プリアンプ

 
これの原型は1988年に作っています。それを3年ぐらいかけて熟成させています。一度は完全に基板を作り直しました。
そのおかげで長い使用に耐えるモノになったと思っています。



全体の構成

ブロックダイアグラムを示します。CRイコライザーをもち、ハイゲインのMCヘッドアンプとEQ増幅段、フラットアンプで構成しています。

RECセレクターは、最近のMJ等の設計では見ませんが、私はあった方が便利だと思います。


RIAAイコライザーの規格は、時定数が決められています。T1=75μsec、T2=318μsec、T3=3.18msecです。
アマチュアの自作記事には、しばしばその振幅特性のカーブが出ていますが、本来これは位相(群遅延)特性も含んだモノですから、振幅曲線から決めるなんて、ナンセンスです。

CRイコライザーの設計はこちらです。



信号増幅回路

回路構成は2段コンプリメンタリ対称型差動回路で、全段カスコードブートストラップ接続です。エミフォロは無しですから、極端に重い負荷はドライブできません。

部品表はここです。

初段は超Hi-gm FETを使っていますが、負荷抵抗を小さくして、仕上がり利得の割には裸利得を稼いではいません。全体に抵抗値は低めになっています。従って全体のNFB量は少な目です。

2段目に低耐圧のTrを使って、カスコードで耐圧を稼いでいます。高耐圧のTrよりも、総合的な特性はずっと良くなります。
一般に、低耐圧のAF用Trはニー特性に優れ、高いhfeを持ち、電流とhfeの直線性が良いものが多いです。

また、カスコードにして位相補正をすることで、最低ポールが明確になります。
Cで音が変わることはよく言われますが、技術的に見て半導体の接合容量ほど低品質のCはありません。歪みが多く、電圧で容量が非線形に変化します。(真空管の電極間容量はこれよりずっと優れています。)

2段目の電流帰還は多めで、ゲインを小さくしています。従って、局部帰還によりこの段の線形性は改善されますが、逆に差動アンプとしてのCMRとかは低くなります。
2段目の差動動作なんか、まず期待できないでしょうが、こうすることで初段の差動バランスが高域までとれてきますし、電源から見たインピーダンスが高くなって、変動に強くなります。

すべての Tr は、ほぼ完全な差動コンプリペア(つまり4個一組)をとっています。D1とD2もペアを揃えました。
たくさん買い込んで選別すると、意外に無駄が出ませんでした。但し同一ランク品を使っていますが。

プリにしては電源電圧が高いですが、何故か電圧が高い方が結果は良かったです。IM3rd は有利になります。他にも理由がありそうな気がします。

調整方法は、VR2でR7,12の電圧降下を調整して、初段及び二段目の電流を合わせます。MC Head amp は6V、他は2Vにしました。
VR1,3で2段目のコレクタ電位が正逆共に0V付近になるように調整します。これを繰り返し行い、1時間ぐらいしてもう一度調整します。

EQ amp とヴォリュームがDC直結です。従って、この段のDCバランスを厳密に取らないと、ヴォリュームの位置によりショックノイズになります。
製品だったら絶対に許されないことですが、アマチュア精神を発揮してみました。

調整のこつは、“あせらない”事じゃないでしょうか。お金よりも、時間をかけられるのが自作の良い点だと思います。


定電圧電源回路、保護回路

こうやって改めて見ると、なんとも大袈裟と言うか、すさまじいと言うか、凝った回路になっていますよね〜。しかし全ての部分に理由があります。
補強材の重さを支えるために別の補強材を付ける発想と言えなくもないですが、私の試した中では良い結果を得ています。

部品表はこちらをご覧下さい。

定電圧電源を2段シリーズ接続した形で、2段目定電圧電源の誤差増幅器の電源をCRDとZDで別にしてあります。
一次側の変動の影響を受けないためで、いわば対アース増幅です。

整流回路は、全て独立巻き線から取ったブリッジ整流で、プラスとマイナスが独立トランス、EQ前と後が独立巻き線、独立電源です。
このため+と−を同じ回路に出来ます。当然、+と−のレギュレーションを等しくできます。

誤差増幅器はカスコードにしてあり、ゲインは小さめです。従ってDC付近のインピーダンスは低くありませんが、代わりに高域のインピーダンスは低く、広い帯域で一定になります。

この回路の出力のCは、高域インピーダンスを下げるためではなく、最低ポールをここで確定し、過渡応答を最適化するためです。

定電圧は誤差増幅器を持たないシンプルなものと誤差増幅器付きの二段構えです。これには三つの理由があります。

まず、前置定電圧を入れることで2段目の電源の動作がシンプルになります。

電解コンデンサは容量の大きなものほど低い周波数からインピーダンスが上昇します。
つまり、出力の制御Tr(エミッタフォロア動作)が、高域で利得を持つ可能性があります。また、電圧の変動はその利得を変化させます。
だから誤差増幅した電源の前を定電圧化すると、電源の安定度が増すのです。電源性のパルス雑音耐性も高くなります。

もう一つの理由は、これが主たる理由なのですが、後ろの定電圧電源に使った制御Trの特性にあります。
制御Trに求められる特性としては、低電圧、大電流動作ですから、hfeの直線性が良くてニー特性の良い、つまり低耐圧大電流Trの方が向いています。
使用したTrの耐圧は25Vですから、そのままでは耐圧が足りません。これはブートストラップ接続の手もあると思います。

三つ目は、何となく「アンプの中の全てをカスコードにする」ってのに拘ったこともあります。要するに、洒落です(^^;)。

制御出力はP-P動作ですが、この効果は簡単な実験で確認できます。
この電源の負荷としてコレクタに抵抗をつないだSW Tr を入れ、方形波を入力します。
その時の電源出力をFFTして見ると解ります。音質的には滑らかになる傾向のようです。

尚、Tr5 とTr8、Tr15 と Tr18 は熱結合しています。平らな面同士をエポキシで接着しました。

ダーリントン一段目のエミフォロにもある程度の電流を流さないと、高周波特性が乱れます。
無用なポールを作ると、定電圧電源というものは簡単に発振します。(オシロなどでは見えないことが多いですが。)

そもそも、私の見るところ、不用意に設計された誤差増幅を持つ定電圧電源は、すべからく発振しています。かなり高い周波数で、しかも出力に大きなCがあるために電圧振幅レベルが低く、オシロ等では見にくいのですが、スペアナで見れば確認できます。

逆に言えば、出力に大容量のCがあっても発振振幅が確認できるというのは、電流振幅が相当に大きいことを示しています。

これに関連して付け加えると、いわゆる三端子レギュレーターというやつは、オシロなどの測定器に使われることはほとんどありません。発振するからです。
一次側と二次側に小容量のパスコンを入れるとマシになりますが、完全とは言えません。

同じ理由で、誤差増幅器の能動負荷も、容易ではありません。

誤差増幅器の能動負荷に関して言うなら、誤差増幅器をカスコード接続にした上で、能動負荷にCをぶら下げて、こちらを第一ポールにするという手もあるかと思います。
但し浮遊容量に伴う問題には疑問が残ります。試してみないと解りませんが、可能性はあるでしょう。(下図C)
誤差増幅器の電流値は、かなり多めに設定する必要があります。出力のCが大きすぎると不安定になります。
  図C 理屈では安定な能動負荷の電源回路例

出力にリレーを使った保護回路が入っていますが、リレーはノーマリオンタイプです。従って、出力にパラに入ります。
リセットICは何でもOKです。私の使ったものは入手困難と思いますが、5V基準で動作するタイプです。
R22、R23及び C20で時定数を決めています。
R22、R23で決まる分圧比を検出電圧とします。電源電圧を検出して、一定の電圧以下ならオフする、ただそれだけのことです。
ディスクリートでもできますが、パワーオフ時に、C20を素早く放電する回路が必要です。頭の体操に、考えてみては如何でしょうか?

整流にはSBD(Shotkey Barrier Diode)を使っていますが、これを使う場合には、耐圧には くれぐれも注意が必要です。
SBDは簡単に飛びます。しかも、大抵は耐圧が低いです。
はっきり言って、自作向きとは言えないでしょうね。30DF4等のFRD(Fast Recovery Diode)の方が作りやすいでしょう。

ツェナーのランクが揃っていれば、電圧調整の必要はありません。


実装

定電圧電源は、誤差増幅をリモートセンシングしています。

各増幅段は別の基板に載せ、L/Rを上下にしています。電源のセンシングポイントをその中間に持ってきています。

各増幅段の基板はパワー・バスを用い、基板上の電源/アースのインピーダンスの上昇を逃れています。

GNDラインの引き回しは、これで音が決まると言えるぐらいに重要です。昔から「グランドを征するものはアンプを征す」と言います。
プリミティブな話としては;
電源GNDと信号GNDを分ける、シールド線のコールドは出力側のみを落とす、シャーシアースには入力で落とす、といった事が挙げられます。
但し、GNDが大きなループにならないように。(発振します)

私は、ボリュームからFLATアンプ入力間のアースラインをCカップルでつないでいます。S/Nに違いが出ました。

なお、シャーシには銅板を全面に張り付けています。(理論的には)磁気歪みに有効ですが、実際の効果は不明です(^^;)。
ただしこうすると、振動には有利みたいです。

雑音特性は言うに及ばず、音も実装で決まる部分が多いです。
それだけでも、研究してみると面白いと思います。自作の醍醐味です。

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