コラム(本紙 「小窓」より)

衛生意識


 ポテトチップを食べると手が汚れる。スマホが汚れるし不衛生。だから箸でつまんで食べる。このような学生やOLが増えているという。東急ハンズなどのバラエティショップでは、焼き肉などをつまむためのトングから応用して作られたポテトチップ用「ポテトング」という商品が売れているらしい。

 他人が作ったおにぎりは不衛生だから食べない。電車のつり革もつかむことができない。皆が入る銭湯に行けない。カラオケのマイクを握れない。鍋をつつけない。ついには「餅つきは人の手を使うので衛生上良くない。だから来年から禁止」という自治体まで登場してしまった。困った世の中だ。このような事態の背景には、O157やインフルエンザ、食品会社の不祥事、原発、スマートフォンの普及などによる生活者の「衛生に対する意識の変化」がある。あるトイレタリー企業の調査によれば、生活者全体では約60%が「今の除菌・抗菌意識は適切」と答えており、年代別では20代の8割が「抗菌意識は重要」と答えている。

 当然、これらを背景にヒットする製品がある。除菌スプレー、ジェル、シートなどだ。ベッドやソファにさっとスプレーするだけで除菌効果がある、といううたい文句でP&Gをはじめとする様々な企業から発売されている。また「スーツに1吹きするだけでタバコなどの匂いを消し、翌日も匂いなし」など洋服の簡易クリーニングをうたったスプレーも都市部では売れているようだ。最新型の掃除機も今なお売れている。通信販売の番組やコマーシャルで何度もその性能を脳裏に焼き付けられ購入された方々も少なくないだろう。

 そして工場ではクリーンルームが普及している。食品関連の工場だけでなく、医療関連、電気・電子部品関連分野では、製品への汚染防止や、品質の向上のために、クリーンルームを完備することが大前提となってきている。当然ながら、クリーンルームを施工する業者の売り上げも伸びている。
二宮金次郎の像は本の立ち読みが危険という理由で校庭から消え、正月の餅つきはなくなり、ポテトチップを箸で食べ、季節を問わずマスクをして歩く輩が街を闊歩する。2017年はどんなことが流行るのだろうか。

(2016/12/15 IKKO YONEI@nihonbashi)



NEXT