超三極管接続MX 2A3-PP の簡単化
〜これなら誰でも作れる?〜









超三結 MX 2A3-PP に関しては、2A3という名球?を使ったという事もあってか、良くも悪くも反響がありました。

概ね方式そのものには好意的な意見が多かったのですが、予想通り(?)というか、大抵はまず回路の動作自体が解りづらい、さらに回路規模が大きすぎて試す気になれない、と云ったネガティブな意見もかなりありました。

そこで、試作した回路の設計編にも書いていたのですが、初段をFETにすることで回路を相当簡単にすることが出来る事を示しておきたいと思います。
実際問題、もしも私の作った回路を追試するとなると(そんな方はまずいらっしゃらないでしょうが)、相当なヴェテランでなければ調整しきれないだろうな、とは思います。だからまぁ、上述のようなご批判があったのも、頷けるのは事実なんです。

そこで、通常の真空管アンプで調整するやり方の範囲で可能な方法をとると共に、間違って配線してもそう大きな問題が出にくいように、直流動作点を負帰還とは無関係に決められるようにして、超三結Ver.1の延長線上で理解できるような回路を設計してみました。

今回は設計してみただけです。作っていませんから、検証したものではありません。
易しく作るならこんな手もありますよ、というアピールです。


1.アンプ部の回路

まず、バイアス電圧をDCサーボを使って安定させている部分を、いわゆるAC差動回路にすることでサーボを無くします。
こうすれば2A3のバイアス電圧は定電流源と抵抗値だけで決まります。初段や帰還管のDCドリフトは関係なくなります。

初段とは直結化して、FETの差動アンプとします。つまり、超三結V1類似の電流伝送です。
これでもAC差動のおかげで、出力にドリフトは出ません。

これでカップリングコンデンサも無くなりますし、プラス側の電圧増幅段も低い電圧ですみますから、適当に+Bから分流すればOKです。電圧が下がるし、初段がFETなので、ヒーターバイアスも要らないです。勿論定電圧電源は不要になります。

帰還管の動作は、どちらかというと超三結V1に近いですから、わりに納得しやすいのでは無いでしょうか?
但し、帰還管のグリッドのドライブインピーダンスが高くなっているので、帯域は少し狭くなると思います。
そのかわり安定度は高くなるでしょうから、作りやすいと思います。

で、考えた回路がこれです。
2A3MX simple version
 

帰還管の動作点は、少しプレート電圧が高くなるだけで、さして変わりません。
初段を真空管にしようとすると、ここに示す回路だとプレート電圧が低すぎて電流が流せません。かといってプレート電圧を高くとれば、帰還管のプレート電圧が下がってしまうので、最大振幅が取れなくなってしまうのです。これは、特にスピーカーのインピーダンスが高くなるF0付近で顕著になるので、真空管の美点を失う事になります。

実は、あのアンプを作るときにも、電池ラジオ用の球で使えるヤツがあるんじゃないかと思って、球屋さんにいろいろ聞いたんですが、ある程度電流を流してμのとれる球で20Vとかで動作するようなものは、現在手に入る物がなかなか無いようです。

尚、出力トランスは5kΩのもので15Wpp以上なら使えます。

2.電源回路
Power supply simple version

電源回路を上に示します。見ての通り、遥かに簡単になっています。
+B の整流に整流管を使っているのは、明らかに電圧が高すぎるからです。半導体整流にして、抵抗でドロップさせても良いですが、電熱器みたいなものになってしまいます。
整流管としては、使えるものは沢山あります。
-130Vはトランジスタのリップルフィルタを使って、電圧をドロップさせています。放熱器は不要です。

+Bもチョークも除き、同様にトランジスタにすれば、半導体で整流できます。
その方が遥かに安く上がりますが、大きめの放熱器が必要になりますから、敬遠する人が多いのでは無いか、と思って敢えて整流管としました。(熱抵抗の計算とか、ASOとか、面倒でしょ?)

ただし、性能は明らかにトランジスタを入れた方が上です。しかも値段は1/10になります。
 

最近、やっとSOVTEKの2A3の規格が手に入ったのですが、プレート電圧の最大定格は実に450Vになっています。(RCA発表値は300Vです。)
プレート損失は、メーカー発表では15Wのままですが、プレートのサイズは同社の300Bに近いとのことで、米国ディーラーは、Pp=30W 迄可能と書いています。(これは何処まで信用して良いものか、「?」です。)

従って、ダイオード整流も可能ですが、帰還管の6463の定格が330Vです。帰還管のカソード電位が25Vなので、電源電圧としては、350Vを上回らなければ問題ありません。
P電圧を上げて、P損そのままとすると、最適負荷は高い方に移動しますから、5k以上のトランスの方が出力は取れるでしょう。
                追記:2001/2/25

電源関係は、相当に安くあげる事が出来ます。電源トランス類のコストはチョーク込みで1.5万円ぐらいです。

問題は見栄えを良くするのが大変だって事でしょうか。
100V-100VのトランスPM3Wは、いわゆるセパトラ(絶縁トランス)で、\580と格安ですが、シャシーに内蔵するタイプなので、外に出すと格好悪いし、第一危険です。巧くシャシ内部に入れたい所です。
 

3.調整の仕方

まず、VR1〜VR4は中点にします。NFBも外しておきます。

最初は何も繋がない状態で電源電圧を確認しますが、+Bはかなり高めになります。2A3の電流が流れて初めて電圧が適正値になります。

次に、2A3は挿さないで、各部の動作電圧を確認します。6463のカソードが25Vぐらいになるように、VR1で調整します。
そんなに拘らなくても大丈夫ですが、帰還管の過電流には注意が必要です。

実際問題としては、この調整は要らないかもしれませんが、抵抗の種類によっては、熱で変化するので入れてあります。
また、こうしておけば帰還管の種類を変えることもできます。

VR2,3で、コレクタ電位が-63Vぐらいになるようにします。

ここで初めて2A3を挿します。但し、プレートに100Ωぐらいの抵抗を入れておきます。
プレート電流が40mAになるように(100Ω両端で4Vにする)、VR2,3を再度調整します。特にPP間で差が出ないようにします。

VR4で、ハムバランスをとります。2A3のグリッドを見て、50Hz(乃至60Hz)の振幅が最小になるようにします。
出力で確認するのは、出力レベルが低すぎて困難です。気にしなければ、実用的にはこのVR4も無くてもかまいません。
どっちにしろ出力にハムは出てきませんから。

調整が終わったら100Ωの抵抗を外します。次にNFBを繋いで、もし発振したら位相が逆です。
2現象のオシロを持っているなら、入力と同じ位相にすれば良いです。
単現象オシロでも、ノコギリ波を入力すれば、正しい位相が解ります。

結局、絶対に必要なのはVR2,3でバイアスの調整をする事だけです。調整も簡単になっています。

2A3と帰還管の接続がタスキ掛けになっているので、特に注意が必要です。
逆に接続すると深い正帰還になって、破壊の可能性すらあります。
 

尚、余談ですが、この回路はほとんどそのままシングルへの転用が可能です。



どこまで安く出来るか?

100-230Vの100Wクラスのセパトラで+Bを作ることも考えられますが、2.5V/5Aのフィラメントトランスがありません。
2.5V/3Aならあるので、これを二個使って、さらに6.3Vのヒータートランスを用意するとなると、コストは大差ないし、電源トランスが4個にもなると大変です。

2A3を6.3V管の6B4Gにすれば、全部6.3V管になるし、6B4Gのフィラメント電流は1Aぐらいなので出来ると思います。
但し、フィラメント中点を作っている抵抗R15,16は75Ω以上にする必要があります。同様に100ΩのVR4は巻線型の3Wクラスが必要です。

6B4GはSOVTEKからシングルプレートのものが発売されています。(6A3もあります。要するにソケットの違いだけです。)
本方式はハムに強い(同相入力除去が非常に大きい)ので、6.3V管でもAC点火で問題ありません。

100Wクラスのセパトラは\4000以下です。6.3V二巻線のヒータートランスが\1800ぐらいですから、相当安くなります。
さらに半導体整流にしてトランジスタを使ったリップルフィルタとすれば、電源部のコストは半分になります。
アルミ電解コンデンサの耐圧も下げることが出来ます。というのは、セパトラは直流抵抗分が低く、電流を引いたときと、無負荷時の電圧差が小さいので、350V耐圧の電解コンで十分に使用可能です。

帰還管の6463は、ブランドに拘らなければ安い物もあります。(私は由緒正しき?GEのものを使いました。@\2500でした。)
ただ、この球はあまり一般的ではないので、手に入るとは限りません。若干定数の変更は必要ですが、6FQ7でも良いと思います。

私は直線性や無負荷時も含めた最大出力時の定格に拘ったので、ああいう選択をしましたが、拘らなければ、実用上使える球は多数あると思います。
大幅な定数変更をいとわなければ、12AU7だって使えるかもしれません。ヒーター巻線は楽になるでしょう。

高感度な球だと難しいでしょうが、わりに鈍い球なら、工夫次第で何とでもなるでしょう。
自分でロードラインを引いてみて、あれやこれや考えながら定数を変更していくのは楽しい作業です。やってみて下さい。

さらに、PP用出力トランスを15Wクラスに落とせば、ノグチで四千円ぐらいです。

トランス:{3600(セパトラ)+580(セパトラ)+1800(ヒーター)+2×4000(出力)}×1.05≒15000
球:{14000(6B4G×4)+2000(帰還球×2)}×1.05≒17000
その他:{3000(弁当箱シャシ)+1000(放熱器)+10000(CR,Tr,ケーブル等)}×1.05≒15000
とすると消費税込みで\47000

頑張れば、市販のキットから見ると激安の4.7万円も出せば2A3ppが作れる・・・かな??

AZ さんによる実作例(6CK4-pp)があります。

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25/Feb./2001