Home 半減期 逐次壊変 放射平衡 分岐壊変 確率論 放射性物質
1. 原子の質量
2. 放射性核種
5. ウラン・ラジウム系列
6. アクチニウム系列
7. 劣化ウランの放射能
物質を構成する最小単位は原子であり,通常の環境では原子の内部構造は問題にならない。 原子の中心部には重い原子核があり,原子核の周りにいくつかの電子がある。 また原子核は陽子と中性子とからできていて,陽子は\(+1\)の電荷をもち,中性子は電荷をもたない。 電子は\(-1\)の電荷をもつので,陽子1個と電子1個とで電気量が釣り合う。
原子核を構成する陽子と中性子をあわせて核子という。 原子核の中にある陽子数のことを原子番号, 陽子数と中性子数の合計(核子の数)のことを質量数という。 陽子数が等しい原子は,中性子数が異なっても同一の化学的性質をもつ。 原子の性質は,陽子数(原子番号)によってほぼ完全に定まるのである。 元素というのはもともとは物質の根源をなす要素という抽象的な意味であったが, 現在は化学元素をさし,同一の原子番号をもつ原子のことである。
原子核の種類(核種という)は陽子数と中性子数で特徴づけられる。 同位体(isotope)とは,陽子数(原子番号)が等しい原子核または原子のことをいう。 元素は一種類以上の同位体の混合物である。
同重体(isobar)とは,質量数が等しい原子核または原子のことをいう。 β壊変をする放射性核種の場合は,壊変前の核種と壊変後の核種は互いに同重体になる。
同余体(isodiapher)とは,中性子数から陽子数を引いた値(中性子過剰数)が等しい原子核または原子のことをいう。 α壊変をする放射性核種の場合は,壊変前の核種と壊変後の核種は互いに同余体になる。
同中性子体(isotone)とは,中性子数が等しい原子核または原子のことをいう。 互いに同中性子体となる原子の間には,とくに共通点は見られない。
質量数12の炭素原子のことを簡単に炭素12といい,元素記号で12Cと表す。 12C原子1個の質量の12分の1を統一原子質量単位という。 この単位をuで表す。 原子質量単位とよばれることもある。
相対質量とは,質量を統一原子質量単位で割った値のことである。 たとえば12C原子1個の相対質量は12(単位なし)となる。 相対質量は単位がつかない量のため,相対質量は質量ではない。
次の表は,陽子,中性子,電子各1個あたりの質量と相対質量を示したものである。 右端の欄は質量を電子の質量で割った値である。 電子の質量は陽子や中性子と比較して非常に軽く,原子の質量のほとんどは原子核に集中していることがわかる。
質量(kg) | 相対質量 | 電子質量=1 | ||
陽子 | p | 1.672 621 777 × 10-27 | 1.007276 | 1836 |
中性子 | n | 1.674 927 351 × 10-27 | 1.008665 | 1839 |
電子 | e- | 9.109 382 91 × 10-31 | 0.000549 | 1 |
12Cは6個の陽子と6個の中性子それに6個の電子とからできている。 12Cを構成する陽子,中性子,電子の質量を合計すると 12.099 u になる。 12C原子の質量は 12 u なので一致しない。 一般に原子の質量は,その原子の材料となる粒子の質量の総和よりも軽くなることが知られている。 原子核を作っている陽子と中性子の質量の総和から,原子核の質量を引いた値のことを質量欠損という。
特殊相対性理論から静止質量とエネルギーは等価であるとされている。 陽子や中性子は孤立した状態でいるよりも,まとまって原子核となったほうが質量が小さく,安定となる。 質量欠損等のため,質量数と相対質量は一致しない。質量数はつねに整数であるが,相対質量は整数にならない。
天然に存在する元素はいくつかの同位体が一定の割合で混じり合っている。 天然元素の同位体の存在比は同位体比とよばれる。 元素をつくる原子の相対質量のことを相対原子質量または原子量という。 元素が1種の同位体だけからなる場合は,その同位体の相対質量を原子量とする。 元素が2種以上の同位体からなる場合は,各同位体の相対質量の,同位体比を重みとする加重平均を原子量とする。
次のページへ
1. 原子の質量
2. 放射性核種
5. ウラン・ラジウム系列
6. アクチニウム系列
7. 劣化ウランの放射能
放射線とは,原子核が放出する高エネルギーの粒子線または電磁波のことで,他の原子を電離する能力をもつものをさす。 荷電粒子線はそれ自身が電離する能力をもつため,直接電離放射線に属する。 非荷電粒子線や電磁波は電離する能力をもたないが,他の粒子との相互作用でできた荷電粒子が電離能力をもつため,間接電離放射線に属する。 また,電離能力をもたない粒子線や電磁波を放射線に含めることもある。
電離/非電離 | 直接/間接 | 例 |
電離放射線 | 直接電離放射線 | α線,β線 |
電離放射線 | 間接電離放射線 | γ線,中性子線 |
非電離放射線 | 紫外線 |
放射線を放出する核種を放射性核種という。放射性核種はα線,β線,γ線を放出する。 電子と陽電子の対消滅で発生する電磁波のこともγ線という。 原子核から放出されたものと区別できないような粒子線や電磁波のことも放射線とよぶことがあるが, どの程度まで放射線の定義を広げるかは不明確な状況である。
放射線 | 電荷 | 放射線の実体 |
α線 | +2 | 4He原子核 |
β-線 | -1 | 電子 |
β+線 | +1 | 陽電子 |
γ線 | 0 | 電磁波(単一エネルギー) |
放射性核種は,確率的に原子核の状態が変化して放射線を放出する。 この現象を放射性壊変という。 次のような形式がある。 ただし最後の特性X線の項目は壊変に伴って起こることであり壊変の形式ではない。
放射性核種がα壊変を起こすと,原子核が2個の陽子と2個の中性子からなる粒子(4He原子核)を放出する。 原子番号が2だけ減少し,質量数が4だけ減少する。
放射性核種がβ-壊変を起こすと,原子核が1個の電子(陰電子e-)を放出する。 原子番号が1だけ増加し,質量数は変化しない。
放射性核種がβ+壊変を起こすと,原子核が1個の陽電子(e+)を放出する。 原子番号が1だけ減少し,質量数は変化しない。
電子捕獲とは,原子核が軌道電子を取り込むことである。 原子番号が1だけ減少し,質量数は変化しない。
励起状態にある原子核で比較的寿命の長いものは別の核種として扱い,核異性体という。 核異性体がγ線を放出してより安定な状態に移る壊変のことを核異性体転移という。
質量数が非常に大きな核種は,中性子を衝突させなくても自発的に核分裂が起こる。 核分裂によって生成する核種は一定でなく,様々なものができる。
α壊変やβ壊変にともなってγ線が放出される。 このγ線のエネルギーを軌道電子に与えて放出されることがあり,内部転換とよばれる。 電子捕獲や内部転換によって空になった軌道電子を埋める際に特性X線を放出する。 特性X線のエネルギーを軌道電子に与えて放出されることがあり,オージェ効果とよばれる。
主要な放射性核種の半減期と壊変形式は表のとおり。天然核種と人工核種の両方が含まれる。
核種 | 半減期 | 壊変形式 | 生成反応 |
3H | 12.32 y | β- | 6Li (n, α) |
14C | 5.70 × 103 y | β- | 14N (n, p) |
24Na | 14.9590 h | β- | 23Na (n, γ) |
32P | 14.263 d | β- | 31P (n, γ), 32S (n, p) |
40K | 1.251 × 109 y | β-, EC | 天然 |
42K | 12.360 h | β- | 41K (n, γ) |
60Co | 5.2713 y | β- | 59Co (n, γ) |
64Cu | 12.700 h | EC,β+,β- | |
90Sr | 28.79 y | β- | U (n, f) |
131I | 8.02070 d | β- | 130Te (n, γ), U (n, f) |
137Cs | 30.1671 y | β- | U (n, f) |
192Ir | 73.827 d | β-, EC | 191Ir (n, γ) |
198Au | 2.69517 d | β- | 197Au (n, γ) |
※ 1年=365.242日
次のページへ
1. 原子の質量
2. 放射性核種
5. ウラン・ラジウム系列
6. アクチニウム系列
7. 劣化ウランの放射能
重い核種の多くは放射性であり,起点となる核種(ウラン238等)やその娘核種が次々と壊変して,十数段の壊変過程を作るものがある。 ウラン238の質量数を4で割った剰余は2であり,α壊変やβ壊変の後でも剰余は2のままで変化しない。 質量数を4で割った剰余によって壊変系列を4つに分類できる。
系列名 | 質量数 | 起点 | 終点 |
ウラン系列(ラジウム系列) | 4n+2 | ウラン238 | 鉛206 |
アクチニウム系列 | 4n+3 | ウラン235 | 鉛207 |
トリウム系列 | 4n | トリウム232 | 鉛208 |
ネプツニウム系列 | 4n+1 | ネプツニウム237 | タリウム205 |
ネプツニウム系列は天然には存在しない。
ウラン238を起点とするウラン系列(ラジウム系列)の主な核種は表のとおり。 括弧内は歴史的名称である。 壊変比率が100%でないものは残りの部分が他の核種に変化する。 ここでは主要部のみ載せてある。
系列核種 | 半減期 | 壊変形式 | 生成核種 | |||
1. | 238U | (U) | 4.468 × 109 y | α | 100% | 234Th |
2. | 234Th | (UX1) | 24.10 d | β- | 100% | 234mPa |
3. | 234mPa | (UX2) | 1.17 m | β- | 99.84% | 234U |
4. | 234U | (UII) | 2.455 × 105 y | α | 100% | 230Th |
5. | 230Th | (Io) | 7.538 × 104 y | α | 100% | 226Ra |
6. | 226Ra | (Ra) | 1600 y | α | 100% | 222Rn |
7. | 222Rn | (Rn) | 3.824 d | α | 100% | 218Po |
8. | 218Po | (RaA) | 3.1 m | α | 99.98% | 214Pb |
9. | 214Pb | (RaB) | 26.8 m | β- | 100% | 214Bi |
10. | 214Bi | (RaC) | 19.9 m | β- | 99.979% | 214Po |
11. | 214Po | (RaC′) | 1.643 × 10-4 s | α | 100% | 210Pb |
12. | 210Pb | (RaD) | 22.3 y | β- | 99.0% | 210Bi |
13. | 210Bi | (RaE) | 5.013 d | β- | 99.0% | 210Po |
14. | 210Po | (RaF) | 138.76 d | α | 100% | 206Pb |
15. | 206Pb | (RaG) | – | 安定 | – |
次の表は壊変が進む順序を示したものである。 α壊変が起こると原子番号が減少して,左下の核種へ進み, β-壊変が起こると原子番号が増加して,右下の核種へ進む。 ウラン・ラジウム系列は238Uから始まり,安定核種の206Pbに変化して終わる。
82Pb | 83Bi | 84Po | 85At | 86Rn | 87Fr | 88Ra | 89Ac | 90Th | 91Pa | 92U | |
1. | 238U | ||||||||||
2. | 234Th | ||||||||||
3. | 234mPa | ||||||||||
4. | 234U | ||||||||||
5. | 230Th | ||||||||||
6. | 226Ra | ||||||||||
7. | 222Rn | ||||||||||
8. | 218Po | ||||||||||
9. | 214Pb | ||||||||||
10. | 214Bi | ||||||||||
11. | 214Po | ||||||||||
12. | 210Pb | ||||||||||
13. | 210Bi | ||||||||||
14. | 210Po | ||||||||||
15. | 206Pb |
系列の起点となるウラン238の半減期は約45億年であり,この系列で最も長い。 その次に長いウラン234でも半減期は約25万年であるから,永続平衡となる条件を満たしている。
ウラン238だけを取り出しても,その一部が壊変してトリウム234に変わり,その後も次々と壊変していって,長い時間が経過すると系列全体の核種が放射平衡に至る。 天然ウランではすでに平衡が成立して,系列に属する核種の存在比は半減期の比に等しい。 また,系列の核種がもつ放射能はすべて等しい。 ウラン・ラジウム系列においては放射性のものが14段階にわたって続くため, 平衡が成立した後では,系列全体の放射能はウラン238単独の放射能の14倍となる。
次の表は分岐の部分を追記したものである。
系列核種 | 半減期 | 壊変形式 | 生成核種 | |||
1. | 238U | (U) | 4.468 × 109 y | α | 100% | 234Th |
2. | 234Th | (UX1) | 24.10 d | β- | 100% | 234mPa |
3. | 234mPa | (UX2) | 1.17 m | IT | 0.16% | 234Pa |
β- | 99.84% | 234U | ||||
3.5 | 234Pa | (UZ) | 6.7 h | β- | 100% | 234U |
4. | 234U | (UII) | 2.455 × 105 y | α | 100% | 230Th |
5. | 230Th | (Io) | 7.538 × 104 y | α | 100% | 226Ra |
6. | 226Ra | (Ra) | 1600 y | α | 100% | 222Rn |
7. | 222Rn | (Rn) | 3.824 d | α | 100% | 218Po |
8. | 218Po | (RaA) | 3.1 m | α | 99.98% | 214Pb |
β- | 0.02% | 218At | ||||
9. | 214Pb | (RaB) | 26.8 m | β- | 100% | 214Bi |
9 | 218At | 1.6 s | α | 99.9% | 214Bi | |
β- | 0.1% | 218Rn | ||||
10. | 214Bi | (RaC) | 19.9 m | α | 0.021% | 210Tl |
β- | 99.979% | 214Po | ||||
10. | 218Rn | 3.5 × 10-2 s | α | 100% | 214Po | |
11 | 210Tl | (RaC′′) | 1.3 m | β- | 100% | 210Pb |
11. | 214Po | (RaC′) | 1.643 × 10-4 s | α | 100% | 210Pb |
12. | 210Pb | (RaD) | 22.3 y | α | 1.0% | 206Hg |
β- | 99.0% | 210Bi | ||||
13 | 206Hg | (RaE′) | 8.15 m | β- | 100% | 206Tl |
13. | 210Bi | (RaE) | 5.013 d | α | 1.0% | 206Tl |
β- | 99.0% | 210Po | ||||
14 | 206Tl | (RaE′′) | 4.199 m | β- | 100% | 206Pb |
14. | 210Po | (RaF) | 138.76 d | α | 100% | 206Pb |
15. | 206Pb | (RaG) | – | 安定 | – |
次の図はウラン・ラジウム系列の核種を世代ごとに配置したものである。
80Hg | 81Tl | 82Pb | 83Bi | 84Po | 85At | 86Rn | 87Fr | 88Ra | 89Ac | 90Th | 91Pa | 92U | |
1. | 238U | ||||||||||||
2. | 234Th | ||||||||||||
3. | 234mPa | ||||||||||||
3.5 | 234Pa | ||||||||||||
4. | 234U | ||||||||||||
5. | 230Th | ||||||||||||
6. | 226Ra | ||||||||||||
7. | 222Rn | ||||||||||||
8. | 218Po | ||||||||||||
9. | 214Pb | 218At | |||||||||||
10. | 214Bi | 218Rn | |||||||||||
11. | 210Tl | 214Po | |||||||||||
12. | 210Pb | ||||||||||||
13. | 206Hg | 210Bi | |||||||||||
14. | 206Tl | 210Po | |||||||||||
15. | 206Pb |
分岐を考慮した場合でも,放射能の値はほとんど修正する必要がないことを確認しておこう。
5つの核種238U,234Th,234mPa,234Pa,234Uを順に核種\(A\),\(B\),\(C\),\(D\),\(E\)とおく。 壊変比率は\(p_{CE}=0.9984\),\(p_{CD}=0.0016\),\(p_{DE}=1\)である。 また,核種\(i\)の存在量を\(N_i\),半減期を\(T_i\),壊変定数を\(\lambda_i\),放射能を\(A_i\)と表すことにする。 核種\(E\)の放射能を求めよう。
238U | (100%) | 234Th | (100%) | 234mPa | ↗ | (99.84%) | ↘ | 234U | ||
↘ | (0.16%) | 234Pa | (100%) | ↗ |
ウラン・ラジウム系列は永続平衡となるので, 親核種\(A\)から\(A \to B \to C \to E\)の順に壊変して生成した核種\(E\)の量と,親核種の量の比は \[ \frac{N_{ABCE}}{N_A} \approx p_{AB}\,p_{BC}\,p_{CE} \times \frac{T_E}{T_A} = 1 \times 1 \times 0.9984 \times \frac{T_E}{T_A} \] となり,親核種\(A\)から\(A \to B \to C \to D \to E\)の順に壊変して生成した核種\(E\)の量と,親核種の量の比は \[ \frac{N_{ABCDE}}{N_A} \approx p_{AB}\,p_{BC}\,p_{CD}\,p_{DE} \times \frac{T_E}{T_A} = 1 \times 1 \times 0.0016 \times 1 \times \frac{T_E}{T_A} \] となる。 よって2つの経路を合わせた核種\(E\)の量の総和と,親核種の量の比は \[ \frac{N_E}{N_A} \approx (1 \times 1 \times 0.9984 + 1 \times 1 \times 0.0016 \times 1) \times \frac{T_E}{T_A} = \frac{T_E}{T_A} \] である。 これは分岐がない場合と同じ結果になっている。 よってウラン234とウラン238の放射能は等しい。 \[ A_E \approx A_A \]
核種\(A\)から核種\(D\)に変化するものはごく一部しかない。 そのため,核種\(D\)の放射能は親核種\(A\)の放射能と同じにならない。 核種\(D\)と親核種\(A\)の存在量の比は \[ \frac{N_D}{N_A} = \frac{N_{ABCD}}{N_A} \approx p_{AB}\,p_{BC}\,p_{CD} \times \frac{T_D}{T_A} = 1 \times 1 \times 0.0016 \times \frac{T_D}{T_A} \] となるから,核種\(D\)と親核種\(A\)の放射能の比は \[ \frac{A_D}{A_A} = 0.0016 \times \frac{\lambda_D T_D}{\lambda_A T_A} \approx 0.0016 \] よってプロトアクチニウム234の放射能は,ウラン238の放射能の0.16%である。 \[ A_D \approx 0.0016 \times A_A \]
核種218Po,214Pb,218Atを順に核種\(I\),\(J\),\(K\)とおく。 壊変比率は\(p_{IJ}=0.9998\),\(p_{IK}=0.0002\)である。
218Po | ↗ | (99.98%) | 214Pb |
↘ | (0.02%) | 218At |
核種\(J\)と核種\(I\)の存在量の比は \[ \frac{N_J}{N_I} \approx p_{IJ} \times \frac{T_J}{T_I} = 0.9998 \times \frac{T_J}{T_I} \] であるから,放射能の比は \[ \frac{A_J}{A_I} \approx 0.9998 \] となる。 同様にすると核種\(K\)と核種\(I\)の放射能の比は \[ \frac{A_K}{A_I} \approx 0.0002 \] となる。 よって核種\(J\)と核種\(K\)の放射能の総和は,核種\(I\)の放射能に等しい。 \[ A_J + A_K \approx A_I \] 起点の核種ウラン238から数えて8世代目の核種はポロニウム218のみなので,それらの放射能は等しい。 9世代目の核種である鉛214とアスタチン218の放射能の総和もそれに等しい。 \[ A_A \approx A_B \approx \cdots \approx A_I \approx (A_J+A_K) \approx \cdots \] 壊変に分岐がある場合は,核種を世代ごとにまとめるとよい。 永続平衡のとき,世代ごとの放射能の総和はすべて等しくなる。 ただし,プロトアクチニウム234のようにα壊変,β-壊変以外の壊変(IT等)が含まれる部分は例外である。
次のページへ
1. 原子の質量
2. 放射性核種
5. ウラン・ラジウム系列
6. アクチニウム系列
7. 劣化ウランの放射能
ウラン235を起点とするアクチニウム系列は表のとおりである。 アクチニウム系列に属するすべての核種の質量数は4n+3である。
系列核種 | 半減期 | 壊変形式 | 生成核種 | |||
1. | 235U | (AcU) | 7.038 × 108 y | α | 100% | 231Th |
2. | 231Th | (UY) | 25.52 h | α | 0.000001% | 227Ra |
β- | 99.999999% | 231Pa | ||||
3. | 227Ra | 42.2 m | α | 100% | 223Rn | |
3. | 231Pa | 32760 y | α | 100% | 227Ac | |
4. | 223Rn | 23.2 m | β- | 100% | 223Fr | |
4. | 227Ac | (Ac) | 21.773 y | α | 1.38% | 223Fr |
β- | 98.62% | 227Th | ||||
5. | 223Fr | (AcK) | 22.0 m | α | 0.006% | 219At |
β- | 99.994% | 223Ra | ||||
5. | 227Th | (RdAc) | 18.72 d | α | 100% | 223Ra |
6. | 219At | 56 s | α | 99.99% | 215Bi | |
β- | 0.01% | 219Rn | ||||
6. | 223Ra | (AcX) | 11.435 d | α | 100% | 219Rn |
7. | 215Bi | 7.6 m | β- | 100% | 215Po | |
7. | 219Rn | (An) | 3.96 s | α | 100% | 215Po |
8. | 215Po | (AcA) | 1.781 × 10-3 s | α | 99.999977% | 211Pb |
β- | 0.000023% | 215At | ||||
9. | 211Pb | (AcB) | 36.1 m | β- | 100% | 211Bi |
9. | 215At | 0.10 × 10-3 s | α | 100% | 211Bi | |
10. | 211Bi | (AcC) | 2.14 m | α | 99.72% | 207Tl |
β- | 0.28% | 211Po | ||||
11. | 207Tl | (AcC′′) | 4.77 m | β- | 100% | 207Pb |
11. | 211Po | (AcC′) | 0.516 s | α | 100% | 207Pb |
12. | 207Pb | (AcD) | – | 安定 | – |
アクチニウム系列は永続平衡になる。 平衡が成立した後では,系列全体の放射能はウラン235単独の放射能の11倍となる。 次の図はアクチニウム系列の核種を世代ごとに配置したものである。
81Tl | 82Pb | 83Bi | 84Po | 85At | 86Rn | 87Fr | 88Ra | 89Ac | 90Th | 91Pa | 92U | |
1. | 235U | |||||||||||
2. | 231Th | |||||||||||
3. | 227Ra | 231Pa | ||||||||||
4. | 223Rn | 227Ac | ||||||||||
5. | 223Fr | 227Th | ||||||||||
6. | 219At | 223Ra | ||||||||||
7. | 215Bi | 219Rn | ||||||||||
8. | 215Po | |||||||||||
9. | 211Pb | 215At | ||||||||||
10. | 211Bi | |||||||||||
11. | 207Tl | 211Po | ||||||||||
12. | 207Pb |
トリウム232を起点とするトリウム系列は表のとおりである。 トリウム系列に属するすべての核種の質量数は4nである。
系列核種 | 半減期 | 壊変形式 | 生成核種 | |||
1. | 232Th | (Th) | 1.405 × 1010 y | α | 100% | 228Ra |
2. | 228Ra | (MsTh1) | 5.75 y | β- | 100% | 228Ac |
3. | 228Ac | (MsTh2) | 6.15 h | β- | 100% | 228Th |
4. | 228Th | (RdTh) | 1.9131 y | α | 100% | 224Ra |
5. | 224Ra | (ThX) | 3.66 d | α | 100% | 220Rn |
6. | 220Rn | (Tn) | 55.6 s | α | 100% | 216Po |
7. | 216Po | (ThA) | 0.145 s | α | 100% | 212Pb |
8. | 212Pb | (ThB) | 10.64 h | β- | 100% | 212Bi |
9. | 212Bi | (ThC) | 60.55 m | α | 35.94% | 208Tl |
β- | 64.06% | 212Po | ||||
10. | 208Tl | (ThC′′) | 3.083 m | β- | 100% | 208Pb |
10. | 212Po | (ThC′) | 2.99 × 10-7 s | α | 100% | 208Pb |
11. | 208Pb | – | 安定 | – |
トリウム系列は永続平衡になる。 平衡が成立した後では,系列全体の放射能はトリウム232単独の放射能の10倍となる。 次の図はトリウム系列の核種を世代ごとに配置したものである。
81Tl | 82Pb | 83Bi | 84Po | 85At | 86Rn | 87Fr | 88Ra | 89Ac | 90Th | |
1. | 232Th | |||||||||
2. | 228Ra | |||||||||
3. | 228Ac | |||||||||
4. | 228Th | |||||||||
5. | 224Ra | |||||||||
6. | 220Rn | |||||||||
7. | 216Po | |||||||||
8. | 212Pb | |||||||||
9. | 212Bi | |||||||||
10. | 208Tl | 212Po | ||||||||
11. | 208Pb |
ネプツニウム237を起点とするネプツニウム系列は表のとおりである。 ネプツニウム系列に属するすべての核種の質量数は4n+1である。
系列核種 | 半減期 | 壊変形式 | 生成核種 | ||
1. | 237Np | 2.144 × 106 y | α | 100% | 233Pa |
2. | 233Pa | 26.967 d | β- | 100% | 233U |
3. | 233U | 1.592 × 105 y | α | 100% | 229Th |
4. | 229Th | 7880 y | α | 100% | 225Ra |
5. | 225Ra | 14.9 d | β- | 100% | 225Ac |
6. | 225Ac | 10.0 d | α | 100% | 221Fr |
7. | 221Fr | 4.9 m | α | 99.9% | 217At |
β- | 0.1% | 221Ra | |||
8. | 217At | 32.3 × 10-3 s | α | 99.99% | 213Bi |
β- | 0.01% | 217Rn | |||
8. | 221Ra | 28.0 s | α | 100% | 217Rn |
9. | 213Bi | 45.49 m | α | 2.09% | 209Tl |
β- | 97.91% | 213Po | |||
9. | 217Rn | 0.54 × 10-3 s | α | 100% | 213Po |
10. | 209Tl | 2.20 m | β- | 100% | 209Pb |
10. | 213Po | 4.2 × 10-3 s | α | 100% | 209Pb |
11. | 209Pb | 3.253 h | β- | 100% | 209Bi |
12. | 209Bi | 1.9 × 1019 y | α | 100% | 205Tl |
13. | 205Tl | – | 安定 | – |
ネプツニウム系列では12世代目のビスマス209の半減期が長いため,系列全体の平衡は成立しない。 また,起点となるネプツニウム237の半減期が約210万年のため,天然には残っていない。
天然ウランは3つの同位体238U,235U,234Uからなり,すべて放射性である。 各同位体の存在度(原子百分率)は表のとおりである。
同位体 | 存在度 | 半減期 | 壊変系列 |
238U | 99.2742% | 4.468 × 109 y | ウラン系列 |
235U | 0.7204% | 7.04 × 108 y | アクチニウム系列 |
234U | 0.0054% | 2.455 × 105 y | ウラン系列 |
ウラン系列の238Uの半減期とアクチニウム系列の235Uの半減期は異なるなため,遠い将来には235Uの存在度が低下することが予想される。 反対に遠い過去に遡ると,235Uの存在度は現在よりずっと高かったことが予想される。
時期 | 235Uの存在度 |
40億年前 | 16.69% |
30億年前 | 8.04% |
20億年前 | 3.67% |
10億年前 | 1.64% |
現在 | 0.72% |
10億年後 | 0.32% |
20億年後 | 0.14% |
原子力発電では235Uの割合を3%以上に濃縮して核分裂反応を起こしやすくしている。 もし40億年前のウラン鉱石中にウランが20%程度含まれていたなら, 適当な条件下で核分裂反応が起こっていたかもしれない。
次のページへ
1. 原子の質量
2. 放射性核種
5. ウラン・ラジウム系列
6. アクチニウム系列
7. 劣化ウランの放射能
天然ウランは3つの同位体238U,235U,234Uからなり,各同位体の存在度(原子百分率)は表のとおりである。 ウラン鉱石中の238Uと234Uの間には放射平衡が成立しているので,この2つの同位体のもつ放射能はほぼ等しい。 天然ウラン 1 g 当たりの比放射能は約 25.1 kBq となる。
同位体 | 相対質量 | 存在度 | 半減期 | 壊変系列 | 比放射能 |
238U | 238.051 | 99.2742% | 4.468 × 109 y | ウラン系列 | 12.3 kBq g-1 |
235U | 235.044 | 0.7204% | 7.04 × 108 y | アクチニウム系列 | 0.57 kBq g-1 |
234U | 234.041 | 0.0054% | 2.455 × 105 y | ウラン系列 | 12.2 kBq g-1 |
天然ウラン | 238.029 | 100% | 25.1 kBq g-1 |
※ アボガドロ定数 NA=6.02214129 × 1023
ウラン燃料は核分裂反応を起こしやすくするため,235Uの割合が高められている。 235Uの割合が天然ウランよりも高いものを濃縮ウラン,天然ウランよりも低いものを減損ウランまたは劣化ウランという。 濃縮ウランを取り出した残りのウランのことを減損ウラン(劣化ウラン)ということもあれば, 使用済み核燃料のことを減損ウラン(劣化ウラン)ということもある。
名称 | 235Uの割合 | |
減損ウラン(劣化ウラン) | 0% – 0.7% | 通常は 0.2% 程度 |
低濃縮ウラン | 0.7% – 20% | 核燃料は 3% – 5% 程度 |
高濃縮ウラン | 20% – | 核兵器は 90% – |
ウラン濃縮の過程で235Uとともに234Uも濃縮ウランのほうに移行するため, 減損ウランからは235Uと234Uの両方が取り除かれる。 IAEA(国際原子力機関)の資料によると,減損ウランの標準的な同位体存在度は238U,235U,234Uの順に99.8%,0.2%,0.001%とされている。 この減損ウラン 1 g 当たりの比放射能は約 14.8 kBq となる。
同位体 | 相対質量 | 存在度 | 半減期 | 壊変系列 | 比放射能 |
238U | 238.051 | 99.8% | 4.468 × 109 y | ウラン系列 | 12.4 kBq g-1 |
235U | 235.044 | 0.2% | 7.04 × 108 y | アクチニウム系列 | 0.16 kBq g-1 |
234U | 234.041 | 0.001% | 2.455 × 105 y | ウラン系列 | 2.26 kBq g-1 |
減損ウラン | 238.045 | 100% | 14.8 kBq g-1 |
天然ウランを濃縮して235Uの割合が3%となる濃縮ウランを製造し,その残りがIAEAの割合の減損ウランになると仮定すると,濃縮ウラン中の同位体比が推定できる。 それをもとに濃縮ウランの放射能を求めよう。 235Uの割合が約0.7%である天然ウランを加工して,235Uが3%の濃縮ウランと0.2%の減損ウランを作ると, 濃縮ウランが約19%,減損ウランが約81%できる。 濃縮ウラン(核燃料)を作ると,その4倍の減損ウラン(廃棄物)ができることになる。
濃縮ウランと減損ウランの比が分かると,濃縮ウラン中の各同位体の存在度も分かる。 この濃縮ウラン 1 g 当たりの比放射能は約 70.3 kBq となる。
同位体 | 相対質量 | 存在度 | 半減期 | 壊変系列 | 比放射能 |
238U | 238.051 | 96.98% | 4.468 × 109 y | ウラン系列 | 12.1 kBq g-1 |
235U | 235.044 | 3.00% | 7.04 × 108 y | アクチニウム系列 | 2.37 kBq g-1 |
234U | 234.041 | 0.02% | 2.455 × 105 y | ウラン系列 | 55.9 kBq g-1 |
濃縮ウラン | 237.960 | 100% | 70.3 kBq g-1 |
ただし 70.3 kBq/g という数値は,推定によって求めた234Uの部分が大きすぎるため,あまり信用できない。
純粋な天然ウランを放置すると,次第に娘核種が増加して放射能が強くなっていく。
下の表は天然ウラン1グラム当たりの,238Uを起源とする核種の比放射能である。 90日程度で238Uから234Paまで(ただし234Paは238Uに対して0.16%)の平衡が成立し, その次の234Uは100年経過しても増えない。 天然ウラン中の238Uを起源とする核種の放射能は,238U単独の放射能の約3倍と考えてよい。
核種 | 0 h | 1 h | 9 h | 3 d | 90 d | 100 y | |
1. | 238U | 12.3 kBq | 12.3 kBq | 12.3 kBq | 12.3 kBq | 12.3 kBq | 12.3 kBq |
2. | 234Th | 0 Bq | 14.8 Bq | 132 Bq | 1.02 kBq | 11.4 kBq | 12.3 kBq |
3. | 234mPa | 0 Bq | 14.4 Bq | 132 Bq | 1.02 kBq | 11.4 kBq | 12.3 kBq |
3.5 | 234Pa | 0 Bq | 0.001 Bq | 0.074 Bq | 1.42 Bq | 18.3 Bq | 19.8 Bq |
4. | 234U | 0 Bq | <1 mBq | <1 mBq | <1 mBq | 0.006 Bq | 3.48 Bq |
5. | 230Th | 0 Bq | <1 mBq | <1 mBq | <1 mBq | <1 mBq | 0.002 Bq |
次の表は天然ウラン1グラム当たりの,234Uを起源とする核種の比放射能である。 234Uの娘核種は100年経過しても増えない。
核種 | 0 y | 1 y | 10 y | 100 y | |
4. | 234U | 12.2 kBq | 12.2 kBq | 12.2 kBq | 12.2 kBq |
5. | 230Th | 0 Bq | 0.112 Bq | 1.12 Bq | 11.2 Bq |
6. | 226Ra | 0 Bq | <1 mBq | 0.002 Bq | 0.240 Bq |
7. | 222Rn | 0 Bq | <1 mBq | 0.002 Bq | 0.240 Bq |
8. | 218Po | 0 Bq | <1 mBq | 0.002 Bq | 0.240 Bq |
9. | 214Pb | 0 Bq | <1 mBq | 0.002 Bq | 0.240 Bq |
10. | 214Bi | 0 Bq | <1 mBq | 0.002 Bq | 0.240 Bq |
11. | 214Po | 0 Bq | <1 mBq | 0.002 Bq | 0.240 Bq |
12. | 210Pb | 0 Bq | <1 mBq | <1 mBq | 0.133 Bq |
13. | 210Bi | 0 Bq | <1 mBq | <1 mBq | 0.132 Bq |
14. | 210Po | 0 Bq | <1 mBq | <1 mBq | 0.129 Bq |
次の表は天然ウラン1グラム当たりの,235Uを起源とする核種の比放射能である。 4日程度で235Uから231Thまでの平衡が成立し, その次の227Raや231Paは100年経過しても増えない。 天然ウラン中の235Uを起源とする核種の放射能は,235U単独の放射能の約2倍と考えてよい。
核種 | 0 h | 1 h | 4 h | 1 d | 4 d | 100 y | |
1. | 235U | 569 Bq | 569 Bq | 569 Bq | 569 Bq | 569 Bq | 569 Bq |
2. | 231Th | 0 Bq | 15.2 Bq | 58.6 Bq | 272 Bq | 527 Bq | 569 Bq |
3. | 227Ra | 0 Bq | <1 mBq | <1 mBq | <1 mBq | <1 mBq | <1 mBq |
3. | 231Pa | 0 Bq | <1 mBq | <1 mBq | <1 mBq | <1 mBq | 1.20 Bq |
4. | 223Rn | 0 Bq | <1 mBq | <1 mBq | <1 mBq | <1 mBq | <1 mBq |
4. | 227Ac | 0 Bq | <1 mBq | <1 mBq | <1 mBq | <1 mBq | 0.840 Bq |
数か月以上放置したウランは娘核種の生成により, 238Uを起源とする放射能が約3倍に,235Uを起源とする放射能が約2倍に増大する。 純粋な天然ウラン 1 g 当たりの比放射能は約 25.1 kBq だが, それを数ヵ月以上放置すると約 50.4 kBq に増加する。
最後のページです
2004.8.20 作成 / 2015.1.7 更新
Home › 放射性物質