇しそうです。
尚、Near field での実測値は、ドライバの特性を良く捉えていると思います。

今回は、これを LCネットワークで補正する事とします。
簡単にイメージ的に言うと、クロス付近にディップを作って、ピークをつぶすような感じ、と言えば判るでしょうか。
更に、高域はまぁどうせトウィータにはアッテネータが入りますから何とでもなるとして、中低域はミッドバスのフィルタ時定数で調整します。

わざわざ抵抗を入れて RL やRC でバッフルのステップ補償するのは、要するに中域で無駄に抵抗に電力を食わせるって事ですから、どうも気に入らないのです。
ピークを考慮せずに、単純にシェルビング特性にするなら、抵抗に大電力を喰わせなくても、専用トーンコントロールでも付ければ良いわけで、そっちの方が自作派ならではでしょう。地球環境を大切に(^^;)。

回路図を下に示します。トウィータは反転位相ですから、接続に注意して下さい。

インダクタ は特性へのインパクトが大きいです。
できるだけ直流抵抗分の小さい物を選びました。 Jantzen の鉄心入りを使っています。

鉄心入りは無条件に特性が悪いと思っている人もいるみたいですが、何が重要で、どういう時に何を選ぶ、と言った話には定量的な議論が必要であり、定性的な話では片が付かないものです。

コアの大きさ、コイルのインダクタンス、周波数、直流抵抗分、交流抵抗分など、をアプリケーションにより求められる性能とコストで選びます。
LC network
Fig.2

初めはシリーズ型ネットワークにしていましたが、思うところあって普通の方式に戻しました。
最初のシリーズ型と現在のモノは、ほぼ同一特性ですが、ハイパス側の低域で跳ね返りの関係で、-30dB以下では通常形式の方が減衰特性に優れるようです。
ま、耳で聞いたって判りませんけど(笑)。
Fig. 3 もシリーズ型と通常型では微妙に違います。微妙すぎて見ても判りませんが、通常型にしたことで、200Hz 〜 500Hz が 02dB 〜 0.5dB ぐらい上昇しています。


トウィータのアッテネータは、いわゆる定インピーダンス型ではありません。直列抵抗です。
これは、必要なアッテネーションとアンプから見たインピーダンスの兼ね合いでこうしています。それにこのネットワークでは都合が良かったですし。
実際にアンプから見れば、定負荷に近くなっています。

ドライバの能率差を考慮した、このフィルタでの合成特性のシミュレーションを、下図 3 に示します。

バッフルステップ補償が 6dB では無く 4.5 dB 程度になっています。ルームゲインが下のほうで高いのが普通であることや、後壁の影響などを考慮して、「エイヤ」で決めた値だったのですが、そのまま無調整でいけました。
実測値の平坦さを見ると、ヤマカンにしては良い線だった、と言えるのでは無いかと思います(^o^)。
(後の頁で説明しますが、実測値での超低域のピークディップは部屋の特性ですから、さっ引いて考えます。)

但し、トウィータ単体の特性は 実測すると 5kHz付近に僅かな盛り上がりがあり、最終特性にもそれが現れています。

Filter charcterinstic
Fig.3

変則的な接続ですが、目的はあくまで帯域平坦にする事なのでして、そういう意味では基本を守っているかも?
日本の DIYer には、こういう事をする人が少ないようですが、何が基本なのか良く考えましょうね(^^;)

クロスがやけ低いように見えるかも知れませんが、これはMidbassドライバのピークとバッフルの影響を考慮しているからで、実際の音響的なクロス周波数は 2kHz付近になっています。
トウィータのカットオフが2.5kHz付近であり、最終的な特性が中域でほぼ平坦になっていることからも、これは伺えることと思います。


実際のバッフルは、スラントさせてドライバの振動板位置を合わせています。これは重要な点です。上記の特性は、振動板の位置が合っていて、はじめて言える事ですから。
個人的には、振幅を平坦にする為にこそ正確な位相合わせが重要になってくると思っています。

Dynaudio にしても Meadowlark Audio にしても 6dB/oct ですが、それと一部に言われる、波形合成云々とは、違う意味だと思います。

振動板位置を合わせるためにバフルに段差を付けるのは感心しません。バフル特性も複雑になるし、第一、段差での反射の方が問題としては大きいので、何のために何をやっているのか判らないです。だからスラントバッフルの方が良いと思います。

トウィータもミッドバスも、左右配置はセンターにしています。リップルだけで言えばオフセットした方が小さいですが、耳の位置から振動板位置を三次元的に捉えると、何とも、おかしな事になります。

策を弄し過ぎて、逆に折角の工夫が台無しになったら厭なので、怪しい事は止めておきます(^^;;)。

バッフルステップって?

どうも誤解があるようなので、追記します。
このバッフルステップというのは、ドライバによって出たり出なかったりするものではありません
これは厳密に「物理法則」に支配されるものであり、必ずこうなります。

ドライバで違いが出るとしたら、極端に指向性が悪い場合ですが、低域でそれは不可能に近いからです。

なにやらドライバの性能が良いから出ないみたいな馬鹿げた宣伝文句を書いているところもあるようですが、それは「超能力があるから空間を越える」とか言ってるのと大差ないのですよw こいうのを世間では“トンデモ”と言います。



箱の製作


製作は努力と根性が全てです(^^;;)。
兎も角丁寧に、時間をかけて、手間を惜しまず... That is all であります。

板は新木場のお店でカットしてもらいました。新木場では、板が破格値で買えます。
フィンランドバーチ18mmの四七合板、カット込みで、なんと参萬圓強です。
板の値段はそこらで買う 21mmラワン並でした。ただ、カッティングの精度は専門店みたいには行かない様です。

取り敢えず、製作手順は以下の通り。

1. 先ず、板の幅方向を鉋とヤスリで揃えます。できれば 0.2mm 以下ぐらいの精度で。
 精度の高いカットなら、もしかして不要かも知れませんが、斜めになってる部分などの修正は必要でしょう。

2. 既に示した開口端付近を作ります。と言うか後ではどう考えても組めません(^^;)。

3. 側壁に、図面通りに板の位置と幅を鉛筆で書き込みます。
  側壁に張り付ける形で組み立てるので、精度良く書き込みます。

4. 開口に近い部分から、順番に張り付けていきます。一度にやると、大抵失敗します。
  必ずハタガネで押さえて、精度良く組み立てます。仮組みして、鉋をあてながらキッチリやります。

5. 音道部分ができたら、三角材その他の補強を入れます。ココでも多少の削りは必要でしょう。
  音道の中の補強 -魂柱- はバイオリンなら最後ですが(^^;)、反対の側板を張り付ける前には入れます。

6. 底板の鬼眼ナット、ビス穴を開けます。
 底板は、吸音材の調整の為に取り外し可能にしていますが、気にしないなら不要です。

7. 組み上がったら、前面に鉋とヤスリでラウンドを付けます。出っ張りは鉋で削ります。

8. ドライバの鬼眼ナット、ビス穴を開けます。鬼眼ナットは、精度に自信が無いなら避けた方が無難です。
  バインディング・ポストは先に付けます。フックアップワイヤ、SP側には取り付け金具を忘れずに。
  バインディングポストは、ウーファとトウィータ独立に付けます。私はここで吸音材も入れました

9. 反対側の側板を張り付けます。ハタガネでしっかりと止めて接着します。

10. 最後に、接着剤が完全に乾燥してから#120ぐらいのペーパーで仕上げます。


次は塗装です。塗装には、組立以上に根性が要求されます(笑)。
私は、塗装だけで三週間かけています。冬なら、もっとかかるでしょう。
顔料入りのウレタンニスを、270ml 二本、450ml スプレー二本使いました。

1. 先ず、十分にペーパーがかけられている事です。塗る前が悪ければ後でもっと大変になります。

2. 大きめの刷毛で1/2ぐらいに薄めたニスを、バシャバシャ塗ります。2回ぐらい。

3. 濃いめのニスを大きめの刷毛で塗ります。

4. 塗面が十分乾燥(真夏でも24時間以上)したら、#240ぐらいの耐水ペーパーで水研ぎします。

5. 小さめの刷毛(模型用とかの厚さの薄い物が良い)で、何回か塗っては水研ぎします。
  厚めの刷毛だと、塗りむらと言うか、色の濃さが一定になりにくい様に思います。

6. 十分に平滑になったら、換気した部屋か外で、スプレー塗りします。
  エアブラシがベストですが、小さすぎるエアブラシだと広い塗装面では失敗したりします(^^;)。
 変な所に付かない様に塗らない面をマスクして、人間も塗料を吸い込まない様にマスクをします。

7. #320〜#400ぐらいで水研ぎして、もう一度スプレーしてから、#600ぐらいで水研ぎします。

8. フィンランドバーチは木口が比較的綺麗ですが、偶に木口に鬆(す)が入ったような所があります。
  そう言う所や欠けた所は、同じ色のニスにペーパーの削り滓を入れたパテで埋めると綺麗です。

9. 最後に、スプレーを厚くかけます。仕上げを薄く塗ると、替えって失敗しやすいようです。
  斜めの面は、台座を使って必ず地面と平行にして、他の面をマスクしてから塗りましょう。

10. 部屋に入れて、ドライバを取り付けます。
  カーテンが塗装面に写り込むのを見て、一人でニヤニヤします。
   二人でやったらアブナイので、必ず一人でニヤついて下さい(A^^;;)。

三日ぐらいニヤニヤして、十分に満足したら、測定に移ります。未だネットワークは付けません。


収支報告:

製作費用は、可能な限り安くあげました。
フィンランドバーチ合板(カット、送料含む): \32,172
檜三角材:¥1000ぐらい
ドライバ: Scanspeak 18W8531G00 ×2、Vifa XT25TG-30-04 ×2
インダクタ: Jantzen baked wire 0.3mH ×2、Jantzen baked wire iron core 3.3mH ×2
(iron core は 3.0mHに調整、Free of charge)
コンデンサ: Mundorf 6.8μF ×2
バインディングポスト:ブラス、金メッキ品 ×4
Speaker hook up wire:銀メッキ線 4m

Bank charge:日本及びシンガポール
小計 \79830(シンガポールから購入)
塗料+刷毛:¥4200

ネジ類:¥2500ぐらい(鬼目ナットが高いです。)

吸音材:ロカ綿(熱帯魚用)×6、グラスウール×1 ¥2700

工具類(ノミ、アラカン、紙ヤスリなど):約¥8000

抵抗:3.9Ω/5W ×2、10Ω/5W ×2、共に手持ち部品
コンデンサ Solen 15μF ×2(手持ち部品)

総計:約¥130000


でした。(手持ち部品の価格を含まず)
何しろ、仮想敵は弐百〜五百萬圓ですから、拾参萬圓と云ふのは破格値と云へませう(^^;)。
冗談は兎も角(冗談なのか?)、このドライバは本当に高価なシステムにしか使われてゐないのでして、頑張って安くあげた、と言っても、まぁこんなモンです。日本で買ふともっと高くなります。
ドライバや板を普通に買へば、弐拾萬圓は下らないでせう。若し筺の製作や塗装まで頼めば、目から火が出ます(^^;)。

ただ、何時も思ふのですが、アンプとかよりもスピーカの方が、自作で上手く行った時の C/P は高いやうな気がしますね。その替はり、失敗すると悲惨ですが(笑)。
作るだけ(設計抜きで)なら、普通に言ってアンプより簡単だし。(面倒なのはスピーカだけど ^^;)
定評のあるドライバを用ひたキットなんか、お得ですよねぇ....


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23rd/June/2009 Last update
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