アイーダ:井上智恵 アムネリス:佐渡寧子 ラダメス:阿久津陽一郎 メレブ:中嶋徹 ゾーザー:大塚俊
昨年に引き続き、京都劇場でミュージカルを見てきました。今回は「アイーダ」。四季の演目で初見のものは久しぶりです(同じものをいろんな場所で何回も見ています)。
元々オペラで有名らしいんですが、そちらとは縁が薄いので、粗筋すらろくに知りません。一応今年の冬に宝塚の「アイーダ」を見て、その時は「ベタなストーリーだなあ…」と思いました(失礼)。何しろ、奴隷になった王女に、敵国の軍司令官に、婚約者のエジプト王女(次期女王)のコテコテの恋愛話だったので。
開演前に購入したパンフレットを読むと、今回の劇団四季の「アイーダ」は、ディズニー版アイーダということで、歌も違えばストーリーも違うとのこと。例えばオペラでは最初からアイーダ(奴隷になった王女)とラダメス(エジプト軍司令官)が愛し合い、アイーダとアムネリス(エジプト女王)が恋敵としてひたすら対立関係であるのに対し、四季版はアイーダとラダメスが当初は反発しあうが徐々に惹かれ合うし、アイーダとアムネリスが王女としての責務を持つ者同士としての友情を芽生えさせる、など。
宝塚版(オペラと同じストーリーらしい)では単純で大袈裟な恋愛話がいまいち楽しめなかったので、これは良いかも、とちょっと期待しつつ、開演。
物語の導入部は、現代のとある博物館。そこでアイーダとラダメスの生まれ変わりとおぼしき人物が出会う。その背後では何だか力強い歌が延々と歌われているんだけど…誰が歌っているんだ?マイクのみ?と思ったら、展示物の一つだったものが実はアムネリスで、歌の半ばにはケースから歩き出てきました。人形だと思っていたものが動いたので、びっくりしたなあ。初見ならではの楽しみです。
で、そこからは物語が古代エジプトに移るんですが。
全然古代エジプトっぽくないのにまたびっくり。
大道具がシンプルなのはまあすぐ慣れたんですが、慣れなかったのは衣装。悪役集団の衣装が、どう見ても香港マフィア。詰め襟の長ラン(死語?)を着て昔のマイケル・ジャクソンのような振付で踊っているのを見ていると、これがエジプトの話だというのを忘れそうになります。「ピラミッドを建てるのだー!」(←文字で書くとバカボンのパパみたいだ)という歌詞がなければ、エジプトが舞台だということを完璧に忘れそうでした。極めつけには最後に棒杖まで出てきて、いよいよ香港映画の世界になっていたし。
アムネリスが歌うシーンではパリコレのようなファッションショーがいきなり始まるし(服も奇抜でパリコレっぽい)、ラダメスの衣装は真っ赤でやっぱり詰め襟長ランだし。アイーダがヌビア風の衣装を纏うシーンはアフリカっぽい雰囲気でしたが、そもそも「ヌビア風」がどんな物かを知らないので、これが時代考証的に正しいのかはわからないし。
けれど慣れてこれば、というか古代エジプトだという設定を忘れれば(実際ほとんど古代エジプトに関わることは出てこない)、古典的な恋愛劇に派手な衣装と踊りのミュージカルとして純粋に楽しめます。
古代エジプトといえば、アムネリスの登場はプールで泳ぐシーンから始まりました。背後に垂直に置かれたプール(の絵)の中をワイヤーで優雅に動きながら泳いでいるのを表現。最近読み返した村上春樹の本に書かれていたのですが、古代エジプトにはスイミング・スクールがあったそうで、そんなマニアックなところだけは史実に忠実に表現してるんだなあ、と可笑しく思いました。
そのアムネリスですが、導入部のドスの利いた力強い声とは対照的な、甘ったるい声で歌う、ファッションしか興味のないちょっとおバカな女の子として再登場しました。うーん、ここまで演じ分けるなんて役者だ!しかももの凄くスタイルが良いし、素敵。
そんなおバカな(ラダメスをベッドに誘うシーンなんか特に)女の子だったのが、父王の病気、婚約者のラダメスと友情を抱いているアイーダの逢い引きの目撃、ラダメスの祖国への裏切りなどで、悩み、成長していく様子が印象深かったです。エジプトを裏切った者は死刑という掟に対して、「ラダメスとアイーダを共に生き埋めにする」と決断する様は、一国の王として、かつ愛する相手へ一人の人間として振る舞えるまで成長したんだなあ…と感動します。ちなみに宝塚版ではラダメスだけが生き埋めの刑で、アイーダはその中に忍び込んで、地下で再会という筋書きだったので、アイーダとラダメスの愛情の方に主眼が置かれている印象。愛情の強さだけを前面に出されると、現在的な観点からは「ありえない」と感じてしまうので、四季版のストーリーの方が感情移入出来ました。
力強さといえば、主人公のアイーダも格好良かった!エジプト兵の武器を奪い取って、相手の喉元に剣を突きつけ仲間を解放するように脅したり、奴隷として献上された相手の王女にはっきりと物を言ったり。自分を解放してくれたラダメスが「結婚したらもう遠征で国を離れることが出来ない」と嘆くのに対しても一喝。向こう見ずではあるけれど(結局仲間の解放交渉は失敗したし、そもそも敵国が攻めてきているのに船遊びに出かけて捕まったのだし)、こういうシーンがあったおかげでアイーダという人物の個性が際立っていたと思います。
そんな女性陣に現在の視点から共感できたのに対して、ラダメスの印象がちょっと薄い…。中盤以降、彼はひたすら愛に生きるからなあ。愛のために家財一切を分け与えてしまうし、愛のためにアムネリスとの結婚も受け入れるし、愛のために敵国の王を逃がしてしまうし。うーん。
更に言うなら、あんまり大きな声では言えませんが彼の声は甲高くて好きじゃないのです…。例えば「ライオンキング」の主人公シンバ役とかなら違和感なく聞けたと思いますが、将軍役にはもっと威厳のある声の人の方が合ってるんじゃないかなあ。
ヴェルディのオペラのストーリーも歌も知らないので、比較対照としての「アイーダ」を語ることは出来ませんが、えーと、古代エジプト物としてはともかく、恋愛物として楽しめるミュージカルでした。踊りも面白かったし。
秋に千秋楽なのでしばらく見る機会が来なさそうですが、いずれ名古屋で上演されると思うのでその時には見に行きたいと思います。
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