ラジオコレクション

 中学生の頃、BCLブームがありました。今では考えられないことですが、多くの人々が海外からの短波放送に耳を傾けていました。私のその内の一人ですが、放送内容より海外からの電波が自分の手元に届くことに興味をそそられました。ラジオに興味のある人はBCLかアマチュア無線の経験者が多いのではないのでしょうか?手元にあるラジオのいくつかを掲載しました。


1.山中電気製 TELEVIAN





 UY−227、UX−112A、KX−112Bの並3ラジオです。真空管ソケットのところにこう書いてありましたが、購入した時はエレバムのUY−227とメーカ名の無いUX−12AとKX−12Fが付いていました。’91年ごろハムフェアで入手しました。(まだ晴海の頃です) 購入する際 「並3は珍しいよ」 と言われたのですが、その通りのようで、その後色々な所でラジオを物色しましたがこの他には見たことが有りません。真空球コレクションはこのラジオのスペアチューブを探すことから始まりました。
 購入した時は何とか動作しましたが、木箱の一部は欠損し、ベニアの部分ははがれかかっていました。無くなった部分を作り直し、はがれかかったベニア部分も接着しました。スピーカ、バリコン、電源トランス、ケースにはまったく錆びは無く非常に状態は良かったのですが、アンテナコイルがスターの並4コイルに、低周波トランスはメーカー不明の物に、電源チョークは抵抗に置き換えられていました。以前の持ち主が修理と改造を行ったようです。回路はそのままにペーパーコンを電解コンに交換し配線を綺麗にしました。球はRCAのUY−227、UX−112A、マツダのKX−12Fを入手し交換しました。
 スピーカはマグネチック型(バランスドアマーチュア)ですが、非常に良い音がします。現代の小さなスピーカのラジオと比べようが有りません。昔読んだ本ではマグネチック型は音が悪いと書いてあった記憶があるのですが、この常識は戦争中の粗悪なラジオで定着した間違いと思われます。このラジオは昭和9年ごろの製品ですが、昭和一桁後半に作られたメーカーラジオは品質的には優良です。
 外形はツームストーン型でプロジェクションタイプのダイヤルインジケータですが、背面からの照明が無く非常に見難いです。1回転200目盛があるだけで周波数表示ではないのでそれほどインジケータは重要ではなかったのでしょう。

 アンテナは自作のアクティブアンテナを使います。バーアンテナと2SK241の高周波増幅回路をケースに組み込んだものです。チューニングにバリキャップを使っているのが色気です。

後日、山中電機 昭和9年10月の商報コピーを入手しました。このラジオの回路図が記載されていましたので、いつか
オリジナル回路に復元しようと考えています。


2.日本ビクター製 MODEL F212


 日置 TH−P60を置くと’60年代の雰囲気


 日本ビクター製の真空管ラジオです。このタイプのラジオはMW(中波)とSW(短波)の2バンドが多いのですが、これはMWとFMの2バンドです。MWとSWの2バンドが多かったのは、アンテナコイルと局発コイルの2つを追加するだけでその他の回路は共通に出来たためで、MWとFMでは共通部分は低周波増幅回路ぐらいで、かなりのコストアップになります。このラジオは真空管式FMラジオの回路サンプルが欲しくて購入したものです。17EW8,12BE6,12BA6×2,12AV6,30A5+OA70×2の6球+2ダイオード。FM検波は検波管(例えば6AL5など)ではなくゲルマニュームダイオードですが、シャーシにはもう1球分の穴が空いています。特徴は、低周波増幅回路のNFBが出力トランスの専用巻き線から掛けられているところです。それが原因かどうか分かりませんが、なかなか良い音で鳴ります。MWはバーアンテナですから、真空管ラジオといっても外部アンテナなしで十分受信できます。ピックアップの入力端子がありますが、この頃使われたことがあるのでしょうか?


3.山水製 MODEL PR−333



 ラジオというより、放送機器?一部のユニットと思われます。低周波増幅段も電源もついていません。MWのチューナとイコライザ(モノラルです)が付いています。この薄型のスタイルとマジックアイに曳かれて衝動買いしました。中はほこりだらけだったので、初めて水洗いに挑戦しました。濡れてはまずい部品のみ外して中性洗剤でじゃかじゃか洗って十分濯ぎます。水を切ったのちWD−40を十分吹きかけてふき取り、1日干しておきました。最近はCRC−55が使われますが、WD−40は元々アメリカ海軍が水没した無線機の修理用に開発したもので、吹き付けると部品と水の間に入り込み絶縁を回復させます。(と昔何かの本で読みました。最近は滅多に目にしませんが、見つけたら購入をお勧めします。) 水洗い後は見違えるほど綺麗になりました。
 ヒータと+B電源を繋ぎ動作させてみましたが、AF出力は出てきません。チューニングを回すとマジックアイは動作していますので、ラジオ部分はまがいなりにも動こうとしているようです。調べてみると、AF出力部分のペーパーコンがリークしています。水洗いが原因でしょうか?検波段にクリスタルイヤホンを繋いでしばらくラジオを聞きましたが感度もいまいちです。だいぶ修理が必要でしょう。今のところ使う予定はないのでこのまましまっておきます。(参考までに
回路図


4.八重洲無線製 FR−101D



 いよいよBCL世代には懐かしい受信機の登場です。言わずと知れた八重洲無線のコリンズタイプ最高級受信機。これは私が高校に入学した際に親にねだって買ってもらったという恥ずかしい経歴の持ち主です。CWフィルター、FMユニット、2mと6mのクリスタルコンバータ付きのフルオプション、よくこんな高価なものを買ってくれたものです。私の宝物の一つで、どこに行っても持ち歩き今に到っています。箱こそありませんが取り扱い説明書や付属品は全て残っています。ブロック図) FR−101Dも後期にはデジタル表示が赤色LEDになりましたが、これは田の字型表示の蛍光表示管を用いた初期のものです。さすがに購入して20年を経てバンドスイッチなどに接触不良が増えてきました。


5.世和興業製 ドレーク SSR−1


 懐かしい!ドレークSSR−1です。ワドレーループによるドリフトキャンセルシステムを採用した受信機です。世和興業が日本総代理店になって、DRAKEブランドで売られていますが、本当にドレークが作ったのでしょうか?この辺の事実をご存知の方、教えてください。これは、’94年、CQ誌の売ります買いますコーナーで入手したものです。お名前は申し上げませんが、その節はどうもありがとうございました。私の知る限りワドレーループを採用した受信機は、八重洲無線のFRG−7、ドレークSSR−1、スタンダードC6500?、ケンテック?BCL−1ぐらいでしょう。後ろの2種類は実物を見たことがありませんので定かではありません。ワドレーループは第1局発は通常のLC発振で、第2局発はクリスタル発振の1MHzのコムジェネと第1局発をミックスして作ります。第1局発の周波数が変動すると、それを第2局発がそれをキャンセルすることで、受信周波数の変動が発生するのを防止するシステムです。第3局発の周波数が正確に読めれば(SSR−1,FRG−7ともに10KHz)、1バンド1MHzで正確な周波数の受信機が作れます。ブロック図 これを購入したのはワドレーループの欠点を知りたかったためです。欠点は1MHzのコムジェネがあるため、ピッタリ1MHzの所が受信出来ません。原理的にはシールドを完璧にすれば防止できそうな気もしますが?、これもご存知の方教えてください。
 内部の写真ですが、本来なら単1電池8本の電池BOXがあるのですが、破損していたので取り外してあります。構造的には八重洲無線のFRG−7の方が遥かに頑丈で信頼性がありそうですが、デザイン的にはSSR−1の圧勝です。子供の頃ダイヤルのグリーンの照明にあこがれました。通信機型受信機のデザインではトリオ(現ケンウッド)のR−300と双璧だったと思います。



6.ソニー製 ICF−5900



 泣く子も黙るスカイセンサー5900です。5500,5800に続く傑作です。BCLラジオで初めて受信周波数を正確に読めるようになった最初のラジオです。10KHz直読(分かる人は結構いってます。何が?)のラジオがこの後各メーカから続々出てきました。
 このラジオは特徴的なダブルコンバージョン回路を持っています。第1局発はクリスタルマーカーを用いて正確に250KHzステップに設定されます。第1中間周波増幅回路はFMラジオ用のもので10.7MHzで帯域はFM用にブロードです。第2局発は250KHzしか変化せず、10KHz精度で周波数を読み取れます。私見ですが、それまでのBCLラジオに入っている部品でコリンズタイプのダブルコンバージョン受信機を作ったと言えるのではないでしょうか?第1局発はクリスタルマーカーで250KHzステップの発振器となりますから、この部分はクリスタルコンバータと変わりません。後段は10.7±125KHzのシングルコンバージョン受信機と言えるでしょう。10.7MHzの中間周波増幅回路が周波数可変で狭帯域ならば完璧でしょう。(回路は想像の部分もありますから、もしかしたらそうなっているかもしれません。ちなみにFR−101の第1中間周波数は5.52から6.02MHzです。)
 このスカイセンサー5900は後期型です。初期型は中央のスプレッドダイヤルの目盛が±125KHzあるだけですが、後期型は250KHzステップで4種類の目盛があります。



7.ソニー製 ICF−PRO70



 ’87か88年ごろ購入したラジオです。受信周波数は150KHzから108MHz。受信モードはFM,NFM,AM,NAM,SSB。名前を忘れましたが、これ以前にエアーバンドが受信できるラジオが同じデザインで発売されていました。AMの同期検波はありませんしSSBも”受信出来ます”といった程度のものですが、BCLブームが懐かしくなって購入しました。比較は難しいですが、短波帯の性能はICF-5900に軍配が上がりそうです。(スピーカの大きさの差かもしれませんが?)
 広い周波数範囲を受信できますので、測定器代わりにも使いました。計画倒れ開発品のシグナルジェネレータの出力をこのラジオで受信して、その信号純度の悪さにがっかりした記憶があります。



8.スタンダード製 AX700B



 まだ売っている?受信機です。あこがれのバンドスコープ内臓で小型にまとまっており、購買意欲を掻き立てられた受信機です。子供の頃、ラジオのダイヤルをグルグル回しながら電波を探っていました。バンドスコープと云うものがあればどこに電波が出ているか一目で分かるとCQ誌で知り、欲しくてたまりませんでした。スペアナ関係に拘るのは、この子供の頃の経験を引きずっているためでしょう。受信周波数は50から905MHz。受信モードはFM,NFM,AM。回路構成としては、2ndMIX以後が受信回路とバンドスコープ回路に分かれているオーソドックスなものですが、自作でこのように小型にまとめることは困難です。右はこの受信機で中波、短波帯を受信するために購入したクラニシのコンバータ。これを付けると中波、短波帯の受信はできますが、バンドスコープの最小分解能は10KHzですのであまり役には立ちませんでした。


9.Westinghouse製 
AERIOLA S.RECEIVER


 1920年代に作られた単球再生式ラジオです。この蓋のできるラジオらしくないスタイルに惚れて衝動買いしました。自作の真空管アンプのデザインに良く合います。付属していた球は864でこれも珍しい球だったのですが、蓋の裏の取り扱い説明書?にはWD−11と書いてありましたので、これもインターネットで探し回って購入しました。これにテレフンケンのレシーバを付けると完璧です。全部組み合わせると非常に高価なラジオになってしまいました。(このページに掲載されているラジオの内で最も高価。)
 1.5Vのヒータ用と22.5Vの+B用の電池で動く筈ですが、1.5Vでは定格の250mAのヒータ電流が流せず、ヒータ用電圧として3Vぐらい加えてやっと250mA流すことができました。864でも同じでしたので、レオスタットかヒータ配線が不良かもしれません。しかし、定格のヒータ電流を流すとちゃんと受信できました。70年以上前に製造されたラジオがです。感動しました。また宝物(がらくた?)が1台増えました。
 蓋の裏のラベルは時代を感じさせます。
こちらをご覧下さい


10.パイオニア製 SX−42



 真空管式AM,FMチューナと6BQ5P−Pアンプが一体となったインテグレートアンプです。半導体は電源整流用とFM検波用のダイオードしか使われていません。1960年代後半の製品と思われます。

 30年以上前の製品としては内部は綺麗です。最初は左右の出力バランスが崩れていましたが、SWの洗浄とラウドネスSW部分のオイルコンデンサを交換すると正常に戻りました。残留雑音も小さく、FMのSNも良好です。これを入手したので2A3でアンプを作る計画は中止しました。
 使用真空管は6BQ5×4,12AX7×5,6AU6×2,6AQ8×2,6BA6×2,6AV6、6BE6,6C9の18球です。

 この中で6C9は珍しい球です。FMフロントエンドに使われる双4極管でシールド用のピンが中心にでています。こんな球始めて見ました。スペアチューブを捜すのが大変です。

 その他の球は比較的入手が容易なので、当分の間は修理しながら実用アンプとして活躍しそうです。
 しかし、真空管アンプは重いですね、16kgもあります。修理するため分解するのも大変です。消費電力も160Wもあるので冬は暖房の代わりになりますが、夏場の使用は考えものです。


11.東芝製真空管式TV 10PG



 これは1961年7月製造の真空管式TVです。私と同い年ですから年を取ったものです。入手して8ヶ月やっとレストア完了しました。この時代のTVにはやはりプロレス放送が似合います。(左の写真:はめ込み合成無しに表示と本体を綺麗に写真に取るのは非常に難しいです。)
 フリッツ・フォン・エリックは強かったですね!小学生の頃、プロレスごっこする度に「アイアンクロー、ストマッククロー」とやっていたのを思い出します。

 CRT 250CB4,5M−HH3,3D−HH13,3CB6×2,3DK6,6AW8A,6CG7×2,5AQ5,3AU6,6BN8,4M−P12,12G−B3,12R−K19,1X2Bの15球、1CRTのトランスレス回路です。入手したときは外観は結構綺麗だったのですが、中身はぐちゃぐちゃでした。

 電源を入れると音声のみで映像は出ず、少し経つと抵抗から煙が上がったので慌てて電源を切りました。内部は修理の跡があるのですが、これがひどいもので修理というより破壊工作です。同期分離用6AW8Aのソケット破損、偏向コイル接続用USコネクタは極性ピンが折れている、極めつけはCRTのコネクタと極性ピンが破損しており、極性ピン内部のガラスも一部欠けていて、よくCRTが無事だったなと云う状態です。

 また、この時代良く使われたパラフィンコーティーング?ワックスコーティング?のMPコン、ペーパーコンの表面のパラフィンが溶けてゴミが付着し汚いのなんのって、水洗いでは全然綺麗になりません。有機溶剤系の洗浄剤で洗浄するとコンデンサ自体が溶けてしまいますのでこの系統のコンデンサは全て交換したくなります。(最終的には殆ど交換しました。)
 不思議なのはこれだけ破壊されているのにチャンネル、ボリュームなどのつまみは揃っていますし、短い足も4本ちゃんとあります。外観が綺麗なのはどこかでインテリアとして展示されていたのかもしれません。

 いずれにしても回路図が無いとちょっと手出しできそうにありません。


 それから半年ほど放って置いたのですが、2001年になってから奇跡的にも回路図を入手できたのでレストア再開しました。

 動作しない直接の原因は垂直同期回路部分の部品が外されてめちゃくちゃになっていました。プリント基板上のMPコン、ペーパーコンは全て外し、掃除してから新しいコンデンサに交換しました。セラミックと電解コンデンサ、抵抗は一部を除いて掃除するだけでそのままです。+B電源はAC100Vを倍電圧整流して230Vを得ているのですが、そこに入っている電流制限抵抗?の4Ω5Wの巻き線抵抗が断線して並列に巻き線抵抗が追加されており、これが非常に発熱して発煙の原因となっていました。8Ω10Wのセメント抵抗を2個並列にして交換したのですが(左下写真の左立てフレーム中央付近にある白いブロック)それでも非常に過熱します。(約100℃、室温25℃) 元々の設計が悪いのか、どこか故障しているためか不明ですが、見た目は正常に動いているのでこれで使っています。

 左図は同期信号から垂直同期成分を取り出し垂直同期発振器に注入同期をかける部分の回路図です。中央のZ101は見たことの無い記号(抵抗にアースが付いている?)の上、取り外されてどんな部品か分かりません。動作としては垂直同期成分を取り出すためのフイルタの筈ですから、適当にC,Rでローパスフイルターを組んで代用してところうまく動作しました。

 以上の修理で表示が出るようになりました。交換した部品費用は数千円ぐらい?。
 ケースはコンパウンドで磨いて適度に綺麗にしました。裏面パネルだけは裏に真空管配置図などが貼りつけてあるので、エタノールで拭く程度で止めておきました。
 しかし、真空管製品は何でも重いです。これも高々10インチのテレビなのに13kgもあります。

 今は見なくなったこのTVのロータリーチューナー(ガチャガチャチャンネル)に使われている5M−HH3(右端)と3D−HH13です。5M−HH3は通常の双3極MT管ですが、3D−HH13はシールドケースをかぶったSubMT管?です。006P電池の隣はシールドケースで中に中央の双3極管が入っています。真空管技術者の最後の意地のような球です。


12.鉱石ラジオ




 昭和初期に作られたと思われる鉱石ラジオです。アンテナコイルはスパイダーコイル、バリコンはエボナイトフレームの大正時代の型式です。検波器は固定型のFOXTONが使われています。鉱石ラジオ定番のコイルタップ切り換えはありません。チューニング用のつまみはベルベットダイヤルからの流用のようですし、綺麗なアンテナコイルにタップの引き出しが無いところから推測すると、真空管ラジオから部品取りして製作したように思われます?正面右側の端子がアンテナとアース、左側の端子がレシーバです。レシーバにはテレフンケンのEH333をつないでみました。受信感度ですが、SG入力で70dBμから信号を確認することができました。
 部品は全て箱の内部に納めてあるため、デザイン的にはつまみの付いた箱です。蓋をすると何なのか分かりません。どうも私はこの手のデザインに縁があるようです。蓋で密閉されていたため、中の部品は極めて程度の良い状況が保たれています。


 付属していた固定鉱石検波器です。レシーバで聞いた感じでは現在のダイオードと違いは分かりませんでした。ネコひげ型の鉱石検波器は非常に不安定と聞いていましたが、固定型のこれは非常に安定しています。(分解したらゲルマニウムダイオードが入っていたりして?)
 そのうち特性を測って見る予定です。