コラム(本紙 「小窓」より)

インバウンドという黒船

 現在、レコードがブームである。東京や大阪、京都などの中古レコード屋は賑わい、海外からも連日客が訪れる。中でも60年代から70年代に作られた日本のレコードは質が良いと評判で、高値で取引されている。また、レコードジャケットに付帯している販売促進用の「帯」は海外でもObiと表記され、取引条件のひとつになっている。同様に当時生産されたソニー、akaiなどのオープンリールレコーダー、テレビや雑誌の広告で若者を虜にしたSEIKOスポーツなどのアナログ時計も中国を中心としたコレクターに人気の的である。

 一方でこんな話もある。スポーツカーで有名なポルシェはドイツ・シュツットガルト生まれだが、日本でも人気が高く多く輸入されてきた。特に1997年で生産を終えた空冷式のポルシェ911は現在高値がつき、数年前の2〜3倍、高いものでは新車当時の価格を超えている。ここでも海外から顧客が訪れ、逆輸入するという現象が起きているそうだ。彼らは日本人の機械をメンテナンスする能力を高く評価しているという。日本のディーラーで整備された車は、他国のものとは圧倒的に違うらしい。

 スニーカーで有名なコンバースも当初はアメリカ製、そして長い間中国製の時代があったが、最近は日本製が登場し、これも高値で売られている。ギターなどの楽器も再び日本製が登場し、中国製の3〜4倍もの価格になっている。
 長い間生き延びてきた日本の製品、あるいは日本で維持されてきた商品が注目を浴びている。底辺にあるキーワードは日本の意匠=デザインと技術であり、ときにクラフト=工芸である。それらの要素を持った日本生まれのもの、日本育ちのものが中国、アメリカ、ヨーロッパに再び流通し始めている。

 江戸末期、黒船来航により多くの商船が西洋から押し寄せた。当時の写真技術と印刷技術により、日本の様子が西洋に広く知られるようになる。他の美術工芸品とともに浮世絵という版画が欧米で瞬く間に人気になった。
 現在の黒船は、インバウンドはという訪日客かもしれない。彼らは、私たちがもう一度挑戦するためのヒントを授けてくれる。

 米井一高 2016/0605




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