真空管によるフォロア


いわゆるフォロア −正しくはヴォルテージフォロア回路− についてお話しましょう。

先ずは、フォロアの定義から。
フォロアとは、電圧利得が概略1である回路、いわゆるユニティーゲインアンプを指します。
一般にインピーダンス変換器として用いられるものです。

最初に注意すべきは、電圧利得が1であるという事と、電圧利得が 0[dB] である事は同じではないという事。
利得が−1(反転回路)であっても対数で表せば 0[dB] ですが、これはユニティーゲインともフォロアとも言いません。

某オーディオ誌で、「プレートフォロア」なる新造語を目にしました。グリッド入力でプレート出力なら、必ず位相反転するので、フォロアとは言えません。(インバーテッドダーリントンならできなくもないですけどね。)

また、「超三極管接続はカソードフォロアである」というトンデモな意見すら目にした事があります。
確かに出力インピーダンスだけで言えば、カソードフォロアと同等です。でも、それなら、普通に出力からNFBをかけてカソードフォロアと同等の出力インピーダンスにすれば全てフォロアだという事になります。

事のついでに少しだけ書いておきますと、超三結Ver1単体で電圧利得は存在しません。
電流→電圧変換利得があるだけです。トランスコンダクタンスアンプなのですから、当然です。
入力インピーダンスが規定されて初めて電圧利得が決まります。
だから、やろうと思えばマイナスゲインにだって出来るのです。

超三結Ver1は等価的に下図-aで表せます。

端子2の入力インピーダンスは、仮にgmが十分に大ならゼロに近くなります。
ですから、入力は電流性であり、極端な例ではgmが無限大と見なせる場合の点2の電圧振幅はゼロです。

この回路で電圧利得なんか考えられないのがお分かり戴けると思います。
これに電圧→電流変換の為のトランジスタを加えたのが同図-bで、トランジスタを加えた総合的な利得は、gmが十分に大きいと仮定すると

    Vo = rp・I
    I = Vi/Re

    今、帰還用三極管に入れるカソード抵抗を rk、増幅率をμとすると、rp ≒ rk・μ  故、
    A= Vo/Vi = rk・μ/Re

で表せます。

出力インピーダンスは、明らかに100%の電圧性帰還であり、終段の利得=gm・RL が帰還されるので

    Z=RL/gm・RL=1/gm  となります。

きっと、これがカソードフォロアに見える人というのは、自分の持つ僅かな知識でなんでも説明できると思ってるんでしょう。

私自身は何でも良く分かっているなどと不遜な事を言う気はありません。私も最初は、分からない点を色々聞いたのです。
つまり問題にすべきは、その姿勢です。毎度書いていますが、科学する心です。

前置きが長くなってしまいました。
フォロアにはいろんな形があります。下の図を見て下さい。

先ずは通常用いられる、極く普通のカソードフォロア 1-a。
勿論、問題無く動作しますが、入力インピーダンスは Ra1//Ra2 より大きくなりません。
出力インピーダンスは、1/gmになります。

抵抗というものは、値が大きくなるほど容量性が強くなるので、この回路で広帯域に入力インピーダンスを大きくするのは限界があります。さらに、電源変動でバイアスポイントが変わります。つまりリップルが分圧されて出てきます。
ついでに言っておきますと、トランジスタ回路ではビデオ帯域等で使われる抵抗値は 10k ぐらいまでが限界です。

これらの点を考慮して、ちょっとだけひねったのが 1-b です。
出力につながる負荷によって入力インピーダンスが変化するうらみはありますが、負荷が軽い場合には入力インピーダンスを高くとれます。何故なら通常 Rk2>>Rk1になるので、Rgにかかる電圧は一定に近く、従って入力インピーダンスが高いのです。
電源リップルに強いのも解るでしょう。

1-c はカスコード・フォロアと呼ばれる回路です。考えようによってはインバーテッドダーリントンとも言えなくもないです。
利得がより1に近いメリットがあります。

また、1-a や 1-b はカソード電流が波形の正側のピークで増え、負側のピークで減りますから、容量性負荷に対して弱くなりますが、この点でも 1-c は有利です。同じ理由で歪みも有利です。
但し、入力インピーダンスが低い事と、バイアスがまともに電源リップルを含んでしまうデメリットは 1-a と同じです。
現在は、まず見かけることの無くなった回路です。
 

下図2は、何だかSRPPに見えますが、カスコードフォロアの変形です。


            Fig.2
 

入力インピーダンスが高く、利得安定度が良く、歪みの少ない回路ですが、高々フォロアにここまでやるのはもったいない感じもあります。まぁ、こんなやり方もありますよ、というアピールです。チャンネルフィルターなんかには好適でしょう。

ここまで述べてきたフォロアは、AC分だけしか扱えません。DCを含んだカタチにするには、マイナス電源を用意した上で、定電圧管等を用いてDCシフトする必要があります。ただ、そうすると利得の減少が大きくなりすぎる場合があるので、その場合にはいわゆるOPアンプ、演算増幅器を作って非反転動作の100%帰還をかける必要があります。

真空管のOPアンプ?と思われる方も多いでしょうが、元々演算増幅の概念自体が、真空管時代に考えられたものであり、真空管のDC-OPアンプと言うのは大昔から存在します。有名なDCアンプのセンセーが最初に作った訳じゃありません。(^^;)
その回路は直ぐに想像が付くでしょう。要するに差動増幅の出力を直流シフトしてカソフォロで出すだけです。

ただ、個人的には、オーディオ回路に関して言えば、そこまでする必要性は疑問に思います。
直流が聞こえるという方が、もしいらっしゃれば、どうぞやってみて下さい(^o^;)。

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