悪魔を連れた天使 2000.11.10
三蔵×八戒
 バタンという大きな音に続いて、階段を駆け降りる激しい音。
 すでに悟浄が外へいち早く出ていて、どこか遠くを眺めている。続いて悟空がかけ出ると、嬉しそうに新しい雪の上へ一番のりで自分の足跡をつけて、サクサク感を楽しんでいる。
「雪が降って嬉しそうにするのは犬だけだと思ったんだがな」
 猿もだったか。
 その呟きは、それでも優しげで。八戒は素直じゃないなと、三蔵を見て微笑んだ。
 悟浄が三蔵と八戒を見上げて笑う。
 悟空が2人を見上げて、大きく手を振る。
 それは降ったのが雪でよかったと言っているようだった。
 2人の声なき言葉に、三蔵はフッと笑うことで返すと。
「風邪をひくぞ」
 カーテンを閉めた。
 冷たく色をなくしている八戒の右手を左手で持ち上げるとキスを振らせる。あたかも自分の体温をその手に分け与えるような、慈悲を込めたそんなキス。
 暖かいぬくもり。柔らかい唇の感触。
 掌にキスをしては、手の甲にキスをして。
 指先に温かい息を吹きかけては唇を近づける。
 その心地よさに八戒はうっとりと瞳を閉じて、三蔵からの優しさを受け止める。
 何度も何度も繰り返されるその行為に、八戒がすっかり没頭していたとき。
 ギクリ。
 八戒は慌ててまぶたを上げて、瞳を三蔵に向けた。
 彼は息を吹きかけるだけでなく、八戒の指を口内へと入れてしまったのだ。
 あまりにも暖かいそこのおかげで、やっと感覚を取り戻してくるように指先がじんじんしてきたので、自分ではそれまであまり感じなかったが、いかに冷たくなっていたのかがそれだけでわかった。
 優しく暖かいその行為はとても感謝するが、しかしそれとこれとは別である。
 こんな恥ずかしいことはない。
 たとえ誰も見ていないとしても。
「あのっ、三蔵!もう大丈夫ですからっ」
「いや。まだだ。まだこんなに冷たい」
 三蔵は瞳を閉じると口内にいれたまま、八戒の指に舌を絡めた。
 唇を閉じているために音が聞こえてこないのが幸いだが、八戒にとってはすぐにもその場を離れたいほどだった。
 自分の指に熱中し、ただ舐めることに夢中になっている三蔵。
 それだけでもとても嬉しいことで、心臓は早鐘のように音をたてているのに。
 三蔵は八戒の指を口から抜くと、今度は舌を出して1本1本丁寧に指を舐め始めた。
 指先から根元まで。たまに指先だけをしゃぶるようにして。
 その淫らな舌の動きは、八戒の心を高揚させる。
 それだけではなく、上目使いで八戒の視線を見返すと、兆発するようにことさらゆっくりと舐め上げた。
「あっ」
 八戒の中に存在する何かが外れたような気がした。
 その瞬間を三蔵は理解したようで、指を舐めるのはそのままに、右手を八戒の耳へと動かすと弄くり始めた。
 柔らかい耳たぶに触れ。耳の後ろをそっと撫でる。
 そのまま指を下へと移動して、首を羽でなぞるように触れるか触れないかの微妙さで撫でていく。
 その微妙さが更に八戒の気分を煽るのだった。
「…はあ……」
 息が浅くなりそうで、深く大きく深呼吸を繰り返す。
 体が震えてきそうで、もう片方の手はぎゅっと握り締め、足には力をこめる。
「どうした、八戒」
「……」
 返事などできるはずがなかった。
 上辺だけを触れてくるという三蔵らしからぬやり方は、あまりにも八戒が感触を感じ取るには微妙すぎて、ちゃんと感じ取れるようにといつのまにか感覚が鋭くなっていたようで、今声を出したら多分あらぬものになりそうだから。
 しかし三蔵は返事を求めていたようで、八戒の唇に自分のそれでそっと触れると、優しく触れたままでもう一度。
「どうしたんだ」
 その口の動きだけでも、八戒にとってはすでに自分の内で揺れていた熱を活発にさせるのは、充分なものだった。
「………」
 指がだんだんと下へ移動する。
 胸の飾りへとたどりつくかと思いきや、そのまま下へと移動して心臓の上でピタリと止った。
 あれだけ三蔵に自分の状態を知られないように努力してきたのに、直接心臓から鼓動を確かめられてはどうしようもなかった。
 早い動きを繰り返しているのを手で感じ取った三蔵が、ニヤリと笑ったのがなんとなくわかった。
「随分と鼓動が早いな。なぜだ?」
「…っ」
 八戒はぎゅっと目を瞑る。
 相変わらず、懸命に声を出さないようにしている。
 しかしそれを面白く思わないのは三蔵である。
 八戒が必死に何かを我慢している姿というのはとてもそそるものがあるためそれも好きなのだが、それよりも八戒が快楽に身をゆだねて溺れているとき、彼のそのときに出す濡れた声が三蔵がもっとも好きだったりするのだ。
 自分が見たいと思っているのを邪魔する奴は、たとえそれが八戒自身だろうとも容赦はしない。
 絶対に落してみせる、三蔵はそう決意する。
 何が何でも声を出さないようにしている八戒。
 八戒が快楽に身をゆだねさせるようにさせたい三蔵。
 2人の間に突然起こった、我慢と強い意思と粘りとが要求されるゲームだった。
 それまでの三蔵は見当違いなところを移動していたが、確実に早く八戒を落とすべく直接攻撃を開始した。
 まず再度唇を八戒のそれに押し付けると、舌を入れて口内を暴れまわる。
 逃げようとする八戒の舌をそのままで解放してやり、そのかわりということか、さきほどまで指で優しく撫でていた耳へと移動した。
 柔らかい耳たぶを柔らかい唇ではさみ、ざらざらする舌であまり触れない耳の裏まで丁寧に舐め上げる。
「はっ」
 先ほどまでのじれったさとは違い直に与えられる確実に感じ取れる感触はいつもならなんともないものだが、じらされ鋭い感覚になっている今ではその刺激はあまりにも強すぎて、瞳をぎゅっと瞑ってひたすら耐えることだけで精一杯だった。
 次いで舌は首筋を通って下へと移動していく。
 まるでナメクジが這ったように濡れたあとが残り、そこが空気に触れて八戒の体をぶるりと震えさせる。
 この瞬間。八戒の無防備のこの瞬間を、もちろん三蔵が逃すはずがなかった。
 今まで見当違いなところを愛撫していたのに、突然指が八戒の胸の飾りを強くつまんで刺激を与えた。
「あっ」
 今まで八戒の右手を束縛していた左手は、ただ彼に与える愛撫を本格的にするためなので解放するというには少々語弊があるが、やっと外してやると八戒の右わき腹をまたもや優しく撫でていく。
 舌とは対照的な感触。
 それはゆっくりと上へといきながら背中へと移動すると、背筋を上下に撫でる。
 慌てて両手で自分の口をふさいぎ声を押さえる八戒だったが、もうその行為自体が八戒がいかに我慢の限界に近いのかが容易に理解できた。
 そんな簡単なことさえをも自八戒はすでにわからないほど、余裕がなくなっている。
 あられもない声を出さない。三蔵には聞かせたくないというそのことだけが、今の八戒を動かしているようだった。
 しかし三蔵は留まるところを知らず、右手の指の腹で押したり爪でひっかいたりして、胸の突起を飽きずに刺激している。
 それに応えるように散々遊ばれている左胸の突起は、まだ何もされていない右胸の突起とはまったく異なり、そこに小さな花の蕾でも存在するように三蔵へ自己主張をしていた。
 それはまるで舐めてとでも言っているように三蔵には見えるのだった。
「…興奮してるようだな?」
「誰がっ、ああっ」
 三蔵の勝手な解釈だがおねだりを適えてやろうと、今まで触られて更に敏感になっている突起を口に含むと強く吸い上げたのだった。
 根をあげたのは八戒だった。
 やっと開いた唇をもう閉じさせないように自分の左手の指を入れる。そして八戒の舌へとそれを絡める。
 何度も何度も。逃げる八戒の舌を追いかけ、指を押し付ける。
 いつまでもそれをやめない。
 いつしか逃げていたことを忘れたように、三蔵が指を動かさなくとも八戒は舌を絡めていた。
 たまに口から出るくちゅという卑猥な音も、八戒の耳にはもう届いていないのかもしれない。あれほど恥ずかしがっていたのに、三蔵の指に今度は八戒が熱中しているようだ。
「はっ…ん」
 三蔵の舌はやっと右胸へと移動するとその飾りを弄び、右手は濡れた左胸の飾りをそれぞれ悪戯し続ける。
「あ…」
 頃合を見計らって三蔵が八戒の口から指を抜けば、八戒はそれが不服なように三蔵の指を追いかけようとする。その仕草があまりにも淫靡で、ねだるようなそれに変わりとばかりに口付ける。
 指にかわりに舌を。
 それでいてやることはさきほどと一緒で。
 舌を絡めあい、相手に熱中して貪る。
 その間、三蔵は八戒が濡らした指を彼の最奥へと移動させていった。
 八戒はキスに夢中になっているので、三蔵の指がこれからしようとしていることなど、まったくわかっていないようだ。そして三蔵はとうとう八戒に気付かれることなく最奥へと行きつくことに成功し、いまだキスをしたまま唐突に指を挿入させた。
「…んっ…んん…」
 小さな円を描きながらゆっくりと奥を目指していく1本の指。
 彼の内がそれに慣れてきたころに、もう1本を追加する。
 口付けはそれでもやまず。
 彼が発しようとする言葉はすべて、声にならぬまま三蔵が受け止める。
「ん…ふっ……ん…」
 違う生き物のように別々な動きをする2本の指が執拗なほど内を勝手気ままに動き回り、かえって八戒のそこを柔軟にさせる。
 三蔵の手により、口により、息により。
 彼の表情が。
 彼が纏う雰囲気が。
 彼から漏れる吐息が。
 だんだんと変わっていく。
 三蔵の作り出す悦楽に従順になっていく。
 いつしか八戒の腕は三蔵の首に回されて、自分から甘えているような感じさえ受けるものとなっていた。
 それに応えるように三蔵は右手を小さな突起から直接八戒自身へと移動させた。
「んっ…はあ……」
 それと同時にやっと唇が解放された。
 頭をもたげてきたそれを三蔵は確かめるように、ゆっくりと形をなぞっていく。
 先から根へ。根から先へ。
 先ほど三蔵が舌で指を舐め上げていたリズムとまったく同じだったので、あのときの三蔵の淫らな舌の動きを思いだし、八戒は更に意識してしまった。
 微妙に強弱をつけながら上へ下へとスライドされていく三蔵の右手。
 奥を広げるようにするかと思えば浅く深くを繰り返す三蔵の左指。
 前も後ろも三蔵の思うように刺激され、ましてや今まで幾多としてきたことで八戒の感じるところを心得てでのことなので、八戒がそれにかなうわけがない。
「くっ…あ……さん、ぞ…もう……ああっ」
 意識が白濁としたかと思うと、やっと熱がほとばしる。
 浅い息を繰り返し途切れ途切れになりそうな言葉を、ぐっと息を呑むことでやっと滑らかに発せられた。
「………意地が悪すぎです…」
「自業自得だろ」
「なんで僕がっ!」
「無意識か?まあいい。それにこれで終ったと思うなよ」
「えっ、あっ」
 三蔵はまだ八戒の中に埋めてあった2本の指を一気に引き出すと、腰を少し持ち上げて、見なくとも場所がわかっているように、一気に自分の高まりを八戒の中へと突き刺した。
「はあっ」
 反射的に八戒は三蔵に回していた腕に力を込めた。
 それはすがるようにも感じるし、ねだるようにも感じられる。
「んっ、んっ、はっ」
 たとえ熱を吐き出したとはいえども、熱くなっている体には容易に火がついてしまう。
 何も考えられず。
 甘い痺れを甘受して。
 口からはリズムにあわせて喘ぎを出し。
 悦楽に流されて自然に腰が揺れてくる。
「ん、あっ、あ、ああーっ」
 八戒が上体をピンとはって絶頂を迎えると、三蔵もそれに引かれるように最奥へと弾き出した。





 三蔵は暖かく濡らしたタオルで八戒の体を拭ってやると、せっかく寒さを感じられないくらい熱くなった体が冷めないように、優しく布団をかけてやった。
 そんな自分は一緒には布団に入らず、座るところではないテーブルに腰掛けると、煙草をくわえて火を灯す。
 途切れない天へと昇る白い煙と蛍のような小さな光、微かな焼けた匂いにはまったく感心を見せずに、視線は無防備な八戒へと向けていた。
 熱く激しい行為の後、腕を回したまま、三蔵に上体を預けたままで深い眠りについた彼。
 三蔵が彼の内から出ていっても微動だにしないのと、顔に出ている疲れとが、彼がそう簡単には目覚めないことを教えてくれた。
 煙草をくわえたまま、三蔵は足音を立てずに八戒に近付く。そして静かに眠る彼の前髪を、ゆっくりとかき上げた。
 すぐに指からは髪がさらさらとすべり落ちていったが、合間に見た八戒の顔はとても穏やかだった。
 何も考えずに、今は安らかに眠る彼。
 雨はまたやってくる。これを止めるすべは絶対にない。
 だからこそ、昔の自分と少しでも早く決着をつけて、たとえ天罰とも思える強い雨が降ろうとも、泣いているようにも感じられる小雨が降ろうとも、いつでもこのような穏やかな顔で眠りについてほしいと、三蔵は願ってしまう。
 右手で煙草を持ち、吸い込んだ煙を音を立てずに吐き出すと、左手で枕の上に流れている八戒の艶やかな髪をひと房手に取って、そっと口付けた。
 それはまるで自分の願いを適えるための、小さなまじないのようにも見えるのだった。





 END 



表の8000でホンメイさんから頂いたリク「今にも雨が降りそうで皆八戒を気遣うがいざ降ったのは雪でほっとするという三八ラブラブ話」。実はその話を構想中、最後の方で三蔵が暴走してしまいまして…。表にUPした話はさすがに表に置くからまずいと慌てて進路変更したものだったんです。それをとある方にポロッとお話してしまったら、そのまま直にホンメイさんにお話が。そしてこのたび暴走する三蔵をUPすることになりました。とほほ。これじゃあ、いつも私がこんなことばかり考えているような印象を受けるではあーりませんかっ!……あまり強く否定できませんが…。
Hシーンが今までと一緒のような気がする…とは自分で書いてての感想でございます。そう思っても怖くて今まで書いたHを確認できないのが現状だったりして。これってスランプなのかなあ…違うだろっ!!ここ最近自分の頭の中では必ずといっていいほど最後にHに縺れ込む三蔵がいて、もうなんでそんなにHで鬼畜なのぉ〜っ(><)と、ひやひやしながら彼の行動を批判したりするんですが、冷静に考えればそれはお前が腐っているからだろうがっ!!というように、すべてが自分なんですよねえ…。むー私が欲求不満なのか?そうだよなあ、三八ってあんまり本ないからなあ…。ましてや八戒にはまた悪いことをしてしまった。ちゃんとベッドに連れていってあげるはずだったのに、結局のところ窓際で事に及んでしまったよ。いつも不憫な思いをさせてごめんね。