海労ネットニュース 第12号 (2004年 9月10日発行)


目 次

具体的政策の確立を
産別組織を守る議論を
常用雇用型船員派遣制度の問題点
船通労・無線会館売却
じん肺でもと船員死亡
第6回定期総会報告
戦没船を記録する会十年史
海王祭パネル展開催
編集後記

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船員と配乗船確保のため具体的政策の確立を

 海上労働ネットワークの第6回定期総会が、7月17日、東京浜松町海員会館で開催された。
 日本の海上労働の現状は、外航では船員労務問題が外航労務協会から、船主協会外航労務部会の所管にゆだねられる中で、3年がかりで賃金、雇用、労働時間等が各社交渉に移され、産別の統一労働協約が完全に崩壊した。そのため、すべての面で外航各社間の横の連携が断ち切られ、産別組織の統一と団結が失われることとなった。

 また、外航各社の所属船員と日本籍船の減少が続いているが、これは脱日本人船員、脱日本籍船政策が進められただけで、日本商船隊が縮小した訳ではない。しかも船主は、日本的「第2船籍制度」を提唱し、国際船舶制度の日本人船・機長配乗要件を廃止して、コストのパナマ籍船並への引き下げをうたっている。その結果、外航の会社所属船員2千人、海員組合の日本人組合員が3万人を切る状況となっている。

 内航では昨年、未組織船との競争力強化のために、新賃金制度を導入したが、続いて内航船乗組み制度の見直しとして、船員法改正を伴う合理化が取り入れられることになっている。その内容は、最長労働時間を1日14時間以内、7日間で72時間以内とする。これには安全臨時労働(航行安全のための労働時間)を含まないこと。航行区域に係る配乗資格(海技免状)の低減や、航海当直の(機関部の)兼務化と、当直資格付与の簡便化など、いっそうの労働強化、安全の低下が予測され、内航の船員労働をいっそう荒廃させるものである。
 船員法改正と同時に行われた船員職業安定法の1部改正は、国土交通大臣の許可を受ければ、誰でも船員労務供給を事業として行うことが出来る制度改正である。つまり、「内外航で予備船員の雇用が困難な状況のもとで、船員を一括雇用し各社に派遣し、各社間で融通出来る仕組みが必要」などとして、いうならば、マンニングを事業として公認する、或いは既存の船会社がマンニング屋に転業・兼業を可能とする制度である。

 こうした中で総会の討論では、海員組合が提唱している「海運基本法」について論議がなされた。海運基本法の目的が必ずしも明確ではないが、これによって野放しになっている日本籍船や日本人船員削減、歯止めのない内航の過当競争と船員労働へのしわ寄せをやめさせ、現職船員と船員を志望する若者に希望を持たせることが出来るのか疑問だ。
 例えば韓国では、済州島(第2)船籍船には、外国人船員配乗を制限するとか、トン数標準税制と関連して韓国籍船を確保する制度、英国のトン数標準税制導入の条件として新規採用を義務付ける制度とか、ベビーキャプテン制度(30才代に船長職を経験させる)など、具体的に船舶と船員を確保する政策を実施しようとしているようだ。
 われわれも日本の船員が安心して働ける制度を作るための具体的な主張・提案することが必要で、真剣な論議を展開しなければならない。(S)

組合員不在の抗争をやめ産別組織を守る論議を
                         竹中正陽(太平洋汽船機関長)
 海員組合内部では、役職者数名の次期役員立候補表明に端を発した「人事抗争」をめぐり、大量の怪文書が出回っている。中には「組合従業員有志」、関東地方支部気付「職場委員有志」を名乗るものもある。
 怪文書は、組合長を「独裁」「老害」の打倒対象とし、副組合長以下4名の中執、地方執行部数名を「腰巾着」と名指し非難する一方で、2名の中執を擁護し沿海部長・気仙沼支部長の「処分」に抗議している。
 その真偽はともかく、書かれた内容が全て事実無根とも思えず、内部に精通した者や複数の執行部員の関与が伺われる。
 以下問題点について考えてみる。

1、組合長声明と小堀中執声明
 7月28日の組合長声明に続き、8月6日小堀中執「組合長声明について」が出された。両者とも機関を通じて本部各機構・各支部長・海外代表あて送付されたという。
 組合長声明の概略は以下の通り。
『長年にわたり三役・中執体制は組合長による責任体制を旨としてきた。
しかし小堀中執は勝手に次期役員選挙立候補を公表し、翻意を求めたが応じなかった。この行為は中執委の団結を乱し、また水産部7千組合員の利益と権利を損なう怖れがある。従って水産局長を解任する。』

 小堀中執は『組合長声明は中執委で論議されていない。過去、自由立候補による役員選挙の例があり規約に違反しない。昨年、60歳を越える者は勇退するよう言われ了解したが、その後情勢が変化した。また水産部長人事など組織運営上問題がある。水産局長を辞任しない。』と言う。
 なお、組合長声明には、同様に立候補を表明したとされる北山中執・市池沿海部長、解任された増田支部長の件は何ら触れられておらず、小堀水産局長の解任だけが「規約にもとづく業務分担の変更(船員しんぶん8月5日号)」と公表された。
 その後8月4日付けで市池氏の解任・依命休職と増田氏の解任・自宅待機が発令された。
 しかし、その経緯は一切報道されず、組合長声明も現場組合員には知らせない性質のものであるという。

2、中身のない怪文書主張
 怪文書は、組合の現状を憂える若手執行部や職委を装い「長期独裁政権」を非難することで、一見組合の民主化を求める「改革派」のように見える。しかしその内容は「役員立候補は個人の自由、規約違反ではない」「3名の解任理由を明らかにしろ」という2点のみで、特定役員の誹謗中傷に終始している。
 そこには組合民主主義が損なわれている現状の把握や問題意識、組合員の声が組合に中々反映しない組織上の問題点についての指摘は一切なく、従って組合をどう改革するのか方向性は見えない。

 例えば、組合大会等で長年にわたり指摘されてきた問題点。
※役員特権の見直し(顧問制度、外部団体への天下りシステム、高級マンション・一戸建て住宅貸与)
※役員指名立候補制(事実上の世襲制、違背者の島流し) 
※地方支部転勤の乱用・転勤辞令に伴う昇進の過多 
※大金である部外役職手当の個人収入化 
※船主によるゴルフ・飲食接待の野放し状態 
※海外出張時の遊び・ゴルフ、等々。
 これらはいずれも選別された者に与えられる特権で、権威に従順な執行部を産む土壌となっているが、これらの改革は怪文書発行者の眼中にはないように見える。

 また、6年前の組合長選挙に堀内組織対策室長が立候補して提起した問題もその後解明されていない。
 真に組合改革を望むなら、せめて出所を明らかにし、組織上の問題点について公開された論議を行うべきである。しかしその徴候はなく、結局のところ自派の意向に沿う役員の更迭に不満で、それが解消すれば一件落着することが伺える。
 以上の観点から、怪文書は自派の利益追求のためにする陰謀に過ぎず、組合改革の志など全く無いと判断する。また多数の怪文書が発行された事実は、「陰謀組織」の存在を逆に証明することになったとも言える。
 組合員の心配や懸念に答えるため中央執行委員会は、組織を錯乱する行為を放置することなく、毅然とした態度を示す必要がある。

3、組合員不在の「抗争」
 今日まで各声明の内容や役員解任理由は機関誌・紙には何も掲載されず、組合員は全く知らされてない。にも関わらず、船主側は幾多のルートを通じ全容を把握しているという。
 また、既に次期役員体制が密かに流布される一方で、前記4氏には天下り先等のポストが用意され懐柔が行われているとも言われている。
 これらが事実とすれば、相変わらず現場組合員は蚊帳の外に置かれ、極めて限定された情報のみを与えられて操作される対象に過ぎないことになる。こうした愚民政策は、幹部への信頼を損ない、組合の求心力を更に喪失させるに違いない。

 怪文書グループが自己利益追求のため様々な混乱を与えていることは言を待たないが、今回の問題を「組合員不在の人事抗争」に落としめている責任の大半は中執委にある。
 本来なら解任「処分」は規約第104条(組合内の紛議の処理)に則る中執委の裁定のはずであり、理由を付して本人に通知するのはもちろん、問題が複数の上級役職者に同時発生している以上、組合員に報告して説明するのが執行機関の責任であり義務である。
 組合にとって重要な事件であるにも関わらず、組合員が真実を知るのを妨げ、混乱を放置している点で中執委も同罪である。
 早急に情報を開示し、なぜこのような問題が発生したのか、根本原因を明らかにして改革に向けた論議を起こすよう希望する。そのためには以下の措置が必要である。
@ 事実経過、3氏の解任理由を公表し、執行体勢の透明性を図る。
A 問題点を明らかにするため、立候補を表明したとされる3氏や解任された増田氏に、弁明の場を 与え論議する。
B 定期全国大会に報告し、根本問題について論議する。
C 今後の役員選挙に際し、立候補者に、産別組織としての政策・方針や組織運営に関する意見を公 約として表明させる。

4、本質はどこに?
 今回の問題を「切り捨てられると知った忠僕が叛旗を翻し、陰謀を企てた」とする捉え方がある。
 しかし不況や規制緩和でどの現場も大変な状況にあり、かつ産別組織に対し様々な攻撃がかけられている今、今回の問題が好き嫌いに発した単なる派閥争いとは思えない。その背景には、日々の活動を通じて、組織運営や産別の基本方針を巡る深刻な意見の相違があったに違いないと推察する。
 かつて92日スト後の1976年頃も大量の怪文書が飛び交ったことがある。当時は「船員の人間性回復」をめざし、休日・休暇・労働時間・賃金など現場組合員の意向が協約に結実される一方で、旧来の組合体質からの脱皮を図るため、政党支持の自由化など組合民主化が進められる最中であった。
 船主と通じる「ダラ幹」への批判や、組合ボスをリコールした組合員の強い要求が根底にあり、組織運営の民主化を求める声が強かった。

 そうした活動を進める組合長以下多くの役員を左派=アカと名指しで誹謗中傷する追い落とし策動が怪文書の目的だった。その背景には、組合が旧来の労使協調路線から脱皮し、民主化=真の産別組織へと体勢を整えていくことを何としても阻もうとする船主側の思惑があった。
 国際競争力論を掲げFOC・マルシップ等の脱日本人化へ向かう船主側にとって、何としても組合を旧来の路線に戻す必要があったのである。
 現在はどうか?雇用の統1協約を廃止し、労働協約の個別化や産別賃金制度の骨抜きに成功した船主側にとって、次の目標は組合組織そのものへの攻撃である。
 それは、東海商船を始め東京船舶・八興運輸・岩崎グループなど1連の組織脱退化に現れている。近年、1部幹部によって囁かれたという連合体移行容認論も偶然ではない。

 今回の問題を「人事抗争の収拾」をもって論議に蓋をし、組合員の眼が本質に向かうことを避ければ、問題は先送りされるだけである。
 より重要なのは、なぜ問題が生じたのか根本原因を探り、今後どういう産別組織を作っていくかの論議を執行部と組合員が1体となって始めることにある。組合の内実を最も良く知るのは執行部であり、もっと自由に発言して現場組合員に提起し、論議の先頭に立って欲しい。
 この問題を契機に、組合の組織改革と産別組織を守り発展させる論議を開始するよう希望する。
 それなしには船主による産別解体論に対抗することはできないと思うからである。
                                (8月31日)

常用雇用型派遣制度の問題点
 去る5月27日の通常国会で「海運活性化3法案」が成立した。来年6月までに施行される。その内容は
@内航海運業法の一部改正(許可制から登録制へ参入規制の緩和) 
A船員職業安定法の一部改正(常用雇用型船員派遣事業の制度化等) 
B船員法の一部改正(時間外労働の規制緩和)

1、「常用雇用」の定義が不明

 以下、常用雇用型船員派遣制度の問題点について触れたい。
 陸上の派遣制度も「常用型」と「登録型」の2種類あり、登録型は仕事がある時のみ雇われ、雇用期間=仕事期間(月決めだけでなく日決めも可)になる。
 他方常用型は期間の定めがない状態で雇用されるが、必ずしも「期間不定=永年雇用」を意味せず、実体は1年等の期限で派遣業者に雇用され、暗黙の更新を繰り返す形が多い。従って仕事がなく待機している間も雇用される形態を「常用型」と呼び、雇用期間の長さとは無関係である。
 船員の場合、これまで派遣は法律上認められず、1年等の臨時雇用乗船、もしくは他社の永年雇用船員の一時派遣(在籍出向)のみが合法とされてきた。運輸局や組合への登録による乗船も、船主に直接雇われる点であくまで船主に雇用責任があり、派遣とは根本的に異なっていた。
 そのため船員の間では「定年までの永年雇用」か「1年等の期間雇用」の2種類の雇用形態しか頭に浮かばず、「常用型=定年まで雇用が保証される」と思いがちである。
 しかしその保証はなく、法律上も明確な定義はない。
 派遣業の問題は「雇用責任」がどこまで及ぶかに尽きると言っても過言ではない。その範囲・期間が最も重要で、トラブル発生の因ともなっている。陸上では、「業務縮小」「契約解除」など様々な理由を付して派遣労働者が日々解雇されており、船員にも波及する危険がある。

2、船舶所有者でなくても可
 派遣業を始める業者は国交省に申請し、船中労委の意見聴取の上認可される。許可条件は@雇用管理を適正に行う能力、Aプライバシーなど個人情報の管理能力、B事業を的確に遂行する能力の3点とされ、「現行の船会社はどんどん活用して欲しい」(国交省)とのことである。
 海員組合は「船舶所有者」「裸傭船者」「船舶管理会社」を条件とするよう主張したが退けられ、船主側の意向通りとなった。また許可要件チェックのため官労使による管理機構を設置するよう求めたが却下された。
 この結果、船を持たず、裸傭船、船舶管理もせず、「船員を雇い、派遣するだけ」の会社が船員法上認められることになる。この様な会社がどこまで雇用責任を果たすことができるのか、それを保証する規定は無い。

3、同一船社に2種類の船員

 71条「派遣船員であることの明示」によれば、最初から派遣船員として雇う船員とそうでない船員(従来型雇用)の2種類に分けられ、従来型の船員を派遣する時は本人同意を必要とするが、派遣船員は必要ない(外国船への派遣の際も同様)。
 また66条は「派遣契約の解除に当たって講ずる派遣船員の雇用の安定を図るために必要な措置」を一隻ごとの契約に明示するよう義務付けている。82条「派遣終了後7日以内に派遣業者との雇用関係が終了した船員」の規定もある。
 これらは陸上と同様の規定であり、派遣船員とそれ以外の船員が、同じ会社の中で身分上大きな差を前提としていることが分かる。永年雇用なら一隻の船の派遣契約が解除されても別の船に行けば良いはずだが、これらの規定は「常用型」といえども派遣船員は雇用が不安定であることを意味し、雇用責任義務が、従来型船員に比べ極めて薄いことを法律が認めていることになる。
 また、賃金、休暇(予備員制度)など他の労働条件についても、派遣船員とそうでない船員との2本立て就業規則(一社2種類の労働条件)が許されるのか不明確で疑問が多い。明確なのは、派遣船員に対して、派遣元の船員保険が外国船派遣中にも継続して適用されることのみである。

4、解雇自由、解散自由な制度
 海員組合での講演会で「派遣契約の解消を理由に派遣船員が解雇される怖れがある。歯止めの条文は?」の質問に対して国交省は「解雇規制の条文を作ることは難しい。運用面でチェックして行く」と返答した。
 しかし派遣契約の減少に際して企業が、派遣前提で雇った船員の解雇や、会社解散を考えるのは自然な流れである。また、派遣船員が労働組合に加入したり、組合活動が盛んな場合、親会社が船の契約そのものを打ち切り、別の派遣会社を作らせることも容易に想像される。そのような場合「企業経営権」を盾にする1方的解雇や偽装解散に対して、行政がどのような「運用上の歯止め」ができるのか疑問である。

 ここ数年陸上においては企業側の連戦連勝で、「解雇する自由」「会社を解散させる自由」が大手を振ってまかり通っている。
 従来は「整理解雇の4要件」が最高裁判例を通して確立されていた。
@経営危機など人員整理の必要性、A解雇を回避する努力をしたか、B合理的かつ公平に対象人員を選んだか、C本人や組合へ十分説明したか、の4点がすべて満たされない解雇は無効とされて来た。しかし最近は、要件を甘くした判決が続出している。
 例えば、角川書店が子会社角川財団との大辞典編集業務契約を打ち切り、別の100%子会社H社と同内容の契約を結んだケースがあるという。角川財団は大辞典の編集室を閉鎖し、永年雇用の編集員全員を解雇。解雇された室員はH社に1年契約・低賃金での雇用を提案された。角川財団の他の業務は健全で、経営危機はなかったにも関わらず、裁判所は角川書店、角川財団、H社が別法人であることから解雇有効と判定した。
 このような裁判所の動向からすれば船の契約解除=人員整理の必要性と判断し解雇有効の判決が出る可能性は多い。
 また、船を所有せず、船員を雇うだけの会社を解散させるのは簡単で、解散によって解雇される船員は、差し押さえる財産が無いため、未払い賃金や退職金などの労働債権も危うくなる。
 これに対し船中労委がなんら歯止め措置をとらないとすれば、陸上とは別個の独立した委員会であることの存在意義が問われる。

5、ILO条約に抵触
 ILO9号条約(日本は大正11年に批准)は暴力団や手配師が船員を支配し暗躍する状態から近代的な契約社会に脱皮させることを目的とし、営利目的の船員紹介業を禁止した。戦前、隷属状態から船員の権利を回復するために行ったボーレン制度廃止の闘いは海員組合の原点でもある。
 今回の法改正は事実上、派遣事業という名の紹介業を認めることになり、条約に抵触する可能性が強い。派遣業と紹介業の違いは「雇用責任」がどれだけ義務付けられているかによる。雇用責任のない派遣業は限りなく紹介業に近いといえる。
 また、ILO22号条約(日本は昭和30年批准)は船員の雇い入れ契約時に船舶所有者と船員の直接署名を義務付けている。それは営利目的の第三者の存在を除外するだけでなく、労働条件や雇用責任を明確にし倒産時の債権確保など船員保護のためでもある。
 なぜ国交省は労働に関する国際基準であるILO条約に違反してまで、あるいは違反すれすれを犯してでも、船主側の意向を汲んだ法改正を急ぐのか疑問である。法改正の結果、雇用が安定し船員の状態が改善するとはとうてい思えない。

6、陸上の実態

 陸上では1985年に派遣法が制定され、当初はコンピューター関連など十5業種に限り認められた。その後2度の改正により原則自由となり業種が大幅に拡大され、派遣期間などの要件も緩和された。いずれも財界の要望によるもので「出し入れ自由な雇用」が目的であった。
 当初、派遣法の目的は、請負契約で多発していたトラブル回避、雇用促進など労働者保護のように宣伝された。しかしこの2十年の現実は、派遣先に課せられた「雇入れ努力規定」「雇用申し入れ義務」は空文化し、労働者のレンタル化、大量のフリーターを生む結果に終わった。
 その原因は、派遣元と派遣先の力関係に圧倒的に差があることによる。派遣元にとって派遣先企業は「お得意さん」である。また親企業が自社に派遣させるために作った派遣業者も多い。
 陸上で最も多いのは、契約期間内の「別の人間への差し替え」「単価切り下げ」を派遣先が強要すること。次が途中解約や1年後の契約更新の拒否など期間の問題である。

 これらは即失業に結びつき、契約期間内であっても大部分が泣き寝入りとなる。派遣業者の立場は弱くなる一方で、途中解約に備え1ヵ月毎の短期契約を更新する形にして、いつでも首を切れるようにしている業者もあるという。雇用促進どころか、大企業の正社員が減った分派遣が増えただけで、国・地方自治体・公営交通などの公共機関にも派遣が急速に広がり法の眼が届かない状況にある。社会保険未加入の問題も多いという。
 また陸上では「常用型」の比率が急速に減少し、「常用型」と「登録型」の比率は1対9であるという。
追記 法改正の意義として「違法マンニングの撲滅」が強調されている。違法マンニングは本当に撲滅されるのか?逆に、合法マンニングが生じ、両者の競争もしくは縄張り確保的共存が生じ、その境界が益々不鮮明になるだけに終わるのではないか。
 違法を取り締まる立場にある当局が、法規制を緩和することにより違法マンニングの撲滅を図るというのは子供だましだと感じている。
                                  (S&T)
 
船舶通信士労働組合が無線会館売却方針決める
 船舶通信士労働組合は今年5月27日開催の、第35回定期大会で、組合本部である無線会館を売却する方針を決定した。通信士労働組合は現在組合員が23名で、このうち企業所属組合員4名は陸勤か陸上出向者・予定者、他は求職者分会員だが、最近は求人もほとんど途絶えているという。また、特別(OB)組合員は83名である。
 方針では、無線会館売却決定後に臨時大会を開き、組合の存続、組合事務所の移転などについて決定すること、資産売却後に残余の資産を、電気通信大学歴史資料館などに寄付すること、としている。
 船舶通信士労働組合は、戦前の1932年に結成された無線技士倶楽部から、戦後の船舶通信士協会へと運動が引き継がれ、1972年1月、無線3直制廃止反対運動から、全日本海員組合を脱退して「船舶通信士労働組合」を結成して今日にいたっている。戦後、日本の海上労働者が全日本海員組合に結集してから、船舶通信士労働組合を結成して離脱するまでの間、船舶通信士は海員組合の中で、特に船内活動の中心的役割をになっていたが、通信士組合結成後は職能組合として、独自の路線を歩んできた。

 しかし、1999年2月、GMDSS(世界的な海上の遭難・安全制度)が全面実施されて以来、モールスによる無線通信が廃止され、衛星利用によるデジタル通信が主体となり、船舶通信士の職場そのものが消滅したため、労働組合としての組織の縮小、整理を迫られたもの。
 今まで、海員組合幹部リコール運動やぼりばあ丸裁判闘争で、或いは戦没船を記録する会の戦時海運研究会で、しばしば使用させてもらった無線会館がなくなることは、誠に残念であり、感慨深いものがある。
 
じん肺で元船員が死亡 船員保険の制度に欠陥
 本誌第4号で、元船員のNさんが肺がん検診で胸膜肥厚班と診断されたが、それは「アスベスト」を吸い込んだ結果によるものである。陸上の産業では、アスベスト作業従事者は労働安全衛生法に基づき無料で定期検診を受けられるが、船員にはその制度がない。船員にも陸上同様の健康管理制度が必要だ。
 Nさんの訴えを受けた神奈川労災職業病センターは、船員に健康管理手帳を交付させるためにも、実態調査が必要として、その実施を始めたことを報道した。

 船の機関部では昔から最近まで、たくさんのアスベスト(石綿)が使われていた。例えばボイラーのガットには、大きなアスベストの布団が当てられていた。蒸気パイプにはすべてアスベスト入りの石膏かアスベストの縄が巻かれ、その上にアスベスト布をあてて綴じ、石灰を水で溶いて布のりを混ぜて塗り固めた。修理のたびにこれらを外し、修理の後は同じように修復した。ボイラーの炉内を修理するときは、まだ火傷するほど熱い中で、石綿の頭巾と手袋をして作業をした。日常的にアスベストが使われていて、石炭炊きの船では、罐替え時の粉塵も物すごかったが、当時は粉塵や石綿がじん肺や肺ガンの原因であるなどという認識は全く持っていなかった。

 船員しんぶん(4月25日付)に船員保険の職務上のアスベスト疾患として初めて認定された、操機手笠原さんのことが報道された。
 残念ながら新聞が発行される直前に死亡されたという。40年後に突然発症したようだが、戦後の機関部船員はほとんど全部が、「じん肺」予備軍でいつ発症してもおかしくない。船員保険に「じん肺」に対する健康管理制度を導入させることは吃緊の問題である。

第6回定期総会報告
 海上労働ネットワーク第6回定期総会は、7月15日、東京浜松町海員会館に、役員や会員17名が出席してで開かれた。会議は竹中代表幹事の司会・進行で進められ、活動報告・決算報告・監査報告を承認し、第6年度活動方針、第6期役員を決定した。
【船員の状況】略
【組織と財政】 外航各社の現職部員の職場がほぼ消滅した現在、本会の現役船員は職・部員合わせても数人にすぎない。現在個人的に機関紙を発送している数は110余であるが、OBや退職者が大部分である。

第6年度活動方針
1、機関誌の発行(目標は年4回発行)
2、インターネットニュースの発行(当面月1回)
3、勉強会開催、組合幹部との懇談会・討論会
4、じん肺定期検診の船員法適用の法制化運動
5、戦没船を記録する会、その他団体との提携、交流
6、事務局体制の強化

 この1年間の会費収入は17人119,000円(カンパを含む)。カンパと指定したものは7口59,800円である。その他の収入としては戦没船を記録する会の事務所使用料24万円などがある。実質収入は約42万円である。
 支出は金額の多い順に、家賃、労務費、雑費、文具費、通信費などである。機関誌の発行が1回しか出来なかったので、機関誌費は過去最低であった。年間の総支出は約276万円である。
【機関誌発行など】 機関誌を年4回発行の方針が決められたが、結果的には1回発行されただけである。発行出来ない理由は、事務局の能力の問題であり、この体制を変えないかぎり目標達成は困難である。インターネットが充実出来ない理由も同じである。

 現在日本人船員が直面している「内航船乗組み制度見直し」と、「常用雇用船員派遣制度」、「日本的第2船籍制度」の問題について、1月23日、講師に海員組合の福岡真人中執を招いて勉強会を開催した。本会の会員その他が出席して、極めて有意義な勉強会であった。しかし、この勉強会の成果が活かされず、問題点を現場に知らせ、更に勉強会を重ねて掘り下げ、外部にアピールするなど、運動を継続、発展させることが出来なかった。
 船員法、船員職業安定法の一部改正は既に国会で成立し、来年から実施される。これらの法改正が、船員におよぼす影響について、徹底した検討と対策が必要である。

 海上労働ネットワーク
 第6期役員名簿
 幹事  〇 上村  徹
     〇 柿山  朗
       川島  裕
       岸本 勇夫
       小林 三郎
       小林 佳孝
       新藤 博志
     〇 竹中 正陽
       楢原  豊
       二宮 淳祐
       宮谷 和夫
 事務局長  篠原 国雄
 会計監査  栗原 三郎
       福原 司郎
 〇印は代表幹事

戦没船を記録する会十年史発行へ
 戦没船を記録する会は昨年の第10回定期総会で、創立10周年を迎えるに当たり、会の活動記録を残すため「10年史」の発行を決め、編集委員会を発足させて構想を練り、分担して執筆し、内容の検討を繰り返すなどの作業を続けてきたが、8月にその原稿を印刷に回すことで、完成が近づいている。
 「十年史」の内容は巻頭言「繰り返すまじ戦没船の悲劇」に始まり、記録する会設立までの運動経過、主な活動・事業、戦時海運研究会の記録、戦没した船と海員の資料館の開設、全国各地での展示会・パネル展の報告、会報などに見る壮絶な遭難記録・手記、など8章と、記録する会の活動年表、海域別戦没船数表・図、都道府県別戦没船員数表、会員名簿その他資料などで構成され、巻頭にカラーグラビヤも組み込まれた、A5版約180頁の本として、10月に完成する予定である。頒布価格などは未定であるが、購読希望者は戦没船を記録する会(連絡先は本会と同じ)に申し込み下さい。

海王祭でパネル展開催
 東京商船大学と東京水産大学が今年4月に合併して、新たな学校法人「東京海洋大学」が発足したが、旧商船大学伝統の第44回「海王祭」が6月5・6日の両日、越中島キャンバスで開かれ、戦没船を記録する会のパネル展が開催された。展示内容は戦没船アルフォト写真、トラック島の戦没船と遺骨、太平洋戦争以後の戦争・紛争による船舶・船員の被害、大久保画伯の「戦時徴用船の最期」その他。
 海王祭ではグラウンドや他の場所で様々なイベントやゲームなども行われたが、第2日目は雨降りで屋外の行事が中止になったため、パネル展への入場者が増加し、2日間で400名を越える参観者があった。
 参観者の老婦人が「私の伯父さんも船員で、千島の方で戦死したと聞いているが、船の名前も何処で死んだのかも、何も分からない」と語り出した。終戦の年49歳でなくなった父親の上の兄だから、50才すぎていたと思うという。名前と本籍地だけ聞いて、戦没船員名簿で探し、当人を発見できたが、生年月日と職名と遺族名が記載されていない。
 この伯父さんの乗っていた船は隆亜丸1915トンで、昭和19年3月13日、千島列島の新知島から急遽工兵隊と資材を積んで、松輪島に向かう途中雷撃を受けて沈没。乗船中の船舶工兵隊58名、船砲隊23名、船員43名全員が戦死している。
 「伯父さんの船が分かりましたよ」と越中島のマンションに電話したら、雨の中を取りに来られた。関係書類のコピーをお渡ししながら説明したところ、涙を流し声をつまらせながら受け取られた。船没船員遺族の戦後はいつ終わるのか、つくづく考えさせられた。
  
編 集 後 記
 日本の船主が創設を望んでいる第2船籍制度は、パナマ船籍並み以下のコストで動く制度である。そのためには、登録免許税や固定資産税の廃止、船・機長配乗制度(国際船舶)の廃止、船舶の建造・設備基準等の規制緩和が必要だという。
 パナマ籍以上にコストの低い、日本人船員の乗らない、税金も払わない、安全性に心配のある船を、なぜ日本籍船にする必要があるのか。
 先の台風で3隻の外国船(日本商船隊?)が難破し、多くの乗組員が死亡し行方不明になった。第2船籍制度が出来たら、こんな船もみな、日本籍船になるのだろうか。その船に対して日本政府や船主は、どういう責任を取るのか、どのように報道されるのか。心配は尽きない。
 外航でも、所属船員数が二桁の会社が多くなった。大手でも新規採用が少ないから、今後、減少する一方だが、新たな常用雇用型船員派遣事業法が実施された場合、これらの会社がどう対応するのか。組合にも現場船員にも、あまり関心が持たれていないが、施行までに問題点を徹底的に洗い出し、対策を立てておくことが必要ではないか。  (篠原)