Home半減期逐次壊変放射平衡分岐壊変確率論放射性物質

1. 原子の質量

1. 原子の質量
2. 放射性核種
5. ウラン・ラジウム系列
6. アクチニウム系列
7. 劣化ウランの放射能

質量数

物質を構成する最小単位は原子であり,通常の環境では原子の内部構造は問題にならない。 原子の中心部には重い原子核があり,原子核の周りにいくつかの電子がある。 また原子核は陽子と中性子とからできていて,陽子は\(+1\)の電荷をもち,中性子は電荷をもたない。 電子は\(-1\)の電荷をもつので,陽子1個と電子1個とで電気量が釣り合う。

原子核を構成する陽子と中性子をあわせて核子という。 原子核の中にある陽子数のことを原子番号, 陽子数と中性子数の合計(核子の数)のことを質量数という。 陽子数が等しい原子は,中性子数が異なっても同一の化学的性質をもつ。 原子の性質は,陽子数(原子番号)によってほぼ完全に定まるのである。 元素というのはもともとは物質の根源をなす要素という抽象的な意味であったが, 現在は化学元素をさし,同一の原子番号をもつ原子のことである。

同位体・同重体・同余体・同中性子体

原子核の種類(核種という)は陽子数と中性子数で特徴づけられる。 同位体(isotope)とは,陽子数(原子番号)が等しい原子核または原子のことをいう。 元素は一種類以上の同位体の混合物である。

同重体(isobar)とは,質量数が等しい原子核または原子のことをいう。 β壊変をする放射性核種の場合は,壊変前の核種と壊変後の核種は互いに同重体になる。

同余体(isodiapher)とは,中性子数から陽子数を引いた値(中性子過剰数)が等しい原子核または原子のことをいう。 α壊変をする放射性核種の場合は,壊変前の核種と壊変後の核種は互いに同余体になる。

同中性子体(isotone)とは,中性子数が等しい原子核または原子のことをいう。 互いに同中性子体となる原子の間には,とくに共通点は見られない。

原子量

統一原子質量単位

質量数12の炭素原子のことを簡単に炭素12といい,元素記号で12Cと表す。 12C原子1個の質量の12分の1を統一原子質量単位という。 この単位をuで表す。 原子質量単位とよばれることもある。

1 u = 1.660 538 921 × 10-27 kg

相対質量とは,質量を統一原子質量単位で割った値のことである。 たとえば12C原子1個の相対質量は12(単位なし)となる。 相対質量は単位がつかない量のため,相対質量は質量ではない。

質量欠損

次の表は,陽子,中性子,電子各1個あたりの質量と相対質量を示したものである。 右端の欄は質量を電子の質量で割った値である。 電子の質量は陽子や中性子と比較して非常に軽く,原子の質量のほとんどは原子核に集中していることがわかる。

質量(kg)相対質量電子質量=1
陽子p1.672 621 777 × 10-271.0072761836
中性子n1.674 927 351 × 10-271.0086651839
電子e-9.109 382 91 × 10-310.0005491

12Cは6個の陽子と6個の中性子それに6個の電子とからできている。 12Cを構成する陽子,中性子,電子の質量を合計すると 12.099 u になる。 12C原子の質量は 12 u なので一致しない。 一般に原子の質量は,その原子の材料となる粒子の質量の総和よりも軽くなることが知られている。 原子核を作っている陽子と中性子の質量の総和から,原子核の質量を引いた値のことを質量欠損という。

特殊相対性理論から静止質量とエネルギーは等価であるとされている。 陽子や中性子は孤立した状態でいるよりも,まとまって原子核となったほうが質量が小さく,安定となる。 質量欠損等のため,質量数と相対質量は一致しない。質量数はつねに整数であるが,相対質量は整数にならない。

原子量

天然に存在する元素はいくつかの同位体が一定の割合で混じり合っている。 天然元素の同位体の存在比は同位体比とよばれる。 元素をつくる原子の相対質量のことを相対原子質量または原子量という。 元素が1種の同位体だけからなる場合は,その同位体の相対質量を原子量とする。 元素が2種以上の同位体からなる場合は,各同位体の相対質量の,同位体比を重みとする加重平均を原子量とする。

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2. 放射性核種

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7. 劣化ウランの放射能

放射線

放射線とは,原子核が放出する高エネルギーの粒子線または電磁波のことで,他の原子を電離する能力をもつものをさす。 荷電粒子線はそれ自身が電離する能力をもつため,直接電離放射線に属する。 非荷電粒子線や電磁波は電離する能力をもたないが,他の粒子との相互作用でできた荷電粒子が電離能力をもつため,間接電離放射線に属する。 また,電離能力をもたない粒子線や電磁波を放射線に含めることもある。

電離/非電離直接/間接
電離放射線直接電離放射線α線,β線
電離放射線間接電離放射線γ線,中性子線
非電離放射線紫外線

放射線を放出する核種を放射性核種という。放射性核種はα線,β線,γ線を放出する。 電子と陽電子の対消滅で発生する電磁波のこともγ線という。 原子核から放出されたものと区別できないような粒子線や電磁波のことも放射線とよぶことがあるが, どの程度まで放射線の定義を広げるかは不明確な状況である。

放射線電荷放射線の実体
α線+24He原子核
β--1電子
β++1陽電子
γ線0電磁波(単一エネルギー)

壊変の種類

放射性核種は,確率的に原子核の状態が変化して放射線を放出する。 この現象を放射性壊変という。 次のような形式がある。 ただし最後の特性X線の項目は壊変に伴って起こることであり壊変の形式ではない。

α壊変

放射性核種がα壊変を起こすと,原子核が2個の陽子と2個の中性子からなる粒子(4He原子核)を放出する。 原子番号が2だけ減少し,質量数が4だけ減少する。

β-壊変

放射性核種がβ-壊変を起こすと,原子核が1個の電子(陰電子e-)を放出する。 原子番号が1だけ増加し,質量数は変化しない。

β+壊変

放射性核種がβ+壊変を起こすと,原子核が1個の陽電子(e+)を放出する。 原子番号が1だけ減少し,質量数は変化しない。

電子捕獲(EC; electron capture)

電子捕獲とは,原子核が軌道電子を取り込むことである。 原子番号が1だけ減少し,質量数は変化しない。

核異性体転移(IT; isomeric transition)

励起状態にある原子核で比較的寿命の長いものは別の核種として扱い,核異性体という。 核異性体がγ線を放出してより安定な状態に移る壊変のことを核異性体転移という。

自発核分裂(SF; spontaneous fission)

質量数が非常に大きな核種は,中性子を衝突させなくても自発的に核分裂が起こる。 核分裂によって生成する核種は一定でなく,様々なものができる。

特性X線

α壊変やβ壊変にともなってγ線が放出される。 このγ線のエネルギーを軌道電子に与えて放出されることがあり,内部転換とよばれる。 電子捕獲や内部転換によって空になった軌道電子を埋める際に特性X線を放出する。 特性X線のエネルギーを軌道電子に与えて放出されることがあり,オージェ効果とよばれる。

主な放射性核種

主要な放射性核種の半減期と壊変形式は表のとおり。天然核種と人工核種の両方が含まれる。

核種半減期壊変形式生成反応
3H12.32 yβ-6Li (n, α)
14C5.70 × 103 yβ-14N (n, p)
24Na14.9590 hβ-23Na (n, γ)
32P14.263 dβ-31P (n, γ), 32S (n, p)
40K1.251 × 109 yβ-, EC天然
42K12.360 hβ-41K (n, γ)
60Co5.2713 yβ-59Co (n, γ)
64Cu12.700 hEC,β+,β-
90Sr28.79 yβ-U (n, f)
131I8.02070 dβ-130Te (n, γ), U (n, f)
137Cs30.1671 yβ-U (n, f)
192Ir73.827 dβ-, EC191Ir (n, γ)
198Au2.69517 dβ-197Au (n, γ)

※ 1年=365.242日

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5. ウラン・ラジウム系列

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壊変系列

重い核種の多くは放射性であり,起点となる核種(ウラン238等)やその娘核種が次々と壊変して,十数段の壊変過程を作るものがある。 ウラン238の質量数を4で割った剰余は2であり,α壊変やβ壊変の後でも剰余は2のままで変化しない。 質量数を4で割った剰余によって壊変系列を4つに分類できる。

系列名質量数起点終点
ウラン系列(ラジウム系列)4n+2ウラン238鉛206
アクチニウム系列4n+3ウラン235鉛207
トリウム系列4nトリウム232鉛208
ネプツニウム系列4n+1ネプツニウム237タリウム205

ネプツニウム系列は天然には存在しない。

ウラン・ラジウム系列の主な核種

ウラン238を起点とするウラン系列(ラジウム系列)の主な核種は表のとおり。 括弧内は歴史的名称である。 壊変比率が100%でないものは残りの部分が他の核種に変化する。 ここでは主要部のみ載せてある。

系列核種半減期壊変形式生成核種
1.238U(U)4.468 × 109 yα100%234Th
2.234Th(UX124.10 dβ-100%234mPa
3.234mPa(UX21.17 mβ-99.84%234U
4.234U(UII2.455 × 105 yα100%230Th
5.230Th(Io)7.538 × 104 yα100%226Ra
6.226Ra(Ra)1600 yα100%222Rn
7.222Rn(Rn)3.824 dα100%218Po
8.218Po(RaA)3.1 mα99.98%214Pb
9.214Pb(RaB)26.8 mβ-100%214Bi
10.214Bi(RaC)19.9 mβ-99.979%214Po
11.214Po(RaC′)1.643 × 10-4 sα100%210Pb
12.210Pb(RaD)22.3 yβ-99.0%210Bi
13.210Bi(RaE)5.013 dβ-99.0%210Po
14.210Po(RaF)138.76 dα100%206Pb
15.206Pb(RaG)安定

次の表は壊変が進む順序を示したものである。 α壊変が起こると原子番号が減少して,左下の核種へ進み, β-壊変が起こると原子番号が増加して,右下の核種へ進む。 ウラン・ラジウム系列は238Uから始まり,安定核種の206Pbに変化して終わる。

82Pb83Bi84Po85At86Rn 87Fr88Ra89Ac90Th91Pa92U
1.238U
2.234Th
3.234mPa
4.234U
5.230Th
6.226Ra
7.222Rn
8.218Po
9.214Pb
10.214Bi
11.214Po
12.210Pb
13.210Bi
14.210Po
15.206Pb

系列の起点となるウラン238の半減期は約45億年であり,この系列で最も長い。 その次に長いウラン234でも半減期は約25万年であるから,永続平衡となる条件を満たしている。

ウラン238だけを取り出しても,その一部が壊変してトリウム234に変わり,その後も次々と壊変していって,長い時間が経過すると系列全体の核種が放射平衡に至る。 天然ウランではすでに平衡が成立して,系列に属する核種の存在比は半減期の比に等しい。 また,系列の核種がもつ放射能はすべて等しい。 ウラン・ラジウム系列においては放射性のものが14段階にわたって続くため, 平衡が成立した後では,系列全体の放射能はウラン238単独の放射能の14倍となる。

ウラン・ラジウム系列の詳細

次の表は分岐の部分を追記したものである。

系列核種半減期壊変形式生成核種
1.238U(U)4.468 × 109 yα100%234Th
2.234Th(UX124.10 dβ-100%234mPa
3.234mPa(UX21.17 m IT0.16%234Pa
β-99.84%234U
3.5234Pa(UZ)6.7 hβ-100%234U
4.234U(UII2.455 × 105 yα100%230Th
5.230Th(Io)7.538 × 104 yα100%226Ra
6.226Ra(Ra)1600 yα100%222Rn
7.222Rn(Rn)3.824 dα100%218Po
8.218Po(RaA)3.1 m α99.98%214Pb
β-0.02%218At
9.214Pb(RaB)26.8 mβ-100%214Bi
9218At1.6 s α99.9%214Bi
β-0.1%218Rn
10.214Bi(RaC)19.9 m α0.021%210Tl
β-99.979%214Po
10.218Rn3.5 × 10-2 sα100%214Po
11210Tl(RaC′′)1.3 mβ-100%210Pb
11.214Po(RaC′)1.643 × 10-4 sα100%210Pb
12.210Pb(RaD)22.3 y α1.0%206Hg
β-99.0%210Bi
13206Hg(RaE′)8.15 mβ-100%206Tl
13.210Bi(RaE)5.013 d α1.0%206Tl
β-99.0%210Po
14206Tl(RaE′′)4.199 mβ-100%206Pb
14.210Po(RaF)138.76 dα100%206Pb
15.206Pb(RaG)安定

次の図はウラン・ラジウム系列の核種を世代ごとに配置したものである。

80Hg81Tl82Pb83Bi84Po85At 86Rn87Fr88Ra89Ac90Th91Pa92U
1.238U
2.234Th
3.234mPa
3.5234Pa
4.234U
5.230Th
6.226Ra
7.222Rn
8.218Po
9.214Pb218At
10.214Bi218Rn
11.210Tl214Po
12.210Pb
13.206Hg210Bi
14.206Tl210Po
15.206Pb

分岐を考慮した場合でも,放射能の値はほとんど修正する必要がないことを確認しておこう。

ウラン234の放射能

5つの核種238U,234Th,234mPa,234Pa,234Uを順に核種\(A\),\(B\),\(C\),\(D\),\(E\)とおく。 壊変比率は\(p_{CE}=0.9984\),\(p_{CD}=0.0016\),\(p_{DE}=1\)である。 また,核種\(i\)の存在量を\(N_i\),半減期を\(T_i\),壊変定数を\(\lambda_i\),放射能を\(A_i\)と表すことにする。 核種\(E\)の放射能を求めよう。

238U(100%)234Th(100%)234mPa (99.84%)234U
(0.16%)234Pa(100%)

ウラン・ラジウム系列は永続平衡となるので, 親核種\(A\)から\(A \to B \to C \to E\)の順に壊変して生成した核種\(E\)の量と,親核種の量の比は \[ \frac{N_{ABCE}}{N_A} \approx p_{AB}\,p_{BC}\,p_{CE} \times \frac{T_E}{T_A} = 1 \times 1 \times 0.9984 \times \frac{T_E}{T_A} \] となり,親核種\(A\)から\(A \to B \to C \to D \to E\)の順に壊変して生成した核種\(E\)の量と,親核種の量の比は \[ \frac{N_{ABCDE}}{N_A} \approx p_{AB}\,p_{BC}\,p_{CD}\,p_{DE} \times \frac{T_E}{T_A} = 1 \times 1 \times 0.0016 \times 1 \times \frac{T_E}{T_A} \] となる。 よって2つの経路を合わせた核種\(E\)の量の総和と,親核種の量の比は \[ \frac{N_E}{N_A} \approx (1 \times 1 \times 0.9984 + 1 \times 1 \times 0.0016 \times 1) \times \frac{T_E}{T_A} = \frac{T_E}{T_A} \] である。 これは分岐がない場合と同じ結果になっている。 よってウラン234とウラン238の放射能は等しい。 \[ A_E \approx A_A \]

プロトアクチニウム234の放射能

核種\(A\)から核種\(D\)に変化するものはごく一部しかない。 そのため,核種\(D\)の放射能は親核種\(A\)の放射能と同じにならない。 核種\(D\)と親核種\(A\)の存在量の比は \[ \frac{N_D}{N_A} = \frac{N_{ABCD}}{N_A} \approx p_{AB}\,p_{BC}\,p_{CD} \times \frac{T_D}{T_A} = 1 \times 1 \times 0.0016 \times \frac{T_D}{T_A} \] となるから,核種\(D\)と親核種\(A\)の放射能の比は \[ \frac{A_D}{A_A} = 0.0016 \times \frac{\lambda_D T_D}{\lambda_A T_A} \approx 0.0016 \] よってプロトアクチニウム234の放射能は,ウラン238の放射能の0.16%である。 \[ A_D \approx 0.0016 \times A_A \]

鉛214とアスタチン218の放射能の総和

核種218Po,214Pb,218Atを順に核種\(I\),\(J\),\(K\)とおく。 壊変比率は\(p_{IJ}=0.9998\),\(p_{IK}=0.0002\)である。

218Po(99.98%)214Pb
(0.02%)218At

核種\(J\)と核種\(I\)の存在量の比は \[ \frac{N_J}{N_I} \approx p_{IJ} \times \frac{T_J}{T_I} = 0.9998 \times \frac{T_J}{T_I} \] であるから,放射能の比は \[ \frac{A_J}{A_I} \approx 0.9998 \] となる。 同様にすると核種\(K\)と核種\(I\)の放射能の比は \[ \frac{A_K}{A_I} \approx 0.0002 \] となる。 よって核種\(J\)と核種\(K\)の放射能の総和は,核種\(I\)の放射能に等しい。 \[ A_J + A_K \approx A_I \] 起点の核種ウラン238から数えて8世代目の核種はポロニウム218のみなので,それらの放射能は等しい。 9世代目の核種である鉛214とアスタチン218の放射能の総和もそれに等しい。 \[ A_A \approx A_B \approx \cdots \approx A_I \approx (A_J+A_K) \approx \cdots \] 壊変に分岐がある場合は,核種を世代ごとにまとめるとよい。 永続平衡のとき,世代ごとの放射能の総和はすべて等しくなる。 ただし,プロトアクチニウム234のようにα壊変,β-壊変以外の壊変(IT等)が含まれる部分は例外である。

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6. アクチニウム系列

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アクチニウム系列

ウラン235を起点とするアクチニウム系列は表のとおりである。 アクチニウム系列に属するすべての核種の質量数は4n+3である。

系列核種半減期壊変形式生成核種
1.235U(AcU)7.038 × 108 yα100%231Th
2.231Th(UY)25.52 h α0.000001%227Ra
β-99.999999%231Pa
3.227Ra42.2 mα100%223Rn
3.231Pa32760 yα100%227Ac
4.223Rn23.2 mβ-100%223Fr
4.227Ac(Ac)21.773 y α1.38%223Fr
β-98.62%227Th
5.223Fr(AcK)22.0 m α0.006%219At
β-99.994%223Ra
5.227Th(RdAc)18.72 dα100%223Ra
6.219At56 s α99.99%215Bi
β-0.01%219Rn
6.223Ra(AcX)11.435 dα100%219Rn
7.215Bi7.6 mβ-100%215Po
7.219Rn(An)3.96 sα100%215Po
8.215Po(AcA)1.781 × 10-3 s α99.999977%211Pb
β-0.000023%215At
9.211Pb(AcB)36.1 mβ-100%211Bi
9.215At0.10 × 10-3 sα100%211Bi
10.211Bi(AcC)2.14 m α99.72%207Tl
β-0.28%211Po
11.207Tl(AcC′′)4.77 mβ-100%207Pb
11.211Po(AcC′)0.516 sα100%207Pb
12.207Pb(AcD)安定

アクチニウム系列は永続平衡になる。 平衡が成立した後では,系列全体の放射能はウラン235単独の放射能の11倍となる。 次の図はアクチニウム系列の核種を世代ごとに配置したものである。

81Tl82Pb83Bi84Po85At86Rn 87Fr88Ra89Ac90Th91Pa92U
1.235U
2.231Th
3.227Ra231Pa
4.223Rn227Ac
5.223Fr227Th
6.219At223Ra
7.215Bi219Rn
8.215Po
9.211Pb215At
10.211Bi
11.207Tl211Po
12.207Pb

トリウム系列

トリウム232を起点とするトリウム系列は表のとおりである。 トリウム系列に属するすべての核種の質量数は4nである。

系列核種半減期壊変形式生成核種
1.232Th(Th)1.405 × 1010 yα100%228Ra
2.228Ra(MsTh15.75 yβ-100%228Ac
3.228Ac(MsTh26.15 hβ-100%228Th
4.228Th(RdTh)1.9131 yα100%224Ra
5.224Ra(ThX)3.66 dα100%220Rn
6.220Rn(Tn)55.6 sα100%216Po
7.216Po(ThA)0.145 sα100%212Pb
8.212Pb(ThB)10.64 hβ-100%212Bi
9.212Bi(ThC)60.55 m α35.94%208Tl
β-64.06%212Po
10.208Tl(ThC′′)3.083 mβ-100%208Pb
10.212Po(ThC′)2.99 × 10-7 sα100%208Pb
11.208Pb安定

トリウム系列は永続平衡になる。 平衡が成立した後では,系列全体の放射能はトリウム232単独の放射能の10倍となる。 次の図はトリウム系列の核種を世代ごとに配置したものである。

81Tl82Pb83Bi84Po85At 86Rn87Fr88Ra89Ac90Th
1.232Th
2.228Ra
3.228Ac
4.228Th
5.224Ra
6.220Rn
7.216Po
8.212Pb
9.212Bi
10.208Tl212Po
11.208Pb

ネプツニウム系列

ネプツニウム237を起点とするネプツニウム系列は表のとおりである。 ネプツニウム系列に属するすべての核種の質量数は4n+1である。

系列核種半減期壊変形式生成核種
1.237Np2.144 × 106 yα100%233Pa
2.233Pa26.967 dβ-100%233U
3.233U1.592 × 105 yα100%229Th
4.229Th7880 yα100%225Ra
5.225Ra14.9 dβ-100%225Ac
6.225Ac10.0 dα100%221Fr
7.221Fr4.9 m α99.9%217At
β-0.1%221Ra
8.217At32.3 × 10-3 s α99.99%213Bi
β-0.01%217Rn
8.221Ra28.0 sα100%217Rn
9.213Bi45.49 m α2.09%209Tl
β-97.91%213Po
9.217Rn0.54 × 10-3 sα100%213Po
10.209Tl2.20 mβ-100%209Pb
10.213Po4.2 × 10-3 sα100%209Pb
11.209Pb3.253 hβ-100%209Bi
12.209Bi1.9 × 1019 yα100%205Tl
13.205Tl安定

ネプツニウム系列では12世代目のビスマス209の半減期が長いため,系列全体の平衡は成立しない。 また,起点となるネプツニウム237の半減期が約210万年のため,天然には残っていない。

天然原子炉

天然ウランは3つの同位体238U,235U,234Uからなり,すべて放射性である。 各同位体の存在度(原子百分率)は表のとおりである。

同位体存在度半減期壊変系列
238U99.2742%4.468 × 109 yウラン系列
235U0.7204%7.04 × 108 yアクチニウム系列
234U0.0054%2.455 × 105 yウラン系列

ウラン系列の238Uの半減期とアクチニウム系列の235Uの半減期は異なるなため,遠い将来には235Uの存在度が低下することが予想される。 反対に遠い過去に遡ると,235Uの存在度は現在よりずっと高かったことが予想される。

時期235Uの存在度
40億年前16.69%
30億年前8.04%
20億年前3.67%
10億年前1.64%
現在0.72%
10億年後0.32%
20億年後0.14%

原子力発電では235Uの割合を3%以上に濃縮して核分裂反応を起こしやすくしている。 もし40億年前のウラン鉱石中にウランが20%程度含まれていたなら, 適当な条件下で核分裂反応が起こっていたかもしれない。

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7. 劣化ウランの放射能

1. 原子の質量
2. 放射性核種
5. ウラン・ラジウム系列
6. アクチニウム系列
7. 劣化ウランの放射能

天然ウランの同位体

天然ウランは3つの同位体238U,235U,234Uからなり,各同位体の存在度(原子百分率)は表のとおりである。 ウラン鉱石中の238Uと234Uの間には放射平衡が成立しているので,この2つの同位体のもつ放射能はほぼ等しい。 天然ウラン 1 g 当たりの比放射能は約 25.1 kBq となる。

同位体相対質量存在度半減期壊変系列比放射能
238U238.05199.2742%4.468 × 109 yウラン系列12.3 kBq g-1
235U235.0440.7204%7.04 × 108 yアクチニウム系列0.57 kBq g-1
234U234.0410.0054%2.455 × 105 yウラン系列12.2 kBq g-1
天然ウラン238.029100%25.1 kBq g-1

※ アボガドロ定数 NA=6.02214129 × 1023

減損ウラン

ウラン燃料は核分裂反応を起こしやすくするため,235Uの割合が高められている。 235Uの割合が天然ウランよりも高いものを濃縮ウラン,天然ウランよりも低いものを減損ウランまたは劣化ウランという。 濃縮ウランを取り出した残りのウランのことを減損ウラン(劣化ウラン)ということもあれば, 使用済み核燃料のことを減損ウラン(劣化ウラン)ということもある。

名称235Uの割合
減損ウラン(劣化ウラン)0% – 0.7%通常は 0.2% 程度
低濃縮ウラン0.7% – 20%核燃料は 3% – 5% 程度
高濃縮ウラン20% –核兵器は 90% –

ウラン濃縮の過程で235Uとともに234Uも濃縮ウランのほうに移行するため, 減損ウランからは235Uと234Uの両方が取り除かれる。 IAEA(国際原子力機関)の資料によると,減損ウランの標準的な同位体存在度は238U,235U,234Uの順に99.8%,0.2%,0.001%とされている。 この減損ウラン 1 g 当たりの比放射能は約 14.8 kBq となる。

同位体相対質量存在度半減期壊変系列比放射能
238U238.05199.8%4.468 × 109 yウラン系列12.4 kBq g-1
235U235.0440.2%7.04 × 108 yアクチニウム系列0.16 kBq g-1
234U234.0410.001%2.455 × 105 yウラン系列2.26 kBq g-1
減損ウラン238.045100%14.8 kBq g-1

濃縮ウランの放射能(試算)

天然ウランを濃縮して235Uの割合が3%となる濃縮ウランを製造し,その残りがIAEAの割合の減損ウランになると仮定すると,濃縮ウラン中の同位体比が推定できる。 それをもとに濃縮ウランの放射能を求めよう。 235Uの割合が約0.7%である天然ウランを加工して,235Uが3%の濃縮ウランと0.2%の減損ウランを作ると, 濃縮ウランが約19%,減損ウランが約81%できる。 濃縮ウラン(核燃料)を作ると,その4倍の減損ウラン(廃棄物)ができることになる。

濃縮ウランと減損ウランの比が分かると,濃縮ウラン中の各同位体の存在度も分かる。 この濃縮ウラン 1 g 当たりの比放射能は約 70.3 kBq となる。

同位体相対質量存在度半減期壊変系列比放射能
238U238.05196.98%4.468 × 109 yウラン系列12.1 kBq g-1
235U235.0443.00%7.04 × 108 yアクチニウム系列2.37 kBq g-1
234U234.0410.02%2.455 × 105 yウラン系列55.9 kBq g-1
濃縮ウラン237.960100%70.3 kBq g-1

ただし 70.3 kBq/g という数値は,推定によって求めた234Uの部分が大きすぎるため,あまり信用できない。

平衡成立にかかる時間

純粋な天然ウランを放置すると,次第に娘核種が増加して放射能が強くなっていく。

下の表は天然ウラン1グラム当たりの,238Uを起源とする核種の比放射能である。 90日程度で238Uから234Paまで(ただし234Paは238Uに対して0.16%)の平衡が成立し, その次の234Uは100年経過しても増えない。 天然ウラン中の238Uを起源とする核種の放射能は,238U単独の放射能の約3倍と考えてよい。

核種0 h1 h9 h3 d90 d100 y
1.238U12.3 kBq12.3 kBq12.3 kBq12.3 kBq12.3 kBq12.3 kBq
2.234Th0 Bq14.8 Bq132 Bq1.02 kBq11.4 kBq12.3 kBq
3.234mPa0 Bq14.4 Bq132 Bq1.02 kBq11.4 kBq12.3 kBq
3.5234Pa0 Bq0.001 Bq0.074 Bq1.42 Bq18.3 Bq19.8 Bq
4.234U0 Bq<1 mBq<1 mBq<1 mBq0.006 Bq3.48 Bq
5.230Th0 Bq<1 mBq<1 mBq<1 mBq<1 mBq0.002 Bq

次の表は天然ウラン1グラム当たりの,234Uを起源とする核種の比放射能である。 234Uの娘核種は100年経過しても増えない。

核種0 y1 y10 y100 y
4.234U12.2 kBq12.2 kBq12.2 kBq12.2 kBq
5.230Th0 Bq0.112 Bq1.12 Bq11.2 Bq
6.226Ra0 Bq<1 mBq0.002 Bq0.240 Bq
7.222Rn0 Bq<1 mBq0.002 Bq0.240 Bq
8.218Po0 Bq<1 mBq0.002 Bq0.240 Bq
9.214Pb0 Bq<1 mBq0.002 Bq0.240 Bq
10.214Bi0 Bq<1 mBq0.002 Bq0.240 Bq
11.214Po0 Bq<1 mBq0.002 Bq0.240 Bq
12.210Pb0 Bq<1 mBq<1 mBq0.133 Bq
13.210Bi0 Bq<1 mBq<1 mBq0.132 Bq
14.210Po0 Bq<1 mBq<1 mBq0.129 Bq

次の表は天然ウラン1グラム当たりの,235Uを起源とする核種の比放射能である。 4日程度で235Uから231Thまでの平衡が成立し, その次の227Raや231Paは100年経過しても増えない。 天然ウラン中の235Uを起源とする核種の放射能は,235U単独の放射能の約2倍と考えてよい。

核種0 h1 h4 h1 d4 d100 y
1.235U569 Bq569 Bq569 Bq569 Bq569 Bq569 Bq
2.231Th0 Bq15.2 Bq58.6 Bq272 Bq527 Bq569 Bq
3.227Ra0 Bq<1 mBq<1 mBq<1 mBq<1 mBq<1 mBq
3.231Pa0 Bq<1 mBq<1 mBq<1 mBq<1 mBq1.20 Bq
4.223Rn0 Bq<1 mBq<1 mBq<1 mBq<1 mBq<1 mBq
4.227Ac0 Bq<1 mBq<1 mBq<1 mBq<1 mBq0.840 Bq

数か月以上放置したウランは娘核種の生成により, 238Uを起源とする放射能が約3倍に,235Uを起源とする放射能が約2倍に増大する。 純粋な天然ウラン 1 g 当たりの比放射能は約 25.1 kBq だが, それを数ヵ月以上放置すると約 50.4 kBq に増加する。

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2004.8.20 作成 / 2015.1.7 更新

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