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シャワーを浴びて出てきた三蔵は、自分と入れ違いで出て行った八戒がまだ髪紙をかわかさずに外を眺めているのを目に留めて、苛立ちを覚えた。
今は夏だからそれでもいいかもしれないが、これが秋が深まり冬になっても同じことをしていたら、完璧に風邪を引いてしまっているだろう。
「何をしている」
苛立ちを隠さずに言葉に乗せて、早くどうしかしろと責めてみても、やはり八戒は何とも思わない様子で、ひるむことなく、のんびりと。
「灯りを見ているんです」
と言ってのける。
「暖かそうな光だと思いませんか?あの1つ1つに意味があり、それぞれ物語りがあるんです」
マッチ売りの少女のように。そう、小さく呟いた。
じゃあ、この部屋の灯りの元にいる俺たちは、偽物の世界にいるのかと言い返してみたくなった三蔵だったが、八戒はそんなことを言いたいのではないとわかっているだけに、そのまま口を閉ざした。
外をみれば、家の窓から漏れる灯りが、確かに優しく、暖かそうに見える。周りを囲む闇とは対象の色だかららもしれない。
その灯りをただじっと見つめる八戒の背中があまりにも寂しそうに見えたので、三蔵はマッチ売りの少女の気持ちに同化しているのではないかと危惧してしまい、背後からそっと抱きしめた。
1人ではないことを教えるために、そっと。
「三蔵?」
あまりにも自分を抱くその腕が優しくて。
いつもの彼とは違うような気がして。
八戒は訝しげに呼びかける。
その声はいつもの八戒とまったくかわりなく。そして自分らしくないことを再確認して。
「早く、髪をかわかせ」
自分の肩にかけていたタオルを、ばさっと八戒の頭にかける。
今まで以上にぶっきらぼうになってしまう声は、先ほどの行為を後悔しているだからだろう。
「ここはどうだ?」
「え?」
くしゃくしゃと三蔵からゆずりうけたタオルで髪を拭っていた八戒は、手を止めて前髪の隙間から上目使いで三蔵を見つめる。
「ここは、どうなんだ?」
「もちろん暖かいですよ」
だってここにはあなたがいるから。
「そうか。俺には冷たく感じるがな」
お前がいう綺麗なこの髪も、この顔も、すべてが冷たく、暖かい物さえ凍らせてしまいそうだ。
そう。お前を氷漬けにでも…。
「だから…暖めてくれ」
「それは、僕が男役をやってもいいということでしょうか」
「寝言は寝て言え」
くるりと八戒を反転させると、ゆっくりと顔を近づき口付ける。
「あ、やっぱりダメですか」
唇が離れ、まだ三蔵が口付けを繰り返しそうなほど、間近に顔がある状態で苦笑する。
それが熱い夜の始まりだった。
「んっ…はあ……」
暖かい手が湿った肌の上をなぞる。
その度に八戒の口からは、甘い声が発せられ、そのいつもとは想像できない八戒の声に、三蔵はぞくっとする。
「あっ…」
胸を飾る小さな突起をもてあそばれ、それではたりないとばかりに、自身をも握られて。
「ああっ」
八戒は首をのけぞらせた。
月光に映し出させる八戒の白い肌。薄く汗をかいてたまにキラリと光るその姿に、三蔵は目が離せない。
いつも行為の最中には八戒の方こそ綺麗だと思うが、本人が自覚しているのかわからない、たまに見せる艶かしい表情と甘い声は、三蔵の背筋をかけぬけるものがあり、三蔵自身に響いてくる。
そうすると、もう三蔵さえもが余裕がなくなってくるのだ。
八戒を慣らすために、中に入れていた指を外すと。
「力をぬけ」
八戒の反応を見ずに、三蔵は性急に八戒の中に進入して行った。
「ああっ…あっ…」
すべてを埋め込んだとき、一度八戒の様子を伺ったものの、痛がる様子もなかったので、三蔵は自分の欲望のままに動き、相手を攻めたてた。
「んっ…」
同時に八戒の口をも支配しようとする三蔵に、八戒は自分から舌をからめた。
濃厚すぎる口付けに霞がかる意識に、快楽しか追えなくなっている八戒だったが、無意識なのか、三蔵の首に手を回してもっととねだるようにしている。
それに答えるかのように、角度をかえリズムを変えてみたりして自分をも楽しんで、時を計って最奥に凶器を叩きつけた。
「ああーっ」
三蔵の思惑通り、八戒は絶頂を迎えたようで、だんだんと首に回す腕の力がなえていく。
少し遅れて三蔵も絶頂を迎え、これが最後と、もう一度深く深く口付けた。
月明かりの中で行われたあさましいその行為は、なぜか神聖なものに感じるのだった。
END
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