西インド諸島の小さな島国、
タークス&カイコス諸島
産業も無いに等しいこの国のプロビデンシャレス島に、1980年頃から一頭の小さな野生のイルカが現れるようになりました。基幹産業だった塩田が廃れ、細々と漁業を続けていた島民たちが観光開発に乗り出そうとしていた、そのちょうど転換期ともいえる時期です。漁師たちの船に近づいては船尾にじゃれついたり、浜辺までやって来ては子供たちと泳いだり…、餌を与えられたわけでも、湾に閉じ込められたわけでもないのに、無心に人間と交流を求める野生のイルカ。いつしか「JOJO」(ジョジョ)と呼ばれるようになったそのイルカの姿は、島民たちの自然保護の意識を目覚めさせてゆきました。

1986年、当時ダイビングインストラクターをしながら旅を続けていたアメリカ人の青年、ディーン・バーナル(1962年カリフォルニア生まれ)は、人間と泳ぐイルカがいるという話を耳にして、「タークス&カイコス諸島」にやって来ました。毎日毎日外海まで泳ぐディーンに、JOJOはは少しずつ近づくようになり、いつしか肌が触れ合うほどの距離で泳ぐようになったそうです。ディーンが確認したところによると、JOJOはタイセイヨウバンドウイルカのオスで、体長約2メートル、推定13歳(87年当時)。

ディーンはJOJOと急速にコミュニケーションを深め、1989年、国から公式に「JOJOと海の環境の保護監視員」に任命され、その後「JOJOドルフィンプロジェクト」を設立。
「イルカと人間」という異種間コミュニケーションのスペシャリストとして、現在はJOJOとの交流で得られた様々な情報についての講演活動を始め、リサーチ、保護活動などを世界各地で行っています。

ディーンは、JOJOとの交流関係において、いつもJOJOのリード型であることを重視しました。餌を介した飼育されたイルカと違って、野生イルカの場合それがいかに大切かを、彼は知っていたのです。JOJOの意思を尊重し、ボディーランゲージやハンドシグナル、テレパシーなどを使ったコミュニケーションをはかることで、ディーンはその日のJOJOの状態をチェックし、記録します。またJOJOが浜に来ない日も、目撃された地点やその時の状態など逐一ディーンに無線で報告されます。日々の記録ノートは今や膨大な量にのぼり、それが野生イルカを知る上で貴重なデータとなっているのは言うまでもありません。
もちろん、それらチェックだけでなく、JOJOとディーンは様々な遊びを楽しみます。時にはいたずら好きのJOJOがバラクーダやザトウクジラなど、海の友達を連れて来てディーンを驚かせることもあるそうです。また逆に、ディーンが陸の友達を紹介することも珍しくありません。そんな時、JOJOはソナーという超音波を使って相手がどんな人物なのかを観察していきます。自分勝手だったり、外見と中身がちぐはぐだったりすると、たちまちプイと背中を向けることだってあるのです。

ディーンがサメに襲われそうになった時、JOJOが体当りで守ってくれたり、JOJOがモーターボートによる事故でわき腹に重症を負った際に、ディーンからの抗生物質の投与をおとなしく受け入れたり…。そういった通常では考えられないようなエピソードも、二人の絆の深さを示しているのです。そしてそれは正に、人間やイルカといった種族を超え、言葉を超えたコミュニケーションに他なりません。

ディーンはこう語っています。「僕とJOJOとの関係が特別なものではなく、誰もがどこででもイルカと友達になれるんだということをわかってほしいのです。そうすれば、きっと意識の変化が起こるでしょう。
大切なのは、こうした話に耳を傾けるかどうかです。イルカたちは人間に自分自身のことを教えてくれます。そして心を開いて彼らと交流できたら、きっと全ての動植物とのコミュニケーションの過程も、ずっと早く進むでしょう」

タークス&カイコス諸島では、ディーンの働きかけもあって、人々の間で「JOJOの棲む島を美しいままに守ろう」という気運が高まり、JOJOに餌を与えたり、追い回すことを禁止するのはもちろん、彼を探す目的で人を乗せ船を出したりすると、その場で船舶免許を剥奪するという、厳しい保護法を制定、更にJOJOを国宝として、国のシンボルにしたのです。

JOJOも、今ではすっかり大人になりました。2003年現在、体長約3メートル、推定29歳(バンドウイルカの寿命は50年位と言われています)。子供の頃ほど人間とは遊ばなくなったと言われていますが、相変わらず自由にのびのびと過ごしているそうです。エメラルドグリーンの美しい海から、ちょこんと背びれを覗かせて、楽しみさがしの天才ぶりを今日も発揮し続けていることでしょう。

今、「地球という星を大切にしよう」という気運が世界中で湧き上がっています。そして、地球上の全ての生命との共生が求められてきています。
地球の70%を占める海、その海の小さな小さな島から、JOJOとディーンは、大切なものは何かをそっと教えてくれているような気がするのです。
     

   イルカのジョジョに「スクリューは危ない」と教えているディーン・バーナル氏    海の中で回転して遊ぶイルカのジョジョとディーン・バーナル氏    JOJOに友人を紹介するディーン氏  
 


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