スイッチング・コンバータ

 
 



  今や、巨大なトランスと馬鹿でかいコンデンサを積んだ電源回路は過去のものになりつつあります。50/60Hzの単純なトランスすら凌駕する、優れた効率を持つスイッチング・コンバータが出てきているからです。

テスラ・コンバータはその代表格で、100Wクラスですら、94%を越える効率を達成しています。
この形式で、(株)イーター電子は実験的には600W の PFC (Power Factor Correction:力率改善コンバータ)で97%もの効率と力率≒1を達成しているようです。環境面から見ても素晴らしい成果と言えます。

2002年12月号のトランジスタ技術に、Dr. Cuk その人の解説記事がありますので、ご参照下さい。テスラコンバータのCukコンバータに対する優位性等も記述があります。(尚、記事では“チューク”と読み仮名が振ってありますが、他の英語文献では、chook:“チュック”と発音せよと書いてありました ^^;)

尚、最近になって、特に欧州では電気機器の力率の規制(正確には高調波電流規制)が始まっていて、PFCは重要性を増しています。

本ページでは、基本的なスイッチング・コンバータの動作についてお話したいと思います。尚、PWM の D-class アンプは、本質的には同じ考え方ですが、時定数などの取り方が異なります。
ΔΣ変調はたいていディジタル・ドメインでの帰還で、それにパルス密度変調みたいな感じになるから、ちょっと本質的に違う所もありますが・・・。


バック・コンバータ

先ず、基本となるバック・コンバータの動作を説明します。この回路は、降圧形コンバータと呼ばれ、その名の通り降圧動作のみ可能です。
buck converter
 

コンバータのトランジスタ(以下Trと略)は、勿論スイッチング(D級)動作ですから、ベースの駆動電圧は回路図中に示す様な方形波です。

TrがONしている時に、L にかかる電圧は Vin-Vout です。
Trが OFF すると、インダクタは同じ電流を流し続けようとしますから、Lの両端電圧が変化して、ダイオード(以下Dと略)が ON します。(別の言い方をするなら、電流の変化を妨げる向きに電圧が変化します。こういうダイオードを、フリーホイールダイオードと言います。)

すると L の両端電圧は、Vout-Vd(但しVd は D の両端電圧)となります。
この時、L の両端電圧は、もし Vin-Vout が Vout-Vd よりも小さければ、Tr の OFF 時により大きくなります。
もし Vin-Vout=Vout-Vd なら、電圧が同じですから、ON時とOFF時にLに流れる電流は等しくなります。従ってこの時に、駆動電圧の方形波デューティー比は50%です。

buck converter current wave
従って、この時のLにかかる電圧は、その等しい電圧を V とする時、Tr がONの時に+V、OFFの時に-Vです。御存知のように、
V=(di/dt)L
ですから、Tr がONの時に電流は一定の傾きで増え、D がONなら一定の傾きで減ることになります。
この事から、左図に示すような電圧波形と電流波形の関係が得られます。 但し、Tr 及びダイオードのON抵抗と、L の直流抵抗分を無視しています。

また、この図は所謂 連続動作モードでの電流波形です。言い替えると、スイッチング周波数と最小負荷電流に対して、L値が十分に大きく、L の電流が途絶える事の無い場合です。
(一見して判ると思いますが、D がONの時には電流が一定の割合で減り続ける訳ですから、当然、電流がゼロになればそこで終わりですから、Lが負荷電流と周波数に比して小さければ不連続動作になります。)

PWM制御は、負荷が重くなって出力電圧が低くなったり、一次側電圧が下がったりすれば Tr のONデューティーを増し、逆の場合にはデューティーを減らします。
例えば一次側の電圧が下がれば、図のdi/dt (傾き)は小さくなりますが、替わりにONデューティーを増すことで均衡を保つ事が出来ます。
言い替えると、ONデューティーを替えることで、電圧を制御できます。つまり、これで負帰還をかける事で、いわゆる安定化電源になるのです。(実際には、基準電圧と出力電圧を誤差増幅器で比較し、その出力を三角波などの発振器とコンパレータで比較する事で、PWM信号を得ます。)

連続動作モードでの L の値は最も一次側電圧が高く、負荷が軽い時を念頭に設計すべきと思います。何故なら、その時に D のON期間が長く、しかし負荷が軽ければ電流を流すべき負荷が無い訳ですから、述べたようにLの電流がゼロになれば D がOFFしてしまいます。

尚、最近は“同期整流”と言って、フリーホイールダイオードの替わりにMOS-FETを使う事も多いです。これは、特に大電流低電圧動作の高速CPUやDSPでは、ショットキーであってもダイオードでの損失が馬鹿にならないからです。
知る限りで、4MHzでのスイッチングで同期整流、効率90%のコンバータが実用化されていますが、小電力用途です。

効率を上げるのに、インダクタは小さい方が抵抗分が小さくなりますが、その為にスイッチング周波数を高くすれば、コアロスは大きくなります。結局、電力とサイズとコストの兼ね合いで、最終的には経験がものを言うようです。(つまり私はこの解説には不適切な人材ですね(^^;)。)


ブースト・コンバータ

次に、ブースト・コンバータ(昇圧型コンバータ)について解説します。と言っても、本質に於いてこれはバック・コンバータと同じで、入出力を逆転させただけです。
さっきは降圧だったので、入出力が逆なら当然、昇圧動作になる訳です。

既に書いたように、バックコンバータでの Tr と D はスイッチとしての動作です。入出力が逆で在れば、当然ながら電流が逆に流れるのですが、そのままでは半導体スイッチに逆の電流は流せないですから、Tr と D を入れ替えて、向きを逆にします。

boost converter
 

これで出来上がりです。なんていい加減な解説だ!(^^;)。

ただ、私が思うには、こういうトポロジカルな考え方をしないと、SEPICとZeta、それにCukとの関係などは判らなくなると思います。これは、私自身の実感です。

尚、PFCにはこの形式が用いられる事が多い様です。
 
 
 
 


フライバック・コンバータとフォワード・コンバータ

今迄の二つは、非絶縁型でした。次に絶縁型です。先ずはフライバックから。
フライバックは、フライバック・トランスと呼ばれる特殊なトランスを使います。「特殊な」と言うのは、これは本当の意味でのトランスでは無いからです。
動作は、昇圧も降圧も可能ですが、フライバック用制御IC は、50% 以上の Duty を許容しない場合も多いです。巻線比は電圧比ですが、一次側インダクタンスと負荷電流、及びON-OFFの関係は


Lpは一次側インダクタンスです。

フライバック・トランスは、正確に言えば“結合インダクタ”です。そして、その意味から言えば、この形式はバック型ないしはブースト型の変形とも言えます。(正確にはバック・ブーストと云ふ回路を絶縁したものなんですが。)

Flybuck
回路形式はこの様になります。
この回路のトランスは、見て判るように入出力の位相を逆にして使います。このトランスの動作について判れば、後は自明と思います。

Tr がONしているときには、トランスの一次側に電流が流れます。それによってコアは磁化され、この時の一次側電流は時間と共に増えていきます。
TrがOFF期間には、当然ながら一次側に電流は流せません。しかし、前述のようにコアは磁化されていますから、それを二次側から開放しようとして、同じ向きに電流を流します。D のON期間には、二次側には時間と共に減っていく電流が流れる事になります。
一般のトランスは、一次側電圧で発生した磁界を打ち消す方向に電流が流れます。しかし、フライバックトランスは一次側がONしている時に二次側はOFFしていますから、単純にコアが磁化され、それを二次側で開放しているだけです。
つまり、これはコイルに電流が流れる時、その電流を一定に流し続けようとする(電流の変化を抑えようとする)のと、全く同じ作用なのです。

尚、フライバックトランスは必ずギャップ(空隙)を付けたものを使います。そうしないと、一次側電流が流れたときに、飽和してしまうでしょう?
で、実際に一次側がONした時の磁束は、そのギャップに蓄えられる事になりますから、ギャップ付近は高温になります。

バック型、ブースト型は、それぞれ一次側または二次側の電流が連続していましたが、フライバックは両者共に断続的です。半導体スイッチがOFFしているときには電流が流れていないのは直ぐに判りますよね?
バック型はVinから流れ込む電流が、ブースト型は出力Cへのチャージ電流が、それぞれ断続的になります。

次に、フォワード・コンバータについて。

Forward Convertter トランスを正の位相で使う為には、バック型同様に出力にインダクタとインダクタの電流を流し続ける為のフリーホイールダイオードが要ります。これをフォワード型と言います。言い替えると、バック・コンバータをトランスで絶縁型にした訳です。

フォワード型のトランスは、真のトランス(?)ですから、一次側にはコア磁化を防ぐ為にリセット回路が必要になります。
本来のトランスの動作には、必ず“励磁電流”と言うものが流れます。リセット回路が無ければ、流す事が出来ずに飽和してしまいます。

このトランスは本来の変圧器の動作ですから、一次側の電流で出来る磁界を打ち消す方向に、二次側電流が流れます。これが負荷電流になります。(励磁電流はこれとは別モノです。)

また、フライバックのようにエネルギーを蓄える訳では無いので、コアにギャップは要りません。その為、特に大出力ではトランスが小型になり効率も上がることから、100Wを越える様な場合に使われ、小型電源では部品点数の少ないフライバックが使われる事が多いようです。(そんな大出力を設計したことが無いので、“らしい”としか言えない(^^;))但し、負荷変動の激しい場合にはこの限りではありませんが。

見た目はフライバックに似ていますが、特にトランスの動作はまるっきり違うので、良く考えて下さいね(^^;)。フォワード型の動作は、バックコンバータをトランスで絶縁しただけだ、と考えた方が正しいです。
 

更に大出力で使われる PP型、ブリッジ型、ハーフ・ブリッジ型などは、このフォワード型の変形(但しリセットは無い)に過ぎません。理由は知らないのですが、車載用の大出力オーディオアンプ等では、PP型が使われる事が多いみたいです。

これら半導体をプッシュプルっぽく使うものが大出力で使われるのは、フォワード型はトランスのコアのヒステリシス曲線の上半分だけを使うのに対し、上下共に使うので小型化し易いからです。


SEPIC、Zeta、Cuk (新型コンバータ)

SEPICとは、Single Ended Primary Inductance Converter の略です。
どの形式も、昇降圧動作が可能です。先ず、SEPIC コンバータの回路を示します。

SEPIC
これは、色々な見方が出来ます。例えば、前述のフライバックのTrのドレインと、二次側 D のアノードとの間をCで結んだもの、と見ることも出来ます。
確かに1:1のフライバック・トランスとも見なせるのですが、しかしこのインダクタ L1,L2 は、実は磁気的に結合していなくても動作します。

私の見方としては、これはブースト-バック結合型と考えた方が判り易いように思います。それには、非絶縁型のCukコンバータを考えると判り易いと思います。

Cuk
これがCukです。Dr. Cuk の発案(Pat.)なのでこの名があります。ブースト型とバック型の回路を組み合わせた反転出力(入力が正電圧なら負電圧)です。
ブースト動作後の平滑Cは要らなくなり、中間のスイッチも無くなります。そのスイッチの替わりにカップリングと言うか、Cで結合しています。電流の方向の関係から、出力は負電圧になります。短時間で見たCは定電圧的なので、TrがONすれば D のアノードはマイナスになり、D はOFFします。L2には負の電圧がかかり、負の電流が流れますから負の出力です。Tr がOFFしている時、D がONしてほぼGND電位ですから、L2には負の電流が流れ続けます。

SEPIC型は、このCukの出力をトポロジカルに正にすべく、スイッチ(D) と L2を入れ替えたもの、と見ることが出来ますよね?
フライバック変形と考えると、Cuk との関係を見失ってしまうのでは無いかと愚考しますが・・・まぁ、フライバック自体がバック-ブースト(昇降圧型)と呼ばれるタイプの絶縁型ですから、それでも判るのかも知れませんけど。

Zeta コンバータは、Inverse SEPIC の別名があり、SEPICの入出力を単純に逆にしたものです。丁度、バック型とブースト型の関係と同じです。

Zeta
もう、見るからにSEPICの逆であるとお解り頂けるのでは無いかと(^^;)。
注意すべきは、真ん中のCにかかる電位はVout側が+である事と、Dの耐圧はVin+Voutである事でしょうか。
(SEPICは逆に真ん中のCにかかる電位はVout側が負です。)

最後に、絶縁型のCukコンバータについて。

Cuk with transformer

これは、非絶縁型Cukと、フォワードコンバータの合体です。(見方によっては、フライバックとフォワードとの合体とも取れると思ふのですが ^^;)

まず非絶縁型 Cuk の出力位相を逆にして、同期整流にします。それだけでは上手く動作しないのですが、その下に、C結合のフォワード・トランスが逆位相で入れてあります。わざわざ逆位相にするのは、そもそもの非絶縁型Cukコンバータが逆相だからです。
或いは違う見方をするなら、一次側のスイッチがトランスと直列ではなく並列に入っているからです。

最大の特徴は、入出力ともにリップルがゼロになることです。上側の結合インダクタには、一次側でTr1がONの時に電流が増えます。下側のトランスは、OFFの時に負荷電流が流れます。従って、これは電流リップルがそれぞれ逆になって、インダクタにはリップルが無くなります。インダクタの表皮効果による損失も減ることになります。

更に、この形式では、Tr1がONしている時に結合インダクタに流れていた電流が、Tr1のドレイン-ソース間容量に流れ続けようとします。その時に、Tr2がONしようとしますから、Tr2のドレイン-ソース間容量にチャージされた電荷を、トランスを介して引き抜く動作になります。電荷を引き抜かれた容量は、電圧がゼロになります。

これは、Tr1/Tr2の ZVS(Zero Volt Switching) ないし ZVT(Zero Volt Transition)動作に他なりません。タイミング制御だけでこれが可能になる点が優れているのだと思います。

この為に、スイッチング損失を減らせるし、更にフォワードコンバータに比して二次側スイッチ損失が少なく、リセット回路も無い(スナバは損失になります)ので、高効率が期待できます。(多分ね ^^;)

実は、私はこの絶縁型Cukを実作したことは無いのです(^^;)。だから、実際には、どれぐらいのものなのか知りません。
【やうするに、考へたゞけで、さも偉さうな事を書ひてゐるので在る。間違つても私に聞かないやうに(爆)。】

テスラ・コンバータは、このCuk型の変形です。やはり Dr. Cuk の発明です。

以下、全くの余談ですが・・・
何時だったか MJ に“DCアンプとて、信号が電源の平滑コンデンサを通る以上はDCアンプでは無い”とかナントカ、意味不明の事が書いてありました(^^;;;)。
PFCは整流器そのものです。そしてPFCの出力キャパシタンスは、ACトランス+Cインプット整流よりも遥かに小さくなります。
こういう回路がもっと一般的になれば、前述の様な意味不明の話は恥をかくだけだ、と判るでしょうね(^^;)。
平滑コンデンサは、1/2CV2 のエネルギーを蓄える部品であり、電池では無いのですから。
 
 

Top of Next generation

Home

Last up date 18th/Jan/2003
Copy right : Katsu