SAIYUKI
NOVELS 21
HOME  - 繋留 -  2000.8.2
SANZO×HAKKAI
 長い長い旅だった。
 たくさんのことがあった。様々なところで留まり、色々な人と知り合い世話になった。
 そんな旅ももうすぐ終り。
 始めのときもその途中も、あれだけぶつぶつと文句を言っていたのに、いざ旅が終ろうとすると、今まで寄ってきた村などに意味もなく立ち寄ってみたりして、少しでも離れてしまうのを延ばしているようだった。
 しかし、そういうことも無駄のあがき。
 必ず終りはやってくるのだ。
 だんだんと近づいてくる、斜陽殿。
 それにつれ、あんなにうるさい悟空や悟浄までも、言葉少なになっていく。
 斜陽殿で三蔵が旅の報告を済ませる。その間、外で彼を待っていたが、やはり誰一人として言葉を発することはなかった。
 みんなで過ごす最後の晩餐。
 別にまた行き来をしあえば晩餐くらいいくらでもできるはずなのに、やはり寂しさを拭うことはできなかった。それでも最後ばかりはと、大げさなくらいはしゃぎ合う。
 三蔵は相変わらず無口だが、いつも同様、銃やハリセンを持ち出して。
 悟浄はいつも以上に悟空にちょっかいを出している。
 悟空もそんな悟浄にいつも以上にからんでいる。
 八戒は相変わらず微笑みを浮かべて。
 だからこそ。楽しい時間はあっという間だった。
「八戒。これからも、いっぱいいっぱい、遊びに行くからな」
 目にいっぱいの涙をためて、悟空は八戒を見上げる。
「ええ。お待ちしていますよ。僕たちも遊びにきますから」
「来んな、来んな。食料がなくなんだろ」
「んなことねーよっ」
 別れ際まで仲のいい兄弟振りを発揮している2人は、それでもやはりどこかいつもと違っていた。
 八戒さえ寂しく思っているのに、三蔵だけはいつもと変わったようすはまったく見られなかった。
 とうとう、離れ離れになってしまうのに。
 今まで悟空と悟浄が近くにいても、それでも2人は恋人としての時間を意図的に簡単に作ることができ、甘い時間を過ごすことができたのに。これからは、そう簡単に会うどころか、話すことすらできない。
 それなのに、彼はなんとも思わないのだろうか。
 八戒の胸が、針で刺したようなに、小さく痛んだ。
「八戒」
「はい?」
 それでも思いは口に出さない。
 彼が嫌な顔をするのは目に見えているし、そんな顔をさせたくないし、最後に喧嘩などしたくない。
 こんなときだからこそ、にっこり笑って。
「今夜、ジープをよこせ」
「ええ、それはかまいませんが…。何か?」
「いや」
 そして。
 ただじっとたたずむ三蔵。
 いつまでも大きく手を振って別れを告げる悟空。
 2人を、見えなくなるまでルームミラーごしに見ていた悟浄が小さく吐いた息は、ずいぶんと重たいものだった。
 久々の我が家は懐かしいというものあるが、なぜかくすぐったいものも起こさせた。
 確かにこの家を出るときには、絶対に帰ってくるという思いが強かったが、まさか本当に帰ってこれるとは思わなかったから。
 長い間ほおっておいた家は、本当ならば少しは掃除をしたほうがいいのだろうが、どうしても今やる気は起きない。
 簡単にベッドの上だけを掃除して、床につこうと思った。
 その前に。
 三蔵と約束した通り、せっかく家についてお疲れのところだが、ジープにもう一度三蔵の元へと戻ってもらうことにした。
 今自宅に着いたという意味もこめて。
 数時間後。
 結局のところ明日の朝食のことなどもあり、その準備と台所の掃除とを済ませていた八戒は、悟浄はとっくに夢の中なのにもかかわらず、1人起きて今までの旅のことを思い出していた。
 そんななか、軽い羽の音を立ててジープが戻ってくる。
「お帰りなさい、ジープ。お疲れ様。今日は戻らないと思っていたんですが、三蔵も酷な人ですねえ」
「きゅー、きゅーっ」
 何かを訴えているような、その声。
 そして八戒はやっと気付く。ジープの足に何かついていることに。
 その巻きついてあるものを解いてみると。
「早く寝ろ。明日、起きたらジープをよこせ」
 三蔵を彷彿させる、短く用件のみの手紙。
 まだ自分が起きていることを予測しての、この書き方だろうか。
 くすりと笑う。
 この旅で一番変わったのは、彼なのかもしれない。
 ジープをよこすよう要求した理由を考えると、以前の彼ならありえないことだった。
 三蔵の綺麗な字で書かれた短い文の書いてある白い紙を胸に抱き込み、空に浮かび上がる月を八戒は見つめた。
 同じころ。その月を三蔵も見つめる。
 そしてこれが文書鳩ならぬ、文書ジープの始まりだった。






END