SAIYUKI
NOVELS 61
黒猫のタンゴ 1 2002.3.10
SANZO×HAKKAI
 綺麗で評判の豹族の三蔵さん。
 輝ける体と敵を見据える鋭い瞳、そしてそのしなやかな身のこなしは周囲の憧れの的でしたが、無表情なうえに無愛想な彼なので、誰も近寄ることができず、また誰も寄せつけることもなかったので、豹族の中でも孤立しておりました。しかし本人も馴れ合うのが嫌いでしたし、煩わしいと思っていましたので、そのことをなんら気にすることもなく、長い間どんなときも彼は1人でいたのです。
 ところがそんな三蔵が、ある日迷い仔猫を拾ってきました。
 体がとても小さいために弱々しく見えますが、くりくりした大きな目で見つめてくる姿はとても愛くるしいもので、ふわふわした真っ黒い毛と、透き通るような緑の瞳が印象的なその子の名前を、八戒といいます。
 そんな2人の、とある晴れた午後のこと。
 タンタンと何かの叩く音がどこからか聞こえてきます。同じテンポで繰返されるその音は、何かの音楽のようでもありましたが、どうやらそれは三蔵たちの方から聞こえてくるようです。
 よく見てみると、木下で寝そべってくつろいでいる三蔵が、尻尾だけを大きく振って地面を叩いていました。そしてその近くには目を見開いた八戒がいます。
 タン…タン…タン…。
 繰り返し繰り返しされるそれ。
 規則的に動く三蔵の尻尾を、ちょこんと座る小さな八戒が一生懸命目で追っていました。
 どうやら三蔵は八戒に食後の運動をさせようとしているようです。
 たまに手をピクリと振るわせては、それでも動かずにただ尻尾を見つめる八戒。タイミングを測っていたようで、突然動く三蔵の尻尾へ飛びついていきました。
 右へ左へと動く尻尾を勢いあまってコロリと転がりながらも、こりずに慌ててまたその後を追っていきます。
 尻尾に身体を絡めてじゃれるうちに、熱中していく子供の八戒はついつい…。
「…っ」
 かぷりと三蔵の尻尾に噛みついてしまいました。
「ごめんなさいっ」
 慌てて八戒は口を離すと、小さな歯型のついたところを丁寧にこれまた小さな舌でぺろぺろと舐めはじめました。
 運動していたときの興奮はいっきに冷め、耳は垂れてしゅんとしてしまった八戒。
 そんな八戒を見て、三蔵は彼に知られないよう、小さく溜め息をつくと口を開きました。
「…あまがみってのはな、こうやるんだ」
 そう言うと、三蔵は八戒の首の後ろをかんで、小さな身体を持ち上げ、横たわる自分の背に八戒を降ろしました。
「寝ろ」
 さあ、食後の運動はもう終り。
 次は御昼寝の時間のようです。
 自分もまたくつろぐ体制をとりながら、ゆっくりと尻尾を持ち上げて、今度は優しく八戒の背中を軽くたたいてやります。それはさきほどのことなど気にするなと、慰めてくれているようでした。
 それに安心した八戒は小さな身体をより小さくすると、ゆっくりと瞼を下ろしていきます。
 疲れていたのでしょう。やはり子供なだけあって、しばらくすると小さな寝息が聞こえてきました。
 身体を動かすことで八戒を起こしてはいけないとでも思っているのか、三蔵はピンと立てた耳でその寝息を確認すると、彼も瞳を閉じていきました。
 しかし未だ彼の耳は立ったまま。
 屋すら着に眠る八戒がいるために、いつも以上に敵の察知を早めようとしているのです。
 今までの彼でしたら面倒だと思っていることでしょうが、瞳を閉じている彼の表情からは、そんな色は伺えませんでした。
 それは、そんな2人の午後のとあるひとときでした。






END