エントロピーの法則











エントロピーの法則に関しては、何やら誤解している向きが多いようなので取り上げてみたいと思います。
実際、トンデモ系の本やWEBでこれに付いて書いてあるのを見ると、誤解どころか全く理解していないと言っても過言ではありません。

それらがどうしてトンデモなのかを理解するためには、エントロピーの法則を理解していなければなりません。
そうでなければ、笑うに笑えず、トンデモの魔の手に引き込まれる事になってしまいます。

貴方は大丈夫ですか?



熱力学の第二法則

そもそも、「エントロピー」=「乱雑さ具合」と言う概念だと信じている人が多いようです。
あえて「信じている」と言ったのは、理解はしていないが、そうだと信じていると言う意味です。

あながち間違いでも無いのですが、本来の意味とは少々違います。
これは、社会的な現象に対してこの言葉を使うことがあるせいでしょう。
そのおかげで、言葉だけが一人歩きして、本来の意味から逸脱した場合にまで使われているように思えます。

元となっている熱力学をちゃんと理解すれば、誤解も無くなるだろうと思うので、簡単に触れてみます。
例によって、数学的に厳密にやると(つまり教科書の流儀だと)何を言ってるのか解らなくなるので、直感的に理解できる方法を採りますから、正確に知りたい向きは物理学の本をあたって下さい。

もともと、これは熱力学の第二法則(クラウジウスの法則 或いはカルノーの原理)から来ています。

熱力学の第二法則とエントロピー増大の法則とを、直接イコールで結んで良いかと言われると、ちょっと唸っちゃいますが、極めて緊密な関係があることは間違いありません。

話を簡単にするため、今、一方が熱くて一方は冷たい、二つの物体があると思って下さい。

おおざっぱに言って熱力学の第二法則とは、熱というモノは熱い方から冷たい方に向かって流れて逆はありませんよ、と言う誰でも知ってる経験則のことで、基本的には、これが積もり積もったものがエントロピーの増大です。

勿論、両者が閉鎖系で無ければこの限りではないのですが、その場合もより大きな系で見れば同じ事が言えるわけです。

数式で書けば δQ/Tをエントロピーと言います。ここにδQ は熱量の変化、T は温度。
ですから上述の二つの物体の熱の移動を式で書くと高い方の温度をTH 、低い方をTLとするとき、

δQ/TLδQ/TH > 0

これがエントロピーの変化です。第一項と第二項でδQが同じで、TH > TL なので必ず正です。
(数学的に厳密に言えば、元の温度Tも変化するのですが、δが十分に小さいとして考えて下さいな。)

早い話が、熱量がδQだけ熱い方から冷たい方に移動した、ただそれだけの事。負になるわけがない。
だから必ずエントロピーは増大していく。もし減ったなら、それは時間が逆流した時です。

熱力学の本を見るとエラく難しい書き方がしてあって、分かりづらい(少なくとも私はそうだった)のですが、取り敢えずこんなモンだと思っても間違いではありません。より深く学べばさらに深い意味が解ってくるのですが、トンデモをトンデモであると理解するためにはこの程度でも概ね大丈夫です。

熱力学で表しましたが、何か別のものでも同じ様な現象を示すものであれば、同じ様な式が成り立つので、それもまたエントロピーの増大と言います。つまり、より平均化していくような過程であれば良いわけです。

だから、乱雑さと言うより「平均化」と言った方が近いのです。分子運動レベルでみれば確かに「乱雑さ」とも言えるのですが・・。

私の専門分野である電子通信工学関係では、情報理論のエントロピーというやつがあります。
この場合エントロピーが指すものは、ずばり「情報量」です。

ある情報の確率をPとするとき、エントロピー;-ΣPlogPで情報量を表すんですけど、これもまた、信号の発生確率がどれだけ平均的であるかを表しています。
(詳しく知りたい方は、シャノンの情報理論の本でも読んで下さいな。私もほとんど忘れてるし^^;)



より根源的な問い

では、何故熱は高い方から低い方へ向かうのか?
これは「解らない」が正しい答え。単に経験的に知っているだけ。

ニュートンの万有引力の法則と同じです。
ニュートンは「どうやってりんごは落ちるのか?」を万有引力のせいである、としたのは、勿論 ミカンだって落ちる訳で、実は万有引力の法則は問いには根本的には答えていないのです。

「質量を持つ物には引力がある」と、より汎用性の高い言葉に言い換えた(つまり ミカンでもリンゴでもOK)だけで、質量を持つ物体同士が引力を持つ理由は、解らないのです。(それでも何故かニュートンはトンデモの人達にも受けが良いようです。)

物体が持つ熱とは何か?昔は「熱素」というものが信じられていました。今は、熱が実体の無い物であり、単なる分子運動の増大による事を知っています。
だから、熱が高い方から低い方へ向かう理由は、基本的には「何故 真空中で空気は一個所に固まらずに分散するのか?」という問いと同じなのです。これは、あまり意味のある問いとは言えません。

「熱は高きから低きに流れる」をより汎用性が高い言葉に言い換えたのが「エントロピーの増大」なのです。

なんでこんな当たり前の事を、と思うかもしれませんが、こんな当たり前の事から擬似科学に流れた例を見た事があるからです。(こういった場合、本人は擬似科学だと思っていないから始末に困ります。尤も大抵の疑似科学がそうなんですが。)

物理学では、こういう根源的な問題が存在します。何故光速度は一定なのか?何故重力があるのか?等々・・・
本質的な答えは得られないのです。

もしかしたら、宇宙が誕生した時のちょっとした違いで、光速度が変化する宇宙がどこかにあるかもしれません。万有反発力の法則が支配する宇宙があるかもしれません。でも、それを問うた所でしょうがないでしょう?

「そんな事は問うな」とは言いませんが、何処まで解っても、根源的な問いは決して絶える事がありません。
より根源的な事が解る日が来るかもしれませんが、それはまた別のさらに根源的な問いを生みます。

駄々をこねても何も始まらないから、物理学ではこれらの根源的な問題を認めた上で、何が言えるのか?を考えるのです。
(俗に、科学はWHYを問うていない、なんて事を言いますが。)

それを考えた結果としてニュートンの運動方程式が生まれ、相対性理論が生まれ、熱力学の3法則が生まれた、という訳です。



トンデモを信じる前に・・

エントロピー増大の法則に関しては、決して破られる事の無い永遠の法則と言われるだけに、そのまま「信じてしまう」だけで理解していない人の方が多いのは残念です。

こんな所が、青山学院大学のCh助教授みたいな大物エセ科学者を育てる土壌になっているのでしょう。

Ch助教授が、何故そこまで問題があるかというと、この世紀のトンデモ助教授は、なんと授業で自分の作り上げた屁理屈に基づく疑似科学理論を展開しているようなのです。世も末ですな...
 

疑似科学は間違っているから疑似科学なのではありません。科学的な考え方、やり方で無いから疑似科学なのです。
間違ったことを「信じる」のも正しいことを「信じる」のも、科学ではなく、宗教のやる事なのです。

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