意識を取り戻したマサキは一瞬今の状況がつかめなかった。
目の前に広がるのは夜の暗闇。
静かに響くは水の音に森の囁き。
しばらくぼんやりしていたが不意に近くで気配がして・・
起き上がろうとしたら痛みで体中が悲鳴をあげた。
「・・ッー・・!」
うめき声をあげたつもりだったのだが、しかし口からでる音は空気の流れる音だけで・・・
やはり喉も酷く痛んだ。
気配が近寄ってくる。
その人物はその両手をマサキの頬を包むように添えてきた。
びくり。
微かに震える身体。
そして頬に触れる手の持ち主を見た瞬間、何があったのかを思い出した。
「ーッ!・・ッ!!」
思わず振り払い叫ぼうとするものの、やはり酷く痛む身体は動いてはくれず、声もまた出てはくれない。
ただ睨みつけるしか出来ない体に心の中で舌打ちしながらも、マサキはシュウを見やる。
シュウは何も言わない。
ただじっと見つめるだけである。
そこに感情の彩が見えないことに気がついたマサキは眉をひそめる。
両の頬に触れていた手がそのまま下げられ首にかかる。
彼はそのまま力をこめた。
「ーッ!」
その時になって気がついた。
彼の目が焦点を失っていることを。
まともに動かぬ身体では抵抗することも出来ない。
『貴方・・は・・危険・・・・・死・・・・』
シュウの口から切れ切れに言葉が漏れる。
しかしそれはどこか機械じみたものであった。
意識が再び薄れだす。
あの闇が忍び寄ってきて、自分の命を喰らっているような感覚に陥る。
闇が全てを覆い尽くす。
そう思った瞬間、あの時の光が頭の中で再び閃く。
同時にシュウもびくりと身体を震わせ、マサキの首から手を離した。
激しく咳き込みながら、首をめぐらせてシュウを見やれば彼は頭を抱えてうずくまっている。
なんとなく、駆け寄って声をかけたくなるが、やはり動くことが出来なくて・・・
(何で俺がシュウの奴を心配しなきゃならねぇんだー?)
と心の中で首をかしげながらも、やはり彼に敵意を向ける気にはなれない。
しばらくして・・・痛みが退いてきたのかシュウが顔をあげる。
「・・マサキ・・貴方は・・・」
「・・・?」
そっと近づいてきたシュウにびくりとしながらも、見返す。
しかし何をするわけでもなく、小さく呟くシュウの姿に困惑するしかないマサキ。
不意に屈みこみ、マサキを抱き上げたシュウがマサキの唇を塞ぐ。
「!?」
一瞬硬直して・・我に返ったマサキは慌てて首を振って逃げようとするが、頭を抑えられてしまう。
マサキの脳裏に先程の行為が蘇る。
しかし、シュウはそれ以上何もせず、しばらくしてマサキを離すと再び横たえた。
「もう・・起きられるはずですよ、マサキ」
「ぇ・・・あ・・あれ?」
幾分間の抜けた声を発するマサキ。
まだ少し、身体は痛むものの自力で起き上がることができるほど『回復』している。
戸惑うマサキを尻目にシュウはマサキの服をかき集めて手渡した。
「早く服を来てください、風邪を引きますよ?」
「・・・シュ・・・シュウ??」
先程までとまるで違うシュウの態度に唖然としていたマサキだったが、我に返ると慌てて服を着始める。
「すみません。マサキ・・大丈夫でしたか?」
マサキが服を着終える頃合を見計らってシュウがやや控えめに声をかけてくる。
「マサキ・・?」
「ったくなにやってんだよ、お前は!」
元気よくばしばしと彼を叩く。
その痛みに苦笑するシュウ。
「心配・・・してくださったんですか?私は敵なのに・・・」
「るせぇ・・・」
控えめに呟く彼の言葉にそっぽを向くマサキ。
そんな彼の耳にクスクスと笑う声が聞こえる。
「だぁぁぁぁ!!笑うな!!」
「ふふ・・・」
顔をまっかにしてわめいていたマサキだったが、不意に声のトーンを落し呟く。
「なんで・・・・」
「?」
急に抑えた口調になるマサキにシュウは眉をひそめた。
「なんで・・・敵の心配してるんだよ・・・俺を生け贄にするんじゃなかったのかよ・・・」
俯くシュウ。
「それは・・・・・」
「それは?」
「・・・気が・・・変わったんですよ」
顔をあげた時、そこにあったのはいつもの不敵な笑み。
「はぁ?」
さっきまでの深刻な顔はどこにいったのやら・・・紡がれた言葉に思わず間抜けそうな表情をするマサキ。
「破壊神などに、貴方を渡したりはしない・・」
「おい・・・さっきと言ってる事が正反対だぞ?」
「貴方を手に入れるのは・・・この私・・・」
「ちょ・・・・ちょっと待て!どーしてそーなるんだぁぁぁぁ!!?」
絶叫。マサキにはもう何がなんだかわからない(作者もわかんない)。
「惹かれたんですよ・・何者にも屈する事の無い貴方の存在に・・・それに・・・」
そっと頬に添えられる手。
その手に怯えるようにマサキは反射的にびくりと反応する。
はっとなったシュウはそのまま手を引っ込めた。
「シュウ?」
「・・・」
黙り込んでしまったシュウの顔をマサキは覗き込む。
フッ・・と微かに微笑む彼の姿が何かにダブる。
「お前は・・・」
「・・・」
彼は何も言わない。
一瞬か、それともかなりの時間そうしていたのか・・・
沈黙を破ったのはシュウの方だった。
「それでは今日はここでお暇しますよ」
「オィ、ちょっと待て!」
しかしシュウはそのまま踵を返すと夜の闇の中に消えていった。
マサキの脳裏に、あの闇の中で出会った少年が最後に言った言葉が木霊する。
『・・・殺して・・ください・・・私が私であるうちに・・・・』
「本当に・・・それで、いいのか?」
空を見上げる。
「シュウ・・・」
夜はまだ明けない・・・
まだ少し痛む身体でマサキが家にたどり着いたのはまだ日が顔を出してない・・・しかしもう少しで顔をだしそうな、そんな頃だった。
プレシアはまだ寝ていて、出迎えてくれたのは彼のファミリア。
「にゃにやってたんだにゃ、マサキ・・・」
大あくびをしながらジト目で見るファミリアにそっぽを向きながら冷や汗をかくマサキ。
「う゛・・だからちょっと涼みに・・・」
「一晩中がちょっとにゃ?」
ぐさ。
「・・・いや、もっと早く帰るつもりだったけど・・」
「・・・・・また道に迷ったんだにゃ?」
「う゛・・・・」
図星である。
身体の痛みの所為もあるが、なによりかなり離れたところに行っていたマサキは、帰り道でモノの見事に道に迷ってしまったのだ。
「と・・とにかく、俺はこれから寝るから・・・」
「判ったにゃ」
「早く寝るにゃ」
盛大なため息とともにそういったファミリアたちをさっさとすり抜けてマサキは自分の部屋に戻る。
途中、プレシアの部屋を通りかかって覗いてみれば、お気に入りのぬいぐるみを抱きしめて彼女はまだぐっすり眠っていた。
そんな様子に笑みを浮かべた彼はそのまま静かに扉を閉めた。
「お兄ちゃん。今日はゆっくり休んでいていいよ」
眠い目をこすりながら、朝食を終えて二人で片付けをしていた時、唐突にプレシアはそう言い出した。
「は?でも今日は・・・」
「お兄ちゃん、最近全然休み、とってなかったでしょ?みんな心配してたよ」
「・・・」
「だから、今日はお兄ちゃんはお休みにしたってさっき連絡があったの」
「んな勝手に・・・」
「いいじゃにゃい」
「そうそう。どうせ今日はまだ眠くてしょうがにゃいんだろ?」
「う゛・・・・それは・・・」
「はい。決まりね♪」
何も言えないマサキを尻目に義妹とファミリアたちはしてやったり・・とばかりに笑っている。
(ま、こんな日もいいか・・・)
苦笑しつつもそう考えて、彼は部屋に戻っていった。
確か二人が出会うのはいつも機体に乗ってる時だから直に触れ合うような機会はなかったんですよねー。
だからマサキに触れてその影響でちょっと正気に・・ってのを書いてみようかと(笑)
それにしても・・なんかすっごく弱気なシュウ様が・・・(−▽−;
ちなみにアレはプラーナ補給v(笑)
おまけは・・・単にお約束として腰の痛み(死)と道に迷って帰りが遅くなったマサキを書きたかっただけです(滅)
最近川で水浴びしてるマサキが書きたくなってるかも・・(謎・・・ホント謎)