コラム(本紙 「小窓」より)

ライフサイクルと淘汰

  一般に企業の寿命は30年と言われて久しい。ニホンザルの寿命とほぼ同様である。当然、その企業が生業とする製品にも寿命=ライフサイクルがある。導入期、成長期には需要が供給を上回る。作れば売れるの時代である。しかしライバルが登場し、成熟期 、 衰退期に入ると、供給が需要を上回る。供給過剰になり、価格は安くなる。そして市場は淘汰される。事業や製品の宿命である。

しかし面白いもので、需要がじり貧になり、メーカーが淘汰された後、数年、時には数十年後、何かのきっかけで需要が息を吹き返すことがある。例えば、レコードやカセットテープ、ボーリング場などがそうである。多くのレコードプレス会社が撤退し、カセットテープのメーカーが事業を放棄した後、思わぬことがきっかけで市場が盛り返し、最後まで残ったメーカーの独占市場となる。数十年に渡り、その事業から撤退しなかったことによるコスト、人的苦労は並大抵のものではなかったと想像できる。しかし消費財やレジャー、サービスには時折、このようなブームが押し寄せるので興味深い。いつかは再びビデオテープの時代が来るだろう、と思い、期待を込めて押し入れの奥にVHSテープを保管し続けることはどうなのか、とわが身を振り返る。

一方、既存事業にとらわれず常に新規事業を展開する事例もある。ポカリスエットで有名な大塚製薬は1920年代、徳島で海水からとれる化学原料を企業に供給する事業を開始した。その後、1940年代には輸液(点滴)事業を開始し、全国の病院に展開。胃薬などの薬、オロナミンC、ポカリスエット、カロリーメイトなど、健康に関する事業を基本に、常に新規事業にトライし続けている。徳島にいけば街のあらゆる場所にそれらの商品が展開され、トヨタや出光のように多くの雇用も生んでいる。大村崑氏の看板が今も懐かしい。

「既存事業は少しずつ衰退する。だから利益が出ている間に新しいことをやる。日本のあらゆる企業はこの逆境を乗り越えてきた」。日本ポリエチレン重包装袋工業会、総会における藤田会長の言葉であった。

(2016/10/25 Ikko Yonei@nihonbashi)



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