‘かつ’がSF初心者に推薦するSF ベスト・オブ・ベスト


作者          
 題名          
発売元   
最新邦訳発売度
トム・ゴドウィン      冷たい方程式       早川書房  1980
レイ・ブラッドベリ     火星年代記        早川書房  1976
イアン・マグドナルド    火星夜想曲        早川書房  1997
ジェイムズ・P・ホーガン   断絶への航海      早川書房  1984 
フィリップ・K・ディック  ヴァリス        東京創元社 1990
デイビッド・リンゼイ    アルクトゥールスへの旅  サンリオ  1980
アーサー・C・クラーク   幼年期の終り       早川書房  1979
グレッグ・ベア       ブラッド・ミュージック  早川書房  1987 
コリン・ウィルソン     賢者の石         東京創元社  1971
オーソン・スコット・カード エンダーのゲーム     早川書房  1987
ロバート・A・ハインライン 異星の客         東京創元社  1969
フレデリック・ポール    ゲイトウエイ       早川書房  1988
アイザック・アシモフ    鋼鉄都市         早川書房  1979
バリントン・J・ベイリー  ロボットの魂       東京創元社  1993
アーシュラ・K・ル=グィン  闇の左手         早川書房  1977
アン・マキャフリー     歌う船          東京創元社  1984

     各作品と作者の解説(‘かつ’の勝手な思いこみ。順序は順位とは無関係です。)
 
1.
「冷たい方程式」の作者ゴドウィン(故人)の名は余り知られていないです。しかし、この作品だけは、時代を超え、永遠に生き残るであろう傑作短編。
他の著名作者のものと合わせた同名タイトルの短編集で出てます。本作は、一人乗りの宇宙船に密航した少女のお話。

2.
「火星年代記」の作者、SFの叙情詩人ブラッドベリは、かつが大好きな作家です。ポーなんかと似たところがあります。
映画の原作では「華氏451度」(原作題名同じ) は、つとに有名ですね。焚書のお話ね。
本作はブラッドベリ作品の中では数少ない長編。散文詩的な美しい文体で語られる、開拓者の物語。
ブラッドベリは、何故か普通小説として(早川文庫NV)扱ってるので、買う時には注意してね。

3.
「火星夜想曲」は「火星年代記」の現代版と言った趣。ストーリー・テリングはこちらの方が巧みかもしれません。
新人作品だけど、きっと歴史的作品になるであろうという勝手な期待を込めて、あえて取り上げました。
ブラッドベリの衣鉢を継ぐ人が出てきて、かつはとても嬉しいので。

4.
ホーガンはいわゆるハードSFの最近の旗頭。基本的にはエンターティエメントだけど、割と政治的な話も多くあります。
「断絶への航海」は著者の持論である、無政府主義的な自由と人間性の原点を扱った作品です。
本作品は、DNA合成された、人間の両親を持たない子供たちが作った人類の理想社会のお話。

5.
「ヴァリス」の作者ディック(故人)は、映画「ブレードランナー」の原作者(原作題名は「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」) として特に有名です。
(但し、あの映画は原作とは似ても似つかない物だったけどね。)
「ヴァリス」は彼の作品の中では異色のもので、著者の神学論を扱った異色作です。宗教とSFが常に相反するとは限らんのよ。
続編が二つあって「ヴァリス三部作」と呼ばれていますです、ハイ。
哲学的作品なので、かなり難解であることは否めませんが、カミュなんかが好きな人には受け入れやすいと思います。
 
6.
デイビッド・リンゼイ(故人)は今世紀初頭の人で、この作品以外は知られていない。(かつは他に知らない)
実はこれ、私の恩師の翻訳。
残念ながら絶版(と言うか、サンリオSF文庫が廃刊になった)だけど、かの文豪コリン・ウィルソンをして、“今世紀最高の傑作”とまで言わしめた作品。
アルクトゥールス恒星系への旅を通して語られる、実存主義的なロジックが読みどころでしょうね。
現代の目で見ればSFと言うには“サイエンス”では無い。ファンタジーと言っていいでしょう。
それでも、SFの文学としての可能性の高さは、この作品が示した、と私は信じているのだ。
ただし、かなり難解な文章であるので、心してかからねば。

7.
アーサー・C・クラーク卿は、映画「2001年宇宙の旅」の原作者(原作題名同じ)としても有名。“サー”の称号を持つ、数少ないSF作家。(他にもいますよ)
この「幼年期の終り」は、“現代版の「アルクトゥールスへの旅」だ”と評された作品。
クラークには、ブラッドベリの美しさも、アシモフのアイデアも無いかもしれないけれど、その哲学にはすごい物があるのだ。
この作品は、人類の、人類としての目的がテーマです。
あまたある、この世の全ての文学作品の中で、20世紀の最高傑作を一つ挙げろと言われたら、かつは、迷うことなくこれを推します。
もし、この一冊を読んだことがなかったら、それは人生の損失です!

8.
次の「ブラッド・ミュージック」は“現代版の「幼年期の終り」だ”と評されたのだから面白いですね。
著者のベアは、どちらかというとエンターティエメント寄りで、この作品は少し他の書とは異なるようです。
分子生物学者が作り出す、新しい人類の形、がテーマと言えましょうか。

9.
コリン・ウィルソンを知らない読書家はあまりいないであろう、いわゆる文壇の大家です。新実存主義哲学とオカルト(白魔術)で有名です。
映画では「ホロコースト」の原作者。ナチスの虐殺のお話ね。この作品「賢者の石」もオカルト的要素と実存主義的な趣があります。
ちなみに、先に紹介した私の恩師は、コリン・ウィルソンの研究で世に知られた人です。この作品の翻訳は私の恩師の恩師です。
これも、今の物理学から言えばSFとは言い難い。でも、ファンタジーかと言えばそれも「?」です。
いわば、「超科学SF」かな?

10.
オーソン・スコット・カードの「エンダーのゲーム」はSF文学2大賞、ヒューゴー賞とネビュラ賞のダブル・クラウンを取った作品です。
この一発でカードは有名人になりました。
続編として「死者の代弁者」(これもダブル・クラウン)があり、こちらの方が文学的価値は高いけど、「エンダー」を読んでいないと解らない所があります。
「エンダー」は、いわゆるファースト・コンタクトものと、スペオペ(スペース・オペラ;宇宙活劇)的なものと、少年の微妙な心理を扱った意欲作です。

11.
ロバート・A・ハインライン(故人)は、生涯に4回のヒューゴー賞を受けた大SF作家です。
最近では「宇宙の戦士」が映画化された(映画の題名は忘れた。どっちにしろ「宇宙の戦士」は嫌いです)。
ハインラインと言えば、「夏への扉」を推す人が多いけど、私は必ずしもあれを推薦しません。
本作、「異星の客」は、ジャンル的にはESPものだけど、独自の唯我論哲学が強烈な主張です。
似たテーマの作品に「月は無慈悲な夜の女王」、「ウロボロス・サークル」、「悪徳なんか恐くない」、「ヨブ」等あります。
ハインラインは典型的なストリー・テラーであって、物語の面白さでは抜群。しかもいくつかは文学的なものもあります。
但し、彼の作品にはジュヴナイル(=良い子のためのお話)が結構多いんだよね。「宇宙の戦士」もそうだし。

12.
フレデリック・ポールはダブル・クラウンを受賞した本作「ゲイトウエイ」シリーズ(今の所1〜4)で名をはせました。
所謂、ファースト・コンタクト物ですが、ひょんな事から成功を収めた宇宙飛行士の狐疑逡巡と葛藤がテーマです。
深層心理学的な考え方を扱った、珍しいSF。

13.
ロボット物といえばこの人、Dr.アシモフ(故人:理学博士)。クラーク、ハインラインと並ぶSF御三家の一人です。
彼の考案になる“ロボット三原則”はあまりにも有名。映画化されたものでは、「ミクロの決死圏」はメガ・ヒットしました。
「鋼鉄都市」はアシモフのロボットものの代表作です。
この作品は、SFとミステリを融合させた作品として名高いです。
幾つか同じシリーズ物があって、続編として「裸の太陽」、後の短編集に「聖者の行進」等。ロボット物としては「私はロボット」が最初かな。
「くるったロボット」って題名で、この作品のジュヴナイル版を、小学校の図書館で読んだ事がある人もいるでしょう。
他に「銀河帝国興亡史」シリーズ(1〜7、但し4〜7は前後編ある)なんか独特な味わいがあります。
これとロボットものを繋ぐ作品に「ロボットと帝国」なんてのもあります。
短編では「夜来たる」がいい。アシモフはわりとサクサク読めるので、SF初心者には特に推薦します。

14.
バリントン・J・ベイリー、知らない人の方が多いでしょうな。賞も取ってないし・・・この、「ロボットの魂」は文明を半ば失いつつある未来が設定されています。
アシモフの後追いをする若い作者連中とは一線を画し、ロボット三原則にとらわれず、堂々たる自分の「ロボット」を描いています。
本作品のテーマはまさしく題名そのもの・・ロボットに魂は存在し得るか? 続編に「光のロボット」があります。
但し、これは全くサイエンティフィックではないので、ハードが好きなら止めた方が良いでしょう。

15.
ル=グィンは、別にSF専門では無いという事を、最近になって初めて知った私。
友達に推薦された本(一般ジュヴナイル)がル=グィンの作だったので、すごくびっくりしてしまったんです。
「闇の左手」はSFとしての彼女の代表作。異星において、その土地に適応した人類の、未来のセックスを扱った作品です。
厳密に言えば、サイエンスでは無いかも知れないが、詩的な情景描写、卓抜したアイデア、美しい文体で、叙情的な雰囲気たゆたう本作品は、ダブル・クラウンに輝いきました。

16.
SFというと、読みにくいと思っている人が結構いるようです。
ジュヴナイルやスペオペがSFだと思っていたり、逆にやたらとサイエンティフィックな説明の多い物を連想したりね。
確かに、クラークなんかは、30年も前の作品が特殊相対性理論を自明の事として扱っているし、長いので有名な「宇宙英雄ローダン・シリーズ」(シェール他)はスペオペだしね。
そんな“SFアレルギー患者”に薦めるのがアン・マキャフリーの「歌う船」です。
彼女は、このシリーズ以外では、ファンタジーが得意ですが、これはちゃんとSFです。
奇形児として生まれた少女が、宇宙船に移植され、宇宙船を自らの肉体として生きるお話。


 
その他のSFよもやま話

話のついでにお話しておきますと、さっき書いた「ローダン・シリーズ」は長さでギネス・ブックに載ってます。
あんまり長いんで作者は途中で死んじゃって、何回か作者が代わってるはずです。
一生かかって読みたい人はどうぞ。何せ、まだ終わってないはずだし。今は、250巻ぐらいか?

やたらとサイエンティフィックなのが良ければ、J.P.ホーガンの「創世記機械」なんかすごいです。
量子論的な“スピン効果”を多次元空間に適用して、重力を説明してたりする。一瞬、真実かと思うぐらいの迫力です。
文学的にはこれも「ローダン」もどうって訳じゃない。でも、文句無く爽快な読み物ではあるし、実際面白いのです。

ホーガンの政治哲学も独特。
彼が言うには、結局のところ、人類の繁栄と平和を導くものは知識の獲得と活用であり、科学の自由な発展と拡散こそ、それを可能にする唯一の手段なのだそうです。これ、ある意味で共感するところがあります。

これと似たような、いわゆるハードSFでは、「重力の影」(作者失念) も結構すごい。たしか本職の物理学者が書いていた筈。超ひも理論を拡張したようなお話です。

本職といえば、本職の医者が書いたのもあります。ロビン・クックの本なんざ医学用語、薬学用語のオンパレードで目が回ります。
ついでに言っとくと、かのマイクル・クライトンも医学博士です。だから「ジュラシック・パーク」みたいな本を読むと、DNA合成の話がやたら詳しかったりするんです。
彼の作品では「アンドロメダ病原体」がSFファンの間では有名だけど、私は「スフィア」が良いと思ったな。
文学的にどうって訳じゃないけど、面白いです。ハードSFってのは、SFらしいSFだわね。

でも、SF=“サイエンス・フィクション”とする必要は必ずしも無くて、“スペース・ファンタジー”とゆう言葉もあるのです。ブラッドベリなんかその代表格だけど、ミヒャエル・エンデ (ネバー・エンディング・ストーリーの作者) の「鏡の中の鏡」もそれに近いと言えるんじゃないかな。

ファンタジーって言うと、ジュヴナイル(子供向け)みたいなのを思い浮かべるかもしれませんけど、別に妖精や竜や魔法使いが出てくるのだけがファンタジーではないのです。
所謂、ESPだって、言ってみれば魔法ですからね。
ラリー・ニーヴンなんて人はハードSFでダブル・クラウンの「リング・ワールド」が有名だけど、ニーヴンの作品にも「魔法の国」シリーズなんてのがあるんですしね。
ファンタジーとサイエンスの境界みたいな、きわどい所では、ロシアの大SF作家、スタニワス・レムの書いた「ソラリスの日のもとに」が、映画化されて大ブレークした事がありますわね。
・・・と言うわけで、みんなでブラッドベリを読もう!

SFをサイエンスフィクションに固定するとしたら、社会科学はどうなるのか?これもサイエンスには違いない。例えば、政治的なものも結構あります。
推薦に挙げたホーガンの作品で、「終局のエニグマ」とか、コードウェイナー・スミスの名作「鼠と竜のゲーム〜人類補完機構シリーズ」とか。ブリンもあるか。
ヒューゴー賞作品では、ロジャー・ゼラズニィの「光の王」は仏教哲学を元に開放を叫ぶ作品です。
コードウェイナー・スミスは結構好き嫌いが分かれます。元々、外交官だけに政治的な知識は豊富で主張も明確。
でも、この人の唯一の 長編「ノーストリリア」なんか結構、むかついたな。

長編と言えば、最近はどの作者も長編に力を入れていて、昔の長編なんざ中編になってきました。
そんな中で、しつこいまでに短編を書き続けている人も、いる事はいます。当たり前だけど短編の読みたい人もおるしね。
お薦めはジェイムズ・ティプトリー・ジュニアが割とよろしいかと思います。短編集「老いたる霊長類の星への賛歌」なんか特に良かった。
男みたいな名前だけど、じつは女、実験心理学者です。この人が女だと解ったのは、もう20年も前になりますか。
歴史的な衝撃でした。

歴史といえば、SFの歴史的作品というのがある。ジュール・ヴェルヌなんか先ず思い浮かぶね。「海底二万里」の原潜ノーチラス号は有名ですな。潜水艦って物はヴェルヌの発明したもんらしいです。19世紀半ばに、こんな事考えるだけで凄い。あんまり知られてないけど、続編で「謎の神秘島」ってのがあります。

発明といえば、たしか原爆もSFが最初の筈。題名は忘れたました。
ご存知のとうり、アメリカではスペースシャトルにSF映画の宇宙船の名前をつけるぐらいだから、あんなの読んで「できる」と思うマッド・サイエンティストが居るんだろうなー。

ほかに歴史的に有名なのではA.E.ヴァンヴォークトですね。
「宇宙船ヴィークル号の冒険」が有名だけど、私は「非Aの世界」(ナル・エイのせかい と読む)には中学時代にハマリました。
どうでもいいけど、非Aの世界で言っていたことが、場の量子論の発展と共に、本当になって来たと思うのは私だけ?
科学はSFの後を追いかけている、と迄は言わないが、やっぱり「想像」こそが「創造」のはじまりなんじゃないかなー。

歴史的なものでは、H.G.ウェルズの「宇宙戦争」も外せないでしょうね。
オーソン・ウェルズが吹き込んだ英会話教材の宣伝で、よくこのお話について書いてあったので、ご存知の方も多いでしょう。
少女漫画雑誌の「花とゆめ」でよくこの宣伝を見たな。

今思い出したけど、歴史的なSFでカレル・チャペックの「山椒魚戦争」ってのが、確か最近、また新しい翻訳で出たんじゃなかったかなー。
これは、ナチスに占領されたポーランドでナチスを皮肉った様なやつだったように記憶しています。社会科学の古典か?

他に歴史的なやつではサー・アーサー・コナン・ドイル。みんな「シャーロック・ホームズ」で知ってるけど、SFも沢山書いてるんですよ。
「ロスト・ワールド」とかがある。同じ題名でクライトンが書いてますね、映画になったやつ。
ドイルのも恐竜もんだから、クライトンはこれからとったんでしょうな。
ああ、話が終わりそうに無い......Never Ending Story.....

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Last up date 16th/Feb/2002