海労ネットニュース 第13号 (2005年4月1日発行)

目 次

船員再生の基盤が崩壊
時間外労働を労使協定に
動きだす船員派遣事業法
東京船舶問題
現場組合員の力で組合改革を
練習船回王丸の遭難
マラッカ海峡で海賊
3.1ビキニデー集会
第二船籍制度
編集後記

船員再生の基盤が崩壊
             海技の断絶は決定的状態

 今年の海員春闘は、外航では協約全体について個別交渉が中心となり、外から状況が見えにくい状態になっている。ことに大手企業で空前の高収益をいわれながら、経済要求では年間臨手にしぼられているのが特徴的である。
 
昨年の海員組合大会の報告では、外航会社の所属船員数は2,807人で、非組合員の船長らを合わせた年間の減少人数は382人で、在籍船員が毎年10%ずつ減少し続けていて、「外航日本人船員の再生基盤そのものが崩壊している深刻な状況」だという。また別の資料で外航部員は、外航客船のサ-ビス要員や内航2次輸送のフル配乗乗組員を含めても411人で、これでは「外航海運産業」などと呼ぶのはおこがましい状態にある。
 現在の日本商船隊は1,900隻弱で、そのうち日本籍船は105隻。大手3社の支配船腹数は1,520隻にのぼるが、更に数年内に600隻以上の船腹を増強する計画だといわれている。そうなると在籍船員数よりも支配船数のほうが多いという笑い話のようなことになる。

 一昨年から日本船主協会が提唱している「第二船籍制度」は、日本人船機長の配乗を廃止するなど、すべてコスト削減を目指すものだが、日本人船員の役割について、「海上での経験を陸上における船舶管理者を養成するための訓練の場と捉えており」、海上での経験には日本籍船と便宜置籍船とに差はない、としている。また、各社はこの方針のもとに自己完結的に船員の雇用を図っているが、結果として海運産業全体を支える船員の経験を持った海事技術者が不足しても、自社の必要を超える船員を雇用することは企業の能力を超えたものであり、必要な海事従事者の確保は産業全体として方策・内容を協議してはどうか、といっている。

 いま、最大手の会社でも、国内パイロットの受験資格(55歳 1部56歳まで、船長実暦3年以上)を持った人がいない。あるいは、海務監督や工務監督の出来る人がいなくなったと言われている。
 日本の外航船員の海技は「船員制度近代化」で破壊されたと指摘する人がいる。 近代化では各職能の固有の職務体制が壊され、職員間、職部間、甲機の垣根が取り払われ、便利に使われるようになったが、各職能の体系的な育成が断ち切られた。 近代化に続いて混乗制度が導入され、部員と2・3航機が外国人に替えられ、国際船舶制度では船機長2名配乗となり、航機職員育成の場も失われたが、部員を排除したことが海技者育成の致命傷になったといわれている。それでも海運官労使はじめその周辺で、掛け声の割には後継船員育成の危機について、真剣に対処しているようには見えない。
船を運航する力は、各職能船員の技能が総合されて生まれるが、コスト優先政策によって、日本人船員そのものを育成できない状態になっているから、海運産業全体を支える船員経験を持った海事技術者の確保も無理な話である。日本の外航海運にとつてそのことが、いま一番深刻な問題ではないのだろうか。

間外労働を労使時協定に=船員法改正
     
限度は1日14時間、週72時間
 
船員法、船員職業安定法の一部が改正され、05年4月1目実施となった。
 船員法の一部改正は、内航船乗組制度検討委員会の乗組み制度見直しについての最終報告も基づいて、改正案が作られたものである。
 その基本的な考え方は、「内航では荷主から輸送コスト削減が強く要請され、長時間労働が常態化しており、船員の高齢化がすすみ、若年船員の確保と安定した労働力の確保が困難な状況にあること。一方、近年の船舶技術の進歩等により運航の高度化、高速化の進展が見られる。そのため、船員の適正な労働環境の確保と、効率的な船舶職員の配乗体制の再構築を図り、海上運送事業の公正な競争環境形成のために、内航船乗組み制度見直しを行う」などというものである。
 今回の法改正は、内航のこうした無法状態を是正するとして、規制緩和と法改正によって、こうした無法状態を合法化しようというものであるから、もともと改善を期待するには無理がある。 今回の改正の概要は以下のようなものである。


 
労働時間規制
a 現行「臨時の必要」があるときの時間外労働を、船舶の航行安全確保に限定する。
b 労働基準法同様、時間外労働の労使協定(いわゆる36協定)を認め、通常労働時間と合わせて、1週間あ たり最大 72時間、1日あたり労働時間 14時間を限度とする。
などというものである。
 内航では組織率が2割といわれているが、法改正では労使合意がない限り、時間外労働を認めないことを強調している。それでは8割の未組織船は時間外労働が出来ないのか、しないのか。今までも組織、未組織にかかわらず、また、法規制があっても長時間労働が常態化していると官使も認めている。だから、今回の法改正があっても、船は今まで通り運航されるのは間違いない。また改正の趣旨から見ても、これによって定員が増えるとか、未払いのいわゆるサ-ビス残業が減り、時間外手当が大幅に増えることなど期待出来ないだろう。

 危険な労働時間の弾力的運用
 
今回の改正によって、時間外労働は労使協定によることになった。労使協定の相手方は船舶所有者対労働組合、または労働者代表である。未組織船は組合がないから、労働者代表は乗組員または在籍船員の過半数を代表する者ということになるだろう。労使協定書やその届出書その他必要書類は、既に官が「書式」を作成しているので、それを使うことになる。

 そして時間外労働の協定ができると、通常の労働と合わせて1間に72時間、1日につき14時間まで働く(働かされる)ことが出来る。ただし「安全臨時労働」はこの時間の中にカウントしないことになっている。
 この労働時間規制の問題では、時間外労働が労使協定により弾力的に連用できるとしている。しかし、労使協議の相手方が、会社対従業員の代表ということで、どこまで公正な協定が結ばれ確実に実行されるか、大いに疑問がある。協定書の有効期間は2年だから、2年に一度形を整えて協定書を作りさえすれば良い、ということでは労使協定は有名無実である。

 従来、船員法上の時間外労働は、「船長は臨時に必要があるときは、労働時間の規定を超えて作業に従事させることが出来る」というものであった。今回の改正は、船長が臨時に必要と認める労働を「安全臨時労働」という形にして、これは通常の労働時間や時間外労働時間に算入しないこととした。従って、協定による時間外労働と「臨時安全労働」の組み合わせによって、船員の労働時間を自由に操作することが出来るのではないかという心配がある。だとすれば、長時間労働が野放しにされかねないし、臨時安全労働と時間外労働の両方が対象となる。割増し時間外手当がまともに支払われるのかという疑問も残る。

 時間外労働の常態化を解消するためには、乗組み定員を増やすか、船の運航形態をスローダウンする、例えば日没後出港しないとか、1週間に1日、完全休航日を設けるなどの方法しかない。しかし今度の法改正では、労働時間制も配乗体制も、法制度を実態にあわせるだけでなく、更に規制緩和を広げて、所定の書類さえ整えて置けば、ほとんど何をしても法律違反にならないようにしたと言うべきであろう。従って海上労働は、ますます過酷な働き難い、若者に敬遠される職場になっていくのではないかと心配される。
 当直者のうち1名は海技免状受給者を当てることになり、最低6級(航海)の資格を必要としたが、6級の免許講習は9日間(救命、消火、レーダー観測者の免許講習6日を含む)で行われることになる。

 そ の 他
【船員労務官】適正な労働環境を確保するために、船員労務官の権限が強化され、立入り検査による労働時間の順守チェックなどを強化し、是正命令が出せるようにした。
【雇入れ契約の公認手続きの簡素化】雇入契約の公認を届出制にし、一括公認制度が導入されることになった。一括公認は船舶所有者単位で、航海の態様が類似し、船舶の労働条件が同等と見られる複数の船舶があり、その船舶間で乗組員の変更が行われる場合、雇入れの手続きを簡素化するもので、それら船舶に乗り組む船員をあらかじめ一括届出ることで、個々の船舶への移動には届出を必要としないというものである。

 これら配乗制度の改正なども、法律を実態にあわせて、基準を低下させたものの典型といえる。兼務雇入れ制度や配乗資格緩和は、船の運航能力の低下を来たし、乗組定員削減につながるものであるし、6級講習に至っては目を覆うばかりであるが、講習を受けさせるだけ、今までより前進だと言いたいのだろうか。
 今回の法改正では、船舶所有者は船員に対して、雇用期間や休日休暇、労働時間、賃金等の労働条件を、書面で交付することになっている。また、こうした労働条件が守られなかったり、船員法等の違反があった場合、船員や第三者(労働組合等)が船員労務官=運輸局に申告することが出来、船員労務官が是正の指導をすることになっている。船員がこの制度を積極的に活用するようになれば、ある程度の効果は期待できるだろう。

 そのためには船員自身もそれなりの決意を要するが、こうした法律違反が「たれこみ」=申告によってしか是正されないとしたら異常だ。近ごろ陸の大企業が何億円ものサ-ビス残業の支払いを命じられたという報道が幾つかあったが、これは労働者の権利や利益に留まらず、社会的任務として労働組合が正面から取り組むべき問題である。

〔船員労務官について〕
 今度の改正で船員労務官の監督の権限が強化された。船員労務官は全国の地方運輸局・支局等に134名配属されており、船員の労働条件保護や船舶の安全運航のために、年間9千隻の船舶やそれを管理する事業所に立入り、監査や査察を行っているという。ただ、監査情報が共有されなかったため、年間に数回も監査を行った船がある一方、10年間も監査が行われない船があるため、「監査情報紹介システム」を構築し、平成13年から運用しているという。ただし、この中で法違反に対する指導や勧告が、どの程度行われたか不明である。
 今回の法改正に当たっては、船で法違反があったときは、文書による指導を行い、指導に従わないときは文書による勧告、更に船舶所有者の氏名の公表、是正命令の発出、罰則の適用、航行停止命令へと、段階的な是正措置を適用するが、最低限の定員が乗り組んでいないときは、即時、航行停止させるという。ただ、船員法の適用対象の船舶は、全国で2万隻というから、今回の船員法改正や船員派遣事業の発足などで、どれだけ力を発揮できるか予測は難しい。(この項「海上労働」第56巻による)

動きだす船員派遣事業法 船舶管理会社も事業者に
 
 派
遣のための船員雇用
 船員職業安定法の一部改正により、国土交通大臣の許可を受けたものは「船員派遣事業」を行うことが出来ることとなった。
 「船員派遣」とは、自己の常時雇用する船員を、当該雇用関係の下にかつ他人の指揮命令を受けて、当該他人のために船員として労務に従事させることをいい、当該他人に対し当該船員を当該他人に雇用させることを含まないものとすること、となっている。
 船員派遣事業は船舶所有者、裸用船を受けている者、船舶管理会社等で、雇用管理を適切に行う能力があると認められた者が許可されるが、許可に当たっては船員中央労働委員会に諮問されることになっている。

 船員派遣事業者(派遣元)は、船員を派遣する目的で(本人に告げて)雇用することが出来るが、他の(既存)船員を派遣しようとするときは、本人の了解を得なければならない。派遣される船員は、派遣元と派遣先企業との契約に基づいて派遣されるが、派遣契約は業務(職名)毎に1年間、または(派遣先の労組などの合意で)3年間が限度で、それ以上は違反(派遣先は雇入れ申込みの義務がある)とされている。

 また、派遣元と派遣先にそれぞれの守るべき規定を設けているが、船舶管理会社等も、船員派遣事業者の許可を得ると、船舶所有者としての義務を負い、所属船員を「船員保険」「厚生年金」に加入させなければならない。これは日本企業の派遣先だけでなく、外国船の派遣先でも船員保険が適用されることになっている。更に派遣元は派遣船員に対して、派遣先で従事する業務の内容や就業条件等を記載した書面の交付が義務付けられている。
 船員派遣事業者に雇われる派遣船員は、常用雇用でなければならないとしている。常用雇用とは、期間の定めのない雇用関係であり、期間を定めたり、派遣期間だけ雇用することは出来ないとしている。具体的には、陸上の「定義」なども見て考えると、船員手帳の「雇入期間」欄に、「不定」又は「定メズ」と記入してあるものと同様と考えて良いのではないか。

 【常時雇用の定義について】
 労働者派遣法においては、特定労働者派遣事業の定義にある「常時雇用される」の解釈を、雇用契約の形式の如何を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者のことをいい、具体的には以下のいずれかに該当する場合としている。
@期間の定めなく雇用されている者。
A一定の期間(例えば2カ月、6カ月等)を定めて雇用されている者であって、その期間が反復継続されて事実上@と同等と認められる者。すなわち、過去1年(あるいは3年)を越える期間について引き続き雇用されている者または採用の時から1年(あるいは3年)を超えて引き続き雇用されると見込まれる者。
B日々雇用されるものであって、雇用契約が日々更新されて事実上@と同等と認められる者。すなわち、Aの場合と同じく、過去1年(あるいは3年)を超える期間について引き続き雇用されている者または採用の時から1年(あるいは3年)を超えて雇用されると見込まれる者。
 船員の場合においては、これまでの論議経過をふまえ、@のケ-スのみを常時雇用とすべきではないか。また、常時雇用としながら整理解雇と再雇用を繰り返すような脱法的なケ-スについては厳しく排除されるべきではないか。
 @のみを前提としている。指摘のとおり通達で明記。(この項海員04/11月号より引用)

 常用雇用と終身雇用
 海員組合大会では、この問題で常用雇用と終身雇用(協約による定年制)が混同して論議されていたように思われる。それとも組織会社が船員派遣事業者になった場合、その会社が雇用するすべての派遣船員を、組合員に組織する方針で論議していたのだろうか。
 昔、港の周辺には常用と臨時の仕事があり、常用になると日給月給で連続して毎日働くことが出来た。
 常用雇用船員という用語は、船員派遣制度のために新しく作られた言葉であり、期間を定めていない雇用とは、逆に言えばいつでも解雇できる雇用制度(船員法42条)といえるが、陸上の定義に従えば、1年乃至3年、雇用が継続されるのが常用雇用になるのではないか。

 この船員派遣事業はもともと、「内外航の厳しい経営状況により、予備船員の雇用が困難であるなどの事情により、船員を一括雇用して各社に派遣、船員を会社間で融通出来る仕組みが必要」。「内航では船員の高齢化で若手船員の確保が必要」。「船舶の所有と管理を分離させ、輸送コストの低減に資す船舶管理会社形態の設立の動き」=制度改正の理由=があり、実態としての不法マンニングの蔓延や、配乗船舶の形態の多様化に対応するための利便性が求められたことなどから、規制緩和、合法化が図られたものである。
 そのため、従来は「船員労務供給事業」として禁止されていた、船舶管理会社による船員雇用が、船舶の運航管理、保守管理、船員の配乗・雇用管理を、一括して船舶管理契約がある場合には、船員派遣事業者となることが可能になった。あるいは同様に禁止されていた在籍出向が、関係会社での雇用機会確保、技術指導や能力開発、グル-プ内の人事交流として、事業性のないものに限り、在籍出向が可能になった。

 社内事情で異なる対応
 この船員派遣事業について外航では、自社船や日本籍船の有無、マルシップやFOC船配乗主体など社内事情によって、事業者としての申請する会社としない会社に分かれるようであり、保有船舶がゼロでも船員保険を取得できるからわが社は船員派遣事業者になる、という担当者もいる。事業者とならない会社は、派遣を受けるかグル-プ内の在籍出向が中心になるようだ。
 既存の会社が派遣事業者になれば、自社船への配乗も他社への派遣も可能になるが、新たに派遣船員を雇用すると、社内に異なる身分の船員が混在することになる。労基法の均等待遇などでも問題であるが、組織会社の場合、組合がどう対応するのか問題になる。会社側はコスト削減のために派遣会社を作るのだから、派遣船員も組織すると組合が頑張れば、見えないところに別会社を作るかも知れない。そうなると、わが社の作った船員派遣会社の船員が、わが社船員の代わりに乗船して来て競合させられるかもしれない。そうなるとコストの低い派遣船員が断然有利で、会社は順次切り替えようとするかも知れない。しかし外航では、船主協会の日本人ゼロ配乗の方針からも、この制度で各社の雇用船員が大幅に増加するとは、到底考えられない。

 また、船員派遣事業の許可は、法人でも個人でも申請することが出来、それらに必要な条件や必要書類等、各種の様式が定められ、その手続きについても事前確認など、違法とならないよう、関係官庁で指導することとしているようである。
 この船員派遣制度で、内航がどうなるのか想像もつかない。業種や船団ごとに対策を立てるのか、一杯船主も派遣事業者になるのか、何もしないで従来のやり方でやるのか。 まさか、電話1本のマンニング屋が事業者として認められることはないと思うが、法制度の説明会では、法人、個人とも資本金1千万円、運転資金800万円、事務所の広さその他の条件が整えられれば、派遣事業者として許可される、と説明されていた。そうすると、我もわれもと船員派遣事業者が出来るのだろうか。その辺の所を十分監視していかなければならないだろう。

東 京 船 舶 問 題

 
船中労委は東京船舶の不当労働行為問題について、不当労働行為が存在したことを認定しながら、現時点では組合員が存在しないので労使関係は消滅したとして、海員組合の救済申立てを棄却する命令を下し、海員組合もこれを受け入れた。
 この命令は、組合員がいなくなれば会社の行った不当労働行為は不問に付され、救済申立ては却下されるのかという問題を含んでいる。不当労働行為は組合員に対しても労働組合に対しても不当労働行為であるから、組合員がいなくなっても組合に対する不当労働行為は残るから、救済しなくて良いということにはならない。海員組合もまた、団交の拒否だけでなく、組合員の減少など不当労働行為による、組織的な損害の救済を求めるべきであろう。
 本四海峡バスでは、不当労働行為によって生じた損害に対し、組合員にも全港湾にも慰謝料が支払われた。救済申立ての趣旨が認められたからと、引き下がる問題ではない。船中労委も会社の不当労働行為の「やり得」を許すようでは、その存在意義を問われるだろう。                  (S)

組合の現状を憂える 現場組合員の力で組合改革を         投稿 海野 猛雄
 大会の概要を聞いたが、 非常に不満である。 私が大会の内容に不満なのは、 あれ程の騒ぎがあったにも拘らず、 また組合運営において改革すべき点の沢山あることが明らかにも拘らず、 それらが大会の場で本格的に論議されなかったことに尽きる。
 人事問題を巡って混乱を起こしたのは、 何も人事のやり方や役員立候補の手順がおかしいだけではない。それらは今組合が抱える問題の氷山の一角に過ぎない。

 役員の椅子にしがみつき、保身や安泰に終始する無責任体制が、 本部だけでなく各支部にまで蔓延し、 組合員のことなど二の次で、 労働組合らしさがどんどん失われている現状に対する下部執行部員・事務職員の鬱積した不満が組織され、利用された側面が強い。
 誰が利用したのか、 それは単に落選した幹部達だけではなく、 背後に彼らを操り、 いざとなれば彼らをも使い捨てにし、 次の代理人を育てようとする経営側の意向や船員界の最も深い背景、 人脈があるように思う。

 新指導部がそうした問題を提起し、 積年の溜まった膿を出すことから始めなければ、 到底組合員が自発的に参加する組合になるわけがない。 しかし、 そういう提起はなかったというよりも、 現状を改革する意志が見受けられない。 最悪の事態は、 選挙で勝ったからもう2年間は安泰だと、椅子にどっかりと浸かって何事もなかったように振舞い始めることである。 「大山鳴動してねずみ1匹」に終わり、 組合員のための組合ではなく、 執行部を食わすための組合ということになってしまう。 新執行部は、 大会での半数に迫る反対票の意味を謙虚に考えるべきである。 反対票に込められた意志を「組合の根本的改革要求」と捉え、 次々と改革提案をしていかない限り、 いずれソツポを向かれることになるのは火を見るより明らかだ。

 大会が終わって3カ月、 本来なら今頃は、 問われた問題点についてどういった産別組織を目指すのか、 各種機関で喧々諤々の論議が行われていなければならないはずだが、 そうした兆候はまったく見られない。 人事抗争の中心であった一部中執の落選は当然としても、 それでは組合長以下新指導部に、 組合の現状を脱却するためのビジョン、 改革への熱意があるかといえば、 何もないように見える。
 一生懸命やっているといっても、 適時に状況を改革し、 前進するものがなければ責任を問われるのは当然である。 まして無気力・保身・怠慢・欺瞞・作為等があってはならない。

 昨年来の騒動を振り返ると、 意外と気づかれていないが、 執行部個人名の声明にしろ、 怪文書にしろ、 その主張は執行部や事務職員の立場からなされたものに過ぎないという点にある。
 従来、 海員組合の転換期の節目には、 必ず現場組合員の切実な要求が根底にあり、 それを組合に反映させるための組合員自身による運動が、 組合をよい方向に変えてきた。 組合員に自発的運動があったときには、 生き生きとした産別組織に向かい、 逆に現場の意志が弱く、 執行部の判断や官公使の思惑が優先されたときには、 必ず悪い方向に向かったのが歴史の事実である。

 前者は海上ゼネスト等戦後すぐの組合創成期の運動であり、 昭和30〜40年頃の労働諸条件獲得運動、 90日スト前後の人間性回復の闘いであった。 その成果は労働協約書として今なおわれわれの生活を守っている。他方、 後者の代表例が船員制度近代化であり、 緊急雇用対策であった。 産別組織とは本当に正直なもので、 組合員の要求や自発性に根ざさないものは、 それが1一見
どんなに整合性のある理論に見えても、 結局は組合員や組織のためにさえならずに終わる。 それが海員組合の伝統であり産別の良さでもあると思う。 現場の発想や自発性に依拠しない運動は、 結局はダメなのである。
 そうさせないためには、 組合員が自発的な声を上げていかなければならない。 われわれ現場組合員が組合への不満、 改革要求を正面からド-ンと出してゆこう。 それなしにはこの組合は永遠に変わらない。

練習船海王丸の遭難
 
海王丸が台風23号により富山港の外防波堤に乗り上げて難破したのは昨年10月20日であった。 海王丸がこの日の朝港外に錨泊した地点は、以前から事故が発生した不適切な場所で、海上保安庁やパイロット、代理店から七尾湾への退避が提案され、正午過ぎには海が荒れ出したことから、安全な海域への移動か、エンジンを始動した対応策を取るよう指示したが、海王丸は錨鎖を伸ばすなどの対応で、その場に居座ることにしたという。

 そして19時頃風が強くなったためエンジンを始動し、航行状態にするべく錨鎖を巻き上げはじめたが、途中で揚錨機が動かなくなり、両舷機関を使用して凌ごうとしたが強風波に流され、22時30分頃波消しブロックに乗り上げ難破した。
 船底が破れて機関室に浸水・機関停止し、総員退船用意が発令されたが、士官サロンにまで浸水し、22時50分頃海上保安庁に118番通報がなされたが、船体が波消しブロックに乗り上げ、高波に揺り動かされるため、ヘリコプタ-の救助も翌朝9時すぎまで手の施し様がなかったという。 幸い死者はなく、重傷者がまず救出されたが、全員167人の救助が完了したのは、総員退船用意発令から17時間後であった。

 海王丸が遭遇した台風23号は、20日から21日にかけて、大型のまま日本列島を縦断し、20府県に死者67人、行方不明者29人と土砂崩れや水害などを多発させた近年最悪の台風であった。 とくにこの台風では、舞鶴市で年金者連盟の老人たちを乗せた観光バスが水没し、窓ガラスを割って全員が屋根の上に避難し、カ-テンを裂いて結びあわせた紐を立ち木に縛り付け、バスが流されるのを防いで、翌朝36人全員が無事救助された事件が、新聞やテレビを賑わせた。 練習帆船といえば「船員教育」のシンボル的存在である。 そのシンボルが、かくも無残に難破したことは極めて衝撃的である。 いま船員教育は危機に瀕している。 とくに外航ではほとんどが混乗で、新規船員を育てる基盤を失い、船内にはその受入れ体制がない。

 船内労働の基礎である部員の技能が消滅し、直接指導すべき上位の職員も、混乗の進捗によって少数化し後輩を育てる体制も余裕もない。
 これは、海運業界が船員の育成を放棄している結果であるが、海上の現場が新規船員を育成する体制を失えば、船員労働を基礎にした海事関連業務への船員の進出も、先細りの一方である。 この様に見てくると今回の海王丸の難破は、日本の船員教育体制そのものが「難破」したと見ることが出来るようである。

マラッカ海峡で海賊
 日本のタクボ-トが、マラッカ海峡で海賊に襲われ、船長と機関長、三等機関士の3人が連れ去られる事件が発生した。
 葺駄天 (323総トン1996年建造) 北九州市若松区―近藤海事所属―は、作業船=海上構造物?を曳航してマラッカ海峡を航行中の3月14日、漁船と見られる海賊船に銃撃され、日本人船長と機関長、フィリピン人三機士が連れ去られた。 葦駄天と曳航物は翌日ペナンに到着し、海賊事件として沿岸各国の機関によって捜索が行われたが、連れ去られた3名は3月20日、タイ国沖で解放され無事保護された。
 
今回の海賊事件は身代金目当ての犯行と言われ、以前のような船を積荷ごと奪う、大がかりな組織的犯行は減っているようである。 国際商工会議所の下部組織、国際海事局(IBM)の2004年の海賊レポ-トによると、海賊事件の発生件数は325件で、前年より210件減少したが、機関銃を装備するなど凶悪化しているという。 海賊の発生場所は今回の海域を中心にした、東南アジアが半数近くを占め、ついでアフリカ沿岸が多く発生しているという。 今回の事件では、幸いにして乗組員の死傷事故を免れたが、前記レポ-トでは、殺害30人、傷害59人と報告されている。

 葺駄天は日本籍船と言われながら、船長・機関長を含む日本人8人と、三機士を含むフィリピン人船員6人が乗り組んでいたようである。 なぜ日本籍船にフィリピン人船員が乗船していたのか。 日本の国内にいるときは8人で運航し、外航に出たとき何処かで外国人船員を補充したのか、正式に「マルシップ」等の手続きをしたのだろうか。
 また、どんな船でも海賊対策は必要だが、特に今回のような事件の場合、船員の身体の安全確保や災害補償の整備が必要であり、葦駄天はどうしていたか、こんな船が他にないか精査が必要であろう。

いま、核兵器の廃絶を3.1ビキニデー集会
 例年行われている「3・1ビキニデー-集会」が、今年も関連行事と合わせて2月27日〜3月1目まで、静岡市・焼津市で開かれた。
 本会を含む船員関係者12人は、28日午後「2005年3.1ビキニデー」(日本生協連・静岡生協連主催)に参加、夜には「海の平和問題懇談会総会」を開き、有事法制の海運・船員への影響や最近の船員問題について討議した。 3月1日は、午前中「久保山愛吉献花墓参行進」(約1800人参加)に参加、午後は「3.1ビキニデー集会」に参加した。
 この集会では、米国のビキニ水爆実験で被災し、今でも苦しんでいるマ-シャル諸島民の代表がその実情を訴え、今までの支援に感謝するとともに引き続きの支援を要請した。 また、米・仏の平和運動家も出席し、自国の核保有を批判し、核廃絶の世界的運動の発展を訴えた。

 米国のブッシュ政権は、核兵器の使用をも視野に入れた「先制攻撃戦略」を推し進め、使える小型核兵器の研究・開発、地下核実験再開の検討、ミサイル防衛計画、宇宙の軍事化などを進め、21世紀の世界に新たな脅威を作り出している。 これに追従する日本の小泉政権は、日本国内と近隣諸国への脅威を増長していることなどが実例をあげて強調された。
 「もう一つの世界は可能だ」をスロ-ガンに、1月28〜31日までブラジルで開かれた第5回世界社会フオーラム(WSF、15万人参加)では、戦争のない平和な世界、公平で貧困のない世界を作る決意が新たにされると共に、「核兵器廃絶のための国際行動」が強調された。

 05年は、広島・長崎の原爆投下から60年、ビキニ被災事件から51年、国連総会は今年も核保有国に核兵器廃絶を求めた決議を圧倒的多数で採択した。
 05年5月に開催されるNPT(核不拡散条約)再検討会議に向けて、非核国政府や自治体、各国NPOや市民が「核兵器廃絶の年にしよう」と行動を開始している。
 久保山愛吉さんの「原水爆の被害者はわたしを最後に」との願いが、全世界に広まりを強めているとの印象を強く受けた。           (K)         

第 二 船 籍 制 度

 日本船主協会は一昨年6月から、パナマ籍などの外国籍船と同等かそれ以上の競争力をもつ船籍制度を作るための検討に着手し、03年2月、「わが国外航商船の第二船籍制度の創設」を内閣官房構造改革特区推進室に提案した。
 翌04年6月には、今治市と共同で、「第二船籍制度の創設」に関する構造改革特区提案を特区推進室に提案した。 提案の内容は、今治市を構造改革特区の船籍港として、新たな日本船籍制度(第二船籍制度)を創設し、この船籍船には@日本人船員配乗要件の廃止、A設備、検査要件や船舶売買手続き等の規制緩和、B新造外航商船の登録免許税の引下げと外航船の固定資産税廃止、というものであった。

 この提案について担当の国土交通省との間でさまざまな折衝があり、数次にわたり提案がなされたが、本年2月の国交省の回答をもって今後の論議に委ねることで収斂した。
第二船籍制度提案に対する、国土交通省の回答の大略は以下の通り。
第二船籍制度については現在、国土交通省と船主協会が共同して設置した「外航海運政策推進検討会議」で検討を行っているものである。

 構造改革特区の設定は、当該地域にメリットがあり地域活性化につながることが前提で、税の軽減など財政措置を伴うものは対象としない。 特区に置籍する船があっても、国税である登録免許税や固定資産税が特区に入る見込がない。 船舶が置籍しても寄港の義務はなく、燃料や水も積まないから経済的効果もない。
船員の配乗要件は条約に準拠しており、地域に限定して特別措置を講じる性格のものではなく、日本人船員確保の観点や組合の意見を聞くなど、十分な論議が必要。 等々。

編 集 後 記

 ようやく第13号を発行することが出来ました。
 いま、日本人船員を取り巻く状況が、大きく後退し始めたように感じます。 船員法や船員職業安定法の改正はその手始めで、説明会では、手続きと書類が整っていれば、何でもOKというような感じです。 国際的にもIBF(国際団体交渉協議会)の動きも、脱ITFで更なる船員コスト削減に向けた動です。 この攻勢に船員の側の反撃体制が作れるかどうかが鍵になっています。 (篠原)