音質の主観評価法 −ブラインド・テスト−




かなり以前の事ですが、故・武末数馬氏がブラインドテストについて触れ、その方法と結果から、「良く出来たアンプでは、聴いて違いが分からない・・云々」と言った記事をラジオ技術誌に書いて、物議をかもした事がありました。
最近、武末氏の本が復刻しているので、もしかしたら新たに目にした方もいらっしゃるかも知れませんね。

残念ながら、武末氏は根本的な理論を理解せずに、どこかで方法論だけを聞きかじったらしく、一番肝心な所で間違っていましたが、しかしながらブラインドテストという本質的かつ重要な問題について、専門紙が無視し続けた(残念ながら今でも)事を考えると、その功績は多大であると思います。

事実、当時の記事で、だれもその誤りに言及しなかった事を見ても、それらの専門誌のレベルが解ろうというものです。
(はっきり言って、この種の専門誌だって笑っちゃう様な内容もそう珍しく無いんです。)

ここでその数学的な理論と解析手法について述べるのは、これを読む方々に相当な無理を強いる事になります。
確率論を大学で学んだ方以外、ちょっと無理な内容ですし、私も既にかなり忘れている(^^;)から。
(仮りに書いたとしたって、誰も分散分析表を作って計算して・・・なんて事はやらないでしょ?)

そこで、武末氏がやろうとした(けど間違えた)A〜B比較切り替えテストの、正しい方法だけを記すに止めます。
ここに示す方法は、某国営放送の技術研究所が開発したものです。

5段階とかで比較評価する方法(シェッフェの方法)もありますが、計算処理がものすごく大変ですから、ここでは触れません。実は、このブラインドテストだけでも一冊の本になるぐらい大変な内容なんです。


先ず、オープンの状態で聞き比べた上で、違いが解りそうなソフトを用意する必要があります。
例えば極端な話、正弦波を聞き比べたって、分かる訳がないでしょう?
或いは、オープンの状態で聞き比べて、どうも高域の伸びと透明感に違いがありそうだと思ったのに、コントラバスのソロで聞き比べるのもナンセンスでしょう。
武末氏の実験の誤まりは、まずここにありました。

次に、ゲインを揃えなくてはいけません。音の大きさが重要である事は、マニアなら先刻ご承知、誰しも経験済みですよね。

そして試聴。仮に、20回(20曲)試聴して、95%の確率で有意差がある正答数は15回です。(まぐれでも10回正答します。)
つまり、15回正しく判定できれば、確かに違いがある確率が95%と言う事です。

尚、試行が40回なら、同じ確率で26回、試行回数が50回なら正答数32回で有意差ありです。

これはどういうことか?試行数nが適当に大きければ、
の正規分布で近似できますね。
95%の確率で差があると認めるためには、実験結果の確率 p' が
p' = p0+ 1.96σ で有ることが必要です。(p0=0.5;二者択一なので。)

40回ぐらいやった方が正規分布に近いので、間違いは少ないだろうと思います。
普通の人は、実験方法の間違いも多いでしょうから、不確定な要素を減らした方が良いんじゃないですか。

論文とかで、より一般性を持たせたいなら、三人以上の被験者が必要です。この場合、上述の回数は一人一人数えます。
つまり、一人 20回やったから、二人なら 40回で有意差判定は 26回とはいかず、やっぱりひとりづつ 15回です。

もちろん、趣味で自分が解れば良い、というのならそんな面倒なことは必要ありません。一人でやればよいです。

あらかじめ決めたランダムな順序でA→A、A→B、B→A、B→Bのどれかに、被験者以外の人物が切り替え、被験者が判定します。
各々の回数は同じ(つまり、全部で20回なら5回ずつ)にします。

切り替えは専用スイッチとかを用いて、スピーディーに行います。普通は15秒の試聴、5秒の休憩といったところ。

ここで間違ってはいけないのは、二者択一方ではAであるかBであるかを当てたかどうかは関係無い、と言う事です。
判定基準は、音が同じであったか、違ったか、です。武末氏はここでも間違えていました。

何故なら、前者はAとBの違いではなく、「どれだけその音を憶えていたか」を判定しているに過ぎないのです。
音の記憶力ではなく、違いを見ているのだから、例えばA→Bと切り替えたのに、B→Aと判定しても、この場合は正しく判定した事になるのです。

二者択一で全部間違える確率は全部正解する確率と同じであり、統計上の有意差となります。
(解り難い?申し訳ない、他に上手く説明出来ないんです。)

一曲の試聴時間は15秒程度です。あまり長いと、記憶に頼る部分が増えて曖昧になります。

当然、比較は同じ部分でなくては意味が無いので、DAT又はCDR (MDは不適当)で、違いが良く分かる同じ部分を、2度繰り返し録音したソースを使います。
Phono EQ.付きのプリアンプの試験には、専用のレコードを使うしか無いでしょう。

地味な内容の御精読、感謝します。

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Last Up date 2001/2/10