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1. 壊変定数

1. 壊変定数
2. 生物学的半減期

壊変時刻の分布

まだ壊変していないことを生存とよぶことにする。 時刻 t=0 において生存している1個の核種に注目し,その核種が壊変する時刻(あるいは核種の寿命)を X とすると,X は確率変数になる。 壊変の確率は時刻によらず一定であり, 時刻 t で生存(X>t)していた核種が時刻 t+Δt で生存(X>t+Δt)している確率は, 時刻 0 で生存していた核種が時刻 Δt で生存している確率に等しい。 これは死亡率や平均余命が年齢によらず一定であることを意味している。 \[ P(X>t+\varDelta t\mid X>t)=P(X>\varDelta t\mid X>0)=P(X>\varDelta t) \tag{1} \] 累積分布関数 F(t)=P(X≤t) に対して,次のことが成り立つ。 \begin{align*} 1-F(2) &=1-P(X\le 2)=P(X>2)\\ &=P(X>2\mid X>1)\times P(X>1\mid X>0)\\ &=P(X>1\mid X>0)\times P(X>1\mid X>0)\\ &=\{P(X>1)\}^2 =\{1-P(X\le 1)\}^2\\ &=\{1-F(1)\}^2 \end{align*} 同様にすると, \[ 1-F(m)=\{1-F(1)\}^m \] となり,さらに,{1−F(1/n)}n=1−F(1) であるから, \[ 1-F(1/n)=\{1-F(1)\}^{1/n} \] も成り立つ。 したがって,有理数 t=m/n についても,極限を用いることによって無理数 t についても, \[ 1-F(t)=\{1-F(1)\}^t \tag{2} \] が成り立つ。 累積分布関数 F(t) と,その導関数である確率密度関数 f(t) は \[ F(t)=1-\{1-F(1)\}^t,\qquad f(t)=-\{1-F(1)\}^t \ln \{1-F(1)\} \tag{3} \] と表すことができる。

単位時間の間に壊変する確率

単位時間の間に壊変する確率を p とする。つまり,時刻 t で生存(X>t)していた核種が時刻 t+1 までに壊変(X≤t+1)する確率を p とする。 \begin{align*} p &=P(X\le t+1\mid X>t)\\ &=1-P(X>t+1\mid X>t) =1-P(X>1)\\ &=P(X\le 1) =F(1) \end{align*} よって単位時間の間に壊変する確率 p は F(1) に等しい。 \[ p=F(1) \tag{4} \] 累積分布関数 F(t) と確率密度関数 f(t) を p を用いて表すと, \[ F(t)=1-(1-p)^t,\qquad f(t)=-(1-p)^t \ln (1-p) \tag{5} \] となる。

壊変定数

微小時間 Δt の間に壊変する確率を Δt で割った商の極限値のことを壊変定数といい,λ と表す。 \begin{align*} \lambda &=\lim_{\varDelta t\to 0} \frac{P(X\le t+\varDelta t\mid X>t)}{\varDelta t}\\ &=\lim_{\varDelta t\to 0} \frac{1-P(X>t+\varDelta t\mid X>t)}{\varDelta t} =\lim_{\varDelta t\to 0} \frac{1-P(X>\varDelta t)}{\varDelta t}\\ &=\lim_{\varDelta t\to 0} \frac{P(X\le \varDelta t)}{\varDelta t} =\lim_{\varDelta t\to 0} \frac{F(\varDelta t)}{\varDelta t} \end{align*} F(0)=0 を考慮すると,壊変定数 λ は確率密度 f(0) に等しい。 \[ \lambda =\lim_{\varDelta t\to 0} \frac{F(0+\varDelta t)-F(0)}{\varDelta t} =F'(0)=f(0) \] 確率密度 f(0) を p で表した式 λ=f(0)=−(1−p)0ln(1−p) から,1−p=e−λ となるので, \[ \lambda =-\ln (1-p),\qquad p=1-e^{-\lambda} \tag{6} \] が成り立つ。 累積分布関数 F(t) と確率密度関数 f(t) を λ を用いて表すと, \[ F(t)=1-e^{-\lambda t},\qquad f(t)=\lambda e^{-\lambda t} \tag{7} \] となり,壊変時刻 X は母数 λ の指数分布に従う。

壊変定数は「単位時間の間に壊変する確率」ではない

理由1:平均変化率と微分係数

壊変定数を単位時間に壊変する確率とする定義が幅広く行われているが,正しくない。 微分法の言葉を用いると,単位時間の間に壊変する確率 p は区間 0≤t≤1 における平均変化率,壊変定数 λ は点 t=0 における微分係数である。 \[ p=F(1)=\frac{F(1)-F(0)}{1-0},\qquad \lambda =F'(0)=\lim_{\varDelta t\to 0} \frac{F(\varDelta t)-F(0)}{\varDelta t-0} \] 壊変定数が小さい(半減期が長い)ときは,p の分母 1−0 を十分小さいとみなすことができて,λ を p で近似できるが, 反対に,壊変定数が大きい(半減期が短い)ときは λ を p で近似できない。

理由2:確率は1を超えない

単位時間の間に壊変する確率 p は確率なので,0≤p≤1 でなければならないが,壊変定数 λ は1を超えることもある。 実際,半減期が 0.693 秒より短いとき壊変定数は1より大きい。

ただし、放射線取扱主任者試験では、

単純に単位時間に壊変する確率ではなく,極限操作を含む表現に改めなければならない。 微小な時間間隔において単位時間あたりに壊変する確率等。 ただし,放射線取扱主任者試験では,

壊変定数は原子核1個が単位時間当たりに壊変する確率である
という選択肢は正しいと判断する。

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壊変時刻と排出時刻の分布

まだ壊変していないことを生存,まだ体外に排出されていないことを残留とよぶことにする。 時刻 t=0 において体内に残留し,かつ生存している1個の核種に注目し,その核種が壊変する時刻を X,体外に排出される時刻を Y とすると,X,Y はともに確率変数になる。 X の累積分布関数を FX(t),物理学的半減期を Tp,壊変定数を λp とし, Y の累積分布関数を FY(t),生物学的半減期を Tb,排出の速度定数(壊変定数に相当)を λb とすると, 各々の累積分布関数は次のように表される。 \[ F_X(t)=1-e^{-\lambda_p t},\qquad F_Y(t)=1-e^{-\lambda_b t} \tag{1} \] X は母数 λp の指数分布に,Y は母数 λb の指数分布に従う。 ただし,核種が壊変すると他の元素に変化するため,X<Y のとき Y の値は保証されないことに注意する。

実効半減期

核種の壊変時刻と排出時刻のうち,早いほうの時刻を Z=min(X,Y) とすると,Z は壊変または排出によって体内から核種がなくなる時刻を表す。 壊変と排出は独立に起こると考えられるので,任意の時刻 t に対して \[ P(Z>t)=P(X>t,Y>t)=P(X>t)\times P(Y>t) \tag{2} \] が成り立つ。 これを利用すると,Z の累積分布関数を次のように表すことができる。 \begin{align*} F_Z(t) &=P(Z\le t)=1-P(Z>t)\\ &=1-P(X>t)P(Y>t)\\ &=1-(1-P(X\le t))(1-P(Y\le t))\\ &=1-(1-F_X(t))(1-F_Y(t))\\ &=1-e^{-\lambda_p t}e^{-\lambda_b t} \end{align*} よって,Z は母数 λpb の指数分布に従う。 \[ F_Z(t)=1-e^{-(\lambda_p +\lambda_b)t} \tag{3} \] 実効半減期Teの逆数は,物理学的半減期Tpの逆数と生物学的半減期Tbの逆数の和になる。 \[ \lambda_e =\lambda_p +\lambda_b,\qquad\frac{1}{T_e}=\frac{1}{T_p}+\frac{1}{T_b} \]

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2013.1.5 作成 / 2020.2.23 更新

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