「上原きみこ名作集8」 「白鳥の歌 4巻」 「上原きみ子自選集1」に収録

 

杏・・・その花は梅に似て・・・

杏・・・その色は梅より紅く・・・

杏・・・その命はどの花より短い

この春の杏は妙に散り急ぐ・・・

 

 

<登場人物>

桐村 杏 ・・・ 東京育ちのお嬢さん

森川 真 ・・・ 杏の恋人、幼い頃事故で両親を亡くしている

谷口 冬樹 ・・・真の親友、不治の病

 

<物 語>

杏が書いた詩の雑誌掲載をきっかけに真との文通が始まり3年が経った。
二人の交際に反対していた父が勝手に決めた縁談から逃れるため、杏は真の住む町へやってきた。
身元を偽り、働きながら真の高校卒業を待つことにした杏は、勤め先の病院で真の親友で入院中の冬樹と出会う。
杏にひとめぼれした冬樹は大学受験を決意するが、彼の命はあと一年と宣告されていた。そのことを知った真は、親友の望みをかなえるため、恋人である杏に冬樹との偽りの婚約をすすめる。
偽りの婚約者となった杏は、冬樹のそばにいるうちにひかれていくのに気づく。そんな気持ちを抑えるため、真のところへ行くが、追いかけてきた冬樹に全てを知られてしまう。
ショックをうけ、その場で倒れてしまった冬樹は、一週間も意識不明で眠り続け、大学受験もできなかった。
真は東京の大学に合格し、杏にも父から真を連れてくるよう連絡があった。これは、冬樹が杏の父に何度も電話で説得を続けたから実現したことだった。
杏と真が東京へ向う途中、杏のクツのひもが切れた。イヤな予感がしたので、冬樹の家へ戻ってみると彼の苦しむ姿があった。しばらくして落ち着いた冬樹が「あんずの咲く音が聞こえる・・・」と言った。それが最後の言葉だった。
冬樹の告別式の日、杏は満開に咲き誇ったあんずの木の下で眠るように逝った。

<名場面>

 冬樹の最後
   杏の花がひらきます・・・聞こえます・・・杏の咲く音が・・・・・
   朝もやの空気をはじかせてコト!!
   それは冬樹あなたが逝く・・・音

  杏の最後
   だが・・・だれもが思った・・・冬樹のそばへ逝ったのだ・・・と・・・

 

 

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