ホタル・飼育・手賀沼・釣り
羽化率低下の原因は・・・?

 今年も上陸した幼虫が羽化した。そして産卵、孵化して幼虫の飼育が始まったが、今年は放流した幼虫に対しての羽化率が極端に低くかった。
 過去にも同様なときがあり、今後も心配である。原因を明らかにすることは難しいが、考えられる原因については適切に対応していく必要がある。
 
 今年も飼育小屋の放流後に幼虫が発光しながら上陸していく様子を確認した。上陸数は不明であるが、数百匹は陸地に上がったことは確かであることから、羽化率が低下したのは、幼虫が水中で死んだからではなく、上陸から蛹化後に地中または地上で死んでしまったからでる。
 ホタルにとって蛹から羽化までを無事過ごすことは簡単なことではない。この時期に死んでしまうことは多々あり、次のようなとこがその要因となっているようである。
 ○キノコが寄生する。
 ○乾燥して干からびてしまう。
 ○アリやダニに襲われる。
 ○ナメクジがホタルを食べる。
 ○ニセケバエが上陸した幼虫を食べる。
 ○土が劣化する。

 平成20年には、陸地部分にアリが多数いたため、侵入を防ぐために小屋内を改修した。その後は、土壌の殺菌や入れ替えを行うなどして、土質には気を配ってきた。しかし、その後も極端に羽化率が低くなってしまうことがあるのはなぜか・・・?(表1参照)
 上記以外の要因として近親交配も考えられるが、この場合には年々個体数が減少したり、羽化率が低下したりしていくと思うが、実際はそうではない。また、自然界にいても狭い範囲で棲息していることから、近親交配は表1のような平成20年、平成23年、平成25年の不可率低下の要因でないと考えられる。
表1 羽化率 :羽化率10%未満
   平成
16年
平成
17年
平成
18年
平成
19年
平成
20年
平成
21年
平成
22年
平成
23年
平成
24年
平成
25年
羽化率
(%)
  30.0 12.4 25.0 5.3 36.0 11.6 1.7 33.7 2.3

 今年の夏は記録的な豪雨により、災害を含め各地の生活に大きな影響がでている。気温も40℃近くまで上がる日があるなど、厳しい暑さにも悩まされている。
 ホタルの孵化や生まれた幼虫の飼育はエアコンのない室内で行っているため、この暑さにより室温は連日35℃以上になる。これまでもここで放流までの飼育を行ってきた。室温は高くても、飼育用容器内の水温はエアレーションによる気化により、室温より低くなるため、幼虫が死ぬことはなかった。
 しかし、今年の天気は「これまでに経験したことのない・・」と表現されるくらいの異常な状況で、この暑さは、幼虫の成育に影響が出るのでは・・・?と不安になってきた。また、今まで幼虫の時期に死んでしまうことはないためエアレーション以外の暑さ対策を取ってこなかったが、もしかすると暑さがその後の成長や蛹化、羽化に悪い影響を与えていたのではと思えてきた。
 そこで、気象庁の過去のデータをもとに過去の
○日平均気温(℃)
○8月〜平均気温が25℃以上の日数(日)
○8月〜最高気温が25℃以上の日数(日)
○8月平均気温(℃)
○9月平均気温(℃)
○前年12月〜3月平均気温が0℃以下の日数(日)
○前年12月〜3月最低気温が0℃以下の日数(日)
○幼虫生育時期(8月〜翌年5月)積算温度(℃)
○孵化後3ヶ月間(8月〜10月)積算温度(℃)       *基準0℃
を調べてみた。 (表2)

表2 ヘイケボタルの羽化率と気温の相関
   平成
16年
平成
17年
平成
18年
平成
19年
平成
20年
平成
21年
平成
22年
平成
23年
平成
24年
平成
25年
羽化率
(%)
  30.0 12.4 25.0 5.3 36.0 11.6 1.7 33.7 2.3
日平均気温
(℃)
15.5 14.5 14.9 15.4 14.9 15.1 18.2 14.5 14  
8月〜平均気温が
25℃以上の日数(日)
31 39 27 40 26 18 43 33 46  
8月〜最高気温が
25℃以上の日数(日)
52 58 53 57 52 53 56 55 61  
8月平均気温
(℃)
25.9 27.0 26.3 27.8 25.7 24.9 28.3 26.0 27.2  
9月平均気温
(℃)
23.7 23.5 22.2 24.0 22.9 21.4 23.5 23.5 24.1  
前年12月〜3月平均気温が
0℃以下の日数(日)
0 0 2 0 0 0 0 0 4 1
前年12月〜3月最低気温が
0℃以下の日数(日)
38 44 57 19 46 30 37 68 73 64
幼虫生育時期(8月〜翌年5月)
積算温度(℃)
4025 3947 4235 4095 4205 3928 3984 3830 3941  
孵化後3ヶ月間(8月〜10月)
積算温度(℃)
2007 2091 2036 2115 2026 1947 2112 2044 2090  
 表2の気温データと羽化率を比べてみると、
○8月〜平均気温または最高気温が25℃以上の日数(日)
○8月及び9月の平均気温(℃)
○孵化後3ヶ月間(8月〜10月)積算温度(℃)
の値が高い年の翌年の羽化率が低くなっている。気温の上昇により室内が屋外以上に過酷な環境となる。このような場所で羽化したばかりの幼虫を飼った翌年の羽化率が低いということになる。
 8月から翌年の5月までの幼虫飼育期間に影響することは、気温以外にもあると思うが、夏から秋にかけての高温期には、細心の注意を払う必要があると感じた。平成18年の6月にたくさんの幼虫が死んでしまったことがある。カビ等の死因だけでなく、前年の暑さも関わっていたのかもしれない。