海労ネットニュース 第11号 (2004年 4月 1日発行)

目 次 

日本人船員は何処へ行く?
船員制度改革の勉強会を開催
最高裁 通信士上告を門前払い
PCS有効化のために
本四海峡バス問題の現状
漁船の太平洋戦争気仙沼展開催

日本人船員は何処へ行く?
船員法等の一部改悪
 1月16日船員中労委は「船員法、船員職業安定法の一部改正」等を国土交通大臣に答申した。今国会で採決し、来年4月施行の予定という。
  従来は原則禁止とされてきた時間外労働規定を変更し
、「1日14時間、1週72時間」
まで労働を可能とし、「航海の安全確保」のためには更に長時間の労働が許される。また船員派遣業が一定の条件で「常用雇用型船員派遣事業」として許可される。

内航乗組み制度の見直し
 内航では組合組織率が20%を切り、少数定員・サービス残業・船員保険不加入が日常茶飯事という。そうした中で国交省は「市場原理と自己責任、コスト競争力」を旗印に「次世代内航ビジョン」政策を次々と実行している。その一歩として甲板・機関・司厨部の相互融通実証実験が官公労使でスタートした。外航の船員制度近代化と同様の手法で、部員だけでなく法定職員間の兼務も制度化しようとするものだ。
 運賃や用船料決定システムの不当性は放置され、船員に対する規制緩和だけが次々に進められる。
カボタージュ撤廃の動き
 小泉内閣の構造改革特区構想の下で突如としてカボタージュ規制(国内港間輸送の自国船使用義務)撤廃の動きが出た。石原都知事等が音頭を取り、東京・福岡など主要港間で外国コンテナ船等による輸送解禁を求めたのだ。「単純労働力の国内移入禁止」の政府決定を解禁しようとする財界の圧力が強まっている。

船主協会の第2船籍制度案
 昨年11月船主協会は政府構造改革特区推進室に「第2船籍制度案」を提出した。現行の国際船舶制度では競争力を維持できず日本船は消滅すると主張し、パナマ並みへの税金軽減・設備基準の緩和・日本人船員配乗義務ゼロ等を要望している。
 これが実現すれは、諸外国との更に際限のないダンピング、レベル低下競争につながるだろう。
日本人船員は何処へ行く?
 外航では、船団解散の恫喝を背景に、一昨年に賃金体系が、昨年は雇用の中央協定が廃止された。今年は更に踏み込んで労働時間・休暇運用等の個別協約化を船主側が要求し、組合はこれに同意した。戦後50年をかけて作られた産別労働協約が次々に骨抜きにされる。

 陸上では日経連が95年に「新時代の日本的経営」を発表。終身雇用制と年功序列賃金を目のカタキにし、「出し入れ自由な雇用」を目的に三つの雇用形態を強調した(@長期蓄積能力活用型=少数の正社員、A高度専門能力活用型=有期雇用技術労働者、B臨時・パート・派遣等の雇用柔軟型労働者)。
 以降、労基法・職安法・労働者派遣法に続いて、会社分割法等の商法・独禁法も改悪された。その結果リストラの嵐が吹き荒れ、街は失業者とフリーターであふれている。
 今、陸上の動きをなぞる様な規制緩和・各種法改悪が国交省・船主協会のリードで画策されている。
船員も三つの雇用形態に分化しつつあり、さらに弱肉強食競争が意図されて、海運・船員社会そのものが壊されようとしている。                     (T)

船員制度改革の勉強会開催                           講師・福岡眞人氏(海員組合中央執行委員

 国交省の主導により進められている、内航を中心とした船員制度改革問題についての勉強会を1月23日、友愛会館で行った。各種会議の委員であり、この問題に詳しい福岡眞人氏(海員組合中央執行委員)を講師に招き、現役船員、OBら20数名が参加した。講演内容は、内航船乗組み制度の見直し、常用雇用型船員派遣制度、船主協会の第2船籍制度等で、講演の後には船員問題全般について活発な質疑が行われた。

1、
内航船乗り組み制度の見直し
 「内航海運の活性化」政策の一環として船員法、船舶職員法の改正が行なわれる。
 改正目的は「内航海運の公正な事業競争環境の形成、労働環境・労働条件の確保、効率的な配乗体制の構築」のため労働時間制・資格制度などを大幅に緩和しようとするもの。
 従来は、船員法64条「臨時の必要がある時」「公衆の不便を避けるため」以外は原則禁止としてきた時間外労働規定が変更され、労使合意等を条件に1日最大14時間、週72時間までの労働が認められる(ただし航海の安全確保の臨時労働は別途に命令可能)。あわせて定員などの規制内容の合理化、弾力化のため、甲機部員・職員の兼務化を図る。
 また、3級以下の受験資格の大幅な要件緩和、
,600トン以上の内航船の資格レベル緩和、甲板部職員に限らず部員や他部職員でも6級免状があれば航海当直を可能とする等の法改正を行う。 

2、
常用雇用型船員派遣制度の概要
 現行の船員職業安定法では労働組合が行う無料の労務供給派遣事業のみが認められている。法改正により、今後は民間会社にも、自社が雇用する船員を、継続的に他社の船に派遣する船員派遣業を可能とする。
「雇用管理を適正に行う能力」など、一定の条件を満たした会社が国交省から派遣事業者として許可されるが、船の保有は条件にされない。
 また、普通中学・高校を含めた学校等に無料の職業紹介事業を認めるよう法改正する。

3、
船主協会の第2船籍制度案
 国際船舶制度を含め、日本籍船は国際競争力がないため減少を続けており、他方FOCは政情不安等の理由から法的安定性に欠けると主張。
 FOCと同等以上の競争力を持つ日本籍船を増やすためとして、構造改革特区を設け、そこに登録した船舶には以下の措置を講じるよう政府に求めている。
@ 登録免許税のパナマ並み軽減、固定資産税の廃止
A日本人船員配乗義務の廃止
B船舶設備・検査要件の緩和(国際標準並への低下)等。

出席者の感想
 『これほど急ピッチに進んでいるとは思わなかった。知らないことが多く勉強不足を感じた。船員は大変な処に持って行かれようとしている。グローバル化や規制緩和など陸上でやられていることが、あたかも良いものであるかのように言われ、次々に持ち込まれる。この先派遣業まで認めたら船員のなりては本当にいなくなる。』現役船員
 『常用雇用という言葉がうさんくさい。何故わざわざ「常用」を付すのか? 期間雇用ではないことを強調したいのかも知れないが、実質的には期間雇用と変わりなくなるのではないか。船会社は船員を雇わなくなり、船員を雇うだけの別会社を作ってコストを下げる。幾つかの船員雇用会社をコスト競争させる。都合が悪くなれば派遣契約を切る。乗る船がなくなった船員はクビを切られる。あるいは会社ごとつぶす。船員を雇うだけの会社をつぶすのは簡単だろう。戦前のボーレン時代に逆戻りではないか』OB
 『船員が直面する厳しい現実や荷主の圧力があるのは分かるが、このやりかたで船員の状態が本当に良くなるのか? 学者や役人、船主協会に囲まれて海員組合が孤軍奮闘しているのは良く分かった。しかし、状況を打開するために、組合が何をしようとしているのか? 基本の背骨というか柱が今一つ見えない。内航船の実証実験にしても結論は分かっているはずなのに、官庁と一緒になって言い訳のためやっているように見える』OB
 『内航の乗組み制度も船員派遣も、現行法が守られないからと実態に合わせた法律を作るから、よくなる保証はない。しっかり監視していくことが必要だ』OB

最高裁 通信士上告を門前払い

 GMDSS(世界的な海上における遭難・安全制度)により職場が奪われ、また無線通信士資格の価値がカミ切れ同然となったとして、2001年5月、現役の船舶通信士16名が国に総額2億2400万円の国家補償を求めていた裁判で、昨年11月7日、最高裁は通信士側の上告を棄却した。これにより原告の全面敗訴が確定した。
 上告棄却の理由として最高裁は、『民事事件における最高裁への上告理由は、判決に憲法解釈の誤りがあること、その他憲法の違反がある場合等に限られるが、本件の上告理由は、違憲及び理由の不備を言うが、その実質は、事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、民事訴訟法における上告の理由に該当しない』としている。
 GMDSSの導入により、資格を有する専任通信士の配乗を義務付けた海上人命安全条約(SOLAS条約)が、従来よりも簡便な通信士資格で、かつ、船長・航海士などが通信業務を兼任できるように改正され、これに整合して船舶職員法などの国内法が改正され、船舶通信士の配乗義務は実質的に消滅した。
 導入後5年が経過し、船舶通信士の職場は縮小の一途をたどり、現在ではほとんどの外航船から締め出されている。またその資格は、元来、海上において必要とされてきたものであるため、陸上で活用することはできない状況となっている。

<資料> 東京高裁判決要旨
1.憲法29条の財産上の損失
 控訴人らは、船舶職員法の免許は乗船権を付与する講学上の特許処分であるとし、国がこれを喪失させるときには補償が必要であると主張し、国は単なる許可であると主張する。
 しかし船舶職員法の目的は、船舶の航行の安全を図ることにあり、控訴人らが主張する乗船権なる権利を保障するとの規定はなく、控訴人らの主張する特許処分を認めることはできない。

 また、海技免許が特許であるとの主張も、同種の許可とされる事例と比較して、直ちに特許処分性を認めることもできない。
 そして憲法29条第3項の財産権の侵害による補償の対象となるか否かは、特許処分か許可処分かにかかわらず、法改正により現実に相手方に財産上の損失が発生したか否かの有無によって定まり、原判決のとおり、本件にあって、控訴人らに財産上の損失が発生したと認めることができない。以上によれば、本件法改正が原告らの財産上の権利等を侵害するものであるとはいえず、原告らの請求には理由がない。

2.計画担保責任
 通信士資格を取得して、通信士として活動する個別的、具体的な勧誘をしたこと並びに原告らがそのような勧誘に動機付けられて資格を取得したことについては、何ら主張立証がないとの原判決に対し、控訴人らは、計画担保責任の根拠として、控訴人らに対する勤労権補償、法的安定性の原理にもある。したがって、国による控訴人らに対する「勧誘」が認められなくても、国の計画担保責任は発生すると主張する。
 しかし、前記判断のとおり、船舶職員法が控訴人ら主張の乗船権なる権利を保障しものと直ちに認めることはできず、改正前の法規下における控訴人らの利益は、単なる事実上のものにとどまると認められる。したがって、従前、控訴人らに対し勤労権補償をしたものともいえず、また、本件法改正をもって法的安定性の原理を侵害するということもできない。

3.立法不作為
 控訴人らは、代償措置の伴わない乗船権侵害であり、不作為による立法裁量権の逸脱濫用に当たると主張するが、控訴人らの、乗船権という権利を有していたとの主張については、前述したとおりこれを認めることはできず、したがって、控訴人らの主張は前提を欠くものである。

4.行政不作為責任

 平成3年の船舶職員法の改正により、国が航海士等への移行のための課程を開設し、従来の通信士が筆記試験免除で航海士等の試験を受験することができる措置を講じた趣旨は、従来から通信士として船舶に乗り組み、海事に関する専門的知識等を保有する者が、それまでの経験を生かしつつ、新たな海技資格を取得し、専任の通信士ではなく航海士や機関士も兼ねた兼務通信士として船舶に乗り込むことができるよう、また、従来の通信士が、新たな自己の職業能力開発に資するようにしたものであって、控訴人らの主張する乗船権を前提とする趣旨での雇用の保障とは必ずしも関係を有しないことが認められ、法改正を契機として国の作為義務を導き出すこともできない。
 控訴人らは、国が作為義務を果たしたことにならない根拠として、国が控訴人らに対する乗船実習については何ら措置を講じていないことをあげる。しかし、一般に海技士(航海又は機関)の口述試験を受験する場合の受験資格の要件として三年程度の乗船履歴が必要であるが、国が開設した移行のための課程を修了した者については、6カ月間の乗船実習で足りるとするなど、一般受験者よりも要件を緩和する措置がとられたことが認められる。したがって、控訴人らの、何らの措置も講じなかったとの主張も失当である。

 また、控訴人らは、ILO条約に関し、国は、本件法改正の際に船舶通信士労働組合と協議を行わなかったから、同条約3条に違反すると主張する。しかし、船舶職員法の改正の際には、審議会において、船舶通信士を含む船員の労働組合である全日本海員組合代表から意見を聴取したこと、通信士の資格取得者が航海士又は機関士となるために必要な資格を取得することができる課程も設けられたことが認められる。したがって、国の施策が同条約に違反するとの控訴人らの主張は理由がない。
 なお、控訴人らは、条理、国会における付帯決議、国会での答弁、ILOの関係条約・勧告のほか憲法13条、27条の趣旨等をも考慮すれば、国は、本件法改正に際し、控訴人らに不利益を与えないような行政上の作為義務を負っていたことが認められると主張するが、これらの事情を総合して判断しても、直ちに国による行政不作為の責任を認めることはできない。
5.結論
 よって、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却する。

PSC有効化のために
 昨年、当会ホームページに検査官V氏から次の意見が寄せられた。 

 
『外国籍化や外国人船員使用の問題解決については良く分かりません。しかし、サブ・スタンダード船の撲滅は、日本のPSCが厳しい検査を行えば、外国船が安い料金を武器に、日本に入港してくることはないでしょう。早く手を打たないと、内航船に影響してきますよ。』
 以下、PSCについて考えてみたい。

PSCとは
 本来、船舶に関する国際条約の遵守義務は置籍国にある(旗国主義)が、不履行が多発し、寄港国で監督・検査を行う制度(寄港国取締制度)が作られた。これがPSC(ポートステートコントロール)である。

PSCの国際組織
 行政当局間の国際的連絡組織として10組織(ロンドン、パリ、地中海、中部・西部アフリカ、黒海、ペルシャ、インド洋、カリブ海、ラテンアメリカの九つのMOU、アメリカ沿岸警備隊)がある。
 アジア太平洋地域では、東京MOU(日本、中国、オーストラリア、カナダ、フィジー、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、パプアニューギニア、韓国、ロシア、シンガポール、タイ、バヌアツ、フィリピン、ソロモン、ベトナム、チリなど18カ国)
1995年に成立。各国が協力して、一定期間内に地域内に寄港する全ての船を検査するように努め、個々の船舶データや検査暦をネットワークで共有し、検査成績の悪い船や旗国は、繰り返しターゲットにしている。

日本でのPSC
 国土交通省海事局総務課に「外国船舶監督調整官」を配置し、船員関係課と協力して実施している。
1、検査体制・検査内容

 
全国38カ所の運輸局・海事事務所等に配置された94名の外国船舶監督官・監督官を主体に、38カ所以外でも検査官・労務官が検査を行っている。原則として、訪船により国籍証書・SOLAS及びMARPOL関係証書・船員の免状・船級検査結果等を確認し、船の印象・機器類の整備状況・乗組員の状態等から規則違反があれば詳細検査を行ない、状況によりデテンション(拘留=航行差止)も実施する。
 規則違反としては、@証書類の欠如=職員免状の不足、航海日誌の不備・記載漏れ、マニアル等の欠如A重要機器・設備の不設置…等がある。

2、デテンションの主要基準
 航海、貨物の安全、機関室内の操作性、重要機器の保守、火災への対処や救助・退船体制、海洋汚染の防止、復元性や水密性の確保、遭難時の通信(GMDSS機器の操作)、船員の安全衛生環境などがある(これらはIMOの決議「欠陥の一覧表」にも掲げられている)。
3、検査をする船舶の選択
 @差止率の高い旗国の船A前回重大な欠陥のあった船B欠陥が多い船C
1,000〜1,500トンの小型船D船令の高い船EIACS(国際船級協会連合)以外の船級船等を注視している。

近年のPSC結果
 
2001年以前3年間の東京MOU内の平均差止率は7.28%、高率の船籍国は北朝鮮41%、インドネシア29%、カンボジア28%、ベリーズ24%、ベトナム23%。
 日本での03年7月〜12月の差止船は
351隻、内訳はカンボジア61隻、ベリーズ61隻、パナマ60隻、北朝鮮58隻、ロシア26隻。 差止日数別では、1日=206隻、2日=43隻、3日=45隻、4日=11隻、5日=9隻、6日=12隻、7日以上=25隻であった。

海員組合の活動
 昨年の活動報告によれば「ITFや日本の港湾労働者と連繋し、未組織FOC・マルシップの組織化と公正な海運・船員秩序の確立を目指し強力な活動を展開している」とし、直近5年
間で355隻を組織化した。
 昨年の全国一斉キャンペーン(計9日間)で計290隻(協約締結済船110隻、未締結船180隻)の査察を行ない、協約締結19隻・交渉続行20隻・調査中140隻、抗議行動3隻の結果を得た。またインスペクター等による日常活動で338隻を査察し(大半が苦情処理
)、8隻と協約を締結し、4隻でストライキ等の団体行動を行ったとしている。
 また、海上保安庁との連繋活動など、組合の立場から安全対策を講じ、欠陥船を発見すれば直ちにPSCを出動させ、重大な欠陥に対しては当局に船舶の拘留を要求する等、PSCの強化を求めていくとしている。

PSCの今日的課題

 安全航海、環境保護、公正な秩序・競争の確立…等は今後も一層重視され、サブスタンダード船(基準以下船)の撲滅は焦眉の課題である。しかし、全世界、東京MOU、日本近海いずれも海難事故は減らず、相変わらず違法・脱法行為、偽装、買収等が行なわれている。
 具体的事例として、@検査や違反船に対する処置の杜撰(検査官が飲まされたり、買収されたり、身分的・政治的圧力を受ける等)A検査の回避(違反嫌疑船を検査の厳格な港には就航させない、船長等応対者の意図的不在=逃避、言葉が通じないフリをする)B法定備品・書類等の検査対策(検査時のみの持ち込み)C検査パス後六か月間不検査の悪用等が喧伝されている。
 PSC導入後一定期間を経た今日、こうした阻害要因を取り除き、有効性を発揮するためには検査体制・改善指導体制の抜本的改革が不可欠である。
 以下、私見を述べたい。

PSC有効化のために

 日本には、北朝鮮、インドネシア、ベトナム等の船が多数寄港し、ロシアとの貿易も増加の一途にある。こうした位置にある日本がPSC先進国になることは大きな意義がある。
1、検査官・監督官の意識改革
 どんな制度も担当官の真剣な取組みなくして有効化は望めない。現状は、ただ仕事を消化して帰っていくだけの「お役所仕事」との感想をよく耳にする。検査官の意識改革=世界に誇る仕事をしているという意識が必要である。またアルコールや食事の供与は受けないという最低限の基準、厳格さが要請される。

2、国の法整備と予算措置
 現状では外国船に対して、入管(法務省)、税関(財務省)、検疫官(厚生労働省)、PSC(国土交通省)と、縦割り行政のもとでバラバラに対応している。政府のこのような消極的態度では有効なPSCにならない。
「船舶・船員に関する国際条約実施法」のような法律を作り、各省庁が一体化した体制を義務づける必要がある。サブスタンダード船は同時に、密輸や検疫不備船でもあるからだ。
 積極的な法整備による予算措置により初めて、一体化した効率的検査体制・改善指導体制が可能になる。また担当官に有効な法的権限を与えることができて、自発性・意識改革も促すことになる。

3、内部告発の制度化
 この種検査・摘発の有効化には内部告発が欠かせないことは、雪印食品などの例からも指摘されている。
 しかし船員や船関係者による「申告」「タレ込み」などの内部告発は制度化されていない。早急に告発者を守る法整備を行ない、告発を奨励し、市民権を与える必要がある。
 現状では、船の欠陥を最もよく知るはずの船員による告発は中々望めない。欠陥船により生命の危険に脅かされるのは船員だが、告発すれば職を失う危険を伴うからだ。
 船員の協力を得るためには設備や資格だけでなく、船員の労働条件(賃金だけでなく、休日、労働時間、食事、医療など労働条件総体)も含める必要がある。少なくとも、ILO条約・労働協約(ITF基準等)が守られているかの検査・指導を含めなければ有効なPSCとは言えない。
 航海の安全は、設備だけで維持されるものではなく、人間の要素が最も重要であるからだ。過重労働や、満足な食事・医療のない船では船員が能力を発揮できず、安全もそこなわれる。
 労働条件総体を検査・改善することで、船員にPSC参加意識が高まり、重要性が認識されることになる。

4、労働組合・自治体・市民の参加
 PSCは一義的には行政当局の役目である。しかし、お役所任せでは対処しきれない(していない)のが実態である。直接関係する船員・港湾労働者を代表する労組、また、直接被害を被る可能性がある地方自治体とその住民が行政を監視しながら、連繋・協力して参加する体制が必要である。その積み重ねにより初めて、PSCは市民権を得、日本がPSC先進国になることができると思う。

(註)
MARPOL=1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書
SOLAS=1974年の海上における人命の安全のための国際条約
STCW=1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約
なお、以下を参考にした。
◎国土交通省ホームページ「PSC処分船リスト」
◎東京MOUホームページ(www.tokyo-mou.org)
◎ 検査官の個人的ホームページ
(www.yukai.jp/~substandard/)             (栗原 三郎)

本四海峡バス争議の現状
 
1999年7月、本四海峡バスの乗務員58名全員が海員組合を脱退、全港湾分会を結成することにより始まった問題は昨年大きな転機を迎えた。分会長ら3名の解雇無効と団体交渉要求など主要争点に関して、いずれも全港湾勝利の最高裁判決が出され会社側の敗訴が確定した。
 その後全港湾の判決履行の申し入れに端を発し全港湾・海組間の中央レベルの和解協議が始まった。以下、公表された文章を中心に要点を報告する。(経過は本誌5号参照)

昨年確定した判決
@ 解雇無効訴訟・団体交渉要求訴訟(2月27日)
 会社は全港湾からの団交要求を拒否する一方で、分会長・副分会長・書記長の3名を解雇した。海組とのユニオンショップ協定に基づく解雇とはいうものの、リーダー3名のみを解雇し、他の組合員に対しては海組からの復帰作戦が行われた。
 3名の労働契約地位と全港湾の団交地位確認請求訴訟は01年10月神戸地裁で判決が出され3名の解雇無効(および各人に100万円の慰謝料支払い)と全港湾の団交地位を認めた(および100万円の損害賠償金支払い)。

 慰謝料等も付加された全港湾全面勝利といえる判決であり、かつ金銭の支払い執行が命じられたため、会社は以後継続して給与等の支払いを行って来た。しかし会社は3名の就労と団体交渉には応じず、高裁に控訴したが、02年7月の大阪高裁に続いて、最高裁でも会社主張は退けられた。
A 運転士2名の出勤停止処分無効訴訟(2月27日)
 会社側坪根専務(元関西地方支部長代行)や井上常務(元沿海・港湾専任部長)による復帰作戦、深夜の出頭呼び出し工作等で動揺したものの、運転士2名は海組への復帰を最終的に断わった。これに対し会社は
2000年5月、出勤停止処分を行った。神戸地裁・大阪高裁に続いて、最高裁でも会社主張は退けられ、処分無効と賠償金支払いが確定した。
B 3名の解雇中の賃金等差額請求訴訟(7月10日)
 3名の解雇中の賃金ベースアップ分と臨手の差額総額
1,064万円を求めた訴訟の神戸地裁判決が7月10日、請求通り認められた。同日中に原告・代理人らは裁判所執行官を伴い強制執行を行い、関西地方支部会館内の本四海峡バス本社に入り全額を現金で徴収した。会社は控訴せず判決は確定した。

 この他、いずれも全港湾側勝利の判決・命令が昨年出された。
◎1月15日東京地裁が中労委命令取消し訴訟判決、及び緊急命令発令(会社は団体交渉に応じよ)。
◎7月7日東京高裁、  同右               
◎9月17日中央労働委員会、不当配転・乗務差別等の不当労働行為。
◎12月24日大阪高裁、海員組合の不当労働行為責任。

海員組合の使用者責任
 昨年確定した四件の判決はいずれも全港湾が会社相手に請求したもので、会社の不法行為に際し労働組合が通常しばしば行うものである。
 しかし12月の大阪高裁判決では、会社だけでなく海組も不当労働行為の実行者とされた。
 その内容は「会社設立の経緯においても、人的、物的、資本的関係においても、さらには、現実の労務管理においても、実質的に会社を管理又は支配しているものと認められ」「雇用主ではないが、会社に対する実質的な影響力及び支配力にかんがみると、労組法7条の『使用者』にあたる」というもの。

 不当労働行為を防ぐ立場の労働組合が、不当労働行為の実行者として断罪されてしまった。
 このことが組織内に及ぼす悪影響は計り知れない。
 不当労働行為を許さないという精神、即ち労働組合に寄って闘おうという気持ちが内部から蝕まれてしまうのではないか。
 組合員の信頼を損なうだけでなく、生身の人間である執行部の心に残り、今闘っている最中の東京船舶闘争などの争議はもちろん、組合活動全般に悪影響が及びかねない。
 また、今後は海組も不当労働行為による損害賠償を請求されるおそれがある(会社は中労委の緊急命令を拒否し続けているため、罰金を科される可能性が近づいている)。

和解協議始まる
 最高裁判決後の4月、全港湾は「最高裁判決履行を求める申し入れ」を海組に行った。海組は「話し合うことはやぶさかではない」旨返答し、協議開始が合意された。
 当初、当事者である全港湾神戸と同分会は「会社と海組の現地での姿勢を見るかぎり、まだ和解の時期ではない」と難色を示したが、中央での協議を肯定し和解解決を追求することにした(同分会ホームページ)。
 8月11日の第1回協議には海組から井出本組合長、片岡副組合長ら4名、全港湾から安田委員長ら5名、さらに港運同盟の新屋会長代行が仲介役として同席した。その結果、海員組合全国大会(11月)までに解決を図るべく努力することで合意、両者の共同確認が成文化され双方から発表された(港湾労働9月1日号、船員しんぶん9月5日号)。そして9月1日の第2回協議以降、小委員会を設けた具体的協議が開始された。

 以上は昨年9月の海組全国評議会でも報告され「よい結果をだしてほしい」「早く解決してほしかった」の現場意見が出された(船員しんぶん9月25日号)。
 しかしその後の進展に関する発表は無く、全国大会においても「小委員会で協議中」とのみ報告されたため「うわさが飛び交い現場が混乱している」「臭いものに蓋をせず、裁判の結果など全ての情報開示を」など代議員の意見が出された。
 本部側は「これまで同様、@3名の会社復帰は認めない。A全港湾の存在は認めない。B金銭は出さない。の3点が基本」と答えるのみで協議の詳細は明らかにしなかったが、全港湾認知の問題が最大のネックであるかのように報告した(海員本年1月号)。
 以上が公表された経過であり、残念ながら今日まで和解は成立していない。(本四海峡バス分会機関紙「かけはし」各号、およびホームページttp://www.hm.h555.net/^h4kaikyoubus/を一部参照・引用した

早期和解を望む 
 規制緩和の影響をもろに受け、雇用や生活だけでなく、健康な体すら維持できなくされている海運・港湾の現状。互いに争えば双方とも取り返しのつかない痛手を受けかねない。井出本組合長自身が『本組合は、21世紀の課題として、海運、港湾との統合、全日本海員組合の名称を変えざるを得ない時が来るであろうと、その決意を明確にしているが、その実現を早めなければならない状況が刻々と迫ってきている(大会あいさつ)』と表明する状況にある。

 海組側も全港湾側も、幹部も組合員も、誰もが解決を望んでいるにもかかわらず、なぜ不毛な労・労戦争がいつまでも続くのか? 費やされた費用は数億を数え、組合財政すら圧迫している。
 解決のネックとされる三点の中身を検討すれば、根本的に解決不能とはとうてい思えないものである。
 3名について、会社は既に解雇を撤回して社員として認め、自宅待機させて60パーセントの給与を払い続けている。会社は解雇中の年間臨手や昇給も地裁判決通り支払い、控訴すらしていない。60パーセントの是非をめぐる訴訟も近々判決が出されよう。法廷上既にほとんどが確定、もしくは決着途上なのである。5年もの間、就労もさせずに給与を払い続けている会社の損失ははかり知れない。

 全港湾認知問題では最高裁判決が確定し、会社は全港湾の存在を認め、交渉に応じている旨中労委に回答している。具体的交渉がいつどういう形で開始されるか、既に時間の問題にある。いつまでも交渉を拒否すれば緊急命令による罰金を科せられ、会社にとっても、株主にとっても、また従業員である海組組合員にとっても益にならない。
 金銭問題は全港湾側の紙誌類には見られず、どれほど多額の要求をしているのか不分明だが、双方が和解を望む以上金銭的対立は必ず着地点を見出すものである。
 このように事実関係を検討してくると、いずれも和解不可能な決定的問題ではなく、長引けば長引くほど判決が次々に出され、海組の選択の幅はさらに狭まり、名誉も損なわれかねない。

 労働争議の和解に際し最も妨げとなるのは、過去への必要以上の拘泥感情と担当者の責任追及にある。組織のケジメは確かに必要だが、一方で和解は双方ともに何らかの譲歩が求められる。
 海員・港湾の現状からして、規制緩和にあえぐ組合員をどう守るかという現実路線に立てば、過去は不問にし、小異を捨てて大同に着く大局観が指導部には要求される。
 不毛な労・労戦争を続けることで最も喜ぶのは誰か? 政府・財界の規制緩和は急ピッチで進められており、今ほど海員・港湾の共闘が必要な時はない。そのためにもこの問題を、双方にとって禍根を残さず、将来に向かって実りある解決にすることが望まれる。       (S)

漁船の太平洋戦争 気仙沼展開催
 戦没船を記録する会は、漁船を中心にした構成では初めての、「漁船の太平洋戦争・気仙沼展」を昨年9月24日から5日間、気仙沼魚市場前の「海の市」で開催した。
 このパネル展は、戦没船を記録する会と気仙沼地区海友会が主催し、気仙沼市、唐桑町、全日本海員組合や宮城県北部鰹鮪漁業協同組合等地元の漁船関係団体、地元メディアが後援に名を連らね、会場の設営や来訪者の対応などには、地元海友会のOB船員多数が参加・協力した。
 この展示会の主な内容は、徴用漁船の概要、気仙沼・唐桑の徴用漁船一覧表、特設監視艇隊の任務、監視艇隊の配属表、徴用漁船関係年表その他関連の展示パネルなど多数が展示された。気仙沼・唐桑の徴用漁船は、船主も乗組員もみな地元の人たちで、徴用漁船一覧表の前では、元乗組員や家族・遺族、船主関係者が大勢集まって、この船は誰それが乗つていてどうなつたとか、この船主は今どうしているとか、連日、賑わつていた。

 特に目立つたのは、徴用漁船などで戦死した船員の遺族には、戦死したときの具体的な情報が知らされなかつたため、父親が、兄弟が何処でどのようにして戦死したのか、何か情報や資料は残っていないかと尋ねて来た人が多かつたことである。そして、戦没船員名簿や戦没船の記録の中に、関係する記述を見つけて、「これで父親の戦死を納得出来た」という人もあつた。この人たちは、親兄弟など親族の「生きた証し」をを長い間探し求めていたものと思われた。
漁船関係のほかには、戦没船アルフォト写真
500枚、都道府県別と宮城県の戦没船員数表、トラック島の戦没船、ガダルカナル島の戦跡、軍艦に改装された商船、その他が展示された。会場には気仙沼市長も参観に訪れるなど大成功であつた。

被爆50周年 焼津でビキニデー集会開催

 1954
年3月1日、アメリカがマーシャル諸島ビキニ環礁で行った水爆実験から50年目の今年3月1日、焼津市で「
3・1ビキーニアー集会」が開かれ、第5福龍丸の久保山愛吉さんの墓参行進や焼津市文化センターでの「いま、核兵器廃絶を」の反核・平和の集会が開かれた。
 ビキニ水爆実験「ブラボー」は、広島型原爆の1千倍の威力を持つ爆発実験で、米ソ間の核軍拡競争の新たな引き金となつたが、実験で生じた死の灰で、マーシャル諸島住民や第5福龍丸など日本の漁船・汽船が多数被爆し、日本を発信地とした世界的規模の反核・平和運動の出発点となつた。
 いま世界では、インド・パキスタンの核保有、イランや北朝鮮の核開発が問題にされているが、現実的な脅威はイラクやアフガンで使用され
た劣化ウラン弾の被害や、アメリカの戦術核弾頭の開発と、それによる先制攻撃への懸念の方が強い。
 このビキニデーには、船員有志で結成された「海の平和問題懇談会
」(世話人小林三郎)が、94年から毎年参加している。今年は11回目で関東一円から16人が参加し、イラクへの自衛隊派遣問題など、平和と海上の安全について討議したり、墓参行進や平和集会に参加した。

編 集 後 記

 まず、海労ネットニュースの発行が遅れたことをお詫びします。
 いま、外航の会社所属船員が2千人を割り込み、海員組合の日本人組合員も3万人を切り、日本人部員の職場は壊滅し、職員でも新採用も船の職場も極端に減少し、若い人を育てる環境が失われ、日本人船舶運航技術者の枯渇が確実視されている。
 これを見越してか船主協会は、第2船籍制度を創設し、全員外国人船員配乗の日本籍船を提案している。
 また、常用雇用船員派遣制度が来年には実現する状況にあるが、貸金も雇用も労働条件も、すべて各社交渉となつた外航で、各社が派遣制度を取り入れたらどうなるのか、真剣に検討しなければならない問題であろう。                       (篠原)