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原子と原子核

放射線

体内の放射能

放射平衡

ウラン・ラジウム系列

劣化ウラン

分岐のある系列

ポアソン分布

炭素14

線量率変換表

慣用単位変換表

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原子と原子核


国際単位系 (SI) においては、大きすぎる単位や小さすぎる単位にSI接頭語を付け加えることができる。 長さの単位 オングストローム (Å) は 1 Å = 10-10 m = 100 pm (ピコメートル) で、原子の大きさにほぼ等しい。

原子核の大きさは 10-1510-14 メートルである。 フェルミ (F) と ユカワ (Y) はどちらも同じ長さで、 1 F = 1 Y = 10-15 m であるが、同じ長さのSI単位 フェムトメートル (fm) の使用が推奨される。 原子核の大きさに相当する面積の単位として バーン (b) がある。 1 b = 10-28 m2 (平方メートル) = 100 fm2 (平方フェムトメートル) と定められる。

SI接頭語
  接頭語 (拡大)     接頭語 (縮小)  
da デカ (deca) 101 d デシ (deci) 10-1
h ヘクト (hecto) 102 c センチ (centi) 10-2
k キロ (kilo) 103 m ミリ (milli) 10-3
M メガ (mega) 106 μ マイクロ (micro) 10-6
G ギガ (giga) 109 n ナノ (nano) 10-9
T テラ (tera) 1012 p ピコ (pico) 10-12
P ペタ (peta) 1015 f フェムト (femto) 10-15
E エクサ (exa) 1018 a アト (atto) 10-18
Z ゼタ (zetta) 1021 z ゼプト (zepto) 10-21
Y ヨタ (yotta) 1024 y ヨクト (yocto) 10-24


原子番号が違っても原子の大きさはほとんど変わらない。 正の電荷をもつ原子核と、負の電荷をもつ軌道電子がクーロン力で引き合っており、大きな原子核をもつ原子ほどその引力が強く働くためと考えられている。 次の表は常温での密度をもとに原子の大きさを求めたものである。 空間の体積を原子数で除算して求めた。 計算結果を見ると、液体と固体では、2~3倍以内の散らばりである。 原子番号に依らず一定の大きさといってよい。 気体の数値が大きすぎるのは、原子間の隙間が考慮されていないからである。 隙間がある場合、この方法では原子の大きさはわからない。 (表中「状態」を省略したものは固体である)

原子の大きさ
物質 原子量 状態 密度
(g/cm3)
原子の直径
(10-10m)
水素 1.00794 0.0899 (g/L) 32.8833
ヘリウム 4.002602 0.1785 (g/L) 41.4303
リチウム 6.941 - 0.534 3.4544
ダイヤモンド 12.0107 - 3.513 2.2133
黒鉛 - 2.25 2.5677
窒素 14.0067 1.2506 (g/L) 32.8717
酸素 15.9994 1.4291 (g/L) 32.8673
ナトリウム 22.989770 - 0.971 4.2188
アルミニウム 26.981538 - 2.6989 3.1650
カリウム 39.0983 - 0.862 5.2396
カルシウム 40.078 - 1.55 4.3445
55.845 - 7.874 2.8228
63.546 - 8.96 2.8228
107.8682 - 10.50 3.1939
タングステン 183.84 - 19.3 3.1144
196.96655 - 19.32 3.1858
水銀 200.59 13.546 3.6079
207.2 - 11.35 3.8686
ラドン 222 9.73 (g/L) 41.6706
ウラン 238.02891 - 18.95 3.4153


原子核の大きさは原子全体の約1万分の1で非常に小さいが、原子の質量のほとんどすべてが原子核に集中している。 原子核を構成する陽子と中性子のことを核子という。 核子の重さは、電子の重さの 1800 倍あまりと非常に重い。 原子中の陽子の数を原子番号、陽子数と中性子数の合計を質量数という。 天然の炭素には質量数が 12 のものと 13 のものが混じり合って存在している。 質量数が12である炭素原子 (12C) の質量の12分の1を原子質量単位 (u) という。

質量とエネルギーは相互に変換ができ、等価な量であることが示されている。 質量 m (kg) とエネルギー E (J) の間には E = mc2 の関係がある。 c = 2.99792458 x 108 (m/s) は光速度である。 また 1 個の電子が 1 (V) の電位差を移動するときのエネルギーは電子ボルト (eV) という単位で表される。 電気素量が e = 1.6021765 x 10-19 (C) であるから、 1 (eV) = 1.6021765 x 10-19 (J) である。 次の表は粒子の質量を3種類の単位 (キログラム、原子質量単位、メガ電子ボルト) で比較したものである。

核子の質量
名称 記号 kg u MeV 電子=1
電子 e- 9.109 x 10-31 0.00055 0.511 1
陽子 p 1.673 x 10-27 1.00728 938.272 1836.15
中性子 n 1.675 x 10-27 1.00866 939.565 1838.68
炭素12原子 12C 1.993 x 10-26 12 11177.930 21874.67
12Cの12分の1 - 1.661 x 10-27 1 931.494 1822.89


炭素12の原子中では、核子1個の質量 (エネルギー) が約 930 MeV であるのに、原子に束縛されない単独の核子は約 940 MeV の質量をもっている。 原子に束縛された核子は、単独で存在する核子よりも軽いのである。 原子核中にあって失われた核子の質量のことを質量欠損という。 質量欠損は原子核の結合エネルギーとして使われている。 次の表は質量欠損を質量数で除した値を比べたものである。 これは核子1個当たりの平均結合エネルギーを表す。

核種の平均結合エネルギー
元素名 原子番号 質量数 原子量
(u)
質量欠損
(u)
平均結合
エネルギー
水素 1 1 1.007825 -0.000548 -0.000548
炭素 6 12 12 0.095647 0.007971
ナトリウム 11 23 22.989770 0.194248 0.008446
硫黄 16 32 31.972071 0.282989 0.008843
スカンジウム 21 45 44.955910 0.404849 0.008997
26 56 55.934942 0.514188 0.009182
ガリウム 31 69 68.925581 0.629249 0.009120
クリプトン 36 84 83.911508 0.766351 0.009123
ニオブ 41 93 92.906376 0.842525 0.009059
パラジウム 46 106 105.903484 0.951117 0.008973
アンチモン 51 121 120.903822 1.073808 0.008874
バリウム 56 138 137.905242 1.212747 0.008788
ジスプロシウム 66 164 163.929171 1.400218 0.008538
ルテチウム 71 175 174.940768 1.476991 0.008440
オスミウム 76 192 191.961479 1.596639 0.008316
タリウム 81 205 204.974412 1.689406 0.008241


原子番号で26番 (つまり鉄) 、質量数で56番のところで結合エネルギーが最大となる。 したがって鉄よりも小さい原子核は融合して大きくなった方がより安定し、鉄よりも大きい原子核は分裂して小さくなった方がより安定する。



(Excelシート提供中止)

引用・参考文献
理科年表 (丸善)
単位の辞典 (丸善)
放射線取扱の基礎 (日本アイソトープ協会)

Last modified: 09/06/2004 22:37:44

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放射線


原子番号が同じで質量数だけが異なる原子のことを「同位体」という。 同位体は化学的な性質は同じであるが、これらの同位体を区別したいときには「核種」ともいう。

現在のところ、原子番号が110番までの原子には名前がついているが、天然に存在する元素では92番のウランが最大である。 原子番号が93以上の元素のことを「超ウラン元素」という。 超ウラン元素の全部と、テクネチウム(43番)、プロメチウム(61番)は天然に存在せず、人工的に作られた不安定元素である。 天然に存在する元素でも、原子番号84番以降の原子はすべて放射性であり、時間がたつと一定の割合で崩壊する。 また、原子番号が84未満の原子の中にも放射性核種が存在する。

原子番号が小さい原子では、陽子と中性子はほぼ同数 (1:1) であるが、原子番号が大きくなるにしたがって中性子の割合が増し、大きな原子では陽子と中性子の比が 2:3 ほどになる。 大まかにいって陽子数と中性子数がこの比率になっている核種は安定であるが、この比率からはずれた核種は不安定である。 不安定な核種は α線、β線、γ線 といった放射線を放出して別の核種に変化する。 これを「放射性壊変」または簡単に「壊変」とよぶ。 「崩壊」ということもある。

α壊変
α線の粒子はヘリウム原子核と同じもので陽子2個と中性子2個からなる。 α粒子を放出すると、原子番号が2、質量数は4減少する。

β-壊変
β線の実体は電子線である。 β-壊変すると電子と反ニュートリノを放出し、原子核中の中性子1個が陽子に変化する。

β+壊変
β-壊変が陰電子 (普通の電子のこと) を放出する変化であるのに対して、 β+壊変は陽電子を放出する変化です。 陽電子は通常の電子の反粒子で正の電荷をもちます。 β+壊変すると原子核が陽電子を1個放出し、 原子核内では陽子1個が中性子に変化するため原子番号が1減ります。 β+壊変で放出された陽電子が陰電子に出会うと、 対を作って消滅し、 互いに反対方向に向かう2つの光子 (つまりγ線) を生成することがあります。 この現象は電子対消滅と呼ばれます。

電子捕獲 (EC; Electron Capture)
β+壊変によく似た壊変に電子捕獲があります。 これは原子核が軌道電子のひとつを取り込み、 陽子1個を中性子に変える反応です。 なくなった電子を埋めるときに原子が特性エックス線を放射します。

壊変後の原子核は励起状態にあるとされ、 安定な基底状態に戻るときにγ線を放出します。 励起エネルギーを解放する際にγ線を放出する代わりに、 軌道電子にエネルギーを与えることがあります。 この現象は内部転換と呼ばれます。 軌道電子のエネルギーを解放するときに原子が特性エックス線を放射します。 励起状態にある原子核で寿命の長いものを核異性体といい、 基底状態の核種とは区別されます。 核異性体がよりエネルギー準位の低い核種に変化 (核異性体転移) するときγ線を放出します。 137Ba の核異性体は 137mBa のように m を付加して表されます。



引用・参考文献
放射線入門 (通商産業研究社)
理科年表 (丸善)

Last modified: 09/07/2004 01:16:20

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体内の放射能


質量数40のカリウム原子 (以下カリウム40と表記) は放射能をもっている。 カリウム40は天然に存在する放射性核種で、人体にも含まれている。 人体がどの程度の放射能をもっているかを確かめてみよう。 人体に含まれる放射性核種として、 カリウム40、ルビジウム87、カドミウム113 の3種をとりあげる。 それ以外はきわめて微量である。 それぞれの放射能を求めたい。

下の表「各元素の体内濃度」は人体中に存在する元素を、重量の多い順に並べたものである。 体重が70kgの人の場合、 人体内に 140g のカリウムが存在することがわかる。 これにアボガドロ定数 NA = 6.02214199 x 1023 を掛け、原子量 39.0983 で割ると、人体内のカリウム原子の個数が得られる。 その数は 140 x 6.02214199 x 1023 / 39.0983 = 2.156 x 1024 個である。

<< 各元素の体内濃度 >>
順位 元素名 原子量 体内存在量
(体重50kg)
体内存在量
(体重70kg)
体内濃度
(体重1gあたり)
1 酸素 15.9994 32.50 kg 45.50 kg 650 mg
2 炭素 12.0107 9.00 kg 12.60 kg 180 mg
3 水素 1.00794 5.00 kg 7.00 kg 100 mg
4 窒素 14.0067 1.50 kg 2.10 kg 30 mg
5 カルシウム 40.078 750 g 1.05 kg 15 mg
6 リン 30.973761 500 g 700 g 10 mg
6 硫黄 32.065 125 g 175 g 2.5 mg
7 カリウム 39.0983 100 g 140 g 2.0 mg
8 ナトリウム 22.989770 75 g 105 g 1.5 mg
10 塩素 35.453 75 g 105 g 1.5 mg
11 マグネシウム 24.3050 25 g 35 g 500 μg
12 55.845 4.3 g 6.0 g 85.7 μg
13 フッ素 18.9984032 2.1 g 3.0 g 42.8 μg
14 ケイ素 28.0855 1.4 g 2.0 g 28.5 μg
15 亜鉛 65.39 1.4 g 2.0 g 28.5 μg
16 ストロンチウム 87.62 230 mg 320 mg 4.57 μg
17 ルビジウム 85.4678 230 mg 320 mg 4.57 μg
18 207.2 86 mg 120 mg 1.71 μg
19 マンガン 54.938049 72 mg 100 mg 1.43 μg
20 63.546 57 mg 80 mg 1.14 μg
21 アルミニウム 26.981538 43 mg 60 mg 857 nm
22 カドミウム 112.411 36 mg 50 mg 714 ng
23 スズ 118.710 14 mg 20 mg 286 ng
24 バリウム 137.327 12 mg 17 mg 243 ng


次の表「天然放射性核種」は同位体の存在比と半減期を示したものである。 先ほどの計算から、体重70kgの人の体内には、 140g、 2.156 x 1024 個のカリウム原子がある。 表からそのうちの 0.01171 % がカリウム40原子であることがわかる。 ただし比率は個数を用いる。 放射性のカリウム40原子は体内に 2.156 x 1024 x 0.0001171 = 2.525 x 1020 個存在することがわかった。

<< 天然放射性核種 >>
  核種 原子量 原子百分率
(%)
半減期
(年)
7 カリウム40 39.96399867 0.01171 1.277 x 109
17 ルビジウム87 86.9091858 27.832 4.75 x 1010
22 カドミウム113 112.9044014 12.2212 9.3 x 1015


カリウム40原子はβ壊変等により別の核種に変化する。 放射能とは壊変が起こる速さのことである。 単位はベクレル(Bq)を用い、1秒あたりの壊変率を表す。 放射能は原子数に定数 ln(2) = 0.693 を掛け、半減期で割ると求まる。 ln は自然対数である。 カリウム40の半減期は 1.277 x 109 年なので、これを秒単位にするには 31556952 (1年間の秒数) をかければよい。 以上のことから、体内のカリウム40がもつ放射能は 2.525 x 1020 x 0.693 / ( 1.277 x 109 x 31556952 ) = 4343 Bq となった。

結果をまとめたものが以下の表である。

<< 人体内の放射能 (単位 Bq) >>
  体重50kg 体重70kg
カリウム40 3102 4343
ルビジウム87 207 290
カドミウム113 5.52 x 10-5 7.73 x 10-5
合計 3309 4633


一人あたり4000ベクレル内外の放射能を持っていることがわかった。 この放射能が自然放射能の一部分である体内被曝の原因となっている。



引用・参考文献
元素の体内濃度については 「アルミニウムと健康」連絡協議会 より抜粋
原子量その他の定数は 理科年表 (丸善) による

Last modified: 09/02/2004 21:33:04

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放射平衡


まずはじめに、系列を作らない放射性核種の量の推移を調べる。 この核種の原子数を N 、原子数の初期値を N0 とし、壊変定数を λ (λ>0) とする。 核種の壊変が進むにつれて原子数 N は減少していくが、この減少の速さが壊変率、すなわち放射能を表している。 したがって放射能は原子数 N を時刻 t で微分したものであり、 dN/dt と書き表すことができる。 放射能の強さは原子数に比例することがわかっていて、その比例定数を壊変定数 () というのである。 下の(1)式がなりたつ。

dN/dt = -λN (1)

(1)式を dN/N = -λdt のように変形して積分すると(2)式が得られる。

ln(N) = -λt + C (2)

ここで ln は自然対数、C は積分定数である。 さらに変形して N = exp(C)exp(-λt) を得る。 exp(x) とは ex のことであるが、表記の都合上 exp(x) のほうを用いる。 次に積分定数 C の値を定めよう。 時刻 t=0 において N0 = exp(C)exp(0) であるから exp(C) = N0 となる。 これで核種の時間的推移を表す式が導かれた。

N = N0exp(-λt) (3)

核種が半数に減るまでの時間を半減期という。 これを T とする。 (3)式において t=T のときを考えると、 N0/2 = N0exp(-λT) であるから、

λT = ln(2) = 0.693 (4)

の関係式が得られる。 半減期 T を用いると(3)式は次のように表すこともできる。

N = N0(1/2)t/T (5)

半減期は T のかわりに T1/2 が用いられることもある。 核種の平均寿命も求めておこう。 時刻 t=0 から t= までの範囲で N を積分したものは、 N0 個の原子の寿命をすべて合計したものになる。 それを N0 で除算すれば平均寿命 T1/e が得られる。

T1/e = (1/N0)[0,)Ndt = 1/λ (6)

(3)式において t=T1/e のとき核種数は (1/e)N0 となる。 平均寿命とは、核種が 1/e の量に減少するまでの時間といってもよい。 (4)式より平均寿命 (T1/e) と半減期 (T1/2) の関係が導かれる。

T1/e = T1/2/ln(2) = T1/2/0.693 = 1.44 T1/2 (7)

続いて、複数の核種が系列をなしている場合を扱う。 核種Aが核種Bに変化し、核種Bが核種Cに変化し、というように次々に壊変が連続するものを壊変系列という。 核種Aの原子数を N1 、原子数の初期値を N1,0 、壊変定数を λ 、半減期を T1 とし、核種Bはそれぞれ N2, N2,0, μ, T2 として原子数の推移を調べよう。 次の微分方程式を解けばよい。 お急ぎの方は(12)式までとばして読んでもらってもかまわない。

dN1/dt = -λN1
dN2/dt = λN1 - μN2
(8)

(8)式の第1式は系列を作らない場合と同じなので、 N1 = N1,0exp(-λt) と解ける。 核種Bは、核種Aの壊変により増加する一方、核種B自身の壊変によって減少するため、(8)式の第2式のような微分方程式になっている。 第2式を解くために次のような u,v を仮定する。

du/dt = λN1 = λN1,0exp(-λt)
dv/dt = -μv
(9)

(9)式の第1式を積分して u = -N1,0exp(-λt) 、第2式からは v = C exp(-μt) を得る。 そしてこれらの線形結合を N2 とする。

N2 = α exp(-λt) + β exp(-μt) (10)

これの微分 dN2/dtλN1-μN2 は、

dN2/dt = -λα exp(-λt) - μβ exp(-μt)
λN1-μN2 = λN1,0exp(-λt) - μ(α exp(-λt) + β exp(-μt))
(11)

(8)の第2式から(11)の両式は等しい。 exp(-λt) の係数を比較することにより、 -λα = λN1,0-μα となる。 したがって λμ のとき α = N1,0λ/(μ-λ) が得られる。 (12)式の Λ を用いると α = ΛN1,0 となる。

Λ = λ/(μ-λ) = T2/(T1-T2) (12)

(12)式の後半は壊変定数と半減期の関係式(4)からわかる。 次に β の値を定めよう。 N2 の初期値は N2,0 であるから、(10)式で t=0 とすることにより、 β = N2,0-α = N2,0-ΛN1,0 となる。 これで N2 が求まった。 N1 とともに示す。

N1 = N1,0exp(-λt)
N2 = ΛN1,0exp(-λt) + (N2,0-ΛN1,0)exp(-μt)
(13)

娘核種Bの壊変定数が親核種Aの壊変定数よりも大きい (λ<μ) とき、つまり娘核種の減少が親核種よりも速い場合には、核種AとBの間に放射平衡が成り立つ。 λ<μ のとき exp(-μt)exp(-λt) に比べて減少が速いため、十分に長い時間が経過した後では exp(-μt) を含む項は無視できる。 (13)の第2式で後半を無視すると、次の関係が導かれる。

N2 = ΛN1,0exp(-λt) = ΛN1 (14)
λ N1 = (μ-λ) N2 (15)

娘核種Bの壊変定数は μ であったにもかかわらず、親核種Aの壊変定数 λ にしたがって減少をしていることがわかる。 十分な時間が経った後では娘核種は親核種と一定の比率 () を保ちながら壊変をする。 この状態を過渡平衡という。

娘核種Bの壊変定数が親核種Aに比べて非常に (桁違いに) 大きい (λ<<μ) とき、(15)式は(16)のように見なせる。

λ N1 = μ N2 (16)

このとき、(8)式は dN2/dt = λN1-μN2 = 0 となっている。 娘核種の量は、親核種の壊変による増加と娘核種自身の壊変による減少がつり合って、変化しない。 この状態を永続平衡という。

娘核種Bの壊変定数が親核種Aの壊変定数よりも小さい (λ>μ) とき、親核種が先に無くなってしまい、十分な時間が経過した後では娘核種は本来の壊変定数 μ にしたがって減少を続ける。 この場合には放射平衡は成立しない。

最後に、残っていた λ=μ の場合の N2 を求めておく。 このとき N2/N1 を微分すると定数 (λ) になる。

(d/dt)(N2/N1) = (-λ(N2-N1)N1+λN2N1)/(N1)2 = λ (17)
N2/N1 = N2,0/N1,0 + λt (18)

したがって λ=μ のときの N2 は次のようである。

N2 = (N2,0 + N1,0λt) exp(-λt) (19)

このような場合の具体例は存在しないが、 λ=μ のときも放射平衡は成立しない。



引用・参考文献
放射線入門 (通商産業研究社)

Last modified: 09/02/2004 21:29:52

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ウラン・ラジウム系列


壊変系列のひとつにウラン系列 (ウラン・ラジウム系列) がある。 ウラン238を先頭に鉛206にまで連なる系列である。 全ての核種が質量数を4で割ると2余ることから 4n+2 系列ということもある。 ウラン系列の壊変様式を次に示す。 それぞれの段階において、99%以上の確率でこの形式の壊変が起こる。 半減期の単位 y, d, m, s は 年,日,分,秒 である。

ウラン系列
系列 核種 元素記号 壊変形式 半減期
1 ウラン238 238U,  U(I) α 4.468 x 109 y
2 トリウム234 234Th,  UX1 β- 24.10 d
3 プロトアクチニウム234m 234mPa,  UX2m β- 1.17 m
4 ウラン234 234U,  U(II) α 2.455 x 105 y
5 トリウム230 230Th,  Io α 7.538 x 104 y
6 ラジウム226 226Ra,  Ra α 1.600 x 103 y
7 ラドン222 222Rn,  Rn α 3.824 d
8 ポロニウム218 218Po,  RaA α 3.10 m
9 鉛214 214Pb,  RaB β- 26.8 m
10 ビスマス214 214Bi,  RaC β- 19.9 m
11 ポロニウム214 214Po,  RaC' α 1.643 x 10-4 s
12 鉛210 210Pb,  RaD β- 22.3 y
13 ビスマス210 210Bi,  RaE β- 5.013 d
14 ポロニウム210 210Po,  RaF α 138.4 d
15 鉛206 206Pb,  RaG -


原子番号・質量数の配置
  206 210 214 218 222 226 230 234 238  
93  
 
                Np
92               234U
4
238U
1
U
91               234Pa
3(-1)
  Pa
90             230Th
5
234Th
2
  Th
89  
 
                Ac
88           226Ra
6
      Ra
87  
 
                Fr
86       218Rn
10-1
222Rn
7
        Rn
85       218At
9-1
          At
84   210Po
14
214Po
11
218Po
8
          Po
83   210Bi
13
214Bi
10
            Bi
82 206Pb
15
210Pb
12
214Pb
9
            Pb
81 206Tl
14-1
210Tl
11-1
              Tl
80 206Hg
13-1
               
 
Hg


本稿 「放射平衡」 を応用して、平衡が成立した後の核種の存在比率を求めることができる。 親核種・ウラン238がはじめに N0 個あり、原子数 N1 、壊変定数 λ1 とする。 娘核種・トリウム234は、原子数 N2 、壊変定数 λ2 とすると、核種数は次の条件を満たす。

N1 = N0 exp(-λ1t)
dN2/dt = λ1N1 - λ2N2

これを解いて次の N2 が得られる。

N2 = (λ1/(λ21))N0 exp(-λ1t) + (N2,0-(λ1/(λ21))N0) exp(-λ2t)

十分長い時間が経過して放射平衡の状態になると、娘核種も親核種と同じ壊変定数にしたがって変化し、 N1N2 の間には次の比例関係が成立するようになる。

N2 = (λ1/(λ21))N1

この導出過程を参考に、娘核種と孫核種の平衡関係を導く。 親核種と娘核種がすでに平衡状態にあり、孫核種・プロトアクチニウム234mが原子数 N3 、壊変定数 λ3 とすると、 N3 は次の条件を満たす。

N2 = (λ1/(λ21)) N0 exp(-λ1t)
dN3/dt = λ2N2 - λ3N3

これを解くと N3 は、

N3 = (λ2/(λ31))(λ1/(λ21))N0 exp(-λ1t) + (N3,0-(λ2/(λ31))(λ1/(λ21))N0) exp(-λ3t)

となる。 λ13 ならば孫核種でも放射平衡が成立して、十分な時間が経過した後では、比例関係 N3=(λ2/(λ31))N2 がなりたつ。 一般には次の関係がある。

Nk = (λk-1/(λk1)) Nk-1

これで放射平衡に達した核種の存在比が計算できるようになった。 ウラン238 (238U) の量を1とした場合のトリウム234 (234Th) とプロトアクチニウム234m (234mPa) の存在量は次式で計算ができる。

238U  = 1

234Th = λ1/(λ21)
     = (1/4.468x109 y) / ((1/24.10 d) - (1/4.468x109 y))
     = 1.477 x 10-11

234mPa = {λ1/(λ21)} x {λ2/(λ31)}
     = 1.477 x 10-11 x {(1/24.10 d) / ((1/1.17 m) - (1/4.468x109 y))}
     = 4.979 x 10-16

ウラン系列が放射平衡に至った場合の核種の存在比を下に示す。

平衡時の核種存在量
系列 核種 半減期 相対存在量 相対放射能
1 ウラン238 4.468 x 109 y 100 100
2 トリウム234 24.10 d 1.4768 x 10-9 100
3 プロトアクチニウム234m 1.17 m 4.97885 x 10-14 100
4 ウラン234 2.455 x 105 y 0.00549493 100
5 トリウム230 7.538 x 104 y 0.001687229 100
6 ラジウム226 1.600 x 103 y 3.58128 x 10-5 100
7 ラドン222 3.824 d 2.34344 x 10-10 100
8 ポロニウム218 3.10 m 1.31928 x 10-13 100
9 鉛214 26.8 m 1.14054 x 10-12 100
10 ビスマス214 19.9 m 8.46891 x 10-13 100
11 ポロニウム214 1.643 x 10-4 s 1.16536 x 10-19 100
12 鉛210 22.3 y 4.99141 x 10-7 100
13 ビスマス210 5.013 d 3.07209 x 10-10 100
14 ポロニウム210 138.4 d 8.48151 x 10-9 100
15 鉛206 - -
- 合計 - 100.0072185 1400


ウラン系列では平衡に至ると永続平衡になる。 系列のすべての段階で、親核種がもつ放射能と娘核種がもつ放射能は等しい。 この系全体のもつ放射能はウラン238だけが存在する場合の14倍となる。

次に、天然ウランにおける同位体の存在比率を表に示す。

同位体存在比率
質量数 存在比率(%)
ウラン
234 0.0055
235 0.7200
238 99.2745


放射平衡に至ったときのウラン238とウラン234の比が 100 対 0.00549493 となるのに対して、天然ウラン中の存在比は 99.2745 対 0.0055 とほぼ一致している。 天然ウラン中ではこれらの同位体は放射平衡の状態にあると推測できる。

精製した単体ウランがあるとき、どれくらいの時間で平衡に至るかを調べる。 ウラン238だけがあってトリウム234がない状態から開始して、トリウム234がどのように増加していくかを示したのが次の表である。 Th234/U238 の値を平衡値 λ1/(λ21) で除算した値を記してある。 平衡に達するとこれが100%になる。 もし親核種の壊変が非常に遅ければ (λ1<<λ2) 、この比率は次式のように表される。

1-exp(-λ2t) = 1-(1/2)t/T2
平衡成立までの日数
日数 Th234/U238
の比 (%)
日数 Th234/U238
の比 (%)
0 0 80.1 90
10 24.99 90 92.49
20 43.74 100 94.36
24.1 50 104.2 95
30 57.80 110 95.77
40 68.35 120 96.83
48.2 75 130 97.62
50 76.26 140 98.22
60 82.19 150 98.66
70 86.65 160 99.00
72.3 87.5 160.1 99
80 89.98 100


精製ウランを放置すると、約24日で平衡時の50%の量にまで増え、80日で90%、160日では99%にまで増加する。 これ位の日数でほぼ平衡に至ることがわかる。 トリウム234の娘核種であるプロトアクチニウム234も半減期が短いので、この段階まではすぐに平衡が成立する。 ウラン元素は大半がウラン238から成る (同位体存在比率の表参照)。 数十日放置した精製ウランはウラン238単独の場合と比べて、約3倍の放射能をもつと考えてよい。



(Excelシート提供中止)

引用・参考文献
理科年表 (丸善)
日本原子力文化振興財団

Last modified: 09/02/2004 21:39:24

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劣化ウラン


天然に存在するウランの同位体には、ウラン234、ウラン235、ウラン238 の3種がある。 同位体の存在比率は下表「天然比ウラン」、「天然ウラン」のようである。 ウラン238、ウラン234はウラン系列に属し、娘核のトリウム234やプロトアクチニウム234m等とともに放射平衡を保っていると考えられる。 アクチニウム系列のウラン235は、娘核トリウム231とともに放射平衡を保っている。 これらの娘核は半減期が短いため、取り除いてもすぐに増えて放射平衡に達する。 下表は3つの娘核の影響を考慮して、ウランの放射能を求めたものである。 「天然ウラン」だけは系列の娘核すべての放射能を加えてある。

ウラン235は連続的な核分裂反応を起こすことができ、原子力発電や原子爆弾はこれを利用する。 発電等に利用するためには予めウラン235の濃度を高めておかなくてはならない。 この過程を濃縮という。 発電では濃縮度(ウラン235の濃度)は3%程度、爆弾の濃縮度は90%程度である。 ウランを濃縮した後にはウラン235が少なくなった残りかすができる。 濃縮度が0.3%未満のウランは劣化ウランとよばれる。 下表「天然比ウラン」は濃縮操作をくわえないウランのことである。

「劣化ウラン」、「天然比ウラン」、「濃縮ウラン」の放射能はほとんど差がない。

ウラン濃縮度別放射能
濃縮度 同位体存在比 比放射能 系列娘核
U234 U235 U238 (Bq/g) 倍率
天然比ウラン 0.0055 0.7200 99.2745 50537 1  234Th, 234mPa, 231Th
天然ウラン 0.0055 0.7200 99.2745 179181 3.55  U系列, Ac系列全核種 
劣化ウラン 0.0055 0.3 99.6945 50074 0.99  234Th, 234mPa, 231Th
濃縮ウラン 0.0054 3 96.9946 53049 1.05  234Th, 234mPa, 231Th
高濃縮ウラン 0.0006 90 9.9994 148906 2.95  234Th, 234mPa, 231Th




(Excelシート提供中止)

引用・参考文献
理科年表 (丸善)
日本原子力文化振興財団

Last modified: 09/11/2004 16:51:34

>> CONTENTS

分岐のある系列


一つの核種が壊変して別の核種に変化し、それが壊変してまた別の核種に変化してというような、一連の核種の集まりを壊変系列とよぶ。 壊変系列においてはα壊変、β-壊変、核異性体転移(IT)が連なっていく。 原子がα壊変したとき原子番号が2減り、質量数が4減る。 β壊変したときは原子番号が1増え、質量数は変化しない。 核異性体転移のときは原子番号も質量数も変化しない。 したがって同一の壊変系列に属する核種では、質量数を4で割ったときの余りが同じである。 大きな系列をなすものが4種知られており、ウラン・ラジウム系列、アクチニウム系列、トリウム系列、ネプツニウム系列と名付けられている。 質量数を4で割ったときの余りは順に、2、3、0、1である。 それぞれ、4n+2系列、4n+3系列、4n系列、4n+1系列とよばれることもある。 ネプツニウム系列を除いて、系列の最後は鉛に落ち着く。 ネプツニウム系列は親核種の半減期が短いため、自然界には残存していない。

本稿 「ウラン・ラジウム系列」 で述べたように、ウラン系列では一つの核種が2種以上の壊変をすることはなかった。 正確にいうと別種の壊変を起こす度合いは非常に低いものでしかないが、 トリウム系列などでは無視できない割合で壊変の分岐が起こる。 以下に分岐の様子を示す。

ウラン系列
  核種 元素記号 形式 確率(%) 娘核種 半減期
1 ウラン238 238U,  U(I) α - 234Th 4.468 x 109 y
2 トリウム234 234Th,  UX1 β- - 234mPa 24.10 d
3 プロトアクチニウム234m 234mPa, UX2m β-
IT
99+
0.16
234U
234Pa
1.17 m
3-1 プロトアクチニウム234 234Pa,  UZ β- - 234U 6.70 h
4 ウラン234 234U,  U(II) α - 230Th 2.455 x 105 y
5 トリウム230 230Th,  Io α - 226Ra 7.538 x 104 y
6 ラジウム226 226Ra,  Ra α - 222Rn 1.600 x 103 y
7 ラドン222 222Rn,  Rn α - 218Po 3.824 d
8 ポロニウム218 218Po,  RaA α
β-
99.98
0.02
214Pb
218At
3.10 m
9 鉛214 214Pb,  RaB β- - 214Bi 26.8 m
9-1 アスタチン218 218At α
β-
99.9
0.1
214Bi
218Rn
1.6 s
10 ビスマス214 214Bi,  RaC β-
α
99.979
0.021
214Po
210Tl
19.9 m
10-1 ラドン218 218Rn α - 214Po 3.5 x 10-2 s
11 ポロニウム214 214Po,  RaC' α - 210Pb 1.643 x 10-4 s
11-1 タリウム210 210Tl,  RaC'' β- - 210Pb 1.30 m
12 鉛210 210Pb,  RaD β-
α
99+
1.9 x 10-6
210Bi
206Hg
22.3 y
13 ビスマス210 210Bi,  RaE β-
α
99+
1.32 x 10-4
210Po
206Tl
5.013 d
13-1 水銀206 206Hg β- - 206Tl 8.15 m
14 ポロニウム210 210Po,  RaF α - 206Pb 138.4 d
14-1 タリウム206 206Tl,  RaE'' β- - 206Pb 4.199 m
15 鉛206 206Pb,  RaG - - -


アクチニウム系列
  核種 元素記号 形式 確率(%) 娘核種 半減期
1 ウラン235 235U,  AcU α - 231Th 7.038 x 108 y
2 トリウム231 231Th,  UY β- - 231Pa 25.52 h
3 プロトアクチニウム231 231Pa α - 227Ac 3.276 x 104 y
4 アクチニウム227 227Ac β-
α
98.62
1.38
227Th
223Fr
21.77 y
5 トリウム227 227Th,  RdAc α - 223Ra 18.72 d
5-1 フランシウム223 223Fr,  AcK β-
α
99+
6 x 10-3
223Ra
219At
21.8 m
6 ラジウム223 223Ra,  AcX α - 219Rn 11.44 d
6-1 アスタチン219 219At α
β-
97
3
215Bi
219Rn
56 s
7 ラドン219 219Rn,  An α - 215Po 3.96 s
7-1 ビスマス215 215Bi β- - 215Po 7.6 m
8 ポロニウム215 215Po,  AcA α
β-
99+
2.3 x 10-4
211Pb
215At
1.781 x 10-3 s
9 鉛211 211Pb,  AcB β- - 211Bi 36.1 m
9-1 アスタチン215 215At α - 211Bi 1.0 x 10-4 s
10 ビスマス211 211Bi,  AcC α
β-
99.724
0.276
207Tl
211Po
36.1 m
11 タリウム207 207Bi,  AcC'' β- - 207Pb 4.77 m
11-1 ポロニウム211 211Po,  AcC' α - 207Pb 0.516 s
12 鉛207 207Pb - - -


トリウム系列
  核種 元素記号 形式 確率(%) 娘核種 半減期
1 トリウム232 232Th α - 228Ra 1.405 x 1010 y
2 ラジウム228 228Ra,  MsTh1 β- - 228Ac 5.75 y
3 アクチニウム228 228Ac,  MsTh2 β-
α
99+
5.5 x 10-6
228Th
224Fr
6.15 h
4 トリウム228 228Th,  RdTh α - 224Ra 1.913 y
4-1 フランシウム224 224Fr β- - 224Ra 3.30 m
5 ラジウム224 224Ra,  ThX α - 220Rn 3.66 d
6 ラドン220 220Rn,  Tn α - 216Po 55.6 s
7 ポロニウム216 216Po,  ThA α - 212Pb 0.145 s
8 鉛212 212Pb,  ThB β- - 212Bi 3.30 m
9 ビスマス212 212Bi,  ThC β-
α
64.1
35.9
208Po
212Tl
60.55 m
10 ポロニウム212 212Po,  ThC' α - 208Pb 2.99 x 10-7 s
10-1 タリウム208 208Tl,  ThC'' β- - 208Pb 3.053 m
11 鉛208 208Pb,  ThD - - -


9段目のビスマス212に注目していただきたい。 ビスマス212は 64.1% がポロニウム208に変化し、 35.9% がタリウム212に変化する。 平衡状態でポロニウム208とタリウム212がどの位の量になるかを推定したい。 親核種 (トリウム232) の初期量を N0 、壊変定数を λ1 とする。 第 k 段目の核種の壊変定数を λk 、核種の量を Nk とする。 分岐がない場合、平衡状態では次の関係式を満たしている。 どの子孫核種も親核種と同じ壊変定数 λ1 にしたがう。

N1 = N0 exp(-λ1t)
Nk = (λk-1/(λk1)) Nk-1   (k=2,3,...)

系列に分岐がある場合にも適用できるよう、これを修正する。 第 k-1 段の核種(i)から第 k 段の核種(j)に移るときの分岐確率を rk-1(i,j) (i=1,2,..) とすると、核種の量は次のように表すことができる。 Σ は第 k 段の核種 Nk(j) に至るすべての分岐について加えあわせる。

N1 = N0 exp(-λ1t)
Nk(j) = (1/(λk(j)1)) Σi(rk-1(i,j) λk-1(i) Nk-1(i))

これが分岐がある系列での、平衡状態における子孫核種量を求めるための方法である。 具体例で計算しよう。 ポロニウム208の量を NP 、タリウム212の量を NT とし、平衡状態において、これらの量がビスマス212の量 NB の何倍になるかを求める。 上の計算方法から次のように求められる。

┌ (64.1%) - Po
Bi  
└ (35.9%) - Tl
NP = (1/(λP1)) x 0.641 λB NB = 5.2755 x 10-11 NB
NT = (1/(λT1)) x 0.359 λB NB = 0.0181 NB
ネプツニウム系列
  核種 元素記号 形式 確率(%) 娘核種 半減期
1 ネプツニウム237 237Np α - 233Pa 2.14 x 106 y
2 プロトアクチニウム233 233Pa β- - 233U 26.97 d
3 ウラン233 233U α - 229Th 1.592 x 105 y
4 トリウム229 229Th α - 225Ra 7.34 x 103 y
5 ラジウム225 225Ra β- - 225Ac 14.9 d
6 アクチニウム225 225Ac α - 221Fr 10.0 d
7 フランシウム221 221Fr α - 217At 4.9 m
8 アスタチン217 217At α
β-
99+
0.012
213Bi
217Rn
3.23 x 10-2 s
9 ビスマス213 213Bi β-
α
97.91
2.09
213Po
209Tl
45.59 m
9-1 ラドン217 217Rn α - 213Po 5.4 x 10-4 s
10 ポロニウム213 213Po α - 209Pb 4.2 x 10-6 s
10-1 タリウム209 209Tl β- - 209Pb 2.20 m
11 鉛209 209Pb β- - 209Bi 3.253 h
12 ビスマス209 209Bi - - -


分岐したものがふたたび合流する例を考える。 ネプツニウム系列のポロニウム213はビスマス213からとラドン217の両方から生成される。 両核種ともアスタチン217から生成されたものである。 これらの核種 (ビスマス213、ラドン217、ポロニウム213) の量がアスタチン217の何倍であるかを確かめよう。 計算方法は上の例と同様である。 アスタチン217、ビスマス213、ラドン217、ポロニウム213、タリウム209の量を NA,NB,NR,NP,NT とする。

 (0.012%)    Rn    (100%) 
At     Po
 (99.988%)    Bi    (97.91%) 
 (2.09%)    Tl
NR = (1/(λR1)) x 0.00012 λA NA
   = 2.01 x 10-6 NA

NB = (1/(λB1)) x 0.99988 λA NA
   = 84700 NA

NP = (1/(λP1)) x (0.9791 λB NB + 1 λR NR)
   = (1/(λP1)) x (0.9791 λB x 84700 NA + 1 λR x 2.01x10-6 NA)
   = 1.27 x 10-4 NA

NT = (1/(λT1)) x 0.0209 λB NB
   = (1/(λT1)) x 0.0209 λB x 84700 NA
   = 85.4 NA

分岐確率を示す代わりに、部分壊変定数あるいは部分半減期を示すことも行われる。 ビスマス213がβ壊変する確率は 97.91 % 、α壊変する確率は 2.09 % となっている。 ビスマス213の全半減期は 45.59 分であるが、α壊変についての部分半減期は 36.36 時間であるというように用いる。 もしビスマス213がα壊変だけを起こすと仮定すれば半減期が 36.36 時間になるという意味であり、実際の核種量の時間的推移を表すものではない。 それぞれの値を示す。

λ = 2.534 x 10-4 (s-1)
T = 45.59 (m)

λβ = 0.9791 λ = 2.481 x 10-4 (s-1)
Tβ = T/0.9791 = 46.56 (m)

λα = 0.0209 λ = 5.296 x 10-6 (s-1)
Tα = T/0.0209 = 36.36 (h)

すでに分岐のある系列について、平衡状態における子孫核種の量を与えたが、その公式を部分壊変定数に置き換えた形を確認しておく。 分岐確率 rk-1(i,j) が不要になり、親核種(i)から娘核種(j)への部分壊変定数 λk-1(i,j) を用いるように改めた。

N1 = N0 exp(-λ1t)
Nk(j) = (1/(λk(j)1)) Σik-1(i,j) Nk-1(i))


(Excelシート提供中止)

引用・参考文献
理科年表 (丸善)
放射線取扱の基礎 (日本アイソトープ協会)

Last modified: 09/09/2004 22:26:48

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ポアソン分布


放射性核種が壊変するとき、単位時間当たりの壊変数は原子の量に比例する。 すでに述べたように時刻 t における核種の量は次式で与えられる。

Nt = N0 exp(-λt) (1)

核種の平均寿命を T1/e あるいは簡単に T とすると次のように表される。

T = 1/λ
NT = (1/e)N0
(2)

実際の核種数は上式のとおりに変化していくのではなく、確率的な散らばりを伴いながら壊変する。 核種の寿命はポアソン分布に従うと考えられる。 ポアソン分布を用いて上式の壊変法則を再現してみよう。 時刻 t において壊変する確率は、次の確率密度関数で表される。 λ は壊変定数に相当する。

f(t) = λ exp(-λt)
P(t1<t<t2) = [t1,t2] f(t) dt
(3)

確率分布では平均値と分散は次式のようになる。 (2)式の平均寿命 (1/λ) と、ここでの平均値が一致する。

[0,) tf(t) dt = 1/λ
[0,) (t-1/λ)2f(t) dt = 1/λ2
(4)

核種が N0 個あるとき、確率過程 Xt(i) を次のように定義する。 つまり i 番目の核種が壊変する時刻 (寿命) が t 以上であるとき Xt(i)=1 、寿命が t 未満であるとき Xt(i)=0 と定める。 時刻 t で生き残っていれば 1 、消滅していたら 0 ときめるのである。 Xt(i) の平均値と分散を求めておく。

E[Xt(i)] = [t,) 1 f(t) dt = exp(-λt)
V[Xt(i)] = E[(Xt(i))2]-(E[Xt(i)])2 = exp(-λt)-exp(-2λt)
(5)

このようにして定めた Xt(i)N0 個の核種すべてについて加えあわせたものを Nt とする。 Xt(i) は互いに独立で同一分布に従うので、その和 Nt の平均と分散は N0 倍となる。 また N0 は十分に大きい数と考えられるため Nt は正規分布に従うとしてよい。

Nt = Σi Xt(i)
E[Nt] = N0 exp(-λt)
V[Nt] = N0(exp(-λt)-exp(-2λt))
(6)

(1)式と(6)式2行目を比べれば、壊変法則が再現されたことがわかる。 確率を考慮した場合でも、平均値としては(1)式と同じ結果を得た。 (6)式3行目により、平均値からの隔たりを評価することができる。 半減期 t=T1/2=ln(2)/λ における平均・分散と標準偏差は次のようになる。 分散・標準偏差は半減期の時点で最大となる。

E[Nt] = (1/2) N0
V[Nt] = (1/4) N0
σ[Nt] = (1/2) N01/2
(7)


引用・参考文献
放射線入門 (通商産業研究社)

Last modified: 09/03/2004 01:23:22

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炭素14


上空の放射線レベルは地上よりも高く、航空機の飛ぶ高度では地上の100倍以上にもなる。 上空の宇宙線が原因であるが、宇宙線の実体は多くが陽子線や重陽子線といわれている。 (一次)宇宙線が上空大気の原子と核反応を起こして、別の粒子を放出する。 これを二次宇宙線という。 二次宇宙線の中には中性子線も含まれる。 大気中の窒素原子に中性子が衝突して、炭素原子と陽子に変化する場合の核反応を下に示す。 2行目は簡略化した表記である。

14N + n 14C + p
14N (n, p) 14C

中性子線が衝突して陽子線が飛び出す反応であるのでこれを簡単に (n,p) 反応ということもある。 このようにして、窒素14原子から (n,p) 反応によって炭素14原子が生成される。 炭素14原子は他の炭素原子と同じように二酸化炭素などを構成して地上までたどり着く。 炭素14原子は放射性であり、β壊変を起こして窒素14原子に変化する。 半減期は5730年である。 植物は大気中の二酸化炭素から炭素を固定して生体を作っている。 植物が死ぬと炭素原子の移動がなくなるので、体内の炭素14原子はその半減期にしたがって減少を続ける。 動物の場合も食物から炭素原子を取り入れるが、死亡すると同時に炭素原子の移動が止まる。 その時点から体内の炭素14は半減期5730年で減少していくのである。

もし数万年にわたって炭素14の存在割合が変化しなければ、炭素14の存在割合を計測することにより、年代測定を行うことができる。生物体を使った遺物なら炭素14を調べることによって遺物の製造年代を知ることができる。 この「炭素14法」は炭素交換が停止した年代を推定する手法であるから、炭素を含んだ遺物でないと推定できない。 炭素交換が停止した年代しかわからないことにも注意する。

炭素14の現在の存在割合はおよそ1兆分の1である。 非常に精密な測定が必要で、測定したいものだけを丁寧に採取しなければならない。 現在ではこの割合 (1兆分の1) であるが、過去にも同じ割合で一定したという保証はない。 地磁気の影響などで宇宙線の流れが違っていた可能性もある。 炭素14だけでは信頼に足る年代推定は困難かもしれないが、他の手法を併用して過去の炭素14の存在割合を求めておけば信頼性が高まる。 実際、他の年代測定法と併用して精度を高める工夫がなされている。



引用・参考文献

Last modified: 09/06/2004 02:31:44

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線量率換算表


吸収線量率
  mSv / y μSv / h nSv / s
ミリシーベルト/年 1 8.77 31.6
マイクロシーベルト/時 0.114 1 3.6
ナノシーベルト/秒 0.0317 0.278 1


ラジウム・ラドン温泉の比放射能
  Bq / L ME
ベクレル/リットル 1 0.074
マッヘ 13.5 1




(Excelシート提供中止)

引用・参考文献
理科年表 (丸善)
単位の辞典 (丸善)
放射線と健康 (岩波)

Last modified: 09/19/2004 01:12:22

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長さの慣用単位

[里・町・間・尺・寸・分]
m
1 36 2160 12960 129600 1296000 3927
町(丁) 0.02778 1 60 360 3600 36000 109.1
4.630E-4 0.01667 1 6 60 600 1.818
7.716E-5 0.002778 0.1667 1 10 100 0.3030
7.716E-6 2.778E-4 0.01667 0.1 1 10 0.03030
7.716E-7 2.778E-5 0.001667 0.01 0.1 1 0.003030
メートル 2.546E-4 0.009167 0.55 3.3 33 330 1


[マイル・チェーン・ひろ・ヤード・フート・インチ]
マイル チェーン ひろ yd ft in m
マイル 1 80 880 1760 5280 63360 1609.344
チェーン 0.0125 1 11 22 66 792 20.1168
ひろ(尋) 0.001136 0.09091 1 2 6 72 1.8288
ヤード 5.682E-4 0.04545 0.5 1 3 36 0.9144
フート 1.894E-4 0.01515 0.1667 0.3333 1 12 0.3048
インチ 1.578E-5 0.001263 0.01389 0.02778 0.0833 1 0.0254
メートル 6.214E-4 0.04971 0.5468 1.094 3.281 39.37 1


[海里]
海里 m
海里 1 1852
メートル 0.000540 1



面積の慣用単位

[町・段・畝・歩]
平方m
1 10 100 3000 9917.4
段(反) 0.1 1 10 300 991.74
0.01 0.1 1 30 99.174
歩(坪) 3.333E-4 0.003333 0.03333 1 3.3058
平方m 1.008E-4 0.001008 0.01008 0.3025 1


[エーカー]
ac 平方チェーン 平方m
エーカー 1 10 4046.9
平方チェーン 0.1 1 404.69
平方m 0.000247 0.002471 1



体積の慣用単位

[石・斗・升・合]
L
1 10 100 1000 180.39
0.1 1 10 100 18.039
0.01 0.1 1 10 1.8039
0.001 0.01 0.1 1 0.18039
リットル 0.005544 0.05544 0.5544 5.544 1


[バレル・ブッシェル・ガロン・クォート・パイント・容積トン]
英ガロン 米ガロン 立方フート リットル
バレル 34.98 42.01 5.615 159.0
英ブッシェル 7.996 9.604 1.284 36.35
米ブッシェル 7.75 9.309 1.244 35.24
英ガロン 1 1.201 0.1605 4.546
米ガロン 0.8326 1 0.1337 3.785
クォート 0.2501 0.3004 0.04015 1.137
パイント 0.1250 0.1501 0.02007 0.5683
容積トン 622.9 748.1 100 2832



重さの慣用単位

[貫・斤・匁]
kg
1 6.25 1000 3.75
0.16 1 160 0.6
0.001 0.00625 1 0.00375
kg 0.2667 1.667 266.7 1


[英トン・米トン・ポンド・オンス]
英トン 米トン lb oz kg
英トン 1 1.12 2240 35840 1016.1
米トン 0.8929 1 2000 32000 907.2
ポンド 4.464E-4 0.0005 1 16 0.4536
オンス 2.790E-5 3.125E-5 0.0625 1 0.02835
kg 9.842E-4 0.001102 2.205 35.27 1


[カラット]
ct g
カラット 1 0.2
グラム 5 1



仕事の慣用単位

[ワット時・カロリー・ジュール・電子ボルト]
cal BTU W h J eV
カロリー 1 0.003968 0.001163 4.186 2.613E19
BTU 252.04 1 0.29307 1055.06 6.586E21
ワット時 860 3.412128 1 3600 2.247E22
ジュール 0.2389 0.0009478 0.0002778 1 6.242E18
電子ボルト 3.827E-20 1.518E-22 4.450E-23 1.602E-19 1



仕事率の慣用単位

[仏馬力・英馬力]
PS hp m kgf / s ft lbf / s W
仏馬力 1 0.9863 75 542.48 735.5
英馬力 1.0139 1 76.040 550 745.7
メートル重力キログラム毎秒 0.01333 0.01315 1 7.233 9.80665
フート重力ポンド毎秒 0.001843 0.001818 0.1383 1 1.3558
ワット 0.001360 0.001341 0.1020 0.73756 1



圧力の慣用単位

[気圧・トル・ポンド毎平方インチ]
atm torr psi Pa
気圧 1 760 14.695 101325
トル・水銀柱ミリメートル 0.001316 1 0.019336 133.322
ポンド毎平方インチ 0.068048 51.717 1 6895
パスカル 9.869E-6 0.007501 0.0001450 1



カロリーの変種

温度を指定しないカロリー (1 Wh = 860 cal)
cal = 4.18605 J

15℃カロリー (1gの水の温度を14.5℃から15.5℃まで上昇させるのに要する熱量)
cal15 = 4.1855 J

20℃カロリー (1gの水の温度を19.5℃から20.5℃まで上昇させるのに要する熱量)
cal20 = 4.182 J

0℃カロリー (1gの水の温度を0℃から1℃まで上昇させるのに要する熱量)
cal0 = 1.0080 cal15 = 4.219 J

平均カロリー (1gの水の温度を0℃から100℃まで上昇させるのに要する熱量の100分の1)
calmean = 4.190 J

大カロリー (平均カロリーの1000倍; 栄養学で用いる)
1 Cal = 1 kcal = 4190 J

国際蒸気表カロリー
calIT = 4.1868 J

熱化学カロリー
calth = 4.184 J

BTU (British Thermal Unit; 1ポンドの水を40度Fから1度Fだけ上昇させるのに要する熱量)
1 BTU = 1055.06 J

Q単位 (化石燃料埋蔵量を表す)
1 Q = 1018 BTU



(Excelシート提供中止)

引用・参考文献
理科年表 (丸善)
単位の辞典 (丸善)

Last modified: 09/05/2004 22:35:32

放射線の科学

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